スパイは踊らない~学園に潜む影と恋~

猫吉

文字の大きさ
5 / 48
第一章 スパイと令嬢

第1話 諜報員 改

しおりを挟む
「この資料さえ持ち帰れば、俺たちの勝ちだな。」

助手席の男が笑う。

黒いセダンは夜の港を疾走していた。

潮風が窓を強く叩き、遠くでクレーンが軋む音が響く。

「さすがに奴はもう追ってこないだろ。あんな化け物でも、ここまで来りゃ勝てねぇよ。」

運転手がアクセルを思いっきり踏み込む。

その瞬間――

「…っ!?」

ヘッドライトの先に、黒い影が立っていた。

道路のど真ん中、無防備に。

月明かりに照らされた男は、ゆっくりと拳銃を構える。

「なっ、何であいつが…! ひっ、ひ轢き殺せ!」

叫び声が閑静な港町に響く。

バン

運転手の額に穴が開く。車は制御を失い、鋭い金属音とともに大きな円を描き横転する。

炎が上がり、ガラスが砕け散る。

男――ハイドは歩み寄り、炎上しかけた車から資料ケースを引き抜いた。

『サクラサク』

無線に一言だけ告げる。

背後で炎が吹き上がる中、彼は振り返りもしない。



「先の任務、ご苦労さん、ハイド君。」

目の前でキャスター付きの椅子に座り、呑気にコーヒーを飲んでいるのは俺の上司、コードネーム:ユザワ(本名)だ。

「数十分前に任務終わったばかりなんですけど。一応、公務員ですよね?」

「まあそこは気にするな。それに機密組織だし…ところで今回の任務だが。」

数十枚の資料を無造作に机の上に広げる。

「護衛任務だ。対象は米国大手軍需企業AMCのCEO、西岡敏夫の娘、西岡結衣、12歳。中高一貫の千代田学園中の生徒だ。」

「AMCというと、例の件の関連ですか。」

例の件――今年、ソ連の水爆ツァーリ・ボンバをも上回る新型兵器を、敏夫がCEOを務めるAMCが発明したことだ。それだけでも十分危険だが、実はこの兵器、敏夫が米軍の技術士官だった頃に作った設計図を少し改良しただけのもの。つまり、発射コードを知っているのは敏夫本人だ。今、彼はCIAの保護下にある。

「しかし、それなら敏夫の護衛をもっと強化するべきでは?」

「いや、それはそうなんだが…少し上のほうで事情がね。」

急にそっぽを向き、少し伸びた髪をいじりだす。

「事情ですか?」

「あぁ、敏夫がうちの予算の20倍の金額を提示して、自分より娘を警護してほしいと言ってきたらしい…」

どこも財政は厳しい。

「で、他にも生徒として極秘に学園に潜入しながらの警護って何なんです?秘匿護衛って。」

「敏夫が娘には心配をかけたくないから、秘密にしてほしいとのことだ。」

親バカだ。

「というか、一番の問題は学生としてですよ。何なんです?俺、もう26ですよ。」

「それはねえ…」

大体わかる。上司が耳たぶを触って目をそらすときは、必ず新発明の機械を実践登用しようとする時だ。

「どうせ外見年齢を下げる機械とか、そんな類でしょう。」

図星だったのか、上司は大きく体を震わせ、椅子を跳ね飛ばす。

「ま、まあそれはともかく、あと3日で入学だから頑張って!」

と、いつものように後の事はすべて俺に回して、ササっと逃げるように部屋から出ていった。

ため息をつき机の上に置かれたまだ袋から出されていない新品の制服を見つめた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...