ベタな展開はお断りしたい悪役令息

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5歳編

5.真面目で空虚な王子①(ジュリアン視点)



 ──なにも感じない。心は動かない。おれの見ている景色には色がなくなりつつある。

 おれ、ジュリアン・セラフィナはセラフィナ王国の第一王子として産まれた。今よりも小さい頃は、偉大な父王に憧れ、尊敬の念を抱き、自分もいつかこの父のように立派な王になるんだ! と胸弾ませて過ごしていた。

 ……おれは、どうも人よりも他人の感情の機微に聡かったらしい。物心ついた頃から、王宮で出くわす人々の、口から発する言葉とそれに伴う感情が一致していないことに、説明できないモヤモヤとした気持ちを抱えていた。

『ジュリアン殿下は大変よくお出来になられますね』
『将来に期待できますなぁ』
『御姿も今からもうすでに整っていらっしゃるわね』

 口から吐き出される言葉と、肌で感じる雰囲気のような何かが違う。おれは恐ろしくて、人が恐ろしくて、その頃は家族以外と話すことすら嫌だった。

 少し成長して、王族として教育を受けるようになり、人はみな話す言葉と本心が同じではないということを知った。父上と、母上と、幼い弟。そして侍従長のクラウス、乳母のミレイ以外の人を信用できなくなった。
 六歳になる少し前に養育係ガヴァネス教育係チューターが来た。この二人からは、おれを王族として、第一王子殿下として、きちんと養育・教育をするという矜持のようなものが感じられ、結果いわゆる表面的な称賛をしなかったため信用できると思えた。

 媚びを売るような声音も、うわべだけの称賛の言葉も、何もかもが煩わしく恐ろしい。誰の言葉も信じられない。おれの世界は少しずつ灰色になっていった。

 そして、六歳になり王子宮に移る頃には、おれ自身もあんなに嫌悪したうわべだけの言葉と表情を纏うようになっていた。父上や母上が心配しているのは感じていたが、自分でもどうにもできなかった。


◇◇◇


 六歳になったことで、おれのお披露目が開催される運びとなった。家族や信頼のおける数人以外との接触は非常に憂鬱だったが、王族の務めとしてしっかりと果たさなければならない。おれは次期王太子候補として憂鬱な気持ちに蓋をしてお披露目に臨んだ。

「ただいまより、セラフィナ王国第四代国王、レオニダス・アレクサンドル・セラフィナ四世陛下のご入場を賜ります。
 続きまして、王妃エレオノーラ・セラフィナ陛下。
 そして、第一王子ジュリアン・セラフィナ殿下のご入場でございます」

 宰相の声が、誰もいない大広間に響き渡る。
 程なくして大広間の扉が開き、下位貴族が順番に入ってきた。
 その後、一部の主要な伯爵家からの王族への挨拶が始まる。あぁ、やはり誰も彼も言葉と感情が一致していない。全てが薄い水の膜を一枚隔てたように感じる。
 おれ自身も気持ちとは裏腹の表情と言葉で返事をしていった。早く終わってほしい。

 そうして辺境伯家、六侯爵家と入場・挨拶が続き、我が国にとって最も重要な四公爵家の入場が始まった。

 まずは東公爵・ルヴェランス公爵家。ルヴェランス家は代々、宮廷学士や大司教を輩出する名門である。

 ルヴェランス家の挨拶が終わり、次に西公爵・フォルティア公爵家。フォルティア家は歴代でも特に軍事に秀でた名家で、騎士団長や将軍を多く輩出している。

 そしてフォルティア公爵家の次は南公爵・エルセリオ公爵家。エルセリオ家は代々、外政や文化を司る公爵家であり、芸術家や音楽家の保護にも力を入れている。

 最後に、北公爵・グレイヘイズ公爵家。グレイヘイズ家は代々、王国の学術・経済・軍政において重鎮とされ、特に“内政の守護者”として信頼される存在だと聞いている。
 口数は多くないが堅実な仕事をする家として、王からの信頼も厚い。まぁグレイヘイズ家は力がありすぎる故に、貴族として王家に忠誠は誓っているもののあくまでも中立という体裁を取っているらしいが。

 グレイヘイズ公爵家は領民との信頼関係も極めて強固で、“静かに、しかし確かに国を支える”ことを家風としているらしい。

 宮廷では控えめながら品格のある立ち居振る舞いで、知性と実務能力を兼ね備えた一族と評される。確かに、公爵家当主を見ているとその評価はあながち間違いではないと感じられる。

 ふと目をやると、ひときわ小さい子どもの姿が見えた。あれは……グレイヘイズ家の次男だったか。おれより歳が一つ下だと聞いたな。なるほど……何か……父親と兄は目立つが──弟は地味だな。
 それが、おれがエリオットに抱いた第一印象だった。たったこれだけ。のちにその印象は全てひっくり返されるなどと、このときのおれは夢にも思わなかった。
 この、地味で小柄な子どもによって、おれの世界は再び色付くこととなる。
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