夏の星

変態 バク

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46. PM.夏、雨の夜。

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はくしょん!

兄がハンバーガーを食べている途中、急にくしゃみを大きくした。 その音にフライドポテトを食べていたヨルムは兄をじっと見た。

「風邪?」

「いや、急に出てきた」

鼻をすする兄に向かって、夏は軽い冗談を言った。

「誰かが兄さんの悪口を言ってるみたい」

「そうだね。おいしい?」

「おいしい。久しぶりに休むのに、 こんなにこき使ってもいいのか分からない」

「思う存分こき使って。 久しぶりにあなたと出れて私も嬉しい。 ニューヨークに住んでいた時のことも思い出すし」

「そうでしょ?あ、アパートの前にあったハンバーガー屋さんのあそこ。 そこに行きたい。 本当に美味しかったのに」

「あそこおいしいよね、後で行こう」

夏が舌鼓を打つと、兄はにやりと笑った。 韓国に帰ってきて以来、兄が休むのを一度も見たことがなかった。

毎日、家と会社だけ行き来する兄に、夏はハンバーガーを買ってほしいとわがままを言った。

午後遅く、兄の部屋をうろうろしながらハンバーガーが食べたいとつぶやくと、その姿が可愛かったのか、兄は夏を連れてここに来た。

有名な手作りハンバーガー店だと言っていたのに、30分も並んだ。 長い間待った末に味わうハンバーガーはおいしかった。

そして久しぶりに兄とこんな時間を過ごせて楽しかった。

「それで?そろそろ決めないと」

「……そうでしょう?」

主語が省略された言葉だが、ヨルムは兄が何を言っているのか気づいた。 訳もなくコーラを飲みながら

兄の視線を避けた。

「長く引っ張るとあなたも大変じゃないか、きれいに整理することはしないと。 私がこんなことを言ったからといって、寂しく思うことはないか?」

「寂しいことは…」

むしろその反対だった。 引きずっている夏を厳しく叱ってくれると、ぱっと気がついた。 にやりと笑いながら、残りわずかの冷めてしまったフライドポテトをじっと見た。

「…兄さんだったらどうすると思う?」

「そうだね、一応私とあなたは性格が違うから。 もちろん私だったらあんまり。 かっこいいこと以外にメリットは何があるの? 頭がいい、男らしい、いっそのこと、あいつよりその医者の方がずっとましだった」

「医者?」

医者という言葉に夏は首をかしげた。

「イ·スンジェ。知らないの?」

「あ」

その人はまたどうやって知ったの? ヨルムが不思議そうに見つめると、兄はコーラを飲んでいる途中、素早く釈明した。

「裏調べをしたのではない。 ユ·ハンビョルを見に行ってちょっと会った。 あなた 心配していたよ」

「いつ?」

「その次の日。 あなた 連絡が来ないんだって」

あっ、あの日。 夏は空しげに笑った。 これをどうしよう。 兄はイ·スンジェがかなり気に入った様子だった。

「連絡してるの?」

「終わったよ」

「そうなの?」

驚いたように眺めた兄と出くわした視線に、夏はぎこちない笑みで満たした。 訳もなく喉が渇いてコーラを飲み続けたらすぐに空になった。

「兄さんもコーラのおかわりしてあげようか?」

「うん、頼むよ」

兄と私のコップを持ってカウンターに行った夏は、コップを渡してため息をついた。 このようなテーマで兄と対話するのがまだ不慣れだった。 とにかく、兄の言う通り、これからどうすべきか決めなければならない時だった。

兄があんなふうに乗り出すのも気が短いユ·ハンビョルが催促した可能性が大きかった。

ユ·ハンビョルが嫌いなわけではないが、だからといって再び付き合う勇気はなかった。 一ヶ月間、あいつをそばで見飽きた結果、今までどうやって生きてきたのか大体分かるような気がした。

知られたことよりさらにめちゃくちゃに生きたユ·ハンビョルを果たして耐えられるだろうか。 容易に判断がつかなかった。

しかし、お互いに望んでした別れではないので、奴にも最後の機会は与えなければならないのではないかと思う。

これがここ数日の熟慮の末に下した結論だった。 李スンジェも見送ったところで、これ以上後悔するようなことはしたくなかった。

ヨルムがおかわりしたコーラ2杯を持って席に戻ると、兄の表情がなんとなく暗かった。 彼は夏が座る前に深刻な表情で尋ねた。

「ベク·ソヒさんがあなたに別に連絡するの?」

「え?」

突然の質問に慌てた夏はテーブルの上にぽつんと載せられた私の携帯電話を見た。 しばらく席を外している間に彼女からメッセージが来たようだった。

「もしかして私の見た?」

素早く携帯電話をひったくろうとしたが、兄の手がもっと速かった。 どうやら彼女のメッセージを兄が見たのは確かだった。

「言ってくれ, 連絡してくれ」

「…何、たまに?」

「さっき見たら、大したこともないことを言っていたよ。 合ってる?」

その日を基点に変わったのはハンビョルだけではなかった。 どうやって知ったのか、ペク·ソヒがヨルムに一方的にメッセージと電話をかけた。

大半が暴言ととんでもない脅迫が主な内容だった。

私の息子が急におかしくなったのはあなたのせいだと。 会社代表の次男がゲイだということを広める。 ハンビョルから離れろという内容がほとんどだった。

今まで無視したが、兄が内容を見たこの状況にこれ以上隠すことができなかった。

「そうだよ」

「放して」

怒った兄は、夏の携帯電話を差し出し、暗証番号を解除するよう命令した。 このような強圧的な姿は初めてだった。 仕方なく暗証番号を解いて渡すと、兄は彼女が一方的に送ったメッセージを確認した。

「はぁ…」

ある日は早朝。 また、ある日は遅い夕方。 あるいは夜明けに電話とメッセージが絶えず来た。 正直、ユ·ハンビョルの連絡より彼女のメッセージがさらに夏を困惑させた。

彼女のメッセージを確認していた兄が怒った表情で夏をじっと見た。

「こんなものが来たら、お兄ちゃんに言うべきだった!」

「やめるだろうと思ったが…」

「よくもそうだろう。 受信拒否でもすればいいのに、どうしてこんなことをするの?」

"そしたら、知らない番号でまた来るし、また来るし。 ほとんど放棄というか。」

間違ったこともないのに、訳もなく兄の顔色をうかがっている時、タイミングよくメッセージが来た。 また、彼女かと思って兄の反応を見ていたヨルムは、彼が悪口を言う声を聞いた。

「どうかしてる」

奴?

「こいつもあなたにこんなの送るのかい?」

兄が舌打ちをしながら携帯電話を出したその瞬間、夏は顔がぱっと熱くなった。「夏よ、ごめんね」と書かれた表札を持って悲しそうな表情で自撮りを撮ったユ·ハンビョルの写真が画面をいっぱいに埋めた。

「どうしてこんなのがワールドスターなんだ、どこを出しても恥ずかしい。 私が」

夏は私の代わりに怒ってくれる兄がありがたくて良かった。 そんな兄を見てにこっと笑っていると、彼が厳しく一言言った。

「笑うな」

「へへ」

言葉はああだとしても兄が自分をどれだけ好きなのか夏は知っていた。

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