スパイは踊らない~学園に潜む影と恋~

猫吉

文字の大きさ
28 / 48
第三章 謎の男

第23話 事故の真実1

しおりを挟む
「多分これ以上あの編集者を問い詰めても出てこないな…」

「そうですね」

「次まわるか…」

―ナイジェリア 最大都市ラゴス郊外、水上スラム街マココ

車を降りるとボートで移動する。子供たちが泳ぎ戯れ、意外と域内は安定している。

「すみません千代田大学ボランティア学科のものなのですが」

奥からゼッケンを着た女性が出てくる。

「あらまあ遠いところからようこそおいでなさいました。早速私たちの慈善事業について説明いたしますね」

「まずこの慈善団体birdについてです。この団体は当時建築業界の巨匠ともいわれた遠藤 克樹、菫夫婦によって設立され…」

「えっ!あの遠藤夫婦ですか?」ナイトが前のめりになって聞く。

「あら知ってるの?」

「はい!」

「さすが師匠ね…世代を超えて認知されちゃって…」

「確か遠藤さんて事故でこの世を去るまで慈善事業をし続けたんですよね。憧れます!」

事故という言葉に眉がぴくっと反応していた。こいつもか…でもどうせ口止めされているな…

「はい…そうなんですよ。あの方々はお亡くなりになる直前までこの団体のことを心配してくださって…」

直前まで?

「もしかして事故当時現場にいらしたのですか?」

「いいえ私は亡くなる直前たまたま電話を師匠にかけていて…」

「おやおや?おかしいですね。確か…遠藤夫婦は当時携帯電話を持ち歩いていなかったですよね」

いつの間にか女性の肩にエリオットが手を置く。

「えっ…いやあなたこそなんでそんなこと知ってるんですか?まっまさかあなたたちはあいつらの…」

家の角に後ずさりしてゆく。

「あいつら?それは誰です?教えていただけませんか?」

「ここはうちの人員で辺りを囲っているので盗聴のリスクもありません。それに、勝手ながら今あなたはコートジボワールにいることにしておりますので命を狙われることもありませんよ」

―そんなこと俺、聞いてないけどね。

角でおびえていた女性はついにゆっくりと立ち上がった。

「実は、あれは事故ではないんです」

「事故ではないとは?」

「暗殺です」

その場が凍り付く。

「あの時…私は遠藤師匠と同じ車に乗っていました」

―2000年 アフリカ大陸 A国

「久志!ゲームばっかやってないでちゃんと荷物まとめなさい!」

一人でゲームをしている青年が面倒くさそうに返事をする。

「は~い」

両親は建築業界の巨匠と呼ばれた人たちだった。ただ、その時はアフリカにいた。最近内戦のあったA国で3年間にも及ぶボランティア活動をしていたのだ。その間久志も日本を離れ高校生活はアフリカの地でほとんど過ごしていたのだ。そして今日はボランティア最終日。今日は最後の活動としてお世話になった家や活動した地を巡り確認するのだ。

「そういえばあんた高校のお友達にお別れ言ったの?」

そういえば言ってなかった。

いや、言えなかった。

「…」

「まだ言えてないの?」

「…」

母さんはあきれてため息をつく。

自分だって何度も言おうとした。

だけど言えなかった。

内戦は収まろうともまだ政治も安定していないこの国では死は日常に近しい存在だ。

実際反政府軍の抵抗はまだ続いていて、在学中にも何人かが巻き込まれた。

明日生きているかもわからない。



だからこそお別れを言うと一生会えない気がしてつらい。

悲しませたくないし悲しくもなりたくない。

全てが言うには遅かったのだ。

「次会えるのがいつかわからないのだから…今日一緒に話に行きましょ?」

怖い。

失いたくない。

あとでそれが最後だったと分かるのも怖い。

それならせめて楽しい気持ちだけで離れたい。

「やだ今日はいかない」

「いやでも…」

「行かない行かない行かない!!!!」

青年はそういって家から飛び出した。

青年は臆病だった。

「遠くに行かないでよー!」

どんどん青年の背中が縮まってゆく。

どうせまた友人とサッカーでもするのだろう。

「おはようございます。道子先生」

「おはようございます。あら、もう出発時間ですか?」

「いや五分前ですがもうお車の準備はできております。誠先生も先にお車にいらっしゃいますよ」

「あら、あの人が五分前行動とはめずらしい。では少し早いですけど行きましょうか」

「そうですね」

砂埃とともに車が走り出す。

「そういえば久志お坊ちゃんは?」

「いじけて飛び出して行ってしまいました」

「まだ言えてなかったのか?」

「あの子も苦難しているのでしょう」

「今日言えなかったら明日はないのに…」

「言えなければ。明日俺が朝に友達さんのうちまで送り届けるよ」

「そうしましょうか」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

さようなら、私の初恋

しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」 物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。 だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。 「あんな女、落とすまでのゲームだよ」

処理中です...