敏腕ドクターは孤独な事務員を溺愛で包み込む

華藤りえ

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3.嵐の夜に愛を知り、恋に目覚め

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 シャワーで身体を温めた朱理がリビングに戻るのと入れ替わりに、神野が浴室へ入る。

 慣れぬ事態にガチガチになっていた朱理は、最初こそシャワーを遠慮しバスタオルだけ借りるつもりだったが、身体が冷えるからと言われ却下された。

 ならば神野から先にと抵抗したが、彼はスクラブの襟元を引っ張り頭を振った。

 いわく、今日は血が出るような処置はしていないが、あくまでも医療着で、車にある白衣もろとも適切に扱う必要があること。朱理を泊める用意もしなければならないことを上げられ浴室に押し込まれた。

 三つ編みを解いた髪をバスタオルで乾かしつつ、辺りを眺める。

 ソファにテレビ、ローテーブルがある他は、段ボールが積まれているだけである。

 塚森病院に着任してから四ヶ月は経っただろうに、箱を開けないのは仕事が忙しいからか、それとも気にしないたちなのか。

 2LDKのマンション内は、ともかく生活感が薄かった。

 台所にいたっては、コーヒーメーカーと冷蔵庫があるだけで、鍋や調味料の影もない。

(神野先生の家に、来ちゃった……)

 成り行きとはいえ、予想外の展開に思考がついてこない。

 朱理はラグの上で膝を崩し、座り込む。

 男物のシャツは大きすぎて肩が合わず、ハーフパンツのウエストも緩くて気になる。

 自分の物ではない服をきていることが、奇妙な生々しさとなって心を乱す。

 心臓がおかしくなってしまったように早く動き、呼吸もどこかつたない。

(変な想像をしては駄目。いけない)

 神野は緊急事態に陥った朱理を哀れみ、しょうがなく連れて来ただけ。

 なのに車中での会話が頭に浮かんでは朱理を翻弄する。

 朱理が休んでカルテ庫に居ないことや、熱で苦しむことをやりきれないと言われたあれは、責任感から来た言葉なのか、それとも――別の意味なのか。

 頭を抱えて転がりたいが、さすがに自分の家ではないので我慢する。

 そうこうするうちに背後で神野の気配がした。

 ついびくりと背を震わせると、小さく笑う声が響く。

「断りもなく取って喰うつもりはない。もう少し楽にしろ……と言っても無理か」

 ローテーブルを挟んで反対側に移動した神野を見て、朱理は目を丸くした。

 自宅の風呂上がりに気が緩むのはわかるが、ズボンにパジャマのシャツを肩に引っ掛けただけの姿は目のやり場に困る。

 ボタンをとめてくださいと口にしかけ、彼も朱理を見つめていることに気づく。

「なん……でしょうか」
「いや。想像以上にすごい破壊力だな。惚れた女が自分のテリトリーに居るっていうのは」
「また、冗談で口説く……」

 本気にしてしまいそうだ。

 なにしろこちらは神野への気持ちを自覚したばかり。
 気を張っていないと勘違いする。

 唇をかみ彼と自分の距離を冷静に測っていると、エアコンを入れた神野があぐらで手を後ろに突く。

「前にも似たようなことを言ったし、これからもいくらだって言うが、俺は冗談で女を口説くほど暇ではないし、不誠実でない」

 額に掛かる前髪を息で飛ばし、真剣な眼差しをされ絶句した。

「カルテ庫に行った切っ掛けは、同僚から聞いた魔女とやらを見たかったのと、静かな場所を探したかったから。君の指摘通り、褒められたものじゃない。それは認める。だが……桜が散る頃には、朱理に会いたくて行っていた」

 無理にわからせようとはせず、理解するだけの時間を間に挟みながら、神野は続ける。

(嘘だ……)

 心がわなないて、身体を巡る血が熱を持ち肌を火照らせていく。

「神野先生が、私に……会うために?」

 上擦りそうな声で問いかければ、神野は柔らかく微笑した。

「でなければ、わざわざ早朝や休日にまで病院に来て、ちょっかいをかけたりしない。烏丸先生と笑ってる君を見て、嫉妬した気持ちに説明がつかない。キスしたことにも」

 ぞくんとする感触が背筋に走り抜けた。

 不快さはなく、もっと熱っぽくて本能的な衝動に興奮を覚える。

 期待と不安で渇いた喉を湿らせようと、朱理は唾を呑む。

 間を開ける神野が、次に口にする言葉がわかる。
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