敏腕ドクターは孤独な事務員を溺愛で包み込む

華藤りえ

文字の大きさ
22 / 52
3.嵐の夜に愛を知り、恋に目覚め

3-8

しおりを挟む
 神野が着ている半袖のスクラブから伸びる腕に浮かぶ血管や、ハンドルを握る手のごつごつした感じが男らしく、なんとも色っぽい。

 雨で川のようになっている道を運転する、神野の横顔に視線を奪われた。

 濡れて肌に張り付く黒髪、伝う水滴。

 真剣なまなざしは、カルテ庫に居る時とは別人のように張り詰めている。

 いけないものを見てしまった気がして焦り正面を向けば、嵐を切り裂くように防災無線のサイレンが鳴り響く。

 先にある橋が増水で通行止めになったことを繰り返され、息を呑んだ。

「参ったな。朱理の家は橋の先だろう」
「そうです」

 病院に戻ろうとしたが、すぐ、そちら側も道路冠水だという情報が入り往生する。

 どこかでやり過ごさなければならないが、田舎のため、コンビニもネットカフェもない。

 必死になって考え、近くにビジネスホテルがあったことを思い出す。

「あの、あれだったら、ここから左にあるビジネスホテルに泊まりますから」
「この状況だ。帰宅難民は俺たち以外にも居る。今から部屋は取れないだろう」
「フロントで朝まで待たせてもらいますから、大丈夫です」

 神野が、疑わしげに投げた視線をあわててそらす。

 なにかおかしいことがあるのかと自分を見た瞬間、頭が沸騰しそうに熱を持った。

 濡れたブラウスが肌に張り付いて、下着が浮き出ている。

 急いで膝にあったバッグを胸に抱きしめて隠すと、神野が咳払いをした。

「ともかく、その格好だと風邪を引く」
「風邪ぐらい、構いませんから……」

 恥ずかしさで声が弱くなってしまう。

 緊急事態だからしょうがないと心を落ち着かせようにも、無理がある。

「風邪を引かせたくない。俺は朱理に休まれるのは嫌だ」
「神野先生が責任を感じられることじゃないです」
「責任じゃない。……カルテ庫に行っても朱理が居なくて、その間、熱で苦しんでるかと思うだけでやりきれない」

 どういう意味なのだろう。
 まるで朱理と会うためにカルテ庫に来ている風な発言に、耳を疑う。

 神野に尋ねようにも、彼は固く唇を結んだまま前を見つめるだけで表情が消えている。

 路肩に停めた車の中に、ハザードランプとワイパーの音だけが響く。

 雨脚は一向に弱まらず、信号も点滅状態に変わっていた。

 濡れた肌が冷え、朱理が身を震わせたのを切っ掛けにして神野が口を開く。

「俺の家に行く」
「え……」
「ルート的にそこしかない。道路の水量も増えているしな」

 感情の読めない固い声で告げられ、朱理はただうなずくしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

憧れのお姉さんは淫らな家庭教師

馬衣蜜柑
恋愛
友達の恋バナに胸を躍らせる教え子・萌音。そんな彼女を、美咲は優しく「大人の身体」へと作り替えていく。「ねえ萌音ちゃん、お友達よりも……気持ちよくしてあげる」眼鏡の家庭教師が教えるのは、教科書には載っていない「女同士」の極上の溶け合い方。 女性向け百合(レズビアン)R18小説。男性は出てきません。

勘違いで別れを告げた日から豹変した婚約者が毎晩迫ってきて困っています

Adria
恋愛
詩音は怪我をして実家の病院に診察に行った時に、婚約者のある噂を耳にした。その噂を聞いて、今まで彼が自分に触れなかった理由に気づく。 意を決して彼を解放してあげるつもりで別れを告げると、その日から穏やかだった彼はいなくなり、執着を剥き出しにしたSな彼になってしまった。 戸惑う反面、毎日激愛を注がれ次第に溺れていく―― イラスト:らぎ様 《エブリスタとムーンにも投稿しています》

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーンにも投稿しています》

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

処理中です...