文化祭の破壊

月這山中

文字の大きさ
8 / 19

暗躍

しおりを挟む

1.
 実相寺翔琉《じっそうじ かける》は孤高だった。
 休み時間は人通りの少ない三階の渡り廊下に必ず向かい、世界を見下ろしていた。
「混沌は止められない……か」
 呟き、そして、ほくそ笑む。

2.
 彼が幼い頃から感じていた孤独。
 この世というパズルに自分というピースが嵌らない状態。
 自分の居場所がないのなら作ればいい。
 そう考えて、彼は今のキャラクターを構築していった。
 世界は混沌としている。目まぐるしく変化し、動き、攪拌されていく。
 そんな世界を自分は観測しているのだ。
 絶対不動の位置、ポジション:ゼロにおいて。

3.
 その日も翔琉は渡り廊下にいた。
 世界を見下ろす。
「混沌は……」
「落としましたよ」
 不意に話しかけられた。翔琉は動揺して固まり、おそるおそる振り返る。
 そこにいたのは長い髪の少女。風紀委員の巫鳥このえだった。
 風紀委員といっても古い漫画のような生徒を取り締まるような存在ではなく、主に校内の清掃のために奔走している。
「これ、落としました」
 このえが手にしていたのは学食のレシートだった。
「………」
 翔琉はそのレシートを見つめる。たしかに、二日前に食べたカツカレーのレシートだった。いつも肩にかけている学ランから落ちたのだろう。
「いや、ゴミだし」
 思わず素の返事をした。
「は?」
 このえの顔は不機嫌そうだった。常にそんな顔をしている。吊り上がった目と眉毛が彼女の表情を険しく見せる。
「ゴミはゴミ箱へ。レシートは燃えるゴミです」
 このえは言って、翔琉の手を強引に握ってレシートを押し付けた。
 翔琉の心臓が跳ねた。
「ご協力よろしくお願いします」
 薄色の長い髪が揺れて、いい香りがした。

 このえは事務的に話しかけて、行動しただけだろう。
 しかし翔琉は恋をした。

4.
 実相寺翔琉は考える。
 この時代に率先して風紀委員を買って出た、品行方正、正義一徹の少女が巫鳥このえだ。
 彼女に相応しい自分にならなければならない。
 すなわち、暗躍し正義を助ける謎の男。これだ。
 翔琉は少ない人生経験と、たくさん読んだラノベから答えを導き出す。

5.
 文化祭の日、風紀委員は忙しなく校内を駆けまわっている。
 排出されるゴミが一番多い日だ。
 翔琉は世界を俯瞰するのをやめて、二十リットルのゴミ袋を隠し持って歩いていた。
 ゴミ箱に先回りして溢れかえるゴミを片付けてしまおうという作戦だ。
 メイド喫茶の前を通った。
「おかえりなさいませ御主人様!」
 屈強な男子生徒がメイド服で呼び込みをしていた。
「いや、あの、我は急いでいる。さらばだ」
「そう言わずに! 一名様入ります!」
 翔琉は捕まった。
 男たちがメイド服で給仕をする姿をしばらく眺めた。

 翔琉は二十リットルのゴミ袋とマッチョが描かれたコースターを隠し持って歩いていた。
 さっそくゴミで溢れかえるゴミ箱を見つける。しかしそこには既にこのえが居た。
「手が足りないな。そっちは東門を回ってくれ」
 彼女はゴミを詰めながら委員にてきぱきと指示を出す。翔琉は廊下の角に隠れてそれを見ていた。
 他のゴミ箱を狙いに行くか。
 いや、ここで彼女を手伝うのが普通じゃないのか?
 でも自分は普通ではないのだ。暗躍して正義を助ける謎の男なのだから、暗躍しなければ。しかし、しかし助けている所をこのえに見られなければ意味がないのでは。キャラクター設定が余計な思考を膨らませる。
 翔琉は意を決して廊下の中央に出た。
「巫鳥このえくん!」
 裏返った声を発した。その時。

『巫鳥このえさん』

 校内放送で彼女の名前が呼ばれた。

『巫鳥このえさん、ヒーローグッズを集めている正義オタクの巫鳥このえさん。体育館まで来てください』

 放送は翔琉の耳にも届いた。
 これは、なんだ。放送は続く。次々と生徒たちの秘密が暴かれていく。

『実相寺翔琉くん、クラスメイトに腫物扱いされている実相寺翔琉くん、体育館まで来てください』

 このえは険しい表情を一層険しくしていた。
「御免!」
 鉄鋏を刀のように振って、倒れた翔琉の頭の上をこのえは飛び越していった。
 翔琉は少し漏らした。

 少女は風のように走り、正義を遂行しにいった。

6.
 実相寺翔琉は孤高だった。
 しかし、文化祭以来、クラスメイトが話しかけてくるようになっていた。
「実相寺くんって面白いね」
 クラスメイトの地味な女子が笑った。意外とかわいい。
 けれど翔琉の頭は、あの日風のように自分を飛び越えた少女のことでいっぱいだった。


  了
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

パンティージャムジャムおじさん

KOU/Vami
児童書・童話
夜の街に、歌いながら歩く奇妙なおじさんが現れる。 口癖は「パラダイス~☆♪♡」――名乗る名は「パンティージャムジャムおじさん」。 子供たちは笑いながら彼の後についていき、歌を真似し、踊り、列は少しずつ長くなる。 そして翌朝、街は初めて気づく。昨夜の歌が、ただの遊びではなかったことに。

童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)

カワカツ
絵本
その夜……僕は死んだ…… 誰もいない野原のステージの上で…… アリの子「アントン」とキリギリスの「ギリィ」が奏でる 少し切ない ある野原の物語 ——— 全16話+エピローグで紡ぐ「小さないのちの世界」を、どうぞお楽しみ下さい。 ※高学年〜大人向き

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

野良犬ぽちの冒険

KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる? ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。 だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、 気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。 やさしい人もいれば、こわい人もいる。 あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。 それでも、ぽちは 思っている。 ──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。 すこし さみしくて、すこし あたたかい、 のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

処理中です...