勇者として召喚されたはずだけど、勇者として歓迎されませんでした

龍の里

92.戦闘後の里

　魔王軍は多数の犠牲を出しながら撤退していった。奴らの目論見は失敗に終わったのだと信じたい。
　戦い終わった後、俺らは龍の里へと入った。どうやら俺らがこちらへと来る使者だと伝わってたみたいで、あっさりと入れてくれたらしい。

「リーネさんがあなた達を使者として送り込んでくるとはね」
「て事はあなたもー」
「私も勇者として召喚されたものだよ。名は一ノ瀬朱雀いちのせすざく。ここには修行で今はここにいる」

　ここに送られてきた理由はここを指揮しているこの人が勇者だったからなのだろう。
　それにここ戦いで亡くなった者には墓を作る程の優しい心を持っている。

「それで私に渡す物でもあるのかしら」

　彼女の言葉にハッと思い出し、懐から手紙を取り出し彼女へと渡す。
　その手紙の中身を広げ、確認をする。

「なるほど……、彼女が取りそうな行動ね」

　手紙には何書いたかは知らないが、リーネのどんな行動をするのか知っているようだった。読み終わって紙を袖の中のポケットへとしまう。

「迎えの鳥が来るまではのんびりするでしょ？なら、里を見て回るといいよ」

　そう言い残し、彼女は奥へと向かっていった。今思えば俺の行動はある意味彼女のお使いを頼まれているに過ぎない。
　彼女が散らばっている勇者達を集めようとしているのかもしれないが、もしかしたら戦力を集めて魔王城へと攻めるのだろうか。

「とりあえず、彼女の言っていた里を見て回るか」
「その前私は眠い……」
「ちょっと派手に魔法を使い過ぎた」

　さっきから何も喋らないと思ったら、眠たかったのか。この場で倒れられてもすぐにベットとか用意してもらわないと。
　そして里の者に声をかけようとした時、2人は寝るかのように倒れ込んだ。
　彼女らもいつも以上に頑張っていたし、眠たくなるのは仕方ないが…、ここで倒れられたら困る。

「すみません。ベット二つ用意してくれますか？」
「あ、はい。すぐに用意します」

　とりあえず2人を担いで寝室に運ばないといけないが、1人しか無理だ。もう1人出来れば女性の人が運んでくれるとありがたいが……。

「いきなり来て困るとか大丈夫かい？」

　その時朱雀が呆れたかのように戻ってくる。手には何かを持っているが、それが何なのかは分からない。

「ほれ、これ渡すの忘れてたよ」

　彼女がそれを俺へと投げる。それを受け取って確認してみると、それは短剣だった。中身も確認してみると、何かの文様が刻まれていた。

「それは炎の加護が宿されている短剣だよ。ここに来た勇者らにこれを配るのがこの里のルールさ」

　この呪文の紋様はそういう事になるのか。今の俺には不要だから、ベラニアに渡しといてもいいだろう。その時にベットの用意が出来たと頼んだ人が戻って来た。その人が朱雀へと用意出来たと耳元で伝えたのだろう。こちらへと振り向き、ベラニアを優しく抱き上げる。

「とりあえずその後ろの人達を運ばないとね。片方は私が運ぶからもう1人は頼むさ」

　そう言ってベラニアをお姫様抱っこをしながら案内されるかのようについて行った。
　こんな形でお姫様抱っこする羽目になるとは思わなかったなあ。寝ていたトルゥを朱雀同様お姫様抱っこをして朱雀の後を追いかけた。