君の声が聞きたくて

第２６章 番外編☆dolce

７

　「ごめん、待ったか？」
　「ううん、俺も今来た所だから」
　「そっか……」

　せっかちな翔真さんらしく、ジャンパーを脱ぎながら、俺の向かいの席に腰を下ろす。


　ピシッとスーツを着込んだ翔真さんも格好良くて好きだけど、たまに見かける作業着姿も、それはそれで翔真さんによく似合ってるし悪くない。


　つか、俺、何見惚れてんだろ……


「智樹？　どうかした？」
「え、あ、ううん、何でもない。それより腹減った……」

　とても見蕩れてたなんて言えない俺は、誤魔化すように咄嗟に腹を摩って見せた。するとクスリと笑った翔真さんが、「俺も腹ぺこだよ」と俺を真似て腹を摩った。

　「何にする？」

　色褪せたメニュー表をテーブルに広げ、翔真さんが俺を覗き込む。


　聞かなくたって、俺が何を頼むかなんて知ってるくせに……


　「翔真さんは？　いつもの帆立丼？」

　元々海鮮が好きな翔真さんは、中でも貝類が好物で、この店に来ると必ずと言って良い程帆立丼を注文する。

　「そうだな、たまには違う物を……って言いたいところだけど、やっぱり帆立丼かな」
　「ふふ、じゃあ俺は……」
　「智樹は海鮮丼だろ？」

　言いかけた俺を遮るように、翔真さんが自信満々に言って、俺の返事を聞くことなくメニュー表を閉じてしまう。

　「俺まだ見てもないのに……」
　「どうせ見たところで、智樹が頼むのは海鮮丼一択だろ？」


　そうだけどさ、間違っちゃいないけどさ……
　俺だって、たまには違う物食ってみたくなる時だってあるじゃん？

　なのにさ……


　「すいません、帆立丼と海鮮丼一つずつ」


　俺の意見なんてそっちのけで、さっさと注文しちゃうし……


　最近になってよく思うことなんだけど、翔真さんて結婚したら絶対亭主関白になるタイプだと思うんだ。
　今みたいに、人の意見なんて全く無視で、自分の考え押し通そうとしちゃうとことかさ。


　ま、そんなとこもひっくるめて、翔真さんが好きなわけなんだけどさ……


　咄嗟の時とか、瞬時に出来る判断力や決断力は、俺には無いものだから。