敏腕ドクターは孤独な事務員を溺愛で包み込む

華藤りえ

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5.姫君の暴挙に魔女は身を引くも

5-15

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「あのな。……本当に俺がメスを握れないなら、どうして手術用ロボットの講習を受けたり、心臓血管外科のサマーセミナーの代理が勤まるんだ? 動物相手だが実技もある。セミナーの相手は外科志望で勉強している熱心な学生や、現場に居て転科を考えている医師だぞ。彼らの目をごまかせるか?」

 ごもっともな正論に、ぐうの音も出ない。

「病棟担当は、自分が怪我して、術後ケアや基礎も重要だと知ったから希望した。……以前は、才気走りの切りたがりだったが」

 なにごとも起きずに突っ走っていたら、もっとひどい過ちを犯していたかもしれないなと、神野は唇を歪めた。

「それで? お前の疑問には全部回答できたか」

 まだ少しだけ他人行儀な口ぶりに弱気をつつかれ、うつむいてしまう。

「私、なにも、できませんよ……整形美人と言われていましたし」

 胸の底に沈んでいた重石を砕きながら、過去の傷を告白する。

 高校時代に整形美人とうわさされ、それが原因で初恋が無残に終わったこと。以後、人目に対し臆病になったこと。

「また整形したってうわさが出たら、神野先生にご迷惑をおかけするんじゃないかって」
「むしろ朱理から距離を置かれたことのほうが、ご迷惑だったんだが」

 組み直した腕を人さし指で弾きながら、神野が顔をしかめる。

「忙しかったから、寂しい思いをさせて嫌われたのかとか。強引すぎただろうかとか、原因もわからず、おかしいぐらいに悩んでいた」

 本当に悩ましかったのだろう。神野が額に手をあてつつ、だけどどこか安堵したように息を吐く。

「……朱理を捕まえたくて必死なのに、高宮に見つかって騒がれるし」

 追い返せ、と医局には周知していたが、駐車場はノーマークだったらしい。

「まあ、アレが直接、俺に接触してきた来た時点で、朱理が離れた理由に見当はついたから、それはよかったが」

 怒る、というより、すねているような口ぶりに驚く。

 神野ほど才能があって認められている人が、朱理と同じように悩むだなんて。

「話たいのに捕まらず焦っている間に、事務部のヤツが、朱理と飲みに行ったとか話すのを耳にして、訳がわからないほど嫉妬したり、傷心したり」
「彬、さん……が?」

 信じられなくておずおずと言えば、いつのまにか呼び名が神野先生から彬に戻っていることに気付いたらしい彼が、ほほえみつつ朱理に額をぶつける。

「まったく。俺が心臓を痛くしてどうする。治すほうなのに」
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