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5歳編
6.真面目で空虚な王子②(ジュリアン視点)
グレイヘイズ家の小さな子どもが歩いているのを、見るともなしに見ていた。おれたち王族のいる壇上に近付くにつれて、その姿や表情がはっきりとわかる。
……ちょっと、なんか、緊張しすぎというか、緊張しているのが分かりやすすぎないか? 他の公爵家や侯爵家の同じ歳くらいの子どもたちは、もう少し貴族然としていたように思うが……。大丈夫なのか? なんだか目が離せなくてつい見てしまう。
グレイヘイズ公爵家の面々が、壇上を上がりおれたちの前に立つ。子どもは……なんだかものすごくおれのことを見てきていないか? 人の顔をじっと見るのは貴族社会では失礼にあたると教わっていないのか?
あ、逸らした。なんなんだ、この子どもは……そんなことでこれからやっていけるのか?
……なぜおれが初対面の子どもの心配をしているのだろう。この子どもを見ていると調子が狂う。いつもなら気にもとめないはずの存在なのに、無意識に視線が追ってしまう。
あと、それはそれとして当主と長男の様子も何か……周囲にはバレないように子どものことをものすごく気にかけているな。
そこまで考えてふと気付いた。
この子どもを含めたグレイヘイズ公爵家は、他の貴族たちとは違いおれへの媚びへつらう感じが微塵もない。
王族の前に立つ人間は、たいてい機嫌を伺うような怯えたような、それでいて媚びたような……皆、似たような顔をする。
でもこの一家には、それがなかった。
公爵夫妻はへりくだった態度ながらもこちらを気遣うような雰囲気が見て取れる。嫡男のヴィルヘルム卿は……うん、こちらをまっっっったく気にしていないな。弟ばかり気にかけている。
そしてその弟である子どもは、緊張しかない。おれに取り入ろうなんて雰囲気は微塵も感じない。なんなら、もしかしてだが早く帰りたそうな感じすらある。
早く帰りたい。その気持ち、とてもよくわかる。おれも同じ気持ちだったから。
でも今、不思議なことに、おれはこの子どもと話してみたいと思った。いま何を考えているのか、おれのことをどう思っているのか、同じ気持ちだと伝えたら、どんな反応をするのか。
子ども……いや、エリオット・グレイヘイズ。不思議な魅力のある子どもだと認識を改めた。
生まれて初めて、身内以外の人間に興味がわいた瞬間だった。
それがどれほど特別なことか、この時のおれはまだ知らなかった。
エリオットが挨拶を盛大に噛んだとき、おれは自分で気付いていなかったが、今まで全く崩れなかった表情が盛大に崩れていたらしい。
思い出すたびに少し笑ってしまう、おれの大事な思い出の一つになった。
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