あなたとわたくしの執筆業!~他人に書かせたけど著作者人格権ごと金で買い取ったのでわたくしの作品ですわ~ッ!~

月這山中

文字の大きさ
7 / 17

第6話 コンセプトで貫く!

しおりを挟む

 鳥琉がコピー用紙を叩き返す。

「ボツだ」

 得名井のコンセプトシートはこれで三十回、ボツにされた。
 映画化と同時に得名井の小説を出版する計画だが、その映画原作が決まらない。

「あのな得名井、この俺に甘ったるい恋愛映画でも撮らせる気か」
「別にいいだろ、恋愛要素は。金色夜叉がダメだっていうのか!?」
「手前を尾崎紅葉だと思ってるのか傲慢にもほどがある」

 ナナが戸を開けて入ってきた。

「デザイン画ができましたよぉ」

 執筆部屋の隣にナナの工房ができていた。絵具まみれになったナナが画用紙の束を座卓に置く。

「原作が決まってないのに絵ができたの?」
「順番なんてぇ、どうでもいいんですよぉ、ナマケモノさん」

 絵を描き続けることによって脳内物質が分泌、ハイになったナナは熔けたような口調になっている。

「………」

 繊細な極彩色で描かれたデザイン画に鳥琉が釘付けになる。
 はっ、と己を観察する二人に気付いて、鳥琉が咳払いをした。

「フン、腕は確かみたいだな」

 ナナが自身を掻き抱いた。

「セクハラーッ!」
「は!?」
「セクハラです! イヤッ! イヤッ!」

 青い顔でナナが叫ぶ。

「絵を褒めただけじゃねえか!」
「ナナにとって絵は分身なんです! それをペリカンさんはいやらしい目で!」
「てめえ人見て言ってるだろ! だいたいなあ!」

 口論が激化する。得名井はあわあわと見ている事しかできない。

「昼食でありもす」

 田中が三人分の箱膳を持ってきた。
 騒ぐナナと鳥琉を眺めて、両者の首筋に手刀を入れた。

「あうっ」
「いっ」

 気絶した。



 筧ナナはイラストだけではなく、デザイン画、漫画、絵本、あらゆる絵で構成された作品をアシスタントを使うことなく超一級クラスで仕上げることができる。
 ただ絵を描き続けなければ彼女の精神はもたない。
 かつて絵本制作の打ち合わせ中に「手を止めてください」と落書きを諫められたことが原因で、失踪したのである。



「一旦落ち着こう」

 得名井は言った。
 昼食を終えた三人は座卓を囲んで座っている。ナナにはクロッキー帳を渡した。

「ごめんなさいペリカンさん。ナナの偏見でした」

 しょんぼりと頭を下げながら、しかし手を止めることなくナナは言う。

「俺だって妻子に逃げられて反省してんだよ。今後絵を見る時は気ぃつける」

 鳥琉は無精髭をいじりながら、坪庭に視線を投げたまま言う。
 得名井は再確認する。

「メディアミックスが共同作業である以上、互いの作品を丹念に読み込むのは必要なことだ」
「はたしてそうかしら?」

 柱に背中を預けた潔子が言った。

「なんだよ潔子」
「レイアース、ゲッター、パトレイバー……売れたメディアミックス作品は往々にして、漫画アニメ小説それぞれでまったく設定や展開が異なっていたりするもの」
「いやまあ、確かにそうだけど」

 例がロボに偏ってるな。日本沈没とかじゃないんだ。と得名井は思ったが黙っていた。

「スタンドプレーから生じるチームワーク。すり合わせることなく進めても、よろしいのではなくって?」

 得名井は目を見開く。

「それってつまり、二人に僕の原作を無視しろ、っていうことか?」

 得名井の心に火がつく。
 自分の創作物が読まれない。これほど作家のプライドを傷つけるものはない。

「だいたい映画と同時出版なんて、本当に本が売れるのか? メディアミックスなんてギャンブルみたいなものじゃないか!」
「それは違いましてよ得名井! 映画が傑作だろうが駄作だろうが、本は売れる!」

 潔子の言葉に「駄作ってなあ」と鳥琉がぼやく。

「そしてあなたたちの作品は必ず世間を揺るがす! 凡作では終わらない! 約束された勝利ですわ!」

 潔子は断言した。それはスーパーポジティブな性格から来るものでありながら、自分が買い集めた作家たちを信頼していなければ出ない言葉だった。

「だけど『同一の作品である』と言うためにはコンセプトを決めよう。それだけは僕に任せてくれないか」

 潔子は妖しく笑う。

「その意気よ、得名井」

 得名井は考える。

 ナナと鳥琉はチームメンバーでありながらライバルだ。
 まったく方向性の違う三人の作品を纏めるには、力強いコンセプトという武器で二人を貫かなければならない。
 キーボードを叩く。取り留めのないアイディアの奔流を掴み、選別し、研ぎあげていく。

「できた」

 得名井はノートパソコンを二人に見せる。

「ファンタジーで行きましょう」

 鳥琉とナナが覗き込む。
 コンセプトシートに二人の視線は釘付けとなった。

 個性豊かな仲間たちとの友情、ドラゴンとの戦い、謎多き歴史。
 王道、それでいて斬新な設定もある。
 世界は厳しく、それでいて優しい。
 懐かしさと新しさを同時に感じることのできる作品。

 この物語に二人は。

「ボツだ」
「ナナは恋愛モノが描きたいです」

 得名井はノートパソコンを投げ捨てた。

「なんなんだよ!」





 その後五十回のボツを食らい、現代恋愛モノが選ばれた。


  つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。

くずもち
キャラ文芸
楠 太平は模型作りが趣味の高校生である。 彼には昔から妖怪という普通の人間には見えない存在が見えているのだが、それはそれとして楽しく暮らしていた。 そんな太平の通う学校に、神木杏樹という転校生がやって来る。 彼女にも実は妖怪が見えているらしいのだが、どうやら彼女は妖怪が見えることを持て余しているらしい。 そんな神木さんに見えることが速攻でバレた楠 太平はマイペースにやっていくつもりが、彼女のペースに呑まれてゆく。

処理中です...