触れるな危険

紀村 紀壱

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2部 本編のその後の話

2部 6話 意識をずらして活路を開け

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 夢心地のまま、瞼を擽るフワフワとした感触にシャルトーは頬を寄せた。
 短いくせに柔らかな毛並みへ、鼻先を突っ込めば湿った汗の香りがして、洗濯をしなければと微睡みながら思う。
 しかし同時になんとなく癖になる匂いだと、まるで犬の様にフスフスと鼻を鳴らし。もっと毛皮を引き寄せようとしたところで、手に触れた自分ではない人肌にシャルトーの意識は急浮上した。
 そうして視界に広がる馴染みの自室と見覚えのある丸い頭部と旋毛。肌に纏わり付く湿った寝具と絡んだ手足と体温に、思わず目をつぶって、開いて。
 視界も感触も先ほど変わりが無いことに、溜め息を飲み込んだ。シャルトーの頭をぐるぐると回るのは昨晩の記憶と、ほんの一ヶ月程前の記憶だ。
 一瞬、今が一体いつなのか理解が追いつけなかった。それくらい現在のシチュエーションには覚えがある。
 そろり、と息を潜めて身体を起こす。
 改めて自分が抱き込んでいたモノ――ギィドを見下ろして。

 ――コレは駄目アウトだろ。

 全くもっていつぞやの既視感デジャブだ。
 一ヶ月近く、ギィドのご機嫌取りに奔走する事になった出来事と、まったく同じ状況に陥った……いや、状況を省みるとはるかに悪化した現状に、シャルトーは焦りを一周通り越して逆に冷静になりながら判断を下した。
 グチャグチャの寝具も、ぐったりと深く寝込んだギィドも、前回よりも酷い有様だ。
 そもそも、と窓の外を見る。
 ギィドがやって来たのは宵の口だったはずだ。なのに窓の外から差し込む陽はどうして傾きかけているのか。思い出すまでも無く、明るくなった室内で弄り倒して赤く腫れたギィドの乳首が己の唾液で、てらてらと濡れて光っていたのを眺めながら腰を振っていた記憶があるので、夜が明けた後もダラダラとヤッていたのは間違いない。
 それから寝たのはいつで、今は何時だろうか。

(ひとまず、後始末しとくカ)

 考える事は沢山あるが、とりあえず手を動かして、ギィドが目覚める前にマイナスを少しでも改善しておく必要があるだろう。
 床に落ちたズボンをおざなりに穿いて、どろどろの寝具を引きはがしながら、比較的きれいなシーツの端っこでギィドの汚れをぬぐう。後は濡れタオルでもう一度拭けばそれなりに繕えるはずだが。

「ヤバイ、まだ出てくる……」

 ほんの少しギィドの身体を動かす度に、くぶ、と小さな空気を含んだ湿った音と共に、ギィドの後孔から注いだ白濁がとめども無く溢れ出てくる。
 昨日まで苦しんでいた引きずるような身体の重みや頭痛、不快感といった不調はきれいさっぱり無くなった代わりに、今までヤリ過ぎた時でも感じたことの無い腰のだるさがあるが。
 一体どれくらい出したとか。そもそも一晩でこんな馬鹿みたいにヤッた事なんてない。
 よく見たらうっすらと、ギィドの下腹部が膨らんでいるような気がして、シャルトーは口の端を引き攣らせた。
 このまま気づかなかったフリをしてしまいたいが、確実に不味いことになる未来が目に見えている。
 天秤にかけた結果、どちらへ傾いたなんて言うのは今更の話だ。
 ギィドの弛緩した重い身体を慎重にうつ伏せにして、腹の下に汚れたシーツを突っ込み、足を開かせて片方ずつ膝を折り曲げる。
 まるで蛙が潰れたような、尻を突き出す体勢に僅かにギィドが呻くが覚醒には至らない。
 本来は筋肉はついているが、丸みを帯びていないはずの男の尻は今は血行が良く赤らんでいる。
 足を開かされた双丘の奥もまた、昨日何度もシャルトーの肉杭で穿りかえされソコは縁が腫れて、僅かに縦に広がり少し膨らんでしまっている。初めて見た時と違った様相に、まさかこんな形にしてしまった事がギィドにバレたら絶対にぶち切れるだろうなと思う。
 多少、ギィド自身も違和感ぐらいは感じているだろうが、ココの形がどうだったかなんて普通は知らないだろう。だからなるべく遠い遠い未来まで気がつかないでいて欲しい。そう言う所では一層ずぼらであって欲しいなんて都合の良い事を考えながら。
 膨れた後孔に指を二本、確かめるように触れれば、そこは指を難なく飲み込んだ。
 少し湿らせた方が良いかな、なんて配慮を浮かべた事など鼻で笑えるほどに柔らかく熟れてぬかるんだ肉の中。指を広げる形に動かせば、奥からトロトロと、白濁が際限なく滴った。

(いくらなんでも俺、どれだけ出したノ……?)

 己の事ながら――自分の事だから余計に引いて思わず回想しそうになるが、頭をふって余計な事は考えずに、掻き出す作業に集中する。じゃなければ、ギィドは未だ眉間に皺を寄せて昏睡しているのに、胎内が指の動きにゆったりと絡むように脈動して、時折ヒクっと腰を揺らすモノだから、思わず昨日苛め尽くしたシコリを押し上げたくなるのを我慢するのが大変だった。
 昨日の今日というか、ほんの数時間前までやっていたおかげか、賢者タイムの股間は大人しいモノだが煽られれば人間クルものはあるので。
 刺激に細かく震えるギィドの太ももをお仕置きとばかりに一度だけ噛んだのはご愛嬌だ。



 ――良くもまぁ物理的な抵抗がなかったからとはいえ、好き勝手に出来たものだと、なんとかギィドの後始末を終え、シャルトーは唸る。
 明らかに何かしらの「おかしな」作用が自分にも、ギィドにも働いていたが、昨晩は互いに発情した獣のようだった、とベッドから少し離れた位置に置かれたソファで、気に入りの毛皮に埋もれつつ、シャルトーは今は服を着せたギィドの身体を思い出す。
 つい反応の良さに興奮したとは言え、噛み痕やら鬱血の痕やら、力加減の効いてない手形やらが胸やら腰やら尻やら腕やらにべったりな姿は壮観だった。
 1回目の二の舞にならぬように。
 2回目は慎重にというかハードルを下げた状態で、抵抗感を薄めるように挿入なんてのは我慢して、ガキみたいな触りっこからそのうちなし崩しに的な長期戦を狙っていたが、どう考えてもまたもや計画が総倒れだ。
 1回目の再来どころか、攻略がウルトラハードモードになった気がしなくもない。
 頭の中で「むしろ攻略不可能では」なんて冷静な声がするがそんなのは聞こえないふりをして、シャルトーは手の中の毛皮をグシャグシャと掻き回す。
 前回と同じように一旦姿をくらます事も考えたが、流石に同じ手は何度も使えない。しかも立て続けなんて良策ですら愚策に成り下がる悪手だ。
 それに目覚めてから少しばかり気になる点があって情報の摺り合わせというか、確認したいというのもあった。
 故に、今回は逃げも隠れもせずにギィドの目覚めを待っているわけだが――

「マジで起きねぇなオッサン」

 いつの間にか窓の外が赤く色づき、段々とその色を暗くし始めている。
 後始末をしている際にも身体をひっくり返したりしても僅かに唸るくらいで思いのほか眠りが深いとは思ったが。
 ヤりまくった影響か、それとも魔力の還元による副作用か、はたまた元々眠りが深いのか。
 普段は家であまり飲み食いすることも無いしここ最近は体調不良で蓄えもすっかり尽きていたから、唯一見つけた酒を手持ち無沙汰に直接口をつけてチビチビと飲み、シャルトーはつらつらと考える。
 酒の肴がギィドの寝顔ってナニコレしょっぱい、と思いながら、さっさとギィドを揺り起こさないのは、これ以上機嫌を損ねるような事をしたくないからだ。
 決して目覚めたギィドとのやりとりをうまく乗り切れるか微妙で怖じ気づいているとかそんな事は無い。ちょっとばかり、ギィドじゃないが面倒くさいなと思っている、それだけだ。本当に、それだけだ。

「いっその事、目が覚めても相変わらず魔力的な副作用で発情したまんまだったら笑えルのに」

 もともとはギィドが乗っかってきたのが始まりだ。その辺の話でどうにか立場のマウントを取れたら。……いや、逆効果だ。でも最後の方はずっと中イキしてたし、あながち癖になったらハマる奴も多いとか聞くから、ギィドもハマってしまったら上手く丸めたりしないかナ。しない、かなぁ……なんて、シャルトー自身、あり得ないと分かっている現実逃避をしながら。

「てめぇ、ぶち殺す……」
「だよネ」

 目覚めて、シャルトーを視界に入れた瞬間、鳥肌が立つような殺気を放ち、掠れた低い声での宣戦布告にシャルトーは天を仰いだ。
 分かってはいたが、ため息は漏れる。そこにギシリ、と軋む音。

「あ゛ぁ!? なんだよこれは……!!」
「とりあえず、話し合いをしようヨ」
「ならこの紐を解けよクソがっ……!」
「だって、アンタ絶対殴るし逃げるじゃン」

 備えあれば憂い無し。
 ギィドの目が覚めて、いつも通りだった場合。ブチ切れて殴りかかってくるか、立ち去って関わりを絶とうとするだろうと目に見えていたから。
 そのどちらも出来ないように、ギィドの手と足をババァ特製のより紐で縛っておいたのだ。
 小指の太さもない割にナイフを使っても切れない紐を、無駄に力任せに引きちぎろうとして、裂傷をこさえて更に機嫌を損ねたくはないので、一応、紐と肌の間に布を噛ませるという配慮付きだ。
 予想通りだというのは若干虚しさを覚えるが。頭に血が上っている間は話しを聞いてくれないだろうし、冷静になったら今度は物理的に距離をとって話を聞いてくれないだろうから苦肉の策だ。
 無視をしようにも出来ないようにするしかない。

「アンタが怒るのは分かるし、後で殴られるから、ひとまず話をしない? 正直、昨日の俺とアンタは『おかしかった』し、俺も戸惑ってるんだけど」
「……」

 頭に血が上っている相手への対応は難しい。一発くらい殴られても良いが、自由にさせたら逃げられるから、ここは努めて冷静に、なるべく平坦な声を心がける。決して煽らないように下手に出て、むしろ別の問題点を提示して、そちらに意識を向ける。
 この状況にコッチだって参っている、困惑しているのだという雰囲気を出せば、もともと激情型でもなく、ギィドは比較的切り替えが得意だ。
 案の定、首まで紅くして怒り狂っていたギィドは非常に不服で不機嫌そうだが一旦怒りの矛先を収めて。
 ぐうっと口を引き結びながらも、手足の紐を振り解こうとする力を抜いた。

「話すって、何をだ」
「昨日のアレって魔力の返還だよね? ナンデあんな事になったのか、ギィドは心当たり有ル?」
「ある訳ねぇだろう……!」
「うん、だから問題なんだよネ。何が原因が分からないままだとお互いに困るでしょ」
「……」

 一瞬ヒートアップしかけたギィドにヒヤッとしながら。
 また問題定義へと水を向けたシャルトーの言葉にギィドがまたぐっと怒りを飲み込んだ瞬間(よし、イケる)とシャルトーは心の中でガッツポーズをした。
 昨晩のような状態に陥るのは、ギィドとしてはたまったもんじゃないだろう。
 シャルトーとしてはまんざらでもないが、しかし発動条件が分からないのは困る。
 恐らく魔力の返還という作業が関係しているだろうが、イレギュラーな出来事だったのか。
 ウォルトから魔力の返還作業は難しいとシャルトーは聞いていたのだ。ソレなのにギィドは特殊な事をしている様に見えなかったし、今回の事も想定外という様子だった。
 ならば何かしらの例外が自分たちの身に起きている。
 ソレを解決するのが今一番しなければいけない事だと、判断を下すギィドの冷静な所を依頼を受けた時なんかの立ち回り的に好ましいと思うのと同時に、今は利用させて貰う。

「ところでアンタはなんか不調とかある?」
「……ケツが痛てぇ以外は、別段そう変わらねぇな」

 ムスッと口をひん曲げて言うギィドの言葉にそれはそうだろうな、と苦笑をかみ殺しながら。
 じゃあ【コレ】は俺だけか、とシャルトーは思う。
 目が覚めてから。
 妙にフワフワと、まるで視界が揺らいでいるような気がしていて。
 目が霞んでいるのかと思ったが、注意深く観察すればそれはギィドの周りにまるで湯気が立ち上っているというか、蜃気楼のような景色の揺らめきが見えているのだ。


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