君の声が聞きたくて

第２４章 tempestoso

７

　俺はサーバーの前に立つと、冷やしてあったジョッキにオーダー分の生ビールを注ぎ、カウンターに並べた。それをバイト君達が手分けして席に運んで行く。
　その間に料理の準備をして、またサーバーの前に立って生ビールを注いで……。厨房スタッフは俺以外にも三人いるものの、客は予約客だけじゃないから、次々入って来るオーダーを捌のに必死だった。
　でもそんな時に限ってトラブルは起きたりするわけで……

　「店長すいません」

　辻ちゃんが血相変えて厨房に飛び込んで来るもんだから、もう溜息しか出てこない。

　「何、どうしたの？」

　刺し盛りの準備をしながら俺が聞くと、辻ちゃんはまるでダンスでもしてるかのように、身振り手振りを交えながら説明してくれた……んだけど、それじゃあ全然伝わんねぇよ。

　「いいからさ、落ち着いて説明してくれる？」

　俺は手を止め、ついでに辻ちゃんの動きも止めた。

　「えっとですね……」




　「分かった、俺が行くから辻ちゃんはこっち頼むわ」

　辻ちゃんの話によると、トラブルがあったのは例の団体客で、連れの客が来たにも関わらず、スタッフの誰も気付かず、客に放置プレーを食らわした結果、とうとうあの竜二って奴がブチ切れたらしい。
　ついでに言えば、辻ちゃんは誠心誠意謝ったつもりらしいが、辻ちゃんの持ち味でもある人懐っこさと、明る過ぎる笑顔が竜二って奴の怒りに火をつけた……ようだった。

　俺は小さく溜息を落とすと、足首まであるエプロンを外し、鉢巻状にしたタオルも外してから、二度目の溜息を落としながらホールへと出た。
　手にはしっかり追加分のおしぼりと、口取りの小鉢を携えて……

　一応、店長を任されている以上、店の責任者は俺なわけで、当然クレームの対応だって俺がしなきゃいけないのは分かってる。


　でもさ、苦手なんだよな、俺。
　しかも相手は、いかにもヤンチャそうな奴だし。

　でもおっちゃんの甥っ子って知っちまった以上、適当なことは出来ねぇし。

　はあ、面倒臭ぇ……


　三度目の溜息を落とし、作り笑顔を浮かべた顔を上に向けたその時、俺の視界に飛び込んで来たのは……