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第一章 スパイと令嬢
第1話 諜報員 改
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「この資料さえ持ち帰れば、俺たちの勝ちだな。」
助手席の男が笑う。
黒いセダンは夜の港を疾走していた。
潮風が窓を強く叩き、遠くでクレーンが軋む音が響く。
「さすがに奴はもう追ってこないだろ。あんな化け物でも、ここまで来りゃ勝てねぇよ。」
運転手がアクセルを思いっきり踏み込む。
その瞬間――
「…っ!?」
ヘッドライトの先に、黒い影が立っていた。
道路のど真ん中、無防備に。
月明かりに照らされた男は、ゆっくりと拳銃を構える。
「なっ、何であいつが…! ひっ、ひ轢き殺せ!」
叫び声が閑静な港町に響く。
バン
運転手の額に穴が開く。車は制御を失い、鋭い金属音とともに大きな円を描き横転する。
炎が上がり、ガラスが砕け散る。
男――ハイドは歩み寄り、炎上しかけた車から資料ケースを引き抜いた。
『サクラサク』
無線に一言だけ告げる。
背後で炎が吹き上がる中、彼は振り返りもしない。
「先の任務、ご苦労さん、ハイド君。」
目の前でキャスター付きの椅子に座り、呑気にコーヒーを飲んでいるのは俺の上司、コードネーム:ユザワ(本名)だ。
「数十分前に任務終わったばかりなんですけど。一応、公務員ですよね?」
「まあそこは気にするな。それに機密組織だし…ところで今回の任務だが。」
数十枚の資料を無造作に机の上に広げる。
「護衛任務だ。対象は米国大手軍需企業AMCのCEO、西岡敏夫の娘、西岡結衣、12歳。中高一貫の千代田学園中の生徒だ。」
「AMCというと、例の件の関連ですか。」
例の件――今年、ソ連の水爆ツァーリ・ボンバをも上回る新型兵器を、敏夫がCEOを務めるAMCが発明したことだ。それだけでも十分危険だが、実はこの兵器、敏夫が米軍の技術士官だった頃に作った設計図を少し改良しただけのもの。つまり、発射コードを知っているのは敏夫本人だ。今、彼はCIAの保護下にある。
「しかし、それなら敏夫の護衛をもっと強化するべきでは?」
「いや、それはそうなんだが…少し上のほうで事情がね。」
急にそっぽを向き、少し伸びた髪をいじりだす。
「事情ですか?」
「あぁ、敏夫がうちの予算の20倍の金額を提示して、自分より娘を警護してほしいと言ってきたらしい…」
どこも財政は厳しい。
「で、他にも生徒として極秘に学園に潜入しながらの警護って何なんです?秘匿護衛って。」
「敏夫が娘には心配をかけたくないから、秘密にしてほしいとのことだ。」
親バカだ。
「というか、一番の問題は学生としてですよ。何なんです?俺、もう26ですよ。」
「それはねえ…」
大体わかる。上司が耳たぶを触って目をそらすときは、必ず新発明の機械を実践登用しようとする時だ。
「どうせ外見年齢を下げる機械とか、そんな類でしょう。」
図星だったのか、上司は大きく体を震わせ、椅子を跳ね飛ばす。
「ま、まあそれはともかく、あと3日で入学だから頑張って!」
と、いつものように後の事はすべて俺に回して、ササっと逃げるように部屋から出ていった。
ため息をつき机の上に置かれたまだ袋から出されていない新品の制服を見つめた。
助手席の男が笑う。
黒いセダンは夜の港を疾走していた。
潮風が窓を強く叩き、遠くでクレーンが軋む音が響く。
「さすがに奴はもう追ってこないだろ。あんな化け物でも、ここまで来りゃ勝てねぇよ。」
運転手がアクセルを思いっきり踏み込む。
その瞬間――
「…っ!?」
ヘッドライトの先に、黒い影が立っていた。
道路のど真ん中、無防備に。
月明かりに照らされた男は、ゆっくりと拳銃を構える。
「なっ、何であいつが…! ひっ、ひ轢き殺せ!」
叫び声が閑静な港町に響く。
バン
運転手の額に穴が開く。車は制御を失い、鋭い金属音とともに大きな円を描き横転する。
炎が上がり、ガラスが砕け散る。
男――ハイドは歩み寄り、炎上しかけた車から資料ケースを引き抜いた。
『サクラサク』
無線に一言だけ告げる。
背後で炎が吹き上がる中、彼は振り返りもしない。
「先の任務、ご苦労さん、ハイド君。」
目の前でキャスター付きの椅子に座り、呑気にコーヒーを飲んでいるのは俺の上司、コードネーム:ユザワ(本名)だ。
「数十分前に任務終わったばかりなんですけど。一応、公務員ですよね?」
「まあそこは気にするな。それに機密組織だし…ところで今回の任務だが。」
数十枚の資料を無造作に机の上に広げる。
「護衛任務だ。対象は米国大手軍需企業AMCのCEO、西岡敏夫の娘、西岡結衣、12歳。中高一貫の千代田学園中の生徒だ。」
「AMCというと、例の件の関連ですか。」
例の件――今年、ソ連の水爆ツァーリ・ボンバをも上回る新型兵器を、敏夫がCEOを務めるAMCが発明したことだ。それだけでも十分危険だが、実はこの兵器、敏夫が米軍の技術士官だった頃に作った設計図を少し改良しただけのもの。つまり、発射コードを知っているのは敏夫本人だ。今、彼はCIAの保護下にある。
「しかし、それなら敏夫の護衛をもっと強化するべきでは?」
「いや、それはそうなんだが…少し上のほうで事情がね。」
急にそっぽを向き、少し伸びた髪をいじりだす。
「事情ですか?」
「あぁ、敏夫がうちの予算の20倍の金額を提示して、自分より娘を警護してほしいと言ってきたらしい…」
どこも財政は厳しい。
「で、他にも生徒として極秘に学園に潜入しながらの警護って何なんです?秘匿護衛って。」
「敏夫が娘には心配をかけたくないから、秘密にしてほしいとのことだ。」
親バカだ。
「というか、一番の問題は学生としてですよ。何なんです?俺、もう26ですよ。」
「それはねえ…」
大体わかる。上司が耳たぶを触って目をそらすときは、必ず新発明の機械を実践登用しようとする時だ。
「どうせ外見年齢を下げる機械とか、そんな類でしょう。」
図星だったのか、上司は大きく体を震わせ、椅子を跳ね飛ばす。
「ま、まあそれはともかく、あと3日で入学だから頑張って!」
と、いつものように後の事はすべて俺に回して、ササっと逃げるように部屋から出ていった。
ため息をつき机の上に置かれたまだ袋から出されていない新品の制服を見つめた。
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