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終章 女々々々々々々々メメント・アイ
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もぞもぞ。もぞもぞ。
下半身になにやらそんな違和感を覚え、俺は目覚めた。
うむ、我が麗しの自室のベッドだな。隣にヤヨイがいる。
だが、おかしい。彼女は眠っている。
「うさ~、そんなノ、はいらないよォ……」
ひっでえ寝言だ。
では、なんなのだ、この下半身、というか、局部に感じるやわな肌感は!
ザバァ!
俺はかかっていた布団を跳ね除け、起き上がらせた。もちろん、上体をな?
すると、
「あ、おきた」
褐色の肌をした、スレンダーなエキセントリックセクシー少女、リーシャが、かわいらしく、侍っていた。
彼女とは色々あったが、結局、和解した。取り敢えず、愛し合おうということで合意したのだ。滅茶苦茶に思われるかもしれないが、今俺の周りにいてくれている女達だって、大概似たような経緯でそれぞれの関係に落ち着いている。アルマで暮らすってのはそういうことだ。それが嫌なら、それこそエルラティスにでも行けばいい。
「ああ、おはよう。で、お前は何をしているんだ」
「つまの、おつとめ」
敬虔な信徒である彼女にとって、愛とは即ちそういうことであったらしい。隣人愛とやらはどうした。
「悪いが、俺はお前と籍を入れた覚えはないし、一応この無法都市アルマにも最低限の法はある。リーシャ、お前今何歳だ?」
その体格から推測すると、成長期中の細身な女の子って感じで、もしその通りであれば、まあ結婚は出来てしまうのだが。戸籍とかはきっと、たぶんアンナに言えばなんとかしてくれるだろうし。というかそれを言い出すと俺の方も怪しくなる……。
「うー、わかん、ない……?」
しかし、その、舌っ足らずなしゃべり方は、どう考えても十代のそれではない。察するに、彼女の幼少期に誰もそうしたことを教えてくれる人間がいなかったのだろうというような事なのだろうが。
「おい、嘘は良くないぞ。神様もそう言ってる。知らんけど」
「エドは、神なんていないって、そういった」
「でも、俺はお前がまだ教えを捨てたわけじゃないって知ってる」
「だって、あなたが、わたしをすくったように、教えがわたしをすくったのだって、ほんとの、こと。それはいまでも、そう。でも、それをもちだすのは、ずる」
「俺はずるい男なんだ、悪いな」
「しってる。でも、ね。……すき」
は? かわいい。
「あ、うん。俺もすきだよ。リーシャ。愛してる」
「だから、しよ?」
彼女は、ベッドの上に座っている俺の、太ももへと跨りにじり寄って、そう言った。
相変わらず、その幼年性の内に妖しい官能を携えているリーシャ。ああ、その露出した首筋、鎖骨、腋窩脇腹、鼠径部、大腿、膝窩、腓腹、内果……、その浅黒くなめらかに揺れるそれら、その尽くに、五指をあてがい、舌を這わせ、味わいたい。犯したい。その、実を為したばかりの果実全てを……。
そう言いたいのを必死に我慢して、俺はとぼけてみせる。
「な、なにをだ?」
すると彼女は、本当にかわいらしく、こんなことを、蕩蕩と。
「主はいいました、うめよ、そだてよ」
孕めるかもわからぬ幼き少女が謳う、子作りの詩。
その無垢の非常な背徳に、思わず興奮していまう。
「なるほど。いいこと言うねえ、さっすがカミサマだ!」
「でしょ? だから、ね?」
彼女はかわいらしく小首を傾げた。
俺はこの小さな首一つだけで、ヴァルヘルム中の全ての男を動かすことが出来るのではないだろうかとさえ思った。
しかし、その恐るべき愛玩性に負けるこの俺ではない。犯してきた、場数が違う。
「いや、本当にマジな話。これは数々の女を抱いてきたこの百戦錬磨の俺だから言えることだが、お前にはまだ無理だと思う。あと数年待とう、な?」
「でも、きいた。エド、未知、すき」
彼女は聞く耳持たずという感じで、俺にどんどんと擦り寄ってくる。
「あ、ああ」
そして、思わずその気迫に気後れする俺を、そのまま押し倒し、
「だから、しちゃお。したことない、こずくり。これまでやったことない、くらいの、ちっちゃいおんなのこ、はらませちゃお? ね? うませよ? そだてよ?」
「……」
目の前には、小さな両手を広げて、俺の上に跨る絶世の美少女。
しなやかなふとももの感触は、下腹部に。透き通るような黒髪は、さらさらと。
「りーしゃと、まだだれもしらない、きもちーこと……しよ?」
ああ、これは。
無理だ。
「するーーーーーーーー!!!」
俺は思考を止め、ただ本能の赴くままに、衝動の獣となった。
小さな体を、今度はこちらが強く押し倒――。
が、
バリン!
と、まるでこの部屋の窓が粉砕されたとしか思えないような音がして、
「死にたいのですか貴方は!!!」
キィン!
スっと飛んできたメスが、俺の上着を射止めながら、背後の壁に突き刺さった。
なにがなにやらわからぬままに、俺は壁へと磔にされたかのように縫い止められた。
そして、本当に窓から何食わぬ顔でシュタッとこの部屋に侵入したマリーが、まくし立てる。
「決定的瞬間を抑えました……! やはり、貴方のような脳幹から手足の先に至るまで、その全てが男性器で出来ているとしか思えない突出した異常者には、厳重な監視体制が必要だったようです。そうですね……そうした患者だけを集めた檻のついた病棟……現状では難しいですが、予てより計画していたあれを実行に移す時が……」
相変わらずの赤い制服姿に淡々とした口調の彼女だが、もう少し自分のやっていることの異常性を理解して欲しい。
「や、やあ、おはようマリー」
「ですからメアリーだと。いや、しかし、ここまでとなると……もしや、貴方、痴呆にまで罹患しているのですか? 早急な問診を。ですが、安心してください。貴方の病気は、全て、治すことの可能な疾患です。私にかかれば、そんなもの……」
「そんなことより、マリー、今日はどうしたんだ? しかも、なんだ……その、そんなとこから。まさかとは思うが、そんなに俺に会いたかったのかい?」
「そんなこととは何ですか……。まあ、結構ですけど。では、冗談はここまでにしておきましょうか。そして当然ですが、そのような事実は皆目ありません」
にこりともせずそんなことを言いのけた彼女に、動転してしまう。
「は……? マリーが、冗談?」
「心外ですね。私とて冗談の一つや二つくらい言いますが。会話で患者の気持ちをリラックスさせるのは医療の基本です。全く、私をなんだとお思いか」
「愛しのマリー」
「おじゃまむし」
「次にそのような精神的異常の兆候を著しく味あわせるようなことを言ったなら、貴方に二度と消えない心的外傷を植え付けますよ?」
彼女の手に握られたメス、及び、その他諸々の全身に括りつけられたなんだかよくわからない医療器具の数々が、キランと光った。
「なるほど、なるほど。またまた冗談がうまいなあマリーは」
「いえ、本気ですが」
真朱の瞳が何を言うでもなく、じっとこちらを見据えている……。
「……」
「冗談です」
すっとすました顔でそう言い切る彼女。そんな顔でそうのたまうアンビバレンスに、ゾクゾクと感じ入ってしまう、
愛嬌のなさが可愛さにつながっているなんて、なかなかどうして女性というものは神秘的だ。そうは思わないか?
「はー、よかった一安心だ。やっぱりマリーはお茶目……」
「シッ!」
至近距離に彼女の美しい霞の肌が迫る。強烈な頭突きをお見舞いされた。
「がっ!」
しかし、そうするとわかるが、本当に誤差の範囲内で彼女の頬がほんのり紅潮しているような感を受ける。こんなにいじらしい照れ隠しがあるだろうか。俺は痛みのなかにやんわり混じる彼女の愛を、深く噛み締める。
「すみません。貴方に賞賛されると、どうも胸のこの辺りに激しく虫唾が走り、こうした行動をレスポンデント的に取ってしまうようです。貴方という人は、全く、どうしようもなく癌細胞のような人ですね」
俺がにやにやしていたからだろうか、彼女にしては珍しく不快そうに眉をひそめながら、最後にほんのりと機械的に微笑んだ。
「よくわからんが、それも、冗談なんだろ?」
「さて、どうでしょう」
「ひょー、そのミステリアスさがまた」
と、再び彼女からの愛の鞭を頂く為におだてあげようとするも、待ったがかかる。
「エド、そのへんに、して。いいかげん、はなし、すすまない。わたし、はやくこのひとおいだして、つづき、したい」
俺とマリーの間にむんずと割って入ったリーシャに対し、マリーがぴしゃりと言い放つ。
「させませんが?」
「え?」
「聞こえなかったのですか、させませんよ?」
「する、よ?」
気弱そうな見た目通り、実際リーシャは本来そのようなタイプなのだろうが、自分の中で一度決めたことは頑として譲らないという、芯の強さも持っているらしい。だからこそ、彼女はエルラティスの為ついこの間まで戦っていたのだろう。
「ほう、貴方も、」
というわけで、彼女の身を預かることになった身としては、助け舟を出してやるべきだろう。決して、彼女と早くヤリたいとか、そういうわけではない。というか、だったら、マリーともしたい!
「マリー、子供の言うことだ。気にすんな。それよりさっきの質問に答えてねえぞ」
「それもそうですね。すみません。まず初めにこのようなところから参上した非礼を謝罪するべきでした。申し訳ありません。弁償はさせていただきますので」
彼女は、そう言うと、深々と頭を下げた。白銀のショートが、小気味よく流れる。
「俺とお前の仲だ、それは問題ないさ。ただ、もっと普通に登場して欲しかったぜ。驚きで死ぬかと思った」
「それについては言い訳があります。いくら私とて、理由もなく窓からお邪魔するような世間知らずではありません。ですが、普段通り正規のルートで貴方の部屋に向かおうとしたところ、アンジェリカに止められたのです。あの女、平素は治せ治せと五月蝿いくせに、こちらから来たら門前払いとは……。と、まあともかく、人命の懸かることですし、医療とは、スピードの世界でもありますので……。よって、早急な対応の為、強行策に」
「それで、仕方なくってことか?」
「はい、それ以外貴方の部屋への侵入経路はありませんでした。強いて言えば天井裏や壁から、という選択肢もありましたが、それをするなら別に窓からで構わないという結論に至った次第です」
大真面目に、奇想天外な事をさもそれが尋常であるかのように語るマリー。
「で、それはどの辺が冗談なんだ?」
「はあ? 私は今真剣な話をしているのですが? 冗談を挟む余地など、どこかにありましたか?」
うん、そうだな。お前はそういう奴だ。ああ、愛してる。
「じゃあ、そもそも、なんでこんな朝っぱらから?」
「それはですね、貴方のものと思われる血の匂いがしたもので、もしや、と思いまして。貴方のことですから、また私に黙って負傷でもしたのではないかと、こうして駆け付けたわけです」
いや、今さらっと言いやがったが、「私に黙って負傷でもしたのではないか」って何だよ? え、俺の負傷ってマリーに管理されてんの!? ……やっべえ、興奮してきた。
「エドのちの、におい?」
あ、もっとヤバい方を聞き逃していた。
「ええ、私は彼の担当医ですから。それくらいわかります。当然でしょう?」
無表情の中に少しだけ誇るような色があり、微笑ましい。言っていることは、もはや狂気且つ恐怖の粋だが。
「そんなこと、ないと、おもう、よ?」
俺もそう思う。だけど、だけど、な?
「マリーは俺を愛しているからな。匂いにも敏感なんだろう。少々狂気的ではあるが。とはいえ、それがそそるだろう?」
「じゃあ、わたしも、エドのちのにおい、おぼえる!」
なぜか嬉しそうに顔を輝かせながらそんなことをのたまうリーシャ。
「それは止めてくれ……」
「なん、で?」
向けられる純真な二つのおめめ。
くう、愛らしい。
そう言われると、いいよと言いたくなってしまう。
だが……。
いや、さすがにでもそれはマリーみたいなのが一人増えて二人になったら嫌だし、というかこんなにも無垢にかわいいピュアピュアリーシャに、こんなキビキビとした大人の真似をさせるのは、ちょっと……なあ? うん。リーシャに求めるアダルトはそういうんじゃないだろ。例えば、同じ血で考えるにしても俺の匂いを覚えるとかじゃなくて、つうっと俺の首筋に爪を立て、流れ出した一筋の雫を媚笑ともに舌で掬い取るとかさ、そういうアダルトだろ。リーシャに欲しいのは、そういう、妖しさ! 異常さではない!
などというような戯言をリーシャにぶつけるわけにもいかず、頭を捻っていると。
「失礼します」
すっと、間を突くかのように、マリーの右手が俺の腹部へと添えられた。
走るのは、激痛。
が、悟られてはならない。
「……!」
きっと、俺はまゆ一つ動かさなかっただろう。
けれど、プロである彼女に対して、そんな小手先の小細工は、無駄だったらしい。
「なるほど、貴方、やはり……」
それでも、俺は、認めるわけにはいかなかった。とある女との、約束を破った。ならばせめて、気付かせないことが、誠意であると思うから。きっと、だからアンナは、マリーを止めようとしてくれたのだろう。ほんと、いい女だよ。
「してねえよ」
「私はまだ何も言っていませんが?」
ただでさえ、温度のない彼女が、いつにもまして冷ややかに。
対する俺は熱くなってしまう。マリーには、どうせバレると分かっていても。それだけ、約束を破った引け目があったのかもしれない。自分でもこの気持ちは、よくわからなかった。
「とぼけんなよ。怪我してるって言いたいんだろ? してねえ。ほら見ろ、傷なんて無い、触ってみてもわかっただろ」
「はい。確かに貴方の腹部の感触は、普段となんら変わらない正常なものでした。外観してみてもそうだ。平素となんら遜色がない」
そう言うと、彼女は、一旦目を伏せて、信じられないことだが、逡巡……した。あの、自分の信じる道をひた進んで、周囲から異常と誹られようと、止まることのなかった、彼女が。
しかし、彼女は目を見開いた、それ以前よりも、強く。やはり、彼女は止まらない。止まってはくれないのだ。患者の意思に、依ることなく。
「ですが……、あまり私を甘く見ないでもらいたい。貴方は私の患者であり、私は貴方の担当医なのです。貴方が何か私に隠し立てをしようとしていることくらい、手に取るようにわかる。私は医者だ。患者の容態について、私は患者自身よりもよく知っている」
ああ、きっとそうなのだろう。だから、彼女は、肉体の状態だけではない、俺の気持ちさえを、痛いほどに感じている。その上で、その葛藤を知った上で、理性による判断を下してくれるんだ。ただ、俺達の為だけに。
「ですから、貴方が現在、ただ単に傷跡を自身の先天性パーソナリティ障害によって併発させた超人症候群――俗に言うところの『カルマ』で覆い尽くしているだけ、という事実は、私にはお見通しですよ。エド?」
ああ、そうだよ。そのハリボテは神秘と憂鬱と虚なる実像だ。
「ただの言いがかりだ。証拠がない」
「はあ……。貴方も折れませんね。では、言いましょうか? まず第一に、貴方の血の香が街外れからこの近辺に至るまで、漂っていたこと。第二に、たった今、私が貴方の傷口を触診した際、貴方はまるでなんともないかのように振舞っていましたが、体は正直ですね。大頬骨筋の辺りが、ピクリと痙攣していましたよ。相当な痛みだったでしょうに、それ以外の部位はまるで動じさせなかった貴方の胆力は大したものですが、それでも、完全には御しきれていません。観念しなさい」
「ああ、そうか。確かにそうかもしれないなあ。だが、マリー、それは全てお前の主観に過ぎない。それだけで俺が大怪我を負っているというのには無理があるんじゃないか? 大体、俺はどうしてカルマを使ってまで怪我を隠す必要がある? おかしいじゃないか。むしろ俺は自分から怪我を負ってでもお前の看護を受けたいとさえ思っているのに」
「それに関しては、貴方がそのような人間であるから、としかお答え出来ません。逆に聞きますが、貴方に対して合理的な帰結を持ち出すこと、それ自体、ナンセンスなのではありませんか?」
ああ、そこまでわかっているのか。そうだな、お前は本当に俺をよく理解してくれているよ。でも、だからこそ、それが、こんなに厭わしいだんて思いたくはなかった。
「話にならねえな。ここに怪我人はいない。わかったら医者は帰れ」
「そうですか。ならばこちらにも考えがあります。貴方が怪我人ではないというのなら、貴方を病人であるという理由から、再度診察させていただきますが、構いませんね?」
「だから俺は病人じゃないって、いつも言ってるだろ」
どうかわしても、諦めようとしない彼女に、行き場のない苛立ちが募る。
だが、それは、そんな劣情は、その次に放たれた言葉に、全て、打ち消された。
「では、ここ最近自失状態に陥ったことについては、どう説明してくれるのです?」
な……!?
「……おい、それをどこで知った?」
あまりのことに、マリーの首根っこを掴み、食ってかかる。
が、彼女はこともなげに。
「なるほど、やはりそうでしたか」
俺に首を絞められているにもかかわらず、そう、刹那的に。
「……騙したのか?」
「いえ、私が個人的に立てていた仮説が正しかったかどうか、貴方にお尋ねしただです。どうやら、私の推測は誤りではなかったようですが」
「つまり、騙したって事だな」
「そのように物事を卑屈に捉えるのは、心身にとっていい傾向とは言えませんよ?」
「ああ、そうかよ」
拗ねた様にヤケクソな声を上げる俺を、彼女は、ただ冷ややかに見つめていた。
しかし。
「ですが、そうですね。ただ事実を突きつけるだけが、医療ではありませんか。私も少し、場をわきまえなかったようです。幸い、もう当面の危機は脱したと見える。想定していた最悪よりも、幾分もましでした。よって、今回は経過観察として見逃しましょう」
彼女から、折れてくれた。そんなことは、今まで一度足りとて、なかったのに。
「……いいのか?」
すると彼女は背を向け、無残な姿になってしまった窓を眺めながら、言う。
「勘違いしないでください。これは、割ってしまった窓枠分の譲歩です。次はありませんので」
「ありがとう」
「では、最後にもう一度だけ、……いいですね?」
そしてそう言って、俺の腹部へと、再度、手を当てた。
もう俺に、断る理由はなかった、
「わかったよ」
霞色の長い指が、優しく患部をなぞる。それは、無表情な彼女が見せる、これ以上ない程の、感情表現だった。
「……ru。……これでいいでしょう」
やがて、何事かを呟き、手を離すマリー。
だが、やってきたのは、猛烈な違和感。
「……は? おい、何をした?」
痛みが、いや、傷が、ほとんどすっかり、消え去っていた。
つまり、それは、彼女が医者としてではなく、聖人として振舞ったと、そういう、こと。
それでも、彼女は、まるで、何事も、なかったかのように。
「なにを、とは? はて、まさか腹部の痛みが取れた、などと言うつもりですか? おかしなことを言いますね。元より怪我などしていなかったのでしょう?」
なんと粋で、なんと素敵な聖女だろうか。
俺は、これほどまでに奉仕の精神を湛えた女を、未だかつて、知りはしない。また、きっと、今後も。
「そうだな。だが、これだけは言わせくれ、愛してる」
「……今回だけですからね」
彼女はそう言って、今日一番の笑顔を見せた。
が、現実は非常である。聖書のように、奇跡の力で即ハッピーエンド、とはいかないらしい。
ふと、マリーが、俺のベッドの下に隠しておいたソレを、摘まみ上げる。
「と、これはなんです?」
「あ……」
数日前の記憶が、猛烈にデジャブした。
「これは、粉……? 白い……。白い粉。ほう……」
「いや、まてマリー、それは」
「焼却します」
完全に目が据わってしまったマリーに見切りをつけて、俺はリーシャに頼る。
「やべえ、リーシャ、あれだ、水を頼む」
「よくわかんない、けど……、わかった」
「望まれること無き紅十字!」
「第一の水・天律!」
炎と水、二人の超常が、激突する。振動に轟音。炎上、爆破。
その、地獄に、
「おい、バカエドー、朝飯の時間だぞー」
白髪の悪魔が……卵を抱えて、やって、きた……。
瞬間、ざっと、部屋の空気が凍てつく。
「……おい、てめえら、人様の家でなにしてる?」
「治療行為です」
「ほう、し?」
「しゅ、修羅場……」
「死ね! 屍山血河ァ!」
その言葉と共に、この部屋などは一瞬で凍り付き。
我がボロ長屋は、誠に遺憾ながら大変残念なことに、粉微塵に倒壊した。
純白の悪魔と白銀の天使から、命からがら逃げ回ること幾星霜。
俺はようやく、リーシャとともに落ち着ける場所まで逃げ着いた。
へなへなとその場に座り込む俺を、リーシャが心配そうに覗き込む。
「エド、けが、してた?」
「いや……」
もう事実上、彼女にはさっきのやり取りでバレているだろうし、どう答えるべきか迷ってしまう。
そんな俺に、彼女は驚くべきことを告げる。
「それ、しきょうさまに、やられたんだよ、ね?」
「どうしてそれを?!」
声を荒げてしまった俺に対し、彼女は少し、申し訳なさそうに、ぽつぽつと語りだした。
「こないだのよる、しきょうさまから、おつげ、あった。『済まないが、たった今、私は別の使命を主より拝命した。故に、私がお前に託していた役目も、もはや必要ない。そして、異教に伏した外神に価値などあらず、だ。したがって、もう、お前の居場所は、エルラティスにないだろう。しかし、祈る場所が問題なのではない。どんな僻地であれ、ただ祈ることこそが救いなのだ。故にお前を、十三陵より排名する。お前はもう、主に恥じぬ程に、立派に育った。後は、自由に生きるといい。主を愛せ、主の与える運命を愛せ。お前に言えるのは、ただ、それだけだ。お前の歩む道の先に、常に神の御加護のあらんことを。エイメン。』、って」
それはつまり、奴が凍結させられる直前に、リーシャへと送ったメッセージということだろう。
「なるほどね。あいつはやっぱり、お前を愛そうと、してたんだな」
「うん。でも、しきょうさまがあいせるのは、神様だけだった」
「ああ、でもきっとあいつは……」
「うん。みんなは、くるってるって、いったけど、こんな、わたしに、やさしく、してくれた。そんなくるったことをしてくれたのは、しきょうさまだけ、だった。だから、ね。おもう。しきょうさまは、わたしがあいしたひとどうしでころしあって、それで、しきょうさまのあいす神こそ、いちばんって、おしえてくれようとしたの。でも、」
それはきっと、言葉を発することが苦手な彼女が、言葉にしたいと思うまでに、大事だったこと。それがたとえ、自身にとっては、昨日の仇敵についてのものであったとて、俺はそれを、愛したい。愛さなければ、と、思う。
だから俺は、立ち上がり、彼女を強く、強く、抱きしめた、
「いいよ、わかってる。愛してるよ、リーシャ」
「うん……。ううっ、しきょう、さま……」
リーシャの中にあった純粋な気持ち、倒錯した愛情、その全てが、美しい雫となって俺の胸に溶け込んでいく。
ああ、今なら、彼女の気持ちが一雫分だけ、わかる。
リーシャ、君はきっと……。
「……ごめんな」
「ううん、いい。ざんこく、なのは、あいのしょうこ、だから……っ」
そうして、切なく、ただただ切なく、どこかの司教の異なる教説は、小さな少女へと、しかと、受け継がれていた。
それからしばらくして、ふとこんなことを思う。
「にしても、お前、よくあんな魔窟みてーなとこから逃げ出せたな」
「魔神、だもん」
そんな物騒なことを、気持ち得意げな風で答える彼女は、本当にかわいい。だからこそ、その事実を忘れて、俺はそんなのんきなことをのたまったのだろう。女を見た目で判断してはいけないという教訓を、何度この身で味わったかもわからんというに、なんともまあ間抜けな話だ。だが、思わないではないのだ。女ではなく、少女なら、見た目で判断しても良いのではあるまいか、と。いや、というか、こんなに無垢でかわいくてHそうなリーシャが悪い子なわけない! という、童貞めいた妄想への偏執ってな感じか?
「はっ、たしかに。そりゃそうか」
「えへへ」
ほらみろ、魔神であることを肯定されて、この満面の笑顔だ。こんなにかわいい女が、他にこの星にいるか? いや、いないね。
あ、でも、もしいるんだったら連れてきてくれ、彼女にする。
「ああ、本当にリーシャはかわいいなあ」
「……ほん、と?」
「もちろん」
「でも、ね、エドも、かっこいい、よ?」
「そうかね」
まあ、リーシャに見合う男であること、それだけは、自身をもって保証しよう。
「うん。きょうもね、ゆめでみた。わたしに、はじめて、かわいいって、あいしてるって、いってくれた、ひと。……あなた」
「照れるな」
「しきょうさまはね、わたしをあいしてくれるのは、かみだけだって、いってた。だから、エド、あなたはね、わたしの、かみさま、なんだ、よ?」
「おいおい、やめてくれよ。俺のどこが神だって言うんだ?」
「わたしが、そうおもったら、もう、それは、そうなんだよ。だって、こんなわたしだって、ラクシュミー。魔の神なんだから」
「じゃあ俺は女たらしの神で」
「だめ。あなたは、わたしだけの神」
「そうか。じゃあ、こういうのはどうだ? 俺がお前の父親になるってのは。神のことを父って呼んだりするんだろう、お前たちは」
「……! いい。それ、すごくいい!」
目をキラキラと輝かせ、ぶんぶんと頭を縦に振るリーシャ。かわいい。
「意外と乗り気だな……」
冗談のつもりだったんだが。
「おとう、さん……。おとう、さん……? これで、いい? わたし、こんなこといったことないから、わからない。でも、なんだか、すごく、すごく……!」
「俺も父親の記憶はないからなよくわからんが、まあいいんじゃないか?」
というか、お前。かわいすぎるだろう。
なんだろう、これ。この年にして、初めての感覚だ。
「よかった……。じゃ、おとう、さん。だい、すき!」
………………。
「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
なんだこれわなんだこれはなんだこれはなんんだこれわ!
あまりのことに虚にいたり、永劫を感じ、その後には全てがあった。
満ちている、なにか、一切合切森羅万象天地万物その尽く全てが、ある!
ああ、これが、真愛、なの……か!?
「え、え? え? な、に?」
戸惑う――きょとんとしたその顔もかわいい――リーシャの肩を掴み告げる。
「リーシャ、お前は俺が今まで愛してきたどの女よりもかわいい。結婚しよう」
「え、やった。うれしい。うん。わたし、おとうさん、けっこん、する!」
うおーーーーーーーー相思相愛いいいいいいいいーーーーーーーーーーー!!!!
「よし! じゃあ、早速一番街に、」
思いたったら即行動というわけで、手続きをするため、そう、声を上げたその時だった。
「おい」
背後からそんなドスのきいた声と、肩に、がしっという引力が。
「あ、なんだ、俺の恋路を邪魔しようとはいい度胸じゃ……」
当然お楽しみのところに水を刺されたんだ、キレそうにもなる。
顔をしかめながら振り返ると、そこには。
「ねえ……、なに、その子? 隠し子?」
ネコミミと爪をたて、髪を逆立て、きしゃーとうなる、……ミューズがいた。
「みゅ、ミューズ……。違うぜこれは……養子だ」
とっさの嘘だが、まあ事実上そう大差ないだろう。
「養子ですってぇ?! てんめえクソエドぉ! あんた、約束したってのにいつも通りきやがらねえからまたすっぽかしかと思って迎えに来てやったらなんだこのままごとはァ?! そんなに幼女が好きか? 年増はもうヤリ捨てってかァ? おい! あんた、ほんとどういうつもりなわけ! 大体、子供が欲しいなら私と作ればいいでしょうが!」
ああ、なんというか、本当に済まなかった。信じてもらえないかもしれないが、お前のことを好きなのは、本当なんだぜ? ただ、世界がそれの邪魔をするというか、リーシャがかわいすぎるというか、大部分はマリーの暴走のせい、というか。
「あ、ああ、ミューズ。……今日も綺麗だな」
「てめえはそれだけ言ってれば私の機嫌が取れるとでも思ってんのかァ! 死ねぇ!」
「でも実際嬉しいんだろ?」
「ま、まあ嬉しいけど……って、違うだろうが!」
わかりやすく頬を赤らめるミューズ。マリーにあったばかりだからか、それが余計に愛しく思える。
「それに、いつもより髪型も決まってるし、服装も最高にキュートだ。今日のために整えてくれたんだな。ありがとう」
「う、うん、よく気付いたわね」
「それなのに、そんな怒ってばかりいたらせっかくの美貌が台無しだ。髪も崩れちまう。それはもったいないだろう?」
「……ああああああ! うるさいうるさい! なんかあたしがバカみたいじゃない」
彼女は結局、頬をわざとらしくふくらませながらも、許してくれた。ただ、かわいいのは認めるが、もういい年なんだからそういうのは控えたほうがいいぞ……とは、口が裂けても言えなかった。でも、そんなところが彼女の魅力と言えなくもない。絶妙なところだ。本当に、女性という生き物には謎と神秘が詰まっている。だからこそ、男達はその中に入っていきたくなってしまうのだろう。未知が詰まったその秘境へと。
「許してくれるのか?」
「今日のところはね」
「ありがとう。愛してる」
「死ね、ヤリチン!」
「ぐはっ!」
マリーに傷を直してもらえて本当に良かったと、この時ばかりは思ってしまった。
「ていうか、その子、養子ってどういうわけ、この間ひどい目にあったんだけど」
「かわいかったから拾った」
「おい」
「えへへ」
かわいいと言われ、素直に喜ぶリーシャ。
だらしなく開いた口元が恐ろしくチャーミング。
そしてそれは、性別の隔てなしに共通であるようで。
「まあ、確かに、かわいいわね……」
ミューズさえもそのかわいさに陥落しようとしていた。
「だろ?」
故にそう尋ねると、自分が気付かず見蕩れていたということにハッとしたらしく、少し恥じらうように頷いた。
「ええ。まあ、そんな詮索はしないけど、なんかあったら言いなさいよ」
彼女はこんなんだが、実際にはとても真面目な人間なので、こんな形で困ったことがあると、結構マジな心配をしてくれる。つまり、普段は俺を追い掛け回してばかりいるが、本当は、とても真面目でまともないい奴なのだ。(いやーそう考えるとほんとなんで、俺とミューズが今こんな関係になってるのかわからんな……)。
だが、俺は彼女のアホなところが好きなので、そんなことは言って欲しくない!(我ながら最低だな……。そしてそんな俺に騙されているミューズが本当に愛しいよ。大好きだ)
というわけで、軽いジョークで場を賑わそうと思う。
「じゃあ、養育費の工面を……」
「あんたほんとに最低だな! 私ってば、なんでこんなのに惚れたんだろ……」
なんだか俺と似たような感想を抱いて思わず笑ってしまいそうになったが、凄まじい殺気のようなものを感じ、なんとか堪えた。
「冗談だよ」
「あんたが言うと冗談に聞こえないのよ!」
「おとうさん、おかね、ない?」
「いや、気にするな。大した問題じゃない」
「そう?」
「ああ」
「あんたがお父さんって呼ばせてると、そういうプレイにしか見えないわね……」
「おお、いいな。今度やってみるか?」
「ちょっと、子供の前でそういうこと言わないでよね!」
滅茶苦茶赤面するミューズ。いや、だからそんな恥ずかしがるような年でもないだろ……お前……。
「お前から言い出したんだろうが」
「たしかに……。ごめんね?」
「そうだ、あなた、名前……、リーシャだっけ?」
「はい」
「こいつがお父さんなのよね。だったらこいつと付き合ってる私は必然的にお母さんってことになるわ。だからさ、ちょっとよんでみてくれない? 私のこと、お母さんって」
は?
「おい、お前……」
前言を撤回する。こいつはまともなどではなかった。
しかし、無垢な善存在であるところのリーシャは、彼女のイカれた申し出にも、答えてしまう。なんとあやういかわいさだろうか。
「おかあ、さん?」
ああ、冒涜的なまでに美しい旋律。
そう感じたのは、俺だけではなかったようで。
ミューズも、年甲斐になく、黄色い声を上げて騒ぐ。
「きゃーー、かわいいー! なにこれ、やばい! リーシャちゃんは今日から私の子供よ!」
しかも、あろうことか、俺のリーシャを抱きしめやがった……!
「え、ええ?」
とはいえ、困惑しているリーシャがあまりにもかわいすぎたので、不問とする。
それと、
「あのなあ、婚期を逃してるからって必死過ぎるだろ……」
その必死さに、少しだけ、同情してしまった。ミューズ……、なんか、ごめんな……。
「そういうんじゃない! 単純に、リーシャちゃんが、かわいいの! わかる? あんたは、関係ない! 純粋な、リーシャちゃんの、かわいさ!」
リーシャがかわいいというのには、全面的に同意する。守りたいとは、まさにこのこと。
「お前が若い娘に嫉妬しないなんて珍しいな」
やっべ、言っちまった。
「おい、次その舐めた口を聞いたらその喉噛みちぎるぞ?」
刹那に空気が一変する。ミューズのしっぽが、獲物を狙う蛇が如くにうねり出す。
「やめろよ、リーシャが怯えてるだろうが」
「おとうさん、おかあ、さん。けんか、だめ」
右手を俺に、左手をミューズにあてて、仲直りを促すリーシャ。こんな時に月並みな言葉しか出てこない自分が憎いのだが、なあ、天使か?
「うー、ごめんね、リーシャちゃん、でもね、お父さんが本当にゴミクズなの」
残念ながら、なにも反論できない。
しかし、リーシャはまるでもはや光のイデアであるかのような神々しい笑顔で。
「そんなこと、ない。おとうさん、かっこいい。だいすき!」
嬉しいよ、そんなこと言ってくれるのはお前だけだ。
よし!
「リーシャ、結婚しよう」
そして、
「私としろ! バカエドぉ!」
なんともまあ独特なツッコミが、すぱーんとこの体を吹っ飛ばすのだった。
「みたいなことがあったわけよ」
あの後、ミューズ、リーシャと共に昼食をとろうと酒場に入ったのだが、そこには、偶然、例のヘルディンクロイツの四人組が陣取っており、するとなぜか、そんな彼女達に向け、俺がいかにゲスな人間であるかということを嬉々としてミューズが語り始めた、というのが今の状況である。
「なるほど、相変わらず君達はロックなみたいだね」
その涼しげな顔立ちを崩さずに応えるのは、中性的顔立ちが男女ともに受けの良さそうな、茶髪でギターのマーリン。
「いや、どこがだ?」
そう突っ込むのは、黒く仰々しい衣装に全身をすっぽりと覆い尽くした、人形的な美しさを誇るボーカル、みく。
「つまりエドっちはー何人斬りなんすかー?」
そんな下世話な質問でも恥じることなくしてしまう残念な子は、紫苑のツインテや少し変わったメイクが行き交う人々の目線を釘付けにすること間違いなしのドラム、ヘヴィ。
「最低」
うつむきながらそう吐き捨てるのは、どこか刺刺として攻撃的印象を受ける、赤髪ロングのベース、ハーデス。
四人の反応は、喜怒哀楽が如く綺麗に分かれていて、面白い。
「どうやら、俺の評判が地に落ちたみたいだな」
「これ以上悪い虫がつかないように、あんたの悪評を広めてんの。当然でしょ」
悪い虫という言い方はどうなのだろうか……。一応彼女の名誉のために弁護をすると、ミューズは今、それなりに酔っている。
「うちは別に嫌いじゃないっすけどねー。そうゆーヒトー。まあ好きでもないっすけどー。あははっ」
「我は……ノーコメントだ」
「僕は君のこと、結構好きだけれど……、パートナーとしては、なしかな」
やんわりと三人全員に断られてしまった。
安心してくれ、ミューズ。何がとは言わんが、大丈夫そうだぞ。まあ、今後どうなるかは、俺の腕の見せどころなのかも知らないが。
「はっでーはで!」
と、一人だけコメントを寄越さなかったハーデスにむけ、ヘヴィがちょっかいをかける。
「……何?」
彼女は不機嫌そうに、気怠そうに、そう一単語だけ。
「はではではどう思いますー?」
「しらない」
「またまたー。照れちゃってかわいいっすねー」
小突くヘヴィ。それを払い除けるハーデス。
「うっさい!」
なんだか微笑ましかったので、声をかけてしまった・
「たしかにアンタ、意外とかわいいよな」
「……しね! 話しかけんな! キモい!」
彼女は親指を下に向けながら、世間でよく言われる反抗期の子供かのように、そう、吠えた。
すると、申し訳無さそうな顔で、みくが頭を下げる。
「すまんな。奴はこういう性分なのだ。分かってやってくれ」
まるで女王か貴族のような振る舞いをしているのも関わらず、どこか庶民的なものを感じさせるみく。なぜって? きちんと誠意をもって謝ってくれてんのもそうだし、それとなんか、さっきから注文してるもんが全部おっさんくさいんだよなあ……。漬物ばっか食ってるし。その優雅そうな見た目が台無しである。いや、逆に好感が湧いた。
そしてそれは、みくだけでなく、ハーデスにも。
「いや、いいぜ。むしろ、こういう方がタイプだ」
「もしかして、君、マゾってヤツかい?」
「それを知るためにも、どうだい、今夜?」
そのように自然な流れでマーリンを誘い出そうとした俺だったが、断られるまでもなく、ミューズに阻止されてしまった。
「ねえ、なーに私の前で別の女口説こうとしてるのかなー? エドぉ?」
「いてててて、女性と呑んでてそうしない方が失礼だろ? これは礼儀作法だ!」
「そう、なの?」
俺のいい加減な与太に、揺れるリーシャ。
「そうっすよー。だからぁ、リーシャちゃんもぉ、うちをバシバシ口説いちゃって欲しいっすー!」
「あー私もー。おかあさんもーリーシャちゃんに口説かれたいなー」
悪乗りする、大人達。
「おい、卿等! 稚児に奇っ怪な嘘を教えるでない!」
そして、注意するみく。完全に、彼女の方がお母さんだった。
しかし、そんな彼女も、攻められるのには弱いらしい。
「もー、みく様ったらー、嫉妬っすかー? かわいいなー、もうー」
「や、やめんか! ひゃ! く、くっつくな!」
「相変わらず仲がいいね、二人は」
「なに、これ?」
「実に麗しい。無粋だが、俺も混ざりたいくらいだ」
「混ざんな、アホ!」
「キモっ」
「そんなこと、言いつつもー、気になってるんじゃないっすかー?」
「はあ?」
「はではでってばー、ツンデレっすからー」
「なにそれ、意味わかんない。べつにあたしは、こんなおっさんのことなんて」
「うちは別にエドっちのことだ、なんて言ってないっすけどねえ?」
ニヤリと笑う、ヘヴィ。
ハーデスの眼が光ったのは、同時だった。
「ころす」
「おー、やるきっすかー、いいっす……んぎゃ!」
そうして、ヘラヘラと笑うヘヴィに、ハーデスが無言で頭突きを決め、喧嘩は始まった。
殴り合いを始めた二人に、客たちは店内の中央部を譲り、先程まで切った張ったの大喧嘩とその勝敗を占う大博打で、大変盛り上がっていた酒場。
しかして、その勝者は一応、ハーデスということになり、一旦の落ち着きをみせた。とはいえ、まだ昼間だというにこの店は中々に騒がしい。
「二人共血塗れだけど、大丈夫なわけ……?」
喧嘩を終えて、再び席に着いた二人をみて、この場ではおそらく唯一の常識人であるところのミューズが、そんな心配をする。
だというに、二人は何事もなかったかのように。
「問題ない。あたしはつよい。パンクだから」
「うちもー、メタルなんでー」
「そ、そう?」
不安そうなミューズがあまりにも不憫だったので、俺はハンカチを差し出した。
「これで、拭いてくれ」
「……べつに、そんなのいらないし」
目を不自然に逸らしながら、そう言うハーデス。
「じゃーうちがもらうっすねー。サンキューっすー、エドっち!」
「おう。気にすんな」
「はではでもー、そんな意地張ってないで、ほらー。キレイにしてあげまちゅねー」
「ばかにすんな!」
そう唸りながらも、なんだかんだ拭かれるがままになっているハーデスに、少々の愛らしさを感じなくもなかったが……。
「卿等は本当にどうしようもないな……」
もう疲れた、というようなげんなりした顔で、みくが呟く。案外こいつも、ミューズと似たタイプなのだろうか。
「うん、ロックだ」
爽やかな笑顔で、おかしなことを言うマーリンに、みくはもう一回り、げっそりとして。
「はあ……みゃー堪忍やにー」
と、言った……!?
そんな謎の言語を発した彼女に対し、ヘヴィはすかさず。
「みく様、もれてる、もれてるっす!」
すると彼女はあわわわと、
「な……!? 卿、聞いたか?」
「え、今のなんかかわいいヤツのこと?」
「きこえ、た」
「ああ、それがみくの本当の姿なのか?」
三人の肯定を聞いて、絶望をその人形のような美貌に浮かべた彼女だったか、しばらく後、顔を上げるとこう一気にまくし立てた。
「ち、違う! いいか、忘れろ! 今のは、我が邪悪なる霊力に導かれし光の精による小癪なプロパガンダ的謀略だ! つまり、闇の帝国レンゲルギーゼ栄誉御聖官たるこの私に仇を為そうとする不心得者による、悪辣無比な精神攻撃である! 断じて、先の不抜けた嬌声は、私の発言ではない。わかったな?」
「え、ええ」
「うん、わかった、よ?」
「あ、ああ」
勢いに押され、頷く俺達。
それを満足げに眺め、彼女は口を開く。
だが、その際、ほっとしたかのように胸をなで下ろしていたのは、気のせいだろうか。
「わかればよいのだ。褒めて使わす」
「でもまあなんとなく、あんたがアイの仲間だってのが、今、本当の意味で理解できた気がするよ」
「卿、それはどう言う意味だ!」
バンと机を叩く彼女に、甘く告げる。
「あんたがかわいいってことだよ」
「え……あ、そ、そうか。ありがとう。ま、まあ、当然だがな。我への賞賛は卿等臣徒の義務であるし」
「みく様ってばちょろかわいーっすーー」
「やめろー!」
ヘヴィにあちらこちらを揉みしだかれ、可愛らしい声を上げるみくを眼福だなあと眺めていると、横槍に刺された。
「だ・か・らぁ、私の前で他の女に色目を使うな! アホエドぉ!」
「じゃあ今度からはお前のいないところでやるとしよう」
「そういう問題じゃないでしょうが!」
襟を掴まれガクガクと揺すられる。
そんな俺を見て、マーリンは微笑む。
「まったく、君達は本当に面白いね」
しばらく後で、突然、リーシャが口を開いた、
「あの、みなさんに、いいたいこと、ある」
「なんだい?」
「なんっすかー、リーシャちゃん?」
「ほう、言ってみよ」
「……」
「このまえはごめん、なさい」
ぺこりと頭を下げるリーシャ。
そんな彼女を見て、四人は口々に声を上げる。
「なんだ、そんなことか。別に構わないぞ。なあ?」
「うん」
「っすー」
「……」
しかし、ハーデスだけは、相変わらず横を向いて黙っていた。
そんな彼女に対し、リーシャは再度、頭を下げる。
「あかのひとは、まだ、おこってる、よね? ごめん、ね」
「ハーデス」
ぶっきらぼうな声が、端に発される。
「え?」
「ハーデス、あたしの名前」
「えと、ハーデス、さん。ごめん、ね?」
「べつに」
「いい、の?」
「本来だったら、あんたなんて許してない。でも、まあ気が変わった」
どこか気まずそうに語るハーデス。
「どういう、?」
その不和を問うリーシャに対し、彼女は再びそっぽをむいた。
「しらない」
自分から歩み寄らない彼女に対し、とうとうマーリンが口火を切る。
「はは、本当にハーデスは素直じゃないね」
「……」
「リーシャ、我等とて、卿の過ち、そのすべてをわけもなく赦したわけではない」
「おい、みく!」
こうはなるんじゃないかとは思っていたが、やはりあまり語られたくない話なので、口出しをしてしまう。
だが、そんなもので止まるような彼女たちではない。
「実はっすねー」
「あの後、彼が君の代わりに謝りに来たんだよ」
「え……?」
「まあ、はではでまでいいって言うとは思わなかったっすけど」
「そりゃ土下座までされたら。いくらあたしだって許すでしょ」
「どげ、ざ……?」
不安そうな目で、こちらを見るリーシャ。こんな時俺はなんと言うべきなのだろう。その答えは、持ち合わせていなかった。
そんな情けない俺の目を、ハーデスは、初めて、しかと見つめ、
「あの時だけは、たしかにあんた、パンクだった。ださかったけど」
そんな嬉しいことを言ってくれた。きっと、彼女なりの、最高級の賛辞を。
だが悪いな、生憎、俺も君と同じで、素直じゃない。
「お、なるほど。これがデレってやつか」
「んなわけねーだろ! しね!」
今度は勢いよく中指を立てるハーデス。
「うおお、この緩急! こいつはクセになるなあ!」
「おー、さすがはえどっちー、わかる人っすねー」
「最高の気分だ!」
「えどっちとはいいメタルが奏でられそうっす!」
「ああ、是非とも」
固く握手した俺達を蔑むように、ハーデスは吐き捨てる。
「ほんっとキモい」
「あっはは、みんなの仲が深まったようでなによりだね」
「どこがよ!」
「やはり、卿、馬鹿だな?」
「ありがとう! なにせ僕はロックローラーだからさ!」
「救いようのないバカ」
「まったくだ」
「うちも大概だけど、あんたたちもなかなかにアレね……」
「でも、そんなまりりんがすきっす!」
「ふふ、僕もだよ。ヘヴィ」
颯爽とウィンクそするマーリン。
「きゅん」
対するヘヴィはなぜか、メスの顔をしていた。察するに、レズビアンなのだろうか。
なんて考えていると、ミューズが嬉しそうにこう言った。
「あんたもたまにはいいことするのね」
「まあ、愛する女のためならどんなことだってやってのけるのがこの俺だからな」
「はいはい」
さっきまでの面はどこへやら、また言ってやがる、といったジト目で俺を睨む。
それでもリーシャだけは俺の見方だった。
「ありがと、おとうさん」
「気にすんな」
今度からアンナに言って、もう少し仕事を増やしてもらおうなどと思う、俺であった。
いつもの如く酔いつぶれたミューズを、ヘルディンクロイツの面々に預け、家に帰ってリーシャの延々続くかに思われた求愛を断腸の思いでかわし、寝かしつけた頃には、もう一日が終わろうとしていた。
けれど、まだ会いたい奴がいる。
彼女は、七番外ブロードウェイにある十階建てビル、その屋上の縁に佇んでいた。
もう夜更けだいうに、街の明かりたちが、俺の目を闇へと完全には慣らしてくれない。彼女の心臓の音が聞きたい程に恋しいのに、それを許すほど、眼下に蠢く人々は優等生なんかじゃない。大好きなこの街に、少しだけ嫌気が差す。
けれど。
「こんなところにいたのか」
夜風に、たなびく、金色のツインテール。
彼女のその生命の輝きは、この街の何者よりも眩しくて。
「ああ、エドさん」
その小さな体から発せられるその声は、この街の何者よりも騒々しいのだ。
「中々見つからなくて苦労したぞ。今日一日、なにしてたんだ?」
「この場所から、この街を眺めていました、アルマという、騒がしいこの街の日常を」
「そうか」
「エドさんがこの街を愛する理由がわかったような、そんな気がします。この街には、愛が溢れていますから」
「そうかもな。この街だけが、こんな俺を愛してくれた。少々、イカレちゃいるが」
「ですが、時代を変えてきたのは、いつだってそういう、周囲とずれた、周りから見れば狂ってるとも言われかねない、愛に溢れた方々でした。そういう、勇気ある挑戦者たちだけが、世界を変えてきた」
「また、お得意の新興宗教かい?」
「今はそう思われていても構いません。いつか、この意味が分かる時が、きっとくるから」
アイは意味深にそう言い、こちらへと歩み寄ってくる。
「エドさん、あなたはなぜ、愛されたいと思いますか?」
「どうした、急に」
「答えてください」
「……まあ、女が、美しい未知が好きだから。だが……、俺が俺でいられるために。きっと結局は、そういうことなのかもな。言い逃れは出来無い。自己愛だ。幻滅したか?」
「いえ、私は、そんなエドさんが大好きですから。――愛しています」
「……」
ちくりと、胸が傷んだ。そう言ってくれる彼女の約束を、破ったのはほかならぬ自分の意思によってであったから。たとえ、それが、彼女のためであったとしても。
アイは、そうした俺の胸中を読んだのだろうか。沈黙する俺を尻目に、彼女持ち前の明るさでもって、それを打ち壊すかのように、わーっと語りした。
「あれ、俺もだよって言ってくれないんですか……。そんな! なんか一人だけ勝手に盛り上がってる恥ずかしい女みたいじゃないですか! ちょっと、勘弁してくださいよ! なんとか言ってくれません! 私の体面が、大変!」
そんな彼女と共にいて、楽しくないはずがない。
「……照れてたんだよ。言わせんな」
「あーなんだ、なんだー、そういうことかー、そりゃあそうですよね! この世界一というか銀河一可愛い歴史的美少女であるところのアイたそから好きと言われて平常心を保てる方がおかしな話でした。いやー、私としたことが己のかわいい力を失念していたとはなー。まったくとんだ失態ですね。すみませんでした。というわけで、ゆるしてぴょん?」
つらつらとわけのわからない言葉を掻き並べ、奇妙なポーズを取る、アイ。
「お前は少し、というかかなり、あざとすぎる」
ただ、その姿が何にもまして、愛らしい。
「へー、なるほどー。――じゃあ、こういうのは、どうです?」
不意に、キスをされた。そしてそれはそのまま引かれ合い。混じり合う。お互いがお互いの一部になって溶けてゆく。貪るような行為が、脳を溶かして行く。
「っぷ、はあ……はあっ、はあ、はあ」
息が続かなくなるほどに激しかった交わりは、始まりと等しく、唐突に終わりを迎え。
二人の荒々しい息だけが世界を支配していた。
「興奮――しました?」
上目遣いに唇の周りを湿らせながら尋ねる彼女の赤らんだ頬は、そのままかぶりつきたくなる程に、官能の色を孕んだ、これ以上ない程の、蠱惑。
「だから、言わせんなっての」
「そうでしたね」
いやらしく笑うその瞳を、その体を、滅茶苦茶にしてやりたい。
そんな快楽的欲求にこの身が染まる、その、最中――。
「あっははははは、ねえ見て、あそこでクソエドがキスしてるわよ、なにあれーおっかしいなー、おっかし、……は?」
なんだか聞き覚えのある酔っぱらいの声が……。
すると、
「あー、おにーちゃん、ここいイたー! あれェ、でも、おかしいね? おかしーネ? なんでヤヨイイガイのコとヤってるノ? キョーはまだ、ヤヨイだって、ヤってないのに……。ねェ、おにーちゃん、ヘンだよね……? ソレ? ネェ……?」
聞き覚えのあるキチガイの声が……。
はたまた。
「おい、バカエドォ、てめえ、アタシの名前勝手に使ってあちこちの店でツケてやがったらしいな? それも端金ならよかったものを、随分とまあ、しかも飲食代よりもォ、風俗代の方が溜め込んでると来た。オイ、バカエド、てめえの女の金で、他所の女としこたま気持ちよくなる気分はどうだったァ? さぞかし素敵な夜だったんだろうなァ!!!!」
忘れもしない氷姫の声まで……。
更には。
「貴方、あの後アンジェリカから聞いたのですが、あれだけではなく、恒常的に薬物を使用しているらしいですね……! 貴方を甘やかしたのは失敗でした……。よって、今ここで、貴方のその腐りきった性根を教育、いえ、殺菌します……!」
嫌というほど聞いたマイエンジェルの声さえ……。
そして。
「おとう、さん。うそつき!」
親愛なる我が子の声も……。
やがて。
五人の美女達が、屋上へと、集う。
そんな彼女たちを眺め、アイは――笑う。
「修羅場ってやつですかー? さすがはエドさん、クズですねー」
「笑ってないで助けてくれ……」
いままでも、こういうようなことは何度もあったわけだが、今回のはメンツがメンツだ。マジで洒落にならん。
「そこで私に助けを求めるあたりが最高にクズって感じですね! でも、いいです。これも、愛故の苦難ですもの! 望むところです!」
その頼りない胸を張り、声を張る。金のアホ毛を揺らして。
「じゃあ、いいですか、みなさん! 最終的にエドさんを所有していた人が、明日はエドさんを使いたい放題ってことで!」
はあ? なんだそれは?!
「異議なし!!!」
「アああァあハあああァハァ……っ!!!」
「いいぜ……」
「構いません」
「うん」
俺の了承などまるで気にすることなしに、各々の肯定だけが響く。
「では、スタート!」
アイは高らかにその始まりを宣言した。
瞬間、
「轢き千切れ――迅速!」
「あそぼ? エレクトリリカル・リパレイド!」
「空ケ――氷惨一刹」
「望まれること無き紅十字!」
「第二の土・殖地!」
飛び交う鍵爪、電撃、氷撃、火煙、岩塊。
こいつあ命がいくつあっても足りなそうだ。
だが、俺には、心強い味方がついている。
その名はアイ。
愛のの名を冠す少女。
彼女は、愛ゆえに笑い、愛ゆえに泣き、愛ゆえに怒る。
そんな彼女を、誰が愛さないと言うだろうか。
「よっしゃ、じゃあいきますよー! ルーラーⅠ、これは、愛の為の、物語で、ある!」
その愛の先に、何があるのか。
既知に円環する永劫では、なくて。
今回の世界なら、俺達でなら、その未知の結末をしれるのかも、しれない。
下半身になにやらそんな違和感を覚え、俺は目覚めた。
うむ、我が麗しの自室のベッドだな。隣にヤヨイがいる。
だが、おかしい。彼女は眠っている。
「うさ~、そんなノ、はいらないよォ……」
ひっでえ寝言だ。
では、なんなのだ、この下半身、というか、局部に感じるやわな肌感は!
ザバァ!
俺はかかっていた布団を跳ね除け、起き上がらせた。もちろん、上体をな?
すると、
「あ、おきた」
褐色の肌をした、スレンダーなエキセントリックセクシー少女、リーシャが、かわいらしく、侍っていた。
彼女とは色々あったが、結局、和解した。取り敢えず、愛し合おうということで合意したのだ。滅茶苦茶に思われるかもしれないが、今俺の周りにいてくれている女達だって、大概似たような経緯でそれぞれの関係に落ち着いている。アルマで暮らすってのはそういうことだ。それが嫌なら、それこそエルラティスにでも行けばいい。
「ああ、おはよう。で、お前は何をしているんだ」
「つまの、おつとめ」
敬虔な信徒である彼女にとって、愛とは即ちそういうことであったらしい。隣人愛とやらはどうした。
「悪いが、俺はお前と籍を入れた覚えはないし、一応この無法都市アルマにも最低限の法はある。リーシャ、お前今何歳だ?」
その体格から推測すると、成長期中の細身な女の子って感じで、もしその通りであれば、まあ結婚は出来てしまうのだが。戸籍とかはきっと、たぶんアンナに言えばなんとかしてくれるだろうし。というかそれを言い出すと俺の方も怪しくなる……。
「うー、わかん、ない……?」
しかし、その、舌っ足らずなしゃべり方は、どう考えても十代のそれではない。察するに、彼女の幼少期に誰もそうしたことを教えてくれる人間がいなかったのだろうというような事なのだろうが。
「おい、嘘は良くないぞ。神様もそう言ってる。知らんけど」
「エドは、神なんていないって、そういった」
「でも、俺はお前がまだ教えを捨てたわけじゃないって知ってる」
「だって、あなたが、わたしをすくったように、教えがわたしをすくったのだって、ほんとの、こと。それはいまでも、そう。でも、それをもちだすのは、ずる」
「俺はずるい男なんだ、悪いな」
「しってる。でも、ね。……すき」
は? かわいい。
「あ、うん。俺もすきだよ。リーシャ。愛してる」
「だから、しよ?」
彼女は、ベッドの上に座っている俺の、太ももへと跨りにじり寄って、そう言った。
相変わらず、その幼年性の内に妖しい官能を携えているリーシャ。ああ、その露出した首筋、鎖骨、腋窩脇腹、鼠径部、大腿、膝窩、腓腹、内果……、その浅黒くなめらかに揺れるそれら、その尽くに、五指をあてがい、舌を這わせ、味わいたい。犯したい。その、実を為したばかりの果実全てを……。
そう言いたいのを必死に我慢して、俺はとぼけてみせる。
「な、なにをだ?」
すると彼女は、本当にかわいらしく、こんなことを、蕩蕩と。
「主はいいました、うめよ、そだてよ」
孕めるかもわからぬ幼き少女が謳う、子作りの詩。
その無垢の非常な背徳に、思わず興奮していまう。
「なるほど。いいこと言うねえ、さっすがカミサマだ!」
「でしょ? だから、ね?」
彼女はかわいらしく小首を傾げた。
俺はこの小さな首一つだけで、ヴァルヘルム中の全ての男を動かすことが出来るのではないだろうかとさえ思った。
しかし、その恐るべき愛玩性に負けるこの俺ではない。犯してきた、場数が違う。
「いや、本当にマジな話。これは数々の女を抱いてきたこの百戦錬磨の俺だから言えることだが、お前にはまだ無理だと思う。あと数年待とう、な?」
「でも、きいた。エド、未知、すき」
彼女は聞く耳持たずという感じで、俺にどんどんと擦り寄ってくる。
「あ、ああ」
そして、思わずその気迫に気後れする俺を、そのまま押し倒し、
「だから、しちゃお。したことない、こずくり。これまでやったことない、くらいの、ちっちゃいおんなのこ、はらませちゃお? ね? うませよ? そだてよ?」
「……」
目の前には、小さな両手を広げて、俺の上に跨る絶世の美少女。
しなやかなふとももの感触は、下腹部に。透き通るような黒髪は、さらさらと。
「りーしゃと、まだだれもしらない、きもちーこと……しよ?」
ああ、これは。
無理だ。
「するーーーーーーーー!!!」
俺は思考を止め、ただ本能の赴くままに、衝動の獣となった。
小さな体を、今度はこちらが強く押し倒――。
が、
バリン!
と、まるでこの部屋の窓が粉砕されたとしか思えないような音がして、
「死にたいのですか貴方は!!!」
キィン!
スっと飛んできたメスが、俺の上着を射止めながら、背後の壁に突き刺さった。
なにがなにやらわからぬままに、俺は壁へと磔にされたかのように縫い止められた。
そして、本当に窓から何食わぬ顔でシュタッとこの部屋に侵入したマリーが、まくし立てる。
「決定的瞬間を抑えました……! やはり、貴方のような脳幹から手足の先に至るまで、その全てが男性器で出来ているとしか思えない突出した異常者には、厳重な監視体制が必要だったようです。そうですね……そうした患者だけを集めた檻のついた病棟……現状では難しいですが、予てより計画していたあれを実行に移す時が……」
相変わらずの赤い制服姿に淡々とした口調の彼女だが、もう少し自分のやっていることの異常性を理解して欲しい。
「や、やあ、おはようマリー」
「ですからメアリーだと。いや、しかし、ここまでとなると……もしや、貴方、痴呆にまで罹患しているのですか? 早急な問診を。ですが、安心してください。貴方の病気は、全て、治すことの可能な疾患です。私にかかれば、そんなもの……」
「そんなことより、マリー、今日はどうしたんだ? しかも、なんだ……その、そんなとこから。まさかとは思うが、そんなに俺に会いたかったのかい?」
「そんなこととは何ですか……。まあ、結構ですけど。では、冗談はここまでにしておきましょうか。そして当然ですが、そのような事実は皆目ありません」
にこりともせずそんなことを言いのけた彼女に、動転してしまう。
「は……? マリーが、冗談?」
「心外ですね。私とて冗談の一つや二つくらい言いますが。会話で患者の気持ちをリラックスさせるのは医療の基本です。全く、私をなんだとお思いか」
「愛しのマリー」
「おじゃまむし」
「次にそのような精神的異常の兆候を著しく味あわせるようなことを言ったなら、貴方に二度と消えない心的外傷を植え付けますよ?」
彼女の手に握られたメス、及び、その他諸々の全身に括りつけられたなんだかよくわからない医療器具の数々が、キランと光った。
「なるほど、なるほど。またまた冗談がうまいなあマリーは」
「いえ、本気ですが」
真朱の瞳が何を言うでもなく、じっとこちらを見据えている……。
「……」
「冗談です」
すっとすました顔でそう言い切る彼女。そんな顔でそうのたまうアンビバレンスに、ゾクゾクと感じ入ってしまう、
愛嬌のなさが可愛さにつながっているなんて、なかなかどうして女性というものは神秘的だ。そうは思わないか?
「はー、よかった一安心だ。やっぱりマリーはお茶目……」
「シッ!」
至近距離に彼女の美しい霞の肌が迫る。強烈な頭突きをお見舞いされた。
「がっ!」
しかし、そうするとわかるが、本当に誤差の範囲内で彼女の頬がほんのり紅潮しているような感を受ける。こんなにいじらしい照れ隠しがあるだろうか。俺は痛みのなかにやんわり混じる彼女の愛を、深く噛み締める。
「すみません。貴方に賞賛されると、どうも胸のこの辺りに激しく虫唾が走り、こうした行動をレスポンデント的に取ってしまうようです。貴方という人は、全く、どうしようもなく癌細胞のような人ですね」
俺がにやにやしていたからだろうか、彼女にしては珍しく不快そうに眉をひそめながら、最後にほんのりと機械的に微笑んだ。
「よくわからんが、それも、冗談なんだろ?」
「さて、どうでしょう」
「ひょー、そのミステリアスさがまた」
と、再び彼女からの愛の鞭を頂く為におだてあげようとするも、待ったがかかる。
「エド、そのへんに、して。いいかげん、はなし、すすまない。わたし、はやくこのひとおいだして、つづき、したい」
俺とマリーの間にむんずと割って入ったリーシャに対し、マリーがぴしゃりと言い放つ。
「させませんが?」
「え?」
「聞こえなかったのですか、させませんよ?」
「する、よ?」
気弱そうな見た目通り、実際リーシャは本来そのようなタイプなのだろうが、自分の中で一度決めたことは頑として譲らないという、芯の強さも持っているらしい。だからこそ、彼女はエルラティスの為ついこの間まで戦っていたのだろう。
「ほう、貴方も、」
というわけで、彼女の身を預かることになった身としては、助け舟を出してやるべきだろう。決して、彼女と早くヤリたいとか、そういうわけではない。というか、だったら、マリーともしたい!
「マリー、子供の言うことだ。気にすんな。それよりさっきの質問に答えてねえぞ」
「それもそうですね。すみません。まず初めにこのようなところから参上した非礼を謝罪するべきでした。申し訳ありません。弁償はさせていただきますので」
彼女は、そう言うと、深々と頭を下げた。白銀のショートが、小気味よく流れる。
「俺とお前の仲だ、それは問題ないさ。ただ、もっと普通に登場して欲しかったぜ。驚きで死ぬかと思った」
「それについては言い訳があります。いくら私とて、理由もなく窓からお邪魔するような世間知らずではありません。ですが、普段通り正規のルートで貴方の部屋に向かおうとしたところ、アンジェリカに止められたのです。あの女、平素は治せ治せと五月蝿いくせに、こちらから来たら門前払いとは……。と、まあともかく、人命の懸かることですし、医療とは、スピードの世界でもありますので……。よって、早急な対応の為、強行策に」
「それで、仕方なくってことか?」
「はい、それ以外貴方の部屋への侵入経路はありませんでした。強いて言えば天井裏や壁から、という選択肢もありましたが、それをするなら別に窓からで構わないという結論に至った次第です」
大真面目に、奇想天外な事をさもそれが尋常であるかのように語るマリー。
「で、それはどの辺が冗談なんだ?」
「はあ? 私は今真剣な話をしているのですが? 冗談を挟む余地など、どこかにありましたか?」
うん、そうだな。お前はそういう奴だ。ああ、愛してる。
「じゃあ、そもそも、なんでこんな朝っぱらから?」
「それはですね、貴方のものと思われる血の匂いがしたもので、もしや、と思いまして。貴方のことですから、また私に黙って負傷でもしたのではないかと、こうして駆け付けたわけです」
いや、今さらっと言いやがったが、「私に黙って負傷でもしたのではないか」って何だよ? え、俺の負傷ってマリーに管理されてんの!? ……やっべえ、興奮してきた。
「エドのちの、におい?」
あ、もっとヤバい方を聞き逃していた。
「ええ、私は彼の担当医ですから。それくらいわかります。当然でしょう?」
無表情の中に少しだけ誇るような色があり、微笑ましい。言っていることは、もはや狂気且つ恐怖の粋だが。
「そんなこと、ないと、おもう、よ?」
俺もそう思う。だけど、だけど、な?
「マリーは俺を愛しているからな。匂いにも敏感なんだろう。少々狂気的ではあるが。とはいえ、それがそそるだろう?」
「じゃあ、わたしも、エドのちのにおい、おぼえる!」
なぜか嬉しそうに顔を輝かせながらそんなことをのたまうリーシャ。
「それは止めてくれ……」
「なん、で?」
向けられる純真な二つのおめめ。
くう、愛らしい。
そう言われると、いいよと言いたくなってしまう。
だが……。
いや、さすがにでもそれはマリーみたいなのが一人増えて二人になったら嫌だし、というかこんなにも無垢にかわいいピュアピュアリーシャに、こんなキビキビとした大人の真似をさせるのは、ちょっと……なあ? うん。リーシャに求めるアダルトはそういうんじゃないだろ。例えば、同じ血で考えるにしても俺の匂いを覚えるとかじゃなくて、つうっと俺の首筋に爪を立て、流れ出した一筋の雫を媚笑ともに舌で掬い取るとかさ、そういうアダルトだろ。リーシャに欲しいのは、そういう、妖しさ! 異常さではない!
などというような戯言をリーシャにぶつけるわけにもいかず、頭を捻っていると。
「失礼します」
すっと、間を突くかのように、マリーの右手が俺の腹部へと添えられた。
走るのは、激痛。
が、悟られてはならない。
「……!」
きっと、俺はまゆ一つ動かさなかっただろう。
けれど、プロである彼女に対して、そんな小手先の小細工は、無駄だったらしい。
「なるほど、貴方、やはり……」
それでも、俺は、認めるわけにはいかなかった。とある女との、約束を破った。ならばせめて、気付かせないことが、誠意であると思うから。きっと、だからアンナは、マリーを止めようとしてくれたのだろう。ほんと、いい女だよ。
「してねえよ」
「私はまだ何も言っていませんが?」
ただでさえ、温度のない彼女が、いつにもまして冷ややかに。
対する俺は熱くなってしまう。マリーには、どうせバレると分かっていても。それだけ、約束を破った引け目があったのかもしれない。自分でもこの気持ちは、よくわからなかった。
「とぼけんなよ。怪我してるって言いたいんだろ? してねえ。ほら見ろ、傷なんて無い、触ってみてもわかっただろ」
「はい。確かに貴方の腹部の感触は、普段となんら変わらない正常なものでした。外観してみてもそうだ。平素となんら遜色がない」
そう言うと、彼女は、一旦目を伏せて、信じられないことだが、逡巡……した。あの、自分の信じる道をひた進んで、周囲から異常と誹られようと、止まることのなかった、彼女が。
しかし、彼女は目を見開いた、それ以前よりも、強く。やはり、彼女は止まらない。止まってはくれないのだ。患者の意思に、依ることなく。
「ですが……、あまり私を甘く見ないでもらいたい。貴方は私の患者であり、私は貴方の担当医なのです。貴方が何か私に隠し立てをしようとしていることくらい、手に取るようにわかる。私は医者だ。患者の容態について、私は患者自身よりもよく知っている」
ああ、きっとそうなのだろう。だから、彼女は、肉体の状態だけではない、俺の気持ちさえを、痛いほどに感じている。その上で、その葛藤を知った上で、理性による判断を下してくれるんだ。ただ、俺達の為だけに。
「ですから、貴方が現在、ただ単に傷跡を自身の先天性パーソナリティ障害によって併発させた超人症候群――俗に言うところの『カルマ』で覆い尽くしているだけ、という事実は、私にはお見通しですよ。エド?」
ああ、そうだよ。そのハリボテは神秘と憂鬱と虚なる実像だ。
「ただの言いがかりだ。証拠がない」
「はあ……。貴方も折れませんね。では、言いましょうか? まず第一に、貴方の血の香が街外れからこの近辺に至るまで、漂っていたこと。第二に、たった今、私が貴方の傷口を触診した際、貴方はまるでなんともないかのように振舞っていましたが、体は正直ですね。大頬骨筋の辺りが、ピクリと痙攣していましたよ。相当な痛みだったでしょうに、それ以外の部位はまるで動じさせなかった貴方の胆力は大したものですが、それでも、完全には御しきれていません。観念しなさい」
「ああ、そうか。確かにそうかもしれないなあ。だが、マリー、それは全てお前の主観に過ぎない。それだけで俺が大怪我を負っているというのには無理があるんじゃないか? 大体、俺はどうしてカルマを使ってまで怪我を隠す必要がある? おかしいじゃないか。むしろ俺は自分から怪我を負ってでもお前の看護を受けたいとさえ思っているのに」
「それに関しては、貴方がそのような人間であるから、としかお答え出来ません。逆に聞きますが、貴方に対して合理的な帰結を持ち出すこと、それ自体、ナンセンスなのではありませんか?」
ああ、そこまでわかっているのか。そうだな、お前は本当に俺をよく理解してくれているよ。でも、だからこそ、それが、こんなに厭わしいだんて思いたくはなかった。
「話にならねえな。ここに怪我人はいない。わかったら医者は帰れ」
「そうですか。ならばこちらにも考えがあります。貴方が怪我人ではないというのなら、貴方を病人であるという理由から、再度診察させていただきますが、構いませんね?」
「だから俺は病人じゃないって、いつも言ってるだろ」
どうかわしても、諦めようとしない彼女に、行き場のない苛立ちが募る。
だが、それは、そんな劣情は、その次に放たれた言葉に、全て、打ち消された。
「では、ここ最近自失状態に陥ったことについては、どう説明してくれるのです?」
な……!?
「……おい、それをどこで知った?」
あまりのことに、マリーの首根っこを掴み、食ってかかる。
が、彼女はこともなげに。
「なるほど、やはりそうでしたか」
俺に首を絞められているにもかかわらず、そう、刹那的に。
「……騙したのか?」
「いえ、私が個人的に立てていた仮説が正しかったかどうか、貴方にお尋ねしただです。どうやら、私の推測は誤りではなかったようですが」
「つまり、騙したって事だな」
「そのように物事を卑屈に捉えるのは、心身にとっていい傾向とは言えませんよ?」
「ああ、そうかよ」
拗ねた様にヤケクソな声を上げる俺を、彼女は、ただ冷ややかに見つめていた。
しかし。
「ですが、そうですね。ただ事実を突きつけるだけが、医療ではありませんか。私も少し、場をわきまえなかったようです。幸い、もう当面の危機は脱したと見える。想定していた最悪よりも、幾分もましでした。よって、今回は経過観察として見逃しましょう」
彼女から、折れてくれた。そんなことは、今まで一度足りとて、なかったのに。
「……いいのか?」
すると彼女は背を向け、無残な姿になってしまった窓を眺めながら、言う。
「勘違いしないでください。これは、割ってしまった窓枠分の譲歩です。次はありませんので」
「ありがとう」
「では、最後にもう一度だけ、……いいですね?」
そしてそう言って、俺の腹部へと、再度、手を当てた。
もう俺に、断る理由はなかった、
「わかったよ」
霞色の長い指が、優しく患部をなぞる。それは、無表情な彼女が見せる、これ以上ない程の、感情表現だった。
「……ru。……これでいいでしょう」
やがて、何事かを呟き、手を離すマリー。
だが、やってきたのは、猛烈な違和感。
「……は? おい、何をした?」
痛みが、いや、傷が、ほとんどすっかり、消え去っていた。
つまり、それは、彼女が医者としてではなく、聖人として振舞ったと、そういう、こと。
それでも、彼女は、まるで、何事も、なかったかのように。
「なにを、とは? はて、まさか腹部の痛みが取れた、などと言うつもりですか? おかしなことを言いますね。元より怪我などしていなかったのでしょう?」
なんと粋で、なんと素敵な聖女だろうか。
俺は、これほどまでに奉仕の精神を湛えた女を、未だかつて、知りはしない。また、きっと、今後も。
「そうだな。だが、これだけは言わせくれ、愛してる」
「……今回だけですからね」
彼女はそう言って、今日一番の笑顔を見せた。
が、現実は非常である。聖書のように、奇跡の力で即ハッピーエンド、とはいかないらしい。
ふと、マリーが、俺のベッドの下に隠しておいたソレを、摘まみ上げる。
「と、これはなんです?」
「あ……」
数日前の記憶が、猛烈にデジャブした。
「これは、粉……? 白い……。白い粉。ほう……」
「いや、まてマリー、それは」
「焼却します」
完全に目が据わってしまったマリーに見切りをつけて、俺はリーシャに頼る。
「やべえ、リーシャ、あれだ、水を頼む」
「よくわかんない、けど……、わかった」
「望まれること無き紅十字!」
「第一の水・天律!」
炎と水、二人の超常が、激突する。振動に轟音。炎上、爆破。
その、地獄に、
「おい、バカエドー、朝飯の時間だぞー」
白髪の悪魔が……卵を抱えて、やって、きた……。
瞬間、ざっと、部屋の空気が凍てつく。
「……おい、てめえら、人様の家でなにしてる?」
「治療行為です」
「ほう、し?」
「しゅ、修羅場……」
「死ね! 屍山血河ァ!」
その言葉と共に、この部屋などは一瞬で凍り付き。
我がボロ長屋は、誠に遺憾ながら大変残念なことに、粉微塵に倒壊した。
純白の悪魔と白銀の天使から、命からがら逃げ回ること幾星霜。
俺はようやく、リーシャとともに落ち着ける場所まで逃げ着いた。
へなへなとその場に座り込む俺を、リーシャが心配そうに覗き込む。
「エド、けが、してた?」
「いや……」
もう事実上、彼女にはさっきのやり取りでバレているだろうし、どう答えるべきか迷ってしまう。
そんな俺に、彼女は驚くべきことを告げる。
「それ、しきょうさまに、やられたんだよ、ね?」
「どうしてそれを?!」
声を荒げてしまった俺に対し、彼女は少し、申し訳なさそうに、ぽつぽつと語りだした。
「こないだのよる、しきょうさまから、おつげ、あった。『済まないが、たった今、私は別の使命を主より拝命した。故に、私がお前に託していた役目も、もはや必要ない。そして、異教に伏した外神に価値などあらず、だ。したがって、もう、お前の居場所は、エルラティスにないだろう。しかし、祈る場所が問題なのではない。どんな僻地であれ、ただ祈ることこそが救いなのだ。故にお前を、十三陵より排名する。お前はもう、主に恥じぬ程に、立派に育った。後は、自由に生きるといい。主を愛せ、主の与える運命を愛せ。お前に言えるのは、ただ、それだけだ。お前の歩む道の先に、常に神の御加護のあらんことを。エイメン。』、って」
それはつまり、奴が凍結させられる直前に、リーシャへと送ったメッセージということだろう。
「なるほどね。あいつはやっぱり、お前を愛そうと、してたんだな」
「うん。でも、しきょうさまがあいせるのは、神様だけだった」
「ああ、でもきっとあいつは……」
「うん。みんなは、くるってるって、いったけど、こんな、わたしに、やさしく、してくれた。そんなくるったことをしてくれたのは、しきょうさまだけ、だった。だから、ね。おもう。しきょうさまは、わたしがあいしたひとどうしでころしあって、それで、しきょうさまのあいす神こそ、いちばんって、おしえてくれようとしたの。でも、」
それはきっと、言葉を発することが苦手な彼女が、言葉にしたいと思うまでに、大事だったこと。それがたとえ、自身にとっては、昨日の仇敵についてのものであったとて、俺はそれを、愛したい。愛さなければ、と、思う。
だから俺は、立ち上がり、彼女を強く、強く、抱きしめた、
「いいよ、わかってる。愛してるよ、リーシャ」
「うん……。ううっ、しきょう、さま……」
リーシャの中にあった純粋な気持ち、倒錯した愛情、その全てが、美しい雫となって俺の胸に溶け込んでいく。
ああ、今なら、彼女の気持ちが一雫分だけ、わかる。
リーシャ、君はきっと……。
「……ごめんな」
「ううん、いい。ざんこく、なのは、あいのしょうこ、だから……っ」
そうして、切なく、ただただ切なく、どこかの司教の異なる教説は、小さな少女へと、しかと、受け継がれていた。
それからしばらくして、ふとこんなことを思う。
「にしても、お前、よくあんな魔窟みてーなとこから逃げ出せたな」
「魔神、だもん」
そんな物騒なことを、気持ち得意げな風で答える彼女は、本当にかわいい。だからこそ、その事実を忘れて、俺はそんなのんきなことをのたまったのだろう。女を見た目で判断してはいけないという教訓を、何度この身で味わったかもわからんというに、なんともまあ間抜けな話だ。だが、思わないではないのだ。女ではなく、少女なら、見た目で判断しても良いのではあるまいか、と。いや、というか、こんなに無垢でかわいくてHそうなリーシャが悪い子なわけない! という、童貞めいた妄想への偏執ってな感じか?
「はっ、たしかに。そりゃそうか」
「えへへ」
ほらみろ、魔神であることを肯定されて、この満面の笑顔だ。こんなにかわいい女が、他にこの星にいるか? いや、いないね。
あ、でも、もしいるんだったら連れてきてくれ、彼女にする。
「ああ、本当にリーシャはかわいいなあ」
「……ほん、と?」
「もちろん」
「でも、ね、エドも、かっこいい、よ?」
「そうかね」
まあ、リーシャに見合う男であること、それだけは、自身をもって保証しよう。
「うん。きょうもね、ゆめでみた。わたしに、はじめて、かわいいって、あいしてるって、いってくれた、ひと。……あなた」
「照れるな」
「しきょうさまはね、わたしをあいしてくれるのは、かみだけだって、いってた。だから、エド、あなたはね、わたしの、かみさま、なんだ、よ?」
「おいおい、やめてくれよ。俺のどこが神だって言うんだ?」
「わたしが、そうおもったら、もう、それは、そうなんだよ。だって、こんなわたしだって、ラクシュミー。魔の神なんだから」
「じゃあ俺は女たらしの神で」
「だめ。あなたは、わたしだけの神」
「そうか。じゃあ、こういうのはどうだ? 俺がお前の父親になるってのは。神のことを父って呼んだりするんだろう、お前たちは」
「……! いい。それ、すごくいい!」
目をキラキラと輝かせ、ぶんぶんと頭を縦に振るリーシャ。かわいい。
「意外と乗り気だな……」
冗談のつもりだったんだが。
「おとう、さん……。おとう、さん……? これで、いい? わたし、こんなこといったことないから、わからない。でも、なんだか、すごく、すごく……!」
「俺も父親の記憶はないからなよくわからんが、まあいいんじゃないか?」
というか、お前。かわいすぎるだろう。
なんだろう、これ。この年にして、初めての感覚だ。
「よかった……。じゃ、おとう、さん。だい、すき!」
………………。
「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
なんだこれわなんだこれはなんだこれはなんんだこれわ!
あまりのことに虚にいたり、永劫を感じ、その後には全てがあった。
満ちている、なにか、一切合切森羅万象天地万物その尽く全てが、ある!
ああ、これが、真愛、なの……か!?
「え、え? え? な、に?」
戸惑う――きょとんとしたその顔もかわいい――リーシャの肩を掴み告げる。
「リーシャ、お前は俺が今まで愛してきたどの女よりもかわいい。結婚しよう」
「え、やった。うれしい。うん。わたし、おとうさん、けっこん、する!」
うおーーーーーーーー相思相愛いいいいいいいいーーーーーーーーーーー!!!!
「よし! じゃあ、早速一番街に、」
思いたったら即行動というわけで、手続きをするため、そう、声を上げたその時だった。
「おい」
背後からそんなドスのきいた声と、肩に、がしっという引力が。
「あ、なんだ、俺の恋路を邪魔しようとはいい度胸じゃ……」
当然お楽しみのところに水を刺されたんだ、キレそうにもなる。
顔をしかめながら振り返ると、そこには。
「ねえ……、なに、その子? 隠し子?」
ネコミミと爪をたて、髪を逆立て、きしゃーとうなる、……ミューズがいた。
「みゅ、ミューズ……。違うぜこれは……養子だ」
とっさの嘘だが、まあ事実上そう大差ないだろう。
「養子ですってぇ?! てんめえクソエドぉ! あんた、約束したってのにいつも通りきやがらねえからまたすっぽかしかと思って迎えに来てやったらなんだこのままごとはァ?! そんなに幼女が好きか? 年増はもうヤリ捨てってかァ? おい! あんた、ほんとどういうつもりなわけ! 大体、子供が欲しいなら私と作ればいいでしょうが!」
ああ、なんというか、本当に済まなかった。信じてもらえないかもしれないが、お前のことを好きなのは、本当なんだぜ? ただ、世界がそれの邪魔をするというか、リーシャがかわいすぎるというか、大部分はマリーの暴走のせい、というか。
「あ、ああ、ミューズ。……今日も綺麗だな」
「てめえはそれだけ言ってれば私の機嫌が取れるとでも思ってんのかァ! 死ねぇ!」
「でも実際嬉しいんだろ?」
「ま、まあ嬉しいけど……って、違うだろうが!」
わかりやすく頬を赤らめるミューズ。マリーにあったばかりだからか、それが余計に愛しく思える。
「それに、いつもより髪型も決まってるし、服装も最高にキュートだ。今日のために整えてくれたんだな。ありがとう」
「う、うん、よく気付いたわね」
「それなのに、そんな怒ってばかりいたらせっかくの美貌が台無しだ。髪も崩れちまう。それはもったいないだろう?」
「……ああああああ! うるさいうるさい! なんかあたしがバカみたいじゃない」
彼女は結局、頬をわざとらしくふくらませながらも、許してくれた。ただ、かわいいのは認めるが、もういい年なんだからそういうのは控えたほうがいいぞ……とは、口が裂けても言えなかった。でも、そんなところが彼女の魅力と言えなくもない。絶妙なところだ。本当に、女性という生き物には謎と神秘が詰まっている。だからこそ、男達はその中に入っていきたくなってしまうのだろう。未知が詰まったその秘境へと。
「許してくれるのか?」
「今日のところはね」
「ありがとう。愛してる」
「死ね、ヤリチン!」
「ぐはっ!」
マリーに傷を直してもらえて本当に良かったと、この時ばかりは思ってしまった。
「ていうか、その子、養子ってどういうわけ、この間ひどい目にあったんだけど」
「かわいかったから拾った」
「おい」
「えへへ」
かわいいと言われ、素直に喜ぶリーシャ。
だらしなく開いた口元が恐ろしくチャーミング。
そしてそれは、性別の隔てなしに共通であるようで。
「まあ、確かに、かわいいわね……」
ミューズさえもそのかわいさに陥落しようとしていた。
「だろ?」
故にそう尋ねると、自分が気付かず見蕩れていたということにハッとしたらしく、少し恥じらうように頷いた。
「ええ。まあ、そんな詮索はしないけど、なんかあったら言いなさいよ」
彼女はこんなんだが、実際にはとても真面目な人間なので、こんな形で困ったことがあると、結構マジな心配をしてくれる。つまり、普段は俺を追い掛け回してばかりいるが、本当は、とても真面目でまともないい奴なのだ。(いやーそう考えるとほんとなんで、俺とミューズが今こんな関係になってるのかわからんな……)。
だが、俺は彼女のアホなところが好きなので、そんなことは言って欲しくない!(我ながら最低だな……。そしてそんな俺に騙されているミューズが本当に愛しいよ。大好きだ)
というわけで、軽いジョークで場を賑わそうと思う。
「じゃあ、養育費の工面を……」
「あんたほんとに最低だな! 私ってば、なんでこんなのに惚れたんだろ……」
なんだか俺と似たような感想を抱いて思わず笑ってしまいそうになったが、凄まじい殺気のようなものを感じ、なんとか堪えた。
「冗談だよ」
「あんたが言うと冗談に聞こえないのよ!」
「おとうさん、おかね、ない?」
「いや、気にするな。大した問題じゃない」
「そう?」
「ああ」
「あんたがお父さんって呼ばせてると、そういうプレイにしか見えないわね……」
「おお、いいな。今度やってみるか?」
「ちょっと、子供の前でそういうこと言わないでよね!」
滅茶苦茶赤面するミューズ。いや、だからそんな恥ずかしがるような年でもないだろ……お前……。
「お前から言い出したんだろうが」
「たしかに……。ごめんね?」
「そうだ、あなた、名前……、リーシャだっけ?」
「はい」
「こいつがお父さんなのよね。だったらこいつと付き合ってる私は必然的にお母さんってことになるわ。だからさ、ちょっとよんでみてくれない? 私のこと、お母さんって」
は?
「おい、お前……」
前言を撤回する。こいつはまともなどではなかった。
しかし、無垢な善存在であるところのリーシャは、彼女のイカれた申し出にも、答えてしまう。なんとあやういかわいさだろうか。
「おかあ、さん?」
ああ、冒涜的なまでに美しい旋律。
そう感じたのは、俺だけではなかったようで。
ミューズも、年甲斐になく、黄色い声を上げて騒ぐ。
「きゃーー、かわいいー! なにこれ、やばい! リーシャちゃんは今日から私の子供よ!」
しかも、あろうことか、俺のリーシャを抱きしめやがった……!
「え、ええ?」
とはいえ、困惑しているリーシャがあまりにもかわいすぎたので、不問とする。
それと、
「あのなあ、婚期を逃してるからって必死過ぎるだろ……」
その必死さに、少しだけ、同情してしまった。ミューズ……、なんか、ごめんな……。
「そういうんじゃない! 単純に、リーシャちゃんが、かわいいの! わかる? あんたは、関係ない! 純粋な、リーシャちゃんの、かわいさ!」
リーシャがかわいいというのには、全面的に同意する。守りたいとは、まさにこのこと。
「お前が若い娘に嫉妬しないなんて珍しいな」
やっべ、言っちまった。
「おい、次その舐めた口を聞いたらその喉噛みちぎるぞ?」
刹那に空気が一変する。ミューズのしっぽが、獲物を狙う蛇が如くにうねり出す。
「やめろよ、リーシャが怯えてるだろうが」
「おとうさん、おかあ、さん。けんか、だめ」
右手を俺に、左手をミューズにあてて、仲直りを促すリーシャ。こんな時に月並みな言葉しか出てこない自分が憎いのだが、なあ、天使か?
「うー、ごめんね、リーシャちゃん、でもね、お父さんが本当にゴミクズなの」
残念ながら、なにも反論できない。
しかし、リーシャはまるでもはや光のイデアであるかのような神々しい笑顔で。
「そんなこと、ない。おとうさん、かっこいい。だいすき!」
嬉しいよ、そんなこと言ってくれるのはお前だけだ。
よし!
「リーシャ、結婚しよう」
そして、
「私としろ! バカエドぉ!」
なんともまあ独特なツッコミが、すぱーんとこの体を吹っ飛ばすのだった。
「みたいなことがあったわけよ」
あの後、ミューズ、リーシャと共に昼食をとろうと酒場に入ったのだが、そこには、偶然、例のヘルディンクロイツの四人組が陣取っており、するとなぜか、そんな彼女達に向け、俺がいかにゲスな人間であるかということを嬉々としてミューズが語り始めた、というのが今の状況である。
「なるほど、相変わらず君達はロックなみたいだね」
その涼しげな顔立ちを崩さずに応えるのは、中性的顔立ちが男女ともに受けの良さそうな、茶髪でギターのマーリン。
「いや、どこがだ?」
そう突っ込むのは、黒く仰々しい衣装に全身をすっぽりと覆い尽くした、人形的な美しさを誇るボーカル、みく。
「つまりエドっちはー何人斬りなんすかー?」
そんな下世話な質問でも恥じることなくしてしまう残念な子は、紫苑のツインテや少し変わったメイクが行き交う人々の目線を釘付けにすること間違いなしのドラム、ヘヴィ。
「最低」
うつむきながらそう吐き捨てるのは、どこか刺刺として攻撃的印象を受ける、赤髪ロングのベース、ハーデス。
四人の反応は、喜怒哀楽が如く綺麗に分かれていて、面白い。
「どうやら、俺の評判が地に落ちたみたいだな」
「これ以上悪い虫がつかないように、あんたの悪評を広めてんの。当然でしょ」
悪い虫という言い方はどうなのだろうか……。一応彼女の名誉のために弁護をすると、ミューズは今、それなりに酔っている。
「うちは別に嫌いじゃないっすけどねー。そうゆーヒトー。まあ好きでもないっすけどー。あははっ」
「我は……ノーコメントだ」
「僕は君のこと、結構好きだけれど……、パートナーとしては、なしかな」
やんわりと三人全員に断られてしまった。
安心してくれ、ミューズ。何がとは言わんが、大丈夫そうだぞ。まあ、今後どうなるかは、俺の腕の見せどころなのかも知らないが。
「はっでーはで!」
と、一人だけコメントを寄越さなかったハーデスにむけ、ヘヴィがちょっかいをかける。
「……何?」
彼女は不機嫌そうに、気怠そうに、そう一単語だけ。
「はではではどう思いますー?」
「しらない」
「またまたー。照れちゃってかわいいっすねー」
小突くヘヴィ。それを払い除けるハーデス。
「うっさい!」
なんだか微笑ましかったので、声をかけてしまった・
「たしかにアンタ、意外とかわいいよな」
「……しね! 話しかけんな! キモい!」
彼女は親指を下に向けながら、世間でよく言われる反抗期の子供かのように、そう、吠えた。
すると、申し訳無さそうな顔で、みくが頭を下げる。
「すまんな。奴はこういう性分なのだ。分かってやってくれ」
まるで女王か貴族のような振る舞いをしているのも関わらず、どこか庶民的なものを感じさせるみく。なぜって? きちんと誠意をもって謝ってくれてんのもそうだし、それとなんか、さっきから注文してるもんが全部おっさんくさいんだよなあ……。漬物ばっか食ってるし。その優雅そうな見た目が台無しである。いや、逆に好感が湧いた。
そしてそれは、みくだけでなく、ハーデスにも。
「いや、いいぜ。むしろ、こういう方がタイプだ」
「もしかして、君、マゾってヤツかい?」
「それを知るためにも、どうだい、今夜?」
そのように自然な流れでマーリンを誘い出そうとした俺だったが、断られるまでもなく、ミューズに阻止されてしまった。
「ねえ、なーに私の前で別の女口説こうとしてるのかなー? エドぉ?」
「いてててて、女性と呑んでてそうしない方が失礼だろ? これは礼儀作法だ!」
「そう、なの?」
俺のいい加減な与太に、揺れるリーシャ。
「そうっすよー。だからぁ、リーシャちゃんもぉ、うちをバシバシ口説いちゃって欲しいっすー!」
「あー私もー。おかあさんもーリーシャちゃんに口説かれたいなー」
悪乗りする、大人達。
「おい、卿等! 稚児に奇っ怪な嘘を教えるでない!」
そして、注意するみく。完全に、彼女の方がお母さんだった。
しかし、そんな彼女も、攻められるのには弱いらしい。
「もー、みく様ったらー、嫉妬っすかー? かわいいなー、もうー」
「や、やめんか! ひゃ! く、くっつくな!」
「相変わらず仲がいいね、二人は」
「なに、これ?」
「実に麗しい。無粋だが、俺も混ざりたいくらいだ」
「混ざんな、アホ!」
「キモっ」
「そんなこと、言いつつもー、気になってるんじゃないっすかー?」
「はあ?」
「はではでってばー、ツンデレっすからー」
「なにそれ、意味わかんない。べつにあたしは、こんなおっさんのことなんて」
「うちは別にエドっちのことだ、なんて言ってないっすけどねえ?」
ニヤリと笑う、ヘヴィ。
ハーデスの眼が光ったのは、同時だった。
「ころす」
「おー、やるきっすかー、いいっす……んぎゃ!」
そうして、ヘラヘラと笑うヘヴィに、ハーデスが無言で頭突きを決め、喧嘩は始まった。
殴り合いを始めた二人に、客たちは店内の中央部を譲り、先程まで切った張ったの大喧嘩とその勝敗を占う大博打で、大変盛り上がっていた酒場。
しかして、その勝者は一応、ハーデスということになり、一旦の落ち着きをみせた。とはいえ、まだ昼間だというにこの店は中々に騒がしい。
「二人共血塗れだけど、大丈夫なわけ……?」
喧嘩を終えて、再び席に着いた二人をみて、この場ではおそらく唯一の常識人であるところのミューズが、そんな心配をする。
だというに、二人は何事もなかったかのように。
「問題ない。あたしはつよい。パンクだから」
「うちもー、メタルなんでー」
「そ、そう?」
不安そうなミューズがあまりにも不憫だったので、俺はハンカチを差し出した。
「これで、拭いてくれ」
「……べつに、そんなのいらないし」
目を不自然に逸らしながら、そう言うハーデス。
「じゃーうちがもらうっすねー。サンキューっすー、エドっち!」
「おう。気にすんな」
「はではでもー、そんな意地張ってないで、ほらー。キレイにしてあげまちゅねー」
「ばかにすんな!」
そう唸りながらも、なんだかんだ拭かれるがままになっているハーデスに、少々の愛らしさを感じなくもなかったが……。
「卿等は本当にどうしようもないな……」
もう疲れた、というようなげんなりした顔で、みくが呟く。案外こいつも、ミューズと似たタイプなのだろうか。
「うん、ロックだ」
爽やかな笑顔で、おかしなことを言うマーリンに、みくはもう一回り、げっそりとして。
「はあ……みゃー堪忍やにー」
と、言った……!?
そんな謎の言語を発した彼女に対し、ヘヴィはすかさず。
「みく様、もれてる、もれてるっす!」
すると彼女はあわわわと、
「な……!? 卿、聞いたか?」
「え、今のなんかかわいいヤツのこと?」
「きこえ、た」
「ああ、それがみくの本当の姿なのか?」
三人の肯定を聞いて、絶望をその人形のような美貌に浮かべた彼女だったか、しばらく後、顔を上げるとこう一気にまくし立てた。
「ち、違う! いいか、忘れろ! 今のは、我が邪悪なる霊力に導かれし光の精による小癪なプロパガンダ的謀略だ! つまり、闇の帝国レンゲルギーゼ栄誉御聖官たるこの私に仇を為そうとする不心得者による、悪辣無比な精神攻撃である! 断じて、先の不抜けた嬌声は、私の発言ではない。わかったな?」
「え、ええ」
「うん、わかった、よ?」
「あ、ああ」
勢いに押され、頷く俺達。
それを満足げに眺め、彼女は口を開く。
だが、その際、ほっとしたかのように胸をなで下ろしていたのは、気のせいだろうか。
「わかればよいのだ。褒めて使わす」
「でもまあなんとなく、あんたがアイの仲間だってのが、今、本当の意味で理解できた気がするよ」
「卿、それはどう言う意味だ!」
バンと机を叩く彼女に、甘く告げる。
「あんたがかわいいってことだよ」
「え……あ、そ、そうか。ありがとう。ま、まあ、当然だがな。我への賞賛は卿等臣徒の義務であるし」
「みく様ってばちょろかわいーっすーー」
「やめろー!」
ヘヴィにあちらこちらを揉みしだかれ、可愛らしい声を上げるみくを眼福だなあと眺めていると、横槍に刺された。
「だ・か・らぁ、私の前で他の女に色目を使うな! アホエドぉ!」
「じゃあ今度からはお前のいないところでやるとしよう」
「そういう問題じゃないでしょうが!」
襟を掴まれガクガクと揺すられる。
そんな俺を見て、マーリンは微笑む。
「まったく、君達は本当に面白いね」
しばらく後で、突然、リーシャが口を開いた、
「あの、みなさんに、いいたいこと、ある」
「なんだい?」
「なんっすかー、リーシャちゃん?」
「ほう、言ってみよ」
「……」
「このまえはごめん、なさい」
ぺこりと頭を下げるリーシャ。
そんな彼女を見て、四人は口々に声を上げる。
「なんだ、そんなことか。別に構わないぞ。なあ?」
「うん」
「っすー」
「……」
しかし、ハーデスだけは、相変わらず横を向いて黙っていた。
そんな彼女に対し、リーシャは再度、頭を下げる。
「あかのひとは、まだ、おこってる、よね? ごめん、ね」
「ハーデス」
ぶっきらぼうな声が、端に発される。
「え?」
「ハーデス、あたしの名前」
「えと、ハーデス、さん。ごめん、ね?」
「べつに」
「いい、の?」
「本来だったら、あんたなんて許してない。でも、まあ気が変わった」
どこか気まずそうに語るハーデス。
「どういう、?」
その不和を問うリーシャに対し、彼女は再びそっぽをむいた。
「しらない」
自分から歩み寄らない彼女に対し、とうとうマーリンが口火を切る。
「はは、本当にハーデスは素直じゃないね」
「……」
「リーシャ、我等とて、卿の過ち、そのすべてをわけもなく赦したわけではない」
「おい、みく!」
こうはなるんじゃないかとは思っていたが、やはりあまり語られたくない話なので、口出しをしてしまう。
だが、そんなもので止まるような彼女たちではない。
「実はっすねー」
「あの後、彼が君の代わりに謝りに来たんだよ」
「え……?」
「まあ、はではでまでいいって言うとは思わなかったっすけど」
「そりゃ土下座までされたら。いくらあたしだって許すでしょ」
「どげ、ざ……?」
不安そうな目で、こちらを見るリーシャ。こんな時俺はなんと言うべきなのだろう。その答えは、持ち合わせていなかった。
そんな情けない俺の目を、ハーデスは、初めて、しかと見つめ、
「あの時だけは、たしかにあんた、パンクだった。ださかったけど」
そんな嬉しいことを言ってくれた。きっと、彼女なりの、最高級の賛辞を。
だが悪いな、生憎、俺も君と同じで、素直じゃない。
「お、なるほど。これがデレってやつか」
「んなわけねーだろ! しね!」
今度は勢いよく中指を立てるハーデス。
「うおお、この緩急! こいつはクセになるなあ!」
「おー、さすがはえどっちー、わかる人っすねー」
「最高の気分だ!」
「えどっちとはいいメタルが奏でられそうっす!」
「ああ、是非とも」
固く握手した俺達を蔑むように、ハーデスは吐き捨てる。
「ほんっとキモい」
「あっはは、みんなの仲が深まったようでなによりだね」
「どこがよ!」
「やはり、卿、馬鹿だな?」
「ありがとう! なにせ僕はロックローラーだからさ!」
「救いようのないバカ」
「まったくだ」
「うちも大概だけど、あんたたちもなかなかにアレね……」
「でも、そんなまりりんがすきっす!」
「ふふ、僕もだよ。ヘヴィ」
颯爽とウィンクそするマーリン。
「きゅん」
対するヘヴィはなぜか、メスの顔をしていた。察するに、レズビアンなのだろうか。
なんて考えていると、ミューズが嬉しそうにこう言った。
「あんたもたまにはいいことするのね」
「まあ、愛する女のためならどんなことだってやってのけるのがこの俺だからな」
「はいはい」
さっきまでの面はどこへやら、また言ってやがる、といったジト目で俺を睨む。
それでもリーシャだけは俺の見方だった。
「ありがと、おとうさん」
「気にすんな」
今度からアンナに言って、もう少し仕事を増やしてもらおうなどと思う、俺であった。
いつもの如く酔いつぶれたミューズを、ヘルディンクロイツの面々に預け、家に帰ってリーシャの延々続くかに思われた求愛を断腸の思いでかわし、寝かしつけた頃には、もう一日が終わろうとしていた。
けれど、まだ会いたい奴がいる。
彼女は、七番外ブロードウェイにある十階建てビル、その屋上の縁に佇んでいた。
もう夜更けだいうに、街の明かりたちが、俺の目を闇へと完全には慣らしてくれない。彼女の心臓の音が聞きたい程に恋しいのに、それを許すほど、眼下に蠢く人々は優等生なんかじゃない。大好きなこの街に、少しだけ嫌気が差す。
けれど。
「こんなところにいたのか」
夜風に、たなびく、金色のツインテール。
彼女のその生命の輝きは、この街の何者よりも眩しくて。
「ああ、エドさん」
その小さな体から発せられるその声は、この街の何者よりも騒々しいのだ。
「中々見つからなくて苦労したぞ。今日一日、なにしてたんだ?」
「この場所から、この街を眺めていました、アルマという、騒がしいこの街の日常を」
「そうか」
「エドさんがこの街を愛する理由がわかったような、そんな気がします。この街には、愛が溢れていますから」
「そうかもな。この街だけが、こんな俺を愛してくれた。少々、イカレちゃいるが」
「ですが、時代を変えてきたのは、いつだってそういう、周囲とずれた、周りから見れば狂ってるとも言われかねない、愛に溢れた方々でした。そういう、勇気ある挑戦者たちだけが、世界を変えてきた」
「また、お得意の新興宗教かい?」
「今はそう思われていても構いません。いつか、この意味が分かる時が、きっとくるから」
アイは意味深にそう言い、こちらへと歩み寄ってくる。
「エドさん、あなたはなぜ、愛されたいと思いますか?」
「どうした、急に」
「答えてください」
「……まあ、女が、美しい未知が好きだから。だが……、俺が俺でいられるために。きっと結局は、そういうことなのかもな。言い逃れは出来無い。自己愛だ。幻滅したか?」
「いえ、私は、そんなエドさんが大好きですから。――愛しています」
「……」
ちくりと、胸が傷んだ。そう言ってくれる彼女の約束を、破ったのはほかならぬ自分の意思によってであったから。たとえ、それが、彼女のためであったとしても。
アイは、そうした俺の胸中を読んだのだろうか。沈黙する俺を尻目に、彼女持ち前の明るさでもって、それを打ち壊すかのように、わーっと語りした。
「あれ、俺もだよって言ってくれないんですか……。そんな! なんか一人だけ勝手に盛り上がってる恥ずかしい女みたいじゃないですか! ちょっと、勘弁してくださいよ! なんとか言ってくれません! 私の体面が、大変!」
そんな彼女と共にいて、楽しくないはずがない。
「……照れてたんだよ。言わせんな」
「あーなんだ、なんだー、そういうことかー、そりゃあそうですよね! この世界一というか銀河一可愛い歴史的美少女であるところのアイたそから好きと言われて平常心を保てる方がおかしな話でした。いやー、私としたことが己のかわいい力を失念していたとはなー。まったくとんだ失態ですね。すみませんでした。というわけで、ゆるしてぴょん?」
つらつらとわけのわからない言葉を掻き並べ、奇妙なポーズを取る、アイ。
「お前は少し、というかかなり、あざとすぎる」
ただ、その姿が何にもまして、愛らしい。
「へー、なるほどー。――じゃあ、こういうのは、どうです?」
不意に、キスをされた。そしてそれはそのまま引かれ合い。混じり合う。お互いがお互いの一部になって溶けてゆく。貪るような行為が、脳を溶かして行く。
「っぷ、はあ……はあっ、はあ、はあ」
息が続かなくなるほどに激しかった交わりは、始まりと等しく、唐突に終わりを迎え。
二人の荒々しい息だけが世界を支配していた。
「興奮――しました?」
上目遣いに唇の周りを湿らせながら尋ねる彼女の赤らんだ頬は、そのままかぶりつきたくなる程に、官能の色を孕んだ、これ以上ない程の、蠱惑。
「だから、言わせんなっての」
「そうでしたね」
いやらしく笑うその瞳を、その体を、滅茶苦茶にしてやりたい。
そんな快楽的欲求にこの身が染まる、その、最中――。
「あっははははは、ねえ見て、あそこでクソエドがキスしてるわよ、なにあれーおっかしいなー、おっかし、……は?」
なんだか聞き覚えのある酔っぱらいの声が……。
すると、
「あー、おにーちゃん、ここいイたー! あれェ、でも、おかしいね? おかしーネ? なんでヤヨイイガイのコとヤってるノ? キョーはまだ、ヤヨイだって、ヤってないのに……。ねェ、おにーちゃん、ヘンだよね……? ソレ? ネェ……?」
聞き覚えのあるキチガイの声が……。
はたまた。
「おい、バカエドォ、てめえ、アタシの名前勝手に使ってあちこちの店でツケてやがったらしいな? それも端金ならよかったものを、随分とまあ、しかも飲食代よりもォ、風俗代の方が溜め込んでると来た。オイ、バカエド、てめえの女の金で、他所の女としこたま気持ちよくなる気分はどうだったァ? さぞかし素敵な夜だったんだろうなァ!!!!」
忘れもしない氷姫の声まで……。
更には。
「貴方、あの後アンジェリカから聞いたのですが、あれだけではなく、恒常的に薬物を使用しているらしいですね……! 貴方を甘やかしたのは失敗でした……。よって、今ここで、貴方のその腐りきった性根を教育、いえ、殺菌します……!」
嫌というほど聞いたマイエンジェルの声さえ……。
そして。
「おとう、さん。うそつき!」
親愛なる我が子の声も……。
やがて。
五人の美女達が、屋上へと、集う。
そんな彼女たちを眺め、アイは――笑う。
「修羅場ってやつですかー? さすがはエドさん、クズですねー」
「笑ってないで助けてくれ……」
いままでも、こういうようなことは何度もあったわけだが、今回のはメンツがメンツだ。マジで洒落にならん。
「そこで私に助けを求めるあたりが最高にクズって感じですね! でも、いいです。これも、愛故の苦難ですもの! 望むところです!」
その頼りない胸を張り、声を張る。金のアホ毛を揺らして。
「じゃあ、いいですか、みなさん! 最終的にエドさんを所有していた人が、明日はエドさんを使いたい放題ってことで!」
はあ? なんだそれは?!
「異議なし!!!」
「アああァあハあああァハァ……っ!!!」
「いいぜ……」
「構いません」
「うん」
俺の了承などまるで気にすることなしに、各々の肯定だけが響く。
「では、スタート!」
アイは高らかにその始まりを宣言した。
瞬間、
「轢き千切れ――迅速!」
「あそぼ? エレクトリリカル・リパレイド!」
「空ケ――氷惨一刹」
「望まれること無き紅十字!」
「第二の土・殖地!」
飛び交う鍵爪、電撃、氷撃、火煙、岩塊。
こいつあ命がいくつあっても足りなそうだ。
だが、俺には、心強い味方がついている。
その名はアイ。
愛のの名を冠す少女。
彼女は、愛ゆえに笑い、愛ゆえに泣き、愛ゆえに怒る。
そんな彼女を、誰が愛さないと言うだろうか。
「よっしゃ、じゃあいきますよー! ルーラーⅠ、これは、愛の為の、物語で、ある!」
その愛の先に、何があるのか。
既知に円環する永劫では、なくて。
今回の世界なら、俺達でなら、その未知の結末をしれるのかも、しれない。
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