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第7話 俳優デビュー!?
しおりを挟む「主演の男はオーディションを開くが、ヒロインは別だ」
鳥琉は言った。
「俺に若い娘のオーディションなんざ開けないからな。適当な新人をそっちで見繕ってくれ」
「わたくしが出ますわ」
「お前が?」
潔子は自信満々に決めポーズを取った。
「この美貌、あふれ出る才能、なによりお金持ち。間違いないですわ」
鳥琉はしばらく考えていたが、ヒロインの演技力は編集でどうとでもなる。それだけの映像作家としての力が鳥琉にはあった。
「いいだろう」
「カメオ出演ですわ! オーッホッホッホッホ!」
作者が自分の作品に出演することをそう呼ぶ。
上機嫌の潔子に対して、得名井は不思議な気分だった。
自分が書いた恋愛物語を潔子が演じること、得名井には願ってもないことだ。
しかしなんだろう、このモヤモヤした気持ちは。知らない男性と並ぶ潔子を想像するだけで込み上げてくるこの感情は。
「僕も、オーディションを受ける」
得名井は手を上げていた。
主役候補たちが集められた会場に得名井は居る。
一応手鏡を持ってきたが、長年染みついた下瞼の隈は取れず、整髪料で寝癖を直すだけに使った。場違いにもほどがある。得名井はため息をついた。
隣の男性アイドルが話しかけてくる。
「緊張するよね。お互い頑張ろう」
のど飴を渡された。
この男、顔が良くて性格まで良い。得名井に勝ち目はない。
「12番から15番の方、お入りください」
部屋へ呼ばれた。
扉をくぐる得名井たち。審査員席に座っているのは、扇子で顔を隠した潔子と、プロレスラーのマスクで顔を隠した鳥琉。
席に着く。
「では自己紹介から」
「はい!」
輝いた瞳の男たちが続々と自己アピールを続ける。
得名井は緊張しすぎて吐きそうになっていた。
「14番、池輝暖詩《いけてる だんし》17歳です。本日はよろしくお願いします」
さっきののど飴の貴公子だ。
「15歳で上京して、俳優スクールに通っているところを今の事務所に拾ってもらいました。顔だけのアイドルではなく一人の俳優として映画に貢献したいんです」
努力家で真直ぐ。得名井に勝ち目はない。
だがここで怖気づいてはならない。得名井は意を決して立ち上がる。
「15番! 得名井太郎17歳です!」
「元気がいい! 合格!」
潔子が叫んだ。
「もっとちゃんと見ろよ!」
得名井も叫んだ。
「池輝くんいいやつだろ! 彼に機会を与えてやれよ!」
「では14番も合格!」
「YESマンかよ!」
のけぞって床に頭を打ち付けた。顔の良い男たちがざわめく。
潔子が扇子で己の手を叩く。
「わたくしは自分の審美眼を信じているだけ! 得名井の目はわたくしの目! ですわ!」
鳥琉が変声機付きマイクを持った。
「恋愛映画にドロドロの三角関係は付き物だ。トリプル主演でも俺は構わない」
「だから僕の原作を勝手に変えるなって!」
せっかく整えた頭を得名井は掻きむしる。
「原作……君、原作者なの?」
はっ、と振り向く。得名井の様子を池輝は見つめていた。
池輝はぐっと目をつむり、そして開いた。星の輝きが得名井を襲った。
「自分の作品に出るためにオーディションを受けるなんて、オレは素晴らしい人と知り合えた。よろしく太郎くん」
困った。非の打ちどころのないイケメンだ。
流れで二人は固い握手を交わした。
鳥琉は変声機付きマイクと拡声器を一緒に持とうとして、ハウリングを起こす。
「えー、合格者以外の方はお帰りください」
オーディションは終了した。
候補者たちは首をかしげながら帰っていった。
「総合コーディネーターを買いましたわーッ!」
メイキャップアーティストかつ服飾界の大物、煙管泰山《きせる たいざん》が現れた。彼は従業員へのパワハラ問題によってたびたび訴訟を起こされ、自分の会社を二度畳んでいる。
頭から爪先まで全身が奇抜な色彩で、まるで南国の鳥のようだ。
「やだブサイク! あと5キロ痩せてから出直してきて!」
得名井への言葉は厳しかった。当然である。
泰山は池輝のほうを向く。
「よろしくお願いします!」
「薄っぺらい! 7キロ太りなさい!」
潔子が泰山の前に出る。
「わたくしは!?」
「アンタは演技の勉強でもしてなさい!」
泰山は誰にでも厳しかった。
得名井は体力作りを兼ねたダイエットを始めた。
執筆の合間に田中のメイド業についていき、広い屋敷を掃除し、大量のシーツを持ち上げ、でかい木刀で丸太を叩いた。
「チェストォオオオオオオオオオオ!」
「ちぇ、チェストォーッ!」
「チェストォオオオオオオオオオオ!」
「チェストォーッ!」
田中の猿叫に鼓膜を破られそうになりながら得名井は食らいついた。
同じ頃、池輝は俳優スクールに戻って演技の勉強を一から復習。台本を読みながら苦手な菓子パンを咀嚼していた。脂肪をつけるため努力していた。
鳥琉もナナも着々と準備を続けていた。
つめるはメディアミックス企画を通すために社内でバトルに明け暮れていた。
そして潔子は、優雅に紅茶を飲んでいた。
「楽しみですわね」
潔子は妖しく笑った。
その後頭部がタオルで叩かれる。
「真面目にやりなさい!」
泰山は誰にでも厳しかった。
つづく
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