【完結】執着系御曹司との甘く切ない政略結婚 ー愛した人は姉の婚約者でしたー

波野雫

文字の大きさ
100 / 113
不穏な足音

29

しおりを挟む
 彼がいなくなると、室内は嵐が去った後のように静まり返った。
 さっきは並んで座っていたけれど、話をするために向かい合わせに腰を落ち着ける。なんだか気まずくて、彼の方を見られない。

「音羽と翔は、友人同士なんだな?」

 そう尋ねる碧斗さんを、そっとうかがい見る。
 翔君との関係だけは誤解されたくなくて、しっかりとうなずき返した。

 昨夜の電話で話が途中になってしまい、今日あらためて連絡を取り合い、そのまま会うことになった経緯を説明する。

「いちいち会いに行かなくても、済ませられる話じゃないのか? なにも言わずに遅くまで家を空けられると心配だ」

 話を最後まで聞いた碧斗さんが、少しだけ不満そうに言う。

「それは……ごめんなさい。翔君に相談があって」

 言葉を濁して沈黙する。どうにも居心地が悪いが、これ以上なにを言えばいいのかわからなかった。

「今さらだが、音羽との結婚はかなり強引に進めた自覚はある。音羽が、本当にもう一度フランスに行きたいのなら……」

 碧斗さんと姉との関係を疑って、日本に返ってこなければよかったと頭を過ったのは否定しない。

 でもそれは、深い考えがあってのものではない。幼稚だったかもしれないが、周囲の身勝手さに対する当てつけのようなものだ。

 碧斗さんには、フランスの生活にもう未練はないと繰り返し伝えてきた。

 結婚までがあまりにも急ピッチで進められて戸惑いはあったが、すでに日本での仕事も受けており、関わった人たちとの関係を築きつつある。それを手放して、再びフランスへ渡ろうとは思えない。

「そんなに私が邪魔ですか?」

 彼の方こそ、私にフランスへ帰ってほしいのではないかと考えて、言うつもりのなかった言葉が無意識のうちにこぼれ出た。

「は?」

 彼にとって予想外の返しだったようで、一瞬呆けた顔をした碧斗さんは、次に表情をゆがめた。

 後戻りはできそうになく、かまわず続ける。

「姉とよりを戻すのに、私の存在はネックになる。だから、フランスへ追いやりたいのかと」

 どうしようもない悲しみに、声が震える。
 みんな身勝手だと、腹立たしい気持ちがあるのは否定しない。
 でもそれ以上に、彼の幸せを私が邪魔している事実が辛くてたまらなかった。

「なんでそうなるんだ」

「だって……」

 ここで泣くわけにはいかず、こみ上げた激情をぐっとこらえる。
 それからゆっくりと口を開いた。

「数日前に、碧斗さんは姉とふたりきりで会ってたじゃない」

 感情が高ぶって、なじるような口調になってしまったのは許してほしい。

「どうしてそれを……」

 疚しいところがあったのか、彼の視線が一瞬泳いだのを見逃さなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。 けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。 それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。 本編4話、結婚式編10話です。

たとえ愛がなくても、あなたのそばにいられるのなら

魚谷
恋愛
ヴェルンハイム伯爵家の私生児ハイネは家の借金のため、両親によって資産家のエッケン侯爵の愛人になることを強いられようとしていた。 ハイネは耐えきれず家を飛び出し、幼馴染みで初恋のアーサーの元に向かい、彼に抱いてほしいと望んだ。 男性を知らないハイネは、エッケンとの結婚が避けられないのであれば、せめて想い人であるアーサーに初めてを捧げたかった。 アーサーは事情を知るや、ハイネに契約結婚を提案する。 伯爵家の借金を肩代わりする代わりに、自分と結婚し、跡継ぎを産め、と。 アーサーは多くの女性たちと浮名を流し、子どもの頃とは大きく違っていたが、今も想いを寄せる相手であることに変わりは無かった。ハイネはアーサーとの契約結婚を受け入れる。 ※他のサイトにも投稿しています

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

セイレーンの家

まへばらよし
恋愛
 病気のせいで結婚を諦めていた桐島柊子は、叔母の紹介で建築士の松井卓朗とお見合いをすることになった。卓朗は柊子の憧れの人物であり、柊子は彼に会えると喜ぶも、緊張でお見合いは微妙な雰囲気で終えてしまう。一方で卓朗もまた柊子に惹かれていく。ぎこちなくも順調に交際を重ね、二人は見合いから半年後に結婚をする。しかし、お互いに抱えていた傷と葛藤のせいで、結婚生活は微妙にすれ違っていく。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...