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第七話 群青日和 ~Violet fizz~
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「いってえ……」
あまり喧嘩慣れしていないらしき相田をぶちのめしたはいいものの、奴もバレー部の次期エースなだけあって(そんなやつに怪我させて後で苦情きたらどうしよ……)、中々にタフだった。
そのせいで、俺もふらふらだ。
キィィィ。
やっとの思いで、屋上から校舎へとつながる扉を開ける。
刹那。
「おっはー、勝利ィ?」
――扉開けた途端 未知なる世界へと そんなのないよありえない。
思わずそんなフレーズが浮かんでしまった。
何故って? 三鷹先生が来た!(絶望)
俺は、仁王立ちでにっこり笑うめんこいおっぱいギャルを、見なかったことにした。
その横を、素知らぬ顔でよたよた通り過ぎようとする。
「オイ、なーに無視しようとしてーんだ?」
作戦失敗。肩をガシッと掴まれた。
「え、ええ……、だって、先生、俺に用があってここに来たわけじゃないでしょう?」
「ここに来れば勝利に会えるって、とある女の子から聞いて……えへへ、きちゃった☆」
「は、はあ」
先生の年甲斐はないがちゃんとかわいいぶりっこも、今は聞きたくない。
「なにさーそのしょっぱい反応―。もっと喜ぼうよー。センセーのこと好きなんでしょー?そのセンセーが自ら会いに来たんだぞー?」
「だって、絶対先生俺のこと指導しに来たでしょ?」
むしろ好きな人から怒られるこの無常感よ。
「んなことは当たり前田のクラッカーだよー。ま、とりま保健室いこっか?」
「相田はほっといていいんすか?」
あいつの方が五体不満足だと思うけど。
「あっちはたぶんー、アイカが来てくれるからダイジョーブ!」
「わー、うらやましいなー」
これが身分の違いってやつか。俺が先生に怒られてる間に、あのイケメンは自分に惚れてるクラス一顔のいい女に看病してもらえんだもんな。なんだこの格差。やっぱ資本主義ってクソだわ。共産主義万歳。
などとくだらないことを考え、頭の中で、なんでもいいから誰も泣かない世界が欲しいと熱く叫んでいると、先生は、そのアラサーとは思えない若若ほっぺを膨らませた。
「なになにー? センセーじゃ不満なのかー?」
「いえ、最高です! ただ、その役職的に、ちょっとお叱りハッピーセットがついてそうなのが、やだなって」
「センセーと本気で付き合う気なら、それくらい我慢しろー?」
「え、それを我慢できたら先生と付き合えるってそれマジ?!」
「勝利がそう思うならそうなんでしょう。勝利の中ではね」
「急に倫理教諭っぽいこと言わないでくださいよ……」
「キュウにとはなんですかキュウにとは! いつもだろー?」
「そもそも白衣着てる時点で意味わかんないんですよね」
「これはさー、センセーの心の清さの象徴なワケよ。ね?」
背中に軽く黄色いチョークの粉ついてるのは言った方がいいのかな……?
「じゃあいつか黒衣を羽織ることもあるんですか?」
「ノンノン、勝利―。センセーはエーエンにセーレンケッパクだよ?」
「はえー」
「なにー? そのハンノ―? 信じてねえなー? このこのー」
そう言いながら俺の脇を小突いてくる先生。
かわいい子のボディタッチは神速で男子を恋に落とすので止めて欲しい。
まあ、もうとっくに落ちてるんですけども。
保健室につくと、嗅ぎ慣れたあの薬品の匂いに歓迎された。
他に人はいないらしく、校庭から遠く響く野球部の声以外は、無音。
先生は俺を長椅子に座らせると、慣れた手つきで戸棚から道具を取り出し、俺の横に座った。いやん、肩と肩が触れ合っちゃう。
……って、えっ、近っ!? 普通にドキドキするわ! 電車で隣に綺麗な人が座ってきた時の五倍くらい緊張する!
しかしそんな俺の心の動揺など関係なく、三鷹先生は。
「それじゃあ改めて。勝利、おしごとお疲れ様」
「っつ! ……それは傷口を消毒しながらじゃないと言えなかったんですかね?」
十数分前に出来た傷に染み入るオキシドールに、思わず声が出る。
「めんごめんごー。これはあれだよー勝利。そのあの、ツンデレってやつじゃん? 男子はみんな、これが好きなんでしょ?」
「えぇ……(困惑)。そこはかとなく何かが違う気がしますけど」
「うー? 聞いた話ではー、ツンツンとデレデレがアウフヘーベンしたのがツンデレだって聞いたんだケドー? センセーもまだまだ勉強が足りないかー」
「思い出したかのように唐突な倫理教師アッピル!?」
見た目アホの子な先生が、授業中でもないのにそれっぽい単語を自然に会話へ織り込んできたことに、仰天。見事な手際だと関心はするがどこもおかしくはないはずなのに、やはり違和感は拭えないことは確定的に明らか。
「なに言ってんの勝利ィ? センセーはいつでも哲学者然としてるじゃん?」
「あの、すいません。これは新手のアメリカンジョークかなにかですか? 俺そういうのに疎くて、笑いどころがちょっとわかんなかったんですけど」
「いや、ジョークじゃねーし! 見なさい、センセーのこのいつまでも子供心を忘れない佇まいを! どっからどーみても哲学者でしょー? 龍樹(ナーガルジュナ)もびっくり!」
なぜかそう言って胸を張ってくれたので、俺はここぞとばかりにその豊満な恵みを凝視させていただいた。堪能。超自然的堪能。どっからどうみても巨乳。
しかしまあその感想は色々アウトなので、自主規制。
「どっからどう見ても覚えたての変な単語を使いたがってる今時ギャルなんだよなあ……」
「なーに言ってんだっつーの~。センセーが龍樹について勉強したのはもう、かれこれ十年以上…………はっ!?」
「どうしたんですか、急に?」
くわっと目を見開く先生。ただでさえ大きなお目目が、倍プッシュ。
「今の、聞いた?」
「十年以上前ってあたりまで」
「いやいやや、ちょちょちょちょっとまちんしゃい! センセーは前なんて一言も言ってない! 十年以上としか言ってない!」
なんかめちゃくちゃ必死に俺の肩を揺すってくるが、個人的には、こんだけかわいいんだからそこまで気にせんでも……といったところ。
まあそろそろ結婚はしたほうがいいと思うけど。というわけで俺と……(以下妄言。
「そうでしたっけ?」
「そうだったの!! センセーは十年以上前には竜樹なんて知らなかった。まだ幼稚園にいた。いいね?」
「え、ええ? それだと先生は俺たちより若いことに……」
「いいね?」
「あっはい」
有無を言わさぬというのはまさにこの事だなと思った。昔やったゲームで、わたしと一緒に旅をしない? というセリフに、「はい」と答えないと一生ストーリーが進まなかったことを思い出す。でもああいうのって、無限にいいえ押してるとたまにちょっと違うこと言ってくれる時あるよね。俺はそういう遊び心、好きです。
「よーし! じゃあそんな素直な勝利には、ご褒美を……」
不意にそう言うと三鷹先生は、俺に顔を近づけてきた。
ぐいっと、エキゾチックに浅黒い肌が迫る。赤い唇の瑞々しさが、しかと目視できる距離にまで。揺れたピンクのツインテからは、芳醇な、大人の香りがした。
脳が蕩けてしまいそう。
けれど、その夢うつつは、消毒液が、溶解。
「っく! ああっ、やるならやるって言ってくださいよ。痛い……」
「えー、ご褒美あげるって言ったじゃん?」
「これのどこがご褒美なんだ……」
「白衣の天使に看病されてるのにぃ、なーに寝ぼけたこと言ってんだっ?」
「まあ、実際けっこう嬉しいんですけども……」
「だろだろー?」
「……」
バンドエイドを目の下に貼ってくれる先生の目つきがあまりにも真剣すぎて、心臓の高まりが制御できない。
そんな俺の緊張を察したのか、先生は最後の傷跡の処置を終えると、額にかるくデコピンをして。
「はいっ、これでおしまいっと」
そう言って俺から距離を取った。
というか、俺の隣から立ち上がって、正面に立った。
彼女は言う。
俺の目をまっすぐにみつめて。
「勝利はさ、今回の解決法、点数をつけるなら、何点だと思う?」
「辺見と相田の件ですか?」
「うん」
「百点かなー。俺めちゃくちゃがんばりましたし!」
そう思って満面の笑顔で先生に笑いかける俺。
しかし、先生はなぜか芳しくないといった表情で。
「もう、君はほんとにポジティブだにゃー。ま、でもそうか。勝利はこの結果に満足しているわけか。おっけーおっけー。そう来たかー」
「だったら、先生が採点するならどうなんですか?」
「えー、それ聞いちゃうー? 後悔しない?」
「愛しの先生が俺をどんなふうに評価しているか気になるじゃないですかっ」
きゃっ、言っちゃった。
「あーはいはい。センセーは彼ピいるから諦めろー。で、冗談はさておき……」
「俺は本気なのに……」
こっちは乙女の気持ちになってまでの発言だったのに先生のあしらいがあまりに淡白すぎて泣きそうになった。
すると。
「本気だから困ってんだぞー?」
先生はにっこりそう言った。しかし目が笑っておらず、怖い。
まだ先生との明るい未来への道のりは険しそうだ……。
俺が先生との将来設計図に思いを馳せていると、彼女はおっぱいの下で腕組みをして言い放つ。
「今回の青春同好会の活動はー、C評価ってかんじかなー」
「ええ、なぜですか!?」
そんなのぜったいおかしいよ!
「それに気付けないとこなんてまさにー、その原因だぜー? 何が悪かったかは、今後の活動を通してじっくり考えて欲しいです、センセー的には。なにせ、君たちが卒業するまでにはまだまだ時間があるからね」
「でも相田も納得してましたし、辺見だってこれで悩むことはないはずで……」
「じゃー、迷える子羊勝利クンにー、センセーから一つだけアドバイスぅ。そんなに難しい話じゃなくてさ、君は結局、今回も一人だった。そういうことだよ。勝利があくまでそれを貫くっていうなら、センセーももう止めないけど、この部活の趣旨には反するでしょ? そーゆーこと」
そもそもこの部活の趣旨ってなんだ? という素朴な疑問に頭を悩ませつつ、俺はそれよりももっと今反論したいことを口にする。
「黒羽や四鬼条の手なら、一応借りてはいたと思いますが……」
俺は数年ぶりに、団体行動を自主的に行った気がする。あれのどこが一人だというのか。ま、たしかに疎外感はすごかったけど……。
「そうだね、紫蘭とは惜しかったかも。でも、緋凪や玄葉とは、ただ、利害が一致していただけ。そんなのは、大きくなってからいくらでもできる。今の君たちの関係ってさ、そうじゃ――ないでしょ?」
なんだかすごい深いことを言っているような気がするが、ずばりと言ってくれないのでよくわからない。
そして俺はそんなことよりもっとずっと気になっていることがある。
「……よくわからないですが、とりあえず先生のおっぱいは揉めるんですか?」
「勝利ィ?」
ギロリと向けられる怒りの目線。
「ええ?! だってそういう約束だったじゃないですかぁー!?」
「残念ながら、今回は健人をぼこったのでその罰としてご褒美は帳消しです! 以上!」
なんでや、暴力と女(おっぱい)は相関概念やんけ! なんでそれを振るっておっぱいが遠ざかるんや! 普通逆やろがい! 暴力という絶対的力のもとにおっぱいは集まるの! 非暴力にもとにおっぱいは集わない! わかれ! わかって!(ヤクザ理論)
「そんなあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「ちょ、びっくりするじゃん! そこまで凹むことかなー?」
俺が頭の中で訳のわからないことをのたまいながら口では奇声を上げていると、先生はドン引きしていた。当たり前である。
しかしここで引き下がる俺ではない。
「そりゃそうでしょうよ! 俺は今日までそのためだけにしたくもないことたくさんして、命からがらここにいるんですよ!?」
「ふーん、じゃー、今回の件を解決するにあたって、勝利は困ってる緋凪を助けてあげたいなんて気持ちは微塵もなかったって言うのかー?」
「当たり前ですよ! あんなやつすぐさま地獄の炎に抱かれて死ね!!!」
俺の怨嗟を聞くと、先生ははちきれんばかりの胸を抱きしめた。
「はーい、ならなおさらおあずけでーす! そんな非道徳的な勝利に揉ませてあげられるおっぱいなんてどこにもありませーん」
「なっ!? なに、おっぱいは心の清らかな人しか揉めぬとでも言うのか!?」
「センセーのおっぱいはー心の汚い人が触るとその人を昇天させちゃうからねー」
!!!
「え、むしろ出来るなら昇天したい……」
「ちょ、勝利! へんなこと考えてたでしょ! そーゆー意味じゃないからねっ? もー」
「では逆に聞きますけどその胸に対してどうすればそれ以外のことを考えられるというんですか!?」
我ながら俺は自分の担任の先生になんてことを言ってるんだ……。
だが、やめられないとまらない。三鷹パイセンのパイオツが俺を狂わせる。
「あれれー? ちょっと勝利クンにはー、オキシドールがたりなかったかなー? ヒャッハー、汚物は消毒だーーー!!」
可愛らしい声と共に三鷹先生が消毒液をコットンに垂らす。
「あ、ごめんなさい先生。すみませんでした。あの、俺が悪、ひぎゃっ!」
いい加減変質者化していた俺の傷口を、それは火炎放射機の如く焼き払った。
感じる、熱。熱。熱。
けれど、その次に感じたこの熱は、決して化学的なものなんかじゃなくて。
「――と、冗談はもうおしまい」
「えっ…………?」
俺の体は先生に、ぎゅっと抱きしめられていた、
打撲の痕が少し痛む。
でもそんなこと、気にもならないくらい、何かが癒えていく気がした。
「……勝利さあ、こんだけ自分の体ボロボロにしといてさ、百点だった、なんて言わないでよ。勝利はよくてもね、センセーはつらいよ?」
耳元で直に響く声は、どこまでもやさしい。
「いや、でもこれくらいの怪我なら慣れっこだし……」
「体だけじゃない。心も。みんなで分かち合うはずの傷を、全部自分で抱えないでよ。君だけが嫌われることで解決するような問題なんて、センセーは解決したと認めたくないの。その気持ちも、わかってほしいな。」
「先生……」
言葉にならない。あまりにも多くのものをもらいすぎて、処理落ちした頭に浮かぶのは、まっさらな空白。
なのに、先生はそんな擦り切れた一言のつぶやきだけで、この気持ちをわかってくれる。
なんというか、心が通じ合っている感覚がした。
「うん。センセーの想い伝わったかな?」
「はい。とっても」
とにかく言えるのは、先生が俺の担任でよかった、ただそれだけ。
「よかった。じゃー次からは……」
先生が何か言おうとしている。
しかし、俺はこの感謝の極地に至った今、叫びたいことがあった。
「伝わり過ぎて抑えられません! 先生、俺と結婚してください!!」
「あのねー、勝利ィ? 時と場をー、かんがえろっ!!」
べちん!
「げはっ!」
先生は基本、怪我人にも容赦はしない。
悪いことは正されるべきだと、信じている。
そんな折れない先生の信念を見ていると、大人になっても未だに守っているそれを見ていると、こんな小童にも、感じるもモノがある。
その若い容姿の底に潜むなにかを。
そんな彼女が言いたかったであろうことの何割かは、俺だってわかっている。
わからないふりをして誤魔化したけれど、わかっている。
きっと俺だって、心の奥底ではわかっているんだ。
けれど、やっぱり自分一人傷ついて他のみんなが幸せなら、それでもいいと思うんだ。
だって、頑張っている奴には報われて欲しいだろ。
だから。
俺は。
辺見緋凪が……。
きっと。
――どうでもいいなんて、思えていない。
先生は正直者が好きなのだと、女将さんは言っていた。
だから今日の俺は、先生からOKをもらえないんだろう。
他のすべての前提を取り払った上で、なお。
第二生徒指導室。
そこは迷える少年少女たちのお悩み相談室。
青春同好会があなたの悩み事を綺麗さっぱり解決しちゃいます!
……こんな前説みたいなもんが校内に流布されてるのかは知らんが、また新たな依頼がここに舞い込んでくるらしく、俺と四鬼条は三鷹先生にこの空き教室まで連行された。
依頼人を呼んでくるからそれまで待っていろと言われたので、俺は暇を潰すべく本を読んでいるのだが、全く集中できない。
なぜなら、さっきから四鬼条が俺の隣でデスボイスの練習をしているからだ。
ぐるあああああ……! みたいな低音の唸り声をだす美少女の横で君は読書に集中できるだろうか。無理でしょ。
それでも反応したら負けだと思って、読書を決め込んでいると、肩をちょんちょんと叩くやわらかな感触。
なんだと思って振り返れば。
ぷにゅ。
頬に四鬼条の細い指が刺さった。
「……(きゃっきゃっ)」
「高校生になってもそんな悪戯で楽しくなれるお前がうらやましいよ……」
「えー、かつしかくんだからおもしろいんですよー?」
「俺を勝手に長寿漫画の舞台にするな」
「じゃー、かめありくん?」
「なにがじゃーだよ、むしろより近くなってるんだけど」
俺達が、そんなたわいもないやり取りをしていると、このあたたかな空間に北風が吹いた。
「二人は仲がいいのね」
黒羽だった。
なぜか教室の入口あたりに、黒羽玄葉が立っている。
俺はその綺麗な容姿と黒髪、相変わらずの絶壁を見てまたフラッシュバックする悪夢と戦いながら、なんとか口を開く。
「い、いつの間に入ってきたんだ? お前もしや俺のことを秘密裏に消そうと……」
「あなたってすさまじく陰謀論が似合うわね……。あやうくそれもありかと錯覚するところだったわ」
「ということはそうではないんだな。よかった……」
「ゆだんたいてき~」
安堵する俺の弱点を、四鬼条の的確な突きが一閃。
「はうあっ! ……ちょ、四鬼条ちゃん? いつの間に俺の脇腹の弱いとこ見定めたのっ?!」
「ぜんぜんぜんせかなー」
「えっ、なにそのなんの脈絡もない電波設定」
そんな俺達の戯れを、冷えっ冷えの目で蔑む黒羽さん。
「ねえ、変なプレイに巻き込むのはやめてくれるかしら。あなたの喘ぎ声を聞いてしまった私の耳が、機能を停止してしまうじゃない」
だからお前はロボットかよ……。
「あ、うんそれはごめん。てか、ほんとにいつからいたの、黒羽?」
「今来たところよ。扉が空いていたから話の内容が聞こえただけで、あなたたちのどうでもいい会話を盗み聞きしていたわけではないから、勘違いしないで。そもそもそんな奇特な人、この学校のどこにもいないでしょうけど」
「ならー、赤羽さんはーなにしにきたんですかー?」
能天気な四鬼条に対し、黒羽はげんなりと。
「それね……。部活というのは基本的にある程度人数がいないと特殊な事情がない限りは認可されないのだけど、家庭科部の人員が私一人だけということが三鷹先生に露見してしまったのよね……。忌々しいことに。その時のあの教師の顔、あなたたちにも見せてやりたいくらいだわ。それで、活動を続けたいのならこの部の活動を手伝えと脅されたのよ」
「脅されたって、大げさな……。てか、そこまでして家庭科部の活動を続けたいのか?」
俺がそう言うと、ただでさえ攻撃的な黒羽の目つきがさらに尖りだす。
「あなたって、ほんとうに馬鹿なの? 察しなさいよ」
「は? そもそも家庭科部って何してるのか知らないし」
「衣装をつくってるの! ……あとはわかるでしょう?」
「あっ、そうゆう……」
彼女の秘められた趣味を知っている俺は、ようやく合点がいった。
「納得したわね? そういうことよ。もともと人数について言及される前から三鷹先生にはこの部に入れと言われていたのだけど、あなたたちと違って私には落ち目がなかったから従う理由はなかった。だというに……」
黒羽が、不穏な空気を纏い始めた。彼女の背後からスタンドでも浮き上がってきそうな超ドス黒いオーラを感じる。俺は彼女の怒りが爆発しないことを祈るほかない。
しかし。
「これもぜんぶ――あなたのせいよ!」
黒羽はそう言って俺の目の前の机をバン! と叩いた。
「どうしてそうなる!?」
「そりゃー、しばまたくんはー、女のてきですもんねー」
「テキ屋だけにね……」
え、なんかこの子、四鬼条のわけわかんないノリにのってきたよ?! そういう子だったっけ?! 調子狂うな……。
「おー、くろーばーに座布団いちまいー」
「なんなんだこれ……。たしかにいつも俺は失恋してるけれども……」
男はつらすぎるよ。
「今回は四鬼条さんに免じて許してあげるけれど、次はないからね、灰佐君?」
「それは二人きりになったら俺のことを刺すということですか……?」
四鬼条の何に免じたのかとかそもそも俺は何もしていないとか、色々ツッコミどころが多すぎたが、こいつはガチでやるとなったらやる女なので、自衛のため怯えながらそう聞いておいた。
すると彼女は、にっこり笑って。
「あら、お望みなら挿してあげましょうか?」
え?
「なんか漢字が違うような気がするんですけど!?」
「ふふっ、冗談よ。安心しなさい、あなたと二人きりになるようことはもう絶対にないし、そんな気色悪いこと、私はたとえあなたが人類最後の男だったとしても決してしないから」
いやだからどうしてこの人は一々たとえがエロゲっぽいの? 趣味なの?
てか人類最後の女にならともかく、男に挿すってどんなシュチュだよ、アブノーマル過ぎんだろ。そこは男が挿す側だろ普通。子を残せや。絶滅すんぞ。
さて、俺が頭を悩ます間にも、次の問題はやって来る。世界は待ったを許さない。
「おっじゃましまーす! ってあれー、しきしー! それに、黒羽さん!」
天敵辺見が明るい髪を揺らして、元気よくやってきた。
「いや、俺は無視かよ」
「……………………ああ、ハイシャくん。なんでいんの?」
黒羽たちに向けられるそれと、俺とのそれのテンション差に、ダークソウルの1と2くらい隔たりがある。俺へのこのひどい反応もリマスターしてくんねえかな。
「お前こそなにしに来たんだよ? なに? 今度は誰に惚れられたの?」
「ちがうし! そんなモテたら困るもん! あー! ほんとあんたきらい!」
「じゃあなに、俺への嫌がらせ?」
「自意識過剰は気持ち悪いよー? ハイシャくん。次そんなねぼけたこといったら明日からの学校生活めちゃくちゃにしちゃうからね? うちがきたのはー、たんにこの部に入部しようとおもっただけだから」
「は? お前も?」
うっそだろ?! 親でも人質に取られたのか!?
「えー、どうしてですかー?」
四鬼条も驚いて……はなかったが、疑問の声を上げている。
「ちょ、しきしー、なんでちょっといやそうなのっ?」
「にがてなので~」
「そ、そんな……。がーん。う、うそだよね……?」
今日も平常運転で無感動な四鬼条に、大げさなリアクションでうなだれる辺見。
自分が四鬼条に好かれてるとでも思ってたんだろうか、こいつは。
いや、たぶんそれはない。辺見は人の表情を伺うのに長けている。だからこれも、ポーズの一種なのだろう。
ほんと、頭悪そうな顔してしたたかなやつ。
猿芝居をしている彼女を見ていると無性にいらつくので、俺はその幕引きをお願いする。
「そもそもこの場にお前が苦手じゃない奴がいないだろ」
「え、く、黒羽さんはちがうよね? そ、そんなこといわれたら、うち、泣いちゃう……」
辺見がわざとらしくおよよと目を覆う。俺を悪者にして黒羽に近づこうという魂胆があからさまにみえみえだった。
はーこの大根が! ぶりと一緒に煮込んだろか!
けれど黒羽は、辺見のことは好きでもないが俺のことは確実に嫌いなので。
「そうね。まあ確実に得意ではないけれど、灰佐君の言葉に頷くのも業腹だし、あなたの好きなように解釈してくれて構わないわ」
「やったー! やっぱり黒羽さんだいすきー」
こいつ、どこで黒羽がここにくると聞いたのか知らんが、黒羽目当てだな……?
性懲りもなく彼女に抱きついてうざがられている辺見を見るに、そうとしか思えない。
男鹿といい黒羽といい、この女、力あるやつになびきすぎだろ……。
「なあ、辺見。俺が言うのもなんだが、的は一つに絞るべきだと思うぞ」
「ごめん、ちょっと意味わかんないからだまってて? 目障りだよ?」
「そうよ灰佐君。何の話だかは知らないけれど、ここにいる全員に告白したことのあるあなたがそんなこと言ったってなんの説得力もないわ」
「いや、全員には告ってないが」
「現実を見ましょう? みっともないわよ。……いえ、みっともないから見れないのね」
「あのさあ……」
割と真理過ぎて言い返すに言い返せなかった。泣きそう。
いつだって黒羽様は真実をきっついカッターで突きつけてくる。
……そろそろ精神的出血多量で死ぬんじゃないかな、俺。
辺見は辺見で、あの日「ありがと」ってライン送ってきたからめちゃくちゃ悩んで返信したらそれから数日後の今に至るまで既読ついてないからね。辺見ちゃんが一週間に一回しかライン確認しないなんて俺知らなかったわー(現実逃避定期)。
このままじゃ悲しみの向こうへと行ってしまいそう。どうせなにかの向こうにいくんなら輝きの向こう側にいきたいんだけどなあ……。
などと思っていると、
「ぼんじょー! おー、みんなそろってるなー? えらいえらいー」
我が愛しの光、三鷹先生が溌剌にやってきて。
「それじゃ、依頼者の子、連れてきたから、あとはよろー」
そう言って教室を去っていった。
俺の今日の生きがい、終了。もう明日はきてくれてかまわないよ?
そして、彼女と入れ替わりに、あらたな人影が第二生徒指導室の中へとやって来る。
はてさて、お次のお悩みはいかがなものなんですかね?
青い空を眺めていた。皐月を象徴するかのような群青を。
この学校の、一番高い場所で。
横に寝転がっている少女の、お気に入りのその場所に。
二人きりで寝転がって見上げる空は、雲もなく、風もない。
邪魔するものも、なにもない。
ただ世界に、二人だけ。
そんな淡い、夢を見る。
「ふーんふふふー、ふんふー♪」
四鬼条の鼻歌が、すぐ横から聞こえてきた。
本来はハスキーなボーカルで紡がれるずのその曲の、大胆なアレンジカバー。
ひなたぼっこにはちょうどいい脱力感の、BGM。
それを聞いていると、なんだか俺まで、喋り方が四鬼条みたいになってしまう。
「それさー、雨の日の歌じゃなかったっけー?」
「雨の日のうたをー、雨の日にうたってもー、おもしろくないじゃないですかー」
「そうかー」
「それにこれはー、こういう日のうたですよー?」
「はあ?」
相変わらず四鬼条の言うことはよくわからない。
でもそれは、たぶん支離滅裂なのではなくて、俺が彼女の心中を知らないだけなのだ。
彼女の中ではきっと、しっかりなにかが通っている。
それくらいは、やっと。わかるようになってきた。
「ずっとー、こうしていられたらいいのにねー」
なら、この言葉は。
「――しょうりくんとー、ふたりでー」
「え…………?」
それは、どういう? てか、いま、勝利って?
そう思い、首を動かす。
動悸が止まらない。
ああ、まずい……。
真横に寝転がっている四鬼条の目は、閉じていた。人形のようにかわいらしく。
その綺麗な顔が、さっきのセリフを言ったのだと思うと、さらに意識が混濁する。身体があつく火照ってしまう。変な汗が、あちこちから噴き出るくらいに。
そんなかわいい顔で、そんな思わせぶりなことしないでくれ。
お前の一言一句に慌てる俺を、いつものように笑ってくれよ。
さっきのはからかってるだけなんだと言って、安心させてくれ。
そんな綺麗な顔で、あんなことを言ったままなんて、やめてくれよ。
だって俺は、まだ。お前には。
一年の頃は、顔も知らなかったお前には。
まだ……。
そうだ。
俺はまだ、お前にだけは、告白していない――
ざわざわと、心が燃える。
青い春の空に、赤い陽が混じるのは、そう遠くない……もう少し先。
あまり喧嘩慣れしていないらしき相田をぶちのめしたはいいものの、奴もバレー部の次期エースなだけあって(そんなやつに怪我させて後で苦情きたらどうしよ……)、中々にタフだった。
そのせいで、俺もふらふらだ。
キィィィ。
やっとの思いで、屋上から校舎へとつながる扉を開ける。
刹那。
「おっはー、勝利ィ?」
――扉開けた途端 未知なる世界へと そんなのないよありえない。
思わずそんなフレーズが浮かんでしまった。
何故って? 三鷹先生が来た!(絶望)
俺は、仁王立ちでにっこり笑うめんこいおっぱいギャルを、見なかったことにした。
その横を、素知らぬ顔でよたよた通り過ぎようとする。
「オイ、なーに無視しようとしてーんだ?」
作戦失敗。肩をガシッと掴まれた。
「え、ええ……、だって、先生、俺に用があってここに来たわけじゃないでしょう?」
「ここに来れば勝利に会えるって、とある女の子から聞いて……えへへ、きちゃった☆」
「は、はあ」
先生の年甲斐はないがちゃんとかわいいぶりっこも、今は聞きたくない。
「なにさーそのしょっぱい反応―。もっと喜ぼうよー。センセーのこと好きなんでしょー?そのセンセーが自ら会いに来たんだぞー?」
「だって、絶対先生俺のこと指導しに来たでしょ?」
むしろ好きな人から怒られるこの無常感よ。
「んなことは当たり前田のクラッカーだよー。ま、とりま保健室いこっか?」
「相田はほっといていいんすか?」
あいつの方が五体不満足だと思うけど。
「あっちはたぶんー、アイカが来てくれるからダイジョーブ!」
「わー、うらやましいなー」
これが身分の違いってやつか。俺が先生に怒られてる間に、あのイケメンは自分に惚れてるクラス一顔のいい女に看病してもらえんだもんな。なんだこの格差。やっぱ資本主義ってクソだわ。共産主義万歳。
などとくだらないことを考え、頭の中で、なんでもいいから誰も泣かない世界が欲しいと熱く叫んでいると、先生は、そのアラサーとは思えない若若ほっぺを膨らませた。
「なになにー? センセーじゃ不満なのかー?」
「いえ、最高です! ただ、その役職的に、ちょっとお叱りハッピーセットがついてそうなのが、やだなって」
「センセーと本気で付き合う気なら、それくらい我慢しろー?」
「え、それを我慢できたら先生と付き合えるってそれマジ?!」
「勝利がそう思うならそうなんでしょう。勝利の中ではね」
「急に倫理教諭っぽいこと言わないでくださいよ……」
「キュウにとはなんですかキュウにとは! いつもだろー?」
「そもそも白衣着てる時点で意味わかんないんですよね」
「これはさー、センセーの心の清さの象徴なワケよ。ね?」
背中に軽く黄色いチョークの粉ついてるのは言った方がいいのかな……?
「じゃあいつか黒衣を羽織ることもあるんですか?」
「ノンノン、勝利―。センセーはエーエンにセーレンケッパクだよ?」
「はえー」
「なにー? そのハンノ―? 信じてねえなー? このこのー」
そう言いながら俺の脇を小突いてくる先生。
かわいい子のボディタッチは神速で男子を恋に落とすので止めて欲しい。
まあ、もうとっくに落ちてるんですけども。
保健室につくと、嗅ぎ慣れたあの薬品の匂いに歓迎された。
他に人はいないらしく、校庭から遠く響く野球部の声以外は、無音。
先生は俺を長椅子に座らせると、慣れた手つきで戸棚から道具を取り出し、俺の横に座った。いやん、肩と肩が触れ合っちゃう。
……って、えっ、近っ!? 普通にドキドキするわ! 電車で隣に綺麗な人が座ってきた時の五倍くらい緊張する!
しかしそんな俺の心の動揺など関係なく、三鷹先生は。
「それじゃあ改めて。勝利、おしごとお疲れ様」
「っつ! ……それは傷口を消毒しながらじゃないと言えなかったんですかね?」
十数分前に出来た傷に染み入るオキシドールに、思わず声が出る。
「めんごめんごー。これはあれだよー勝利。そのあの、ツンデレってやつじゃん? 男子はみんな、これが好きなんでしょ?」
「えぇ……(困惑)。そこはかとなく何かが違う気がしますけど」
「うー? 聞いた話ではー、ツンツンとデレデレがアウフヘーベンしたのがツンデレだって聞いたんだケドー? センセーもまだまだ勉強が足りないかー」
「思い出したかのように唐突な倫理教師アッピル!?」
見た目アホの子な先生が、授業中でもないのにそれっぽい単語を自然に会話へ織り込んできたことに、仰天。見事な手際だと関心はするがどこもおかしくはないはずなのに、やはり違和感は拭えないことは確定的に明らか。
「なに言ってんの勝利ィ? センセーはいつでも哲学者然としてるじゃん?」
「あの、すいません。これは新手のアメリカンジョークかなにかですか? 俺そういうのに疎くて、笑いどころがちょっとわかんなかったんですけど」
「いや、ジョークじゃねーし! 見なさい、センセーのこのいつまでも子供心を忘れない佇まいを! どっからどーみても哲学者でしょー? 龍樹(ナーガルジュナ)もびっくり!」
なぜかそう言って胸を張ってくれたので、俺はここぞとばかりにその豊満な恵みを凝視させていただいた。堪能。超自然的堪能。どっからどうみても巨乳。
しかしまあその感想は色々アウトなので、自主規制。
「どっからどう見ても覚えたての変な単語を使いたがってる今時ギャルなんだよなあ……」
「なーに言ってんだっつーの~。センセーが龍樹について勉強したのはもう、かれこれ十年以上…………はっ!?」
「どうしたんですか、急に?」
くわっと目を見開く先生。ただでさえ大きなお目目が、倍プッシュ。
「今の、聞いた?」
「十年以上前ってあたりまで」
「いやいやや、ちょちょちょちょっとまちんしゃい! センセーは前なんて一言も言ってない! 十年以上としか言ってない!」
なんかめちゃくちゃ必死に俺の肩を揺すってくるが、個人的には、こんだけかわいいんだからそこまで気にせんでも……といったところ。
まあそろそろ結婚はしたほうがいいと思うけど。というわけで俺と……(以下妄言。
「そうでしたっけ?」
「そうだったの!! センセーは十年以上前には竜樹なんて知らなかった。まだ幼稚園にいた。いいね?」
「え、ええ? それだと先生は俺たちより若いことに……」
「いいね?」
「あっはい」
有無を言わさぬというのはまさにこの事だなと思った。昔やったゲームで、わたしと一緒に旅をしない? というセリフに、「はい」と答えないと一生ストーリーが進まなかったことを思い出す。でもああいうのって、無限にいいえ押してるとたまにちょっと違うこと言ってくれる時あるよね。俺はそういう遊び心、好きです。
「よーし! じゃあそんな素直な勝利には、ご褒美を……」
不意にそう言うと三鷹先生は、俺に顔を近づけてきた。
ぐいっと、エキゾチックに浅黒い肌が迫る。赤い唇の瑞々しさが、しかと目視できる距離にまで。揺れたピンクのツインテからは、芳醇な、大人の香りがした。
脳が蕩けてしまいそう。
けれど、その夢うつつは、消毒液が、溶解。
「っく! ああっ、やるならやるって言ってくださいよ。痛い……」
「えー、ご褒美あげるって言ったじゃん?」
「これのどこがご褒美なんだ……」
「白衣の天使に看病されてるのにぃ、なーに寝ぼけたこと言ってんだっ?」
「まあ、実際けっこう嬉しいんですけども……」
「だろだろー?」
「……」
バンドエイドを目の下に貼ってくれる先生の目つきがあまりにも真剣すぎて、心臓の高まりが制御できない。
そんな俺の緊張を察したのか、先生は最後の傷跡の処置を終えると、額にかるくデコピンをして。
「はいっ、これでおしまいっと」
そう言って俺から距離を取った。
というか、俺の隣から立ち上がって、正面に立った。
彼女は言う。
俺の目をまっすぐにみつめて。
「勝利はさ、今回の解決法、点数をつけるなら、何点だと思う?」
「辺見と相田の件ですか?」
「うん」
「百点かなー。俺めちゃくちゃがんばりましたし!」
そう思って満面の笑顔で先生に笑いかける俺。
しかし、先生はなぜか芳しくないといった表情で。
「もう、君はほんとにポジティブだにゃー。ま、でもそうか。勝利はこの結果に満足しているわけか。おっけーおっけー。そう来たかー」
「だったら、先生が採点するならどうなんですか?」
「えー、それ聞いちゃうー? 後悔しない?」
「愛しの先生が俺をどんなふうに評価しているか気になるじゃないですかっ」
きゃっ、言っちゃった。
「あーはいはい。センセーは彼ピいるから諦めろー。で、冗談はさておき……」
「俺は本気なのに……」
こっちは乙女の気持ちになってまでの発言だったのに先生のあしらいがあまりに淡白すぎて泣きそうになった。
すると。
「本気だから困ってんだぞー?」
先生はにっこりそう言った。しかし目が笑っておらず、怖い。
まだ先生との明るい未来への道のりは険しそうだ……。
俺が先生との将来設計図に思いを馳せていると、彼女はおっぱいの下で腕組みをして言い放つ。
「今回の青春同好会の活動はー、C評価ってかんじかなー」
「ええ、なぜですか!?」
そんなのぜったいおかしいよ!
「それに気付けないとこなんてまさにー、その原因だぜー? 何が悪かったかは、今後の活動を通してじっくり考えて欲しいです、センセー的には。なにせ、君たちが卒業するまでにはまだまだ時間があるからね」
「でも相田も納得してましたし、辺見だってこれで悩むことはないはずで……」
「じゃー、迷える子羊勝利クンにー、センセーから一つだけアドバイスぅ。そんなに難しい話じゃなくてさ、君は結局、今回も一人だった。そういうことだよ。勝利があくまでそれを貫くっていうなら、センセーももう止めないけど、この部活の趣旨には反するでしょ? そーゆーこと」
そもそもこの部活の趣旨ってなんだ? という素朴な疑問に頭を悩ませつつ、俺はそれよりももっと今反論したいことを口にする。
「黒羽や四鬼条の手なら、一応借りてはいたと思いますが……」
俺は数年ぶりに、団体行動を自主的に行った気がする。あれのどこが一人だというのか。ま、たしかに疎外感はすごかったけど……。
「そうだね、紫蘭とは惜しかったかも。でも、緋凪や玄葉とは、ただ、利害が一致していただけ。そんなのは、大きくなってからいくらでもできる。今の君たちの関係ってさ、そうじゃ――ないでしょ?」
なんだかすごい深いことを言っているような気がするが、ずばりと言ってくれないのでよくわからない。
そして俺はそんなことよりもっとずっと気になっていることがある。
「……よくわからないですが、とりあえず先生のおっぱいは揉めるんですか?」
「勝利ィ?」
ギロリと向けられる怒りの目線。
「ええ?! だってそういう約束だったじゃないですかぁー!?」
「残念ながら、今回は健人をぼこったのでその罰としてご褒美は帳消しです! 以上!」
なんでや、暴力と女(おっぱい)は相関概念やんけ! なんでそれを振るっておっぱいが遠ざかるんや! 普通逆やろがい! 暴力という絶対的力のもとにおっぱいは集まるの! 非暴力にもとにおっぱいは集わない! わかれ! わかって!(ヤクザ理論)
「そんなあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「ちょ、びっくりするじゃん! そこまで凹むことかなー?」
俺が頭の中で訳のわからないことをのたまいながら口では奇声を上げていると、先生はドン引きしていた。当たり前である。
しかしここで引き下がる俺ではない。
「そりゃそうでしょうよ! 俺は今日までそのためだけにしたくもないことたくさんして、命からがらここにいるんですよ!?」
「ふーん、じゃー、今回の件を解決するにあたって、勝利は困ってる緋凪を助けてあげたいなんて気持ちは微塵もなかったって言うのかー?」
「当たり前ですよ! あんなやつすぐさま地獄の炎に抱かれて死ね!!!」
俺の怨嗟を聞くと、先生ははちきれんばかりの胸を抱きしめた。
「はーい、ならなおさらおあずけでーす! そんな非道徳的な勝利に揉ませてあげられるおっぱいなんてどこにもありませーん」
「なっ!? なに、おっぱいは心の清らかな人しか揉めぬとでも言うのか!?」
「センセーのおっぱいはー心の汚い人が触るとその人を昇天させちゃうからねー」
!!!
「え、むしろ出来るなら昇天したい……」
「ちょ、勝利! へんなこと考えてたでしょ! そーゆー意味じゃないからねっ? もー」
「では逆に聞きますけどその胸に対してどうすればそれ以外のことを考えられるというんですか!?」
我ながら俺は自分の担任の先生になんてことを言ってるんだ……。
だが、やめられないとまらない。三鷹パイセンのパイオツが俺を狂わせる。
「あれれー? ちょっと勝利クンにはー、オキシドールがたりなかったかなー? ヒャッハー、汚物は消毒だーーー!!」
可愛らしい声と共に三鷹先生が消毒液をコットンに垂らす。
「あ、ごめんなさい先生。すみませんでした。あの、俺が悪、ひぎゃっ!」
いい加減変質者化していた俺の傷口を、それは火炎放射機の如く焼き払った。
感じる、熱。熱。熱。
けれど、その次に感じたこの熱は、決して化学的なものなんかじゃなくて。
「――と、冗談はもうおしまい」
「えっ…………?」
俺の体は先生に、ぎゅっと抱きしめられていた、
打撲の痕が少し痛む。
でもそんなこと、気にもならないくらい、何かが癒えていく気がした。
「……勝利さあ、こんだけ自分の体ボロボロにしといてさ、百点だった、なんて言わないでよ。勝利はよくてもね、センセーはつらいよ?」
耳元で直に響く声は、どこまでもやさしい。
「いや、でもこれくらいの怪我なら慣れっこだし……」
「体だけじゃない。心も。みんなで分かち合うはずの傷を、全部自分で抱えないでよ。君だけが嫌われることで解決するような問題なんて、センセーは解決したと認めたくないの。その気持ちも、わかってほしいな。」
「先生……」
言葉にならない。あまりにも多くのものをもらいすぎて、処理落ちした頭に浮かぶのは、まっさらな空白。
なのに、先生はそんな擦り切れた一言のつぶやきだけで、この気持ちをわかってくれる。
なんというか、心が通じ合っている感覚がした。
「うん。センセーの想い伝わったかな?」
「はい。とっても」
とにかく言えるのは、先生が俺の担任でよかった、ただそれだけ。
「よかった。じゃー次からは……」
先生が何か言おうとしている。
しかし、俺はこの感謝の極地に至った今、叫びたいことがあった。
「伝わり過ぎて抑えられません! 先生、俺と結婚してください!!」
「あのねー、勝利ィ? 時と場をー、かんがえろっ!!」
べちん!
「げはっ!」
先生は基本、怪我人にも容赦はしない。
悪いことは正されるべきだと、信じている。
そんな折れない先生の信念を見ていると、大人になっても未だに守っているそれを見ていると、こんな小童にも、感じるもモノがある。
その若い容姿の底に潜むなにかを。
そんな彼女が言いたかったであろうことの何割かは、俺だってわかっている。
わからないふりをして誤魔化したけれど、わかっている。
きっと俺だって、心の奥底ではわかっているんだ。
けれど、やっぱり自分一人傷ついて他のみんなが幸せなら、それでもいいと思うんだ。
だって、頑張っている奴には報われて欲しいだろ。
だから。
俺は。
辺見緋凪が……。
きっと。
――どうでもいいなんて、思えていない。
先生は正直者が好きなのだと、女将さんは言っていた。
だから今日の俺は、先生からOKをもらえないんだろう。
他のすべての前提を取り払った上で、なお。
第二生徒指導室。
そこは迷える少年少女たちのお悩み相談室。
青春同好会があなたの悩み事を綺麗さっぱり解決しちゃいます!
……こんな前説みたいなもんが校内に流布されてるのかは知らんが、また新たな依頼がここに舞い込んでくるらしく、俺と四鬼条は三鷹先生にこの空き教室まで連行された。
依頼人を呼んでくるからそれまで待っていろと言われたので、俺は暇を潰すべく本を読んでいるのだが、全く集中できない。
なぜなら、さっきから四鬼条が俺の隣でデスボイスの練習をしているからだ。
ぐるあああああ……! みたいな低音の唸り声をだす美少女の横で君は読書に集中できるだろうか。無理でしょ。
それでも反応したら負けだと思って、読書を決め込んでいると、肩をちょんちょんと叩くやわらかな感触。
なんだと思って振り返れば。
ぷにゅ。
頬に四鬼条の細い指が刺さった。
「……(きゃっきゃっ)」
「高校生になってもそんな悪戯で楽しくなれるお前がうらやましいよ……」
「えー、かつしかくんだからおもしろいんですよー?」
「俺を勝手に長寿漫画の舞台にするな」
「じゃー、かめありくん?」
「なにがじゃーだよ、むしろより近くなってるんだけど」
俺達が、そんなたわいもないやり取りをしていると、このあたたかな空間に北風が吹いた。
「二人は仲がいいのね」
黒羽だった。
なぜか教室の入口あたりに、黒羽玄葉が立っている。
俺はその綺麗な容姿と黒髪、相変わらずの絶壁を見てまたフラッシュバックする悪夢と戦いながら、なんとか口を開く。
「い、いつの間に入ってきたんだ? お前もしや俺のことを秘密裏に消そうと……」
「あなたってすさまじく陰謀論が似合うわね……。あやうくそれもありかと錯覚するところだったわ」
「ということはそうではないんだな。よかった……」
「ゆだんたいてき~」
安堵する俺の弱点を、四鬼条の的確な突きが一閃。
「はうあっ! ……ちょ、四鬼条ちゃん? いつの間に俺の脇腹の弱いとこ見定めたのっ?!」
「ぜんぜんぜんせかなー」
「えっ、なにそのなんの脈絡もない電波設定」
そんな俺達の戯れを、冷えっ冷えの目で蔑む黒羽さん。
「ねえ、変なプレイに巻き込むのはやめてくれるかしら。あなたの喘ぎ声を聞いてしまった私の耳が、機能を停止してしまうじゃない」
だからお前はロボットかよ……。
「あ、うんそれはごめん。てか、ほんとにいつからいたの、黒羽?」
「今来たところよ。扉が空いていたから話の内容が聞こえただけで、あなたたちのどうでもいい会話を盗み聞きしていたわけではないから、勘違いしないで。そもそもそんな奇特な人、この学校のどこにもいないでしょうけど」
「ならー、赤羽さんはーなにしにきたんですかー?」
能天気な四鬼条に対し、黒羽はげんなりと。
「それね……。部活というのは基本的にある程度人数がいないと特殊な事情がない限りは認可されないのだけど、家庭科部の人員が私一人だけということが三鷹先生に露見してしまったのよね……。忌々しいことに。その時のあの教師の顔、あなたたちにも見せてやりたいくらいだわ。それで、活動を続けたいのならこの部の活動を手伝えと脅されたのよ」
「脅されたって、大げさな……。てか、そこまでして家庭科部の活動を続けたいのか?」
俺がそう言うと、ただでさえ攻撃的な黒羽の目つきがさらに尖りだす。
「あなたって、ほんとうに馬鹿なの? 察しなさいよ」
「は? そもそも家庭科部って何してるのか知らないし」
「衣装をつくってるの! ……あとはわかるでしょう?」
「あっ、そうゆう……」
彼女の秘められた趣味を知っている俺は、ようやく合点がいった。
「納得したわね? そういうことよ。もともと人数について言及される前から三鷹先生にはこの部に入れと言われていたのだけど、あなたたちと違って私には落ち目がなかったから従う理由はなかった。だというに……」
黒羽が、不穏な空気を纏い始めた。彼女の背後からスタンドでも浮き上がってきそうな超ドス黒いオーラを感じる。俺は彼女の怒りが爆発しないことを祈るほかない。
しかし。
「これもぜんぶ――あなたのせいよ!」
黒羽はそう言って俺の目の前の机をバン! と叩いた。
「どうしてそうなる!?」
「そりゃー、しばまたくんはー、女のてきですもんねー」
「テキ屋だけにね……」
え、なんかこの子、四鬼条のわけわかんないノリにのってきたよ?! そういう子だったっけ?! 調子狂うな……。
「おー、くろーばーに座布団いちまいー」
「なんなんだこれ……。たしかにいつも俺は失恋してるけれども……」
男はつらすぎるよ。
「今回は四鬼条さんに免じて許してあげるけれど、次はないからね、灰佐君?」
「それは二人きりになったら俺のことを刺すということですか……?」
四鬼条の何に免じたのかとかそもそも俺は何もしていないとか、色々ツッコミどころが多すぎたが、こいつはガチでやるとなったらやる女なので、自衛のため怯えながらそう聞いておいた。
すると彼女は、にっこり笑って。
「あら、お望みなら挿してあげましょうか?」
え?
「なんか漢字が違うような気がするんですけど!?」
「ふふっ、冗談よ。安心しなさい、あなたと二人きりになるようことはもう絶対にないし、そんな気色悪いこと、私はたとえあなたが人類最後の男だったとしても決してしないから」
いやだからどうしてこの人は一々たとえがエロゲっぽいの? 趣味なの?
てか人類最後の女にならともかく、男に挿すってどんなシュチュだよ、アブノーマル過ぎんだろ。そこは男が挿す側だろ普通。子を残せや。絶滅すんぞ。
さて、俺が頭を悩ます間にも、次の問題はやって来る。世界は待ったを許さない。
「おっじゃましまーす! ってあれー、しきしー! それに、黒羽さん!」
天敵辺見が明るい髪を揺らして、元気よくやってきた。
「いや、俺は無視かよ」
「……………………ああ、ハイシャくん。なんでいんの?」
黒羽たちに向けられるそれと、俺とのそれのテンション差に、ダークソウルの1と2くらい隔たりがある。俺へのこのひどい反応もリマスターしてくんねえかな。
「お前こそなにしに来たんだよ? なに? 今度は誰に惚れられたの?」
「ちがうし! そんなモテたら困るもん! あー! ほんとあんたきらい!」
「じゃあなに、俺への嫌がらせ?」
「自意識過剰は気持ち悪いよー? ハイシャくん。次そんなねぼけたこといったら明日からの学校生活めちゃくちゃにしちゃうからね? うちがきたのはー、たんにこの部に入部しようとおもっただけだから」
「は? お前も?」
うっそだろ?! 親でも人質に取られたのか!?
「えー、どうしてですかー?」
四鬼条も驚いて……はなかったが、疑問の声を上げている。
「ちょ、しきしー、なんでちょっといやそうなのっ?」
「にがてなので~」
「そ、そんな……。がーん。う、うそだよね……?」
今日も平常運転で無感動な四鬼条に、大げさなリアクションでうなだれる辺見。
自分が四鬼条に好かれてるとでも思ってたんだろうか、こいつは。
いや、たぶんそれはない。辺見は人の表情を伺うのに長けている。だからこれも、ポーズの一種なのだろう。
ほんと、頭悪そうな顔してしたたかなやつ。
猿芝居をしている彼女を見ていると無性にいらつくので、俺はその幕引きをお願いする。
「そもそもこの場にお前が苦手じゃない奴がいないだろ」
「え、く、黒羽さんはちがうよね? そ、そんなこといわれたら、うち、泣いちゃう……」
辺見がわざとらしくおよよと目を覆う。俺を悪者にして黒羽に近づこうという魂胆があからさまにみえみえだった。
はーこの大根が! ぶりと一緒に煮込んだろか!
けれど黒羽は、辺見のことは好きでもないが俺のことは確実に嫌いなので。
「そうね。まあ確実に得意ではないけれど、灰佐君の言葉に頷くのも業腹だし、あなたの好きなように解釈してくれて構わないわ」
「やったー! やっぱり黒羽さんだいすきー」
こいつ、どこで黒羽がここにくると聞いたのか知らんが、黒羽目当てだな……?
性懲りもなく彼女に抱きついてうざがられている辺見を見るに、そうとしか思えない。
男鹿といい黒羽といい、この女、力あるやつになびきすぎだろ……。
「なあ、辺見。俺が言うのもなんだが、的は一つに絞るべきだと思うぞ」
「ごめん、ちょっと意味わかんないからだまってて? 目障りだよ?」
「そうよ灰佐君。何の話だかは知らないけれど、ここにいる全員に告白したことのあるあなたがそんなこと言ったってなんの説得力もないわ」
「いや、全員には告ってないが」
「現実を見ましょう? みっともないわよ。……いえ、みっともないから見れないのね」
「あのさあ……」
割と真理過ぎて言い返すに言い返せなかった。泣きそう。
いつだって黒羽様は真実をきっついカッターで突きつけてくる。
……そろそろ精神的出血多量で死ぬんじゃないかな、俺。
辺見は辺見で、あの日「ありがと」ってライン送ってきたからめちゃくちゃ悩んで返信したらそれから数日後の今に至るまで既読ついてないからね。辺見ちゃんが一週間に一回しかライン確認しないなんて俺知らなかったわー(現実逃避定期)。
このままじゃ悲しみの向こうへと行ってしまいそう。どうせなにかの向こうにいくんなら輝きの向こう側にいきたいんだけどなあ……。
などと思っていると、
「ぼんじょー! おー、みんなそろってるなー? えらいえらいー」
我が愛しの光、三鷹先生が溌剌にやってきて。
「それじゃ、依頼者の子、連れてきたから、あとはよろー」
そう言って教室を去っていった。
俺の今日の生きがい、終了。もう明日はきてくれてかまわないよ?
そして、彼女と入れ替わりに、あらたな人影が第二生徒指導室の中へとやって来る。
はてさて、お次のお悩みはいかがなものなんですかね?
青い空を眺めていた。皐月を象徴するかのような群青を。
この学校の、一番高い場所で。
横に寝転がっている少女の、お気に入りのその場所に。
二人きりで寝転がって見上げる空は、雲もなく、風もない。
邪魔するものも、なにもない。
ただ世界に、二人だけ。
そんな淡い、夢を見る。
「ふーんふふふー、ふんふー♪」
四鬼条の鼻歌が、すぐ横から聞こえてきた。
本来はハスキーなボーカルで紡がれるずのその曲の、大胆なアレンジカバー。
ひなたぼっこにはちょうどいい脱力感の、BGM。
それを聞いていると、なんだか俺まで、喋り方が四鬼条みたいになってしまう。
「それさー、雨の日の歌じゃなかったっけー?」
「雨の日のうたをー、雨の日にうたってもー、おもしろくないじゃないですかー」
「そうかー」
「それにこれはー、こういう日のうたですよー?」
「はあ?」
相変わらず四鬼条の言うことはよくわからない。
でもそれは、たぶん支離滅裂なのではなくて、俺が彼女の心中を知らないだけなのだ。
彼女の中ではきっと、しっかりなにかが通っている。
それくらいは、やっと。わかるようになってきた。
「ずっとー、こうしていられたらいいのにねー」
なら、この言葉は。
「――しょうりくんとー、ふたりでー」
「え…………?」
それは、どういう? てか、いま、勝利って?
そう思い、首を動かす。
動悸が止まらない。
ああ、まずい……。
真横に寝転がっている四鬼条の目は、閉じていた。人形のようにかわいらしく。
その綺麗な顔が、さっきのセリフを言ったのだと思うと、さらに意識が混濁する。身体があつく火照ってしまう。変な汗が、あちこちから噴き出るくらいに。
そんなかわいい顔で、そんな思わせぶりなことしないでくれ。
お前の一言一句に慌てる俺を、いつものように笑ってくれよ。
さっきのはからかってるだけなんだと言って、安心させてくれ。
そんな綺麗な顔で、あんなことを言ったままなんて、やめてくれよ。
だって俺は、まだ。お前には。
一年の頃は、顔も知らなかったお前には。
まだ……。
そうだ。
俺はまだ、お前にだけは、告白していない――
ざわざわと、心が燃える。
青い春の空に、赤い陽が混じるのは、そう遠くない……もう少し先。
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