愛する人を失った少年は復讐者になり、そして、過去に戻る

今宵の花

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「シャル!!」

 シャルは、腹部、両腿、そして至る所に遠距離魔法で使われる光弾を受けてノエルの腕の中で倒れている。腹部の光弾は明らかにシャルを至らしめていた。

 シャルが死んだ。昨日までは息をして笑い、笑顔が愛おしいシャルが。

 だが、なおノエルを震えさせるものが視界の中に飛び込んできた。

「なんで、これがここに.....?」

 地面に横になったシャルのすぐ近くに犯行に使われたと思える見覚えのある剣がそこにあった。

 本能が警告をしている。それを触ってはいけないと。

 ノエルは恐る恐る手を伸ばす。

 やめろ、と本能が警鐘を鳴らす。すでにここは【聖女が死んだ場所】になっている。

 ステンドガラスの窓から吹く、生暖かい風は肌を撫でる、嫌な汗が流れ落ちる。ノエルは警告を避けてその剣を手に取る。

 それは、ここにあるはずがないもの、家にあるはずの予備の剣があった。キースと剣の稽古の時過酷な使う込みを経たつかには細かい傷があり、紛れもなくノエルの剣だった。

 なんでこの剣がここに出てきた。【聖女が死んだ場所】で。どうして?

 まさにその瞬間、いきなり教会の扉が開き、金属音がカチカチとこすれる音が聞こえてきた。

「神聖騎士団だッ! 動くなッ」

 後ろを振り向いて見ると、騎士の鎧。ぞわりと背筋に悪寒が走った。

「ち、違う!」

 警告の魔法が通り過ぎる。

 そこでノエルは、剣を握りしめている自分に気付き、慌てて剣を手放す。

 フラッシュの魔法を使われ騎士が走り寄ってくると、いきなり体当たりを食らわせてきた。横たわるシャルから離れて衝撃で腕がなじり上げられる痛みが襲ってくる。

 訳も分からないまま、その場に呻いていると。

 違和感を覚えた。魔法が発動しない。

「捕まえろッ!」

 ノエルは両目をつぶる。

 自分の行動の愚かさに。

 誰かが、ノエルを嵌められたのだった。

 ==============

 ノエルは神聖国にある牢屋の中にいる。

 神聖国の騎士団に捕まって有無もすかさず、牢にぶち込まれた。

 それから、拷問が始まった。

 ノエルの顔を持ち上げて、壁の石に顔を何度も叩きつけられる。口の中をかんだノエルは出血をする。
 牢の壁につながった自分の身体を見て、ノエルは何度も呪詛を吐いた。

 地に額を擦りつけられ、武力と悪意をその身に受け己の行動が罰せられるのを文句が言えるはずもない。因果応報、自業自得、己の弱さをただ嘆いて拷問を耐えることしか今は出来ない。

 それからすでに三日が経っていた。

 最低限の食事と睡眠、そしてそれ以外の全ての時間は拷問にあてられた。

「貴様に客が来ているぞ。」

 憎たらしい顔をした拷問官はその場を後にして、他の足音が反響して鳴り響いた。

「よお、随分とまあ、ボロボロになったな。ノエル」

 牢の鉄格子に仕切られた向こう側で、苦笑いをしているキースがぼやく。

「ノエルと関わっていると、何かと起きて暇になることなんてないな」

「結構、やつれたな?」

 ノエルは肩をすくめる。

「こんな状況でやつれない方がおかしいな。こっちは睡眠と食事以外、取り調べと言う拷問を受けていたからな」

 キースは一瞬虚をつかれた表情をしたあと、口元を吊り上げる。

「思ったより無事でよかった。 その勢いでここを脱走してくれると俺的には助かるんだが」

 キースは悪い笑みを浮かべ肩をすくめる。

 ノエルとキースは牢の鉄格子に向かい合っている。捕まってから三日。

「ノエルの心がとっくに壊れていると俺は思たんだがな。まさか聖女暗殺とはな。相変わらずどうなったらそうなるんだ。」

「殺してない、殺すはずがない、キースは分かっているはずだ」

「そんなのわかってる。自称取り調べの人はどうだった?」

「どうもこうも、話を聞いてももらえなかった」

「だろうな。俺は嘘がつけないからな。単刀直入に言う。お前の死刑は確実だ。」

「そうか」

 ノエルは心のどこかで信じていた。自分がシャルを殺していないのだから、きっと誰かがわかってくれる。真実はそこにあると、と

 希望が絶望に変わるのに時間は必要はなかった。

 苛烈な拷問のすえ、鞭に撃たれ、殴られ、真実を語っても誰も信じないと理解した。

「俺は結構影響力がある貴族だが。あいにく神聖国ではあってないようなものだ」

「お前は今は学生だろ」

「学生であり、貴族だ」

「そうだな」

 真剣な顔に変わったキースが言葉を放ってきた。

「昨日、ノエルの故郷が燃やされた。罪状は聖女暗殺の暗殺者を生み出した呪われた地でだ」

「母さんはどうなった?早く答えろッ!」

 鉄格子を力づよく掴み、近づく。

「聖女暗殺の容疑者である息子の母親が生きていると思うか」

「母さんは関係ないはずだッ!」

「そう、関係ないな。だがな、人間というのは不条理なことが起きると、もっとも合理的な理由をつけてなんとか理解しようとする生き物だ。殺された現場に君がいて、剣を持ったノエルが居て。同様に、立ち入り不可能なあの教会の中にノエルがいる。他に容疑者がいるんだったら、誰だっての話なんだ。神聖国は宗教と同じでそれを悪としたら、何だってする。ノエルがしてないを知っているのは神しかいない。」

「ノエル、最後に聞く。復讐をしたいか?」

「シャル、母さんを殺したすべての奴を殺したい。」

 いままで出したことがないほどのどす黒い声で言った。

「お前の故郷が焼かれたのが早いことやお前が嵌められたこと、この裏にはそこも見えない闇があるがそこにいく覚悟はあるのか?」

「僕、いや、俺の前に立ちはだかる全てをはねのけ、俺の復讐を果たす。俺の命が尽きても絶対に成し遂げる」

 ノエルに聞こえない声でキースは言葉を言う。

「俺はお前の前に立ちはだかるかも知らない」

 二日後、ノエルは罪状が言い渡され、聖女暗殺の罪で死刑だと。


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