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第4章 畑野勘太郎の通勤
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ガタンと音をたてて車両が揺れると乗客も体勢を崩す。崩れた姿勢を正すと、隣にいた彼女が今度真正面になっていた。車内は混んでいて勘太郎のあごに彼女のおでこが当たるほどだった。と同時、仁美と同じ香水がわずかに漂ってきた。彼は仁美に似た女性を視覚、触覚、嗅覚でも仁美を感じた。容姿、ファッションセンス、体臭も同じなんてあり得ない偶然だ。彼は女性に名前を聞いて仁美かどうか確認したいと思った。直後、ガタンと車両がまた揺れた。その弾みで彼は冷静さを取り戻した。
彼女が仁美と似ているが、妻の仁美でないことは明快だ。この世に似た顔は3人いると言う。それに妻は20年以上前に死んだ。死んだ妻が生き返るわけはない。紛れもない事実なのだ。ただし、妻の死が忌まわしい交通事故だっただけに何年経っても苦しく悲しい記憶としてよみがえる。彼女は乗用車にひき逃げされた。
事故当時、仕事中の彼は遺体安置所に駆け付けて仁美の遺体と対面した。彼女の全身の骨は複雑骨折し、頭蓋は陥没により変形し美しかった彼女の面影はなかった。だから、仁美が死んだと思えなかった。状況的には遺体は仁美に間違いない。
後日、警察によれば、現場にブレーキ痕がなく、さらに車をバックさせてひいたという通行人の証言があった。警察は殺人事件として捜査を開始した。捜査官から恨みを買うようなアクシデントがなかったか聞かれた。彼には彼女と知り合ってから楽しい記憶を思い出すことはあっても、人から恨みを買うような出来事なんて思い当たらなかった。仁美は過去のことを話したがらなかったので出会う前のことは分からない。彼女は口癖のように言っていた。
「昔のことは昔。昔、描いていたから今がある。だから、今、未来を想像するの、ふたりでね」
そう言う仁美とは楽しい生活が続いた。永遠に続くと思っていた。それが事故で突然途絶えた。あのとき、仁美には殺されるような過去があったのではと思えてきた。
その後、彼は寂しさと悲しみを消してくれる新しい恋を探したが出会うことはなかった。犯人は20年以上経った今も逮捕されていない。彼はいまだに仁美の敵を憎むことも、許すこともできていない。当初、自分が恨みを買って仁美を死に追いやったのかと思うこともあった。だれのせいでもない犯人が悪いのだ。仁美も自分も悪くない、と彼は言い聞かせた。
彼女が仁美と似ているが、妻の仁美でないことは明快だ。この世に似た顔は3人いると言う。それに妻は20年以上前に死んだ。死んだ妻が生き返るわけはない。紛れもない事実なのだ。ただし、妻の死が忌まわしい交通事故だっただけに何年経っても苦しく悲しい記憶としてよみがえる。彼女は乗用車にひき逃げされた。
事故当時、仕事中の彼は遺体安置所に駆け付けて仁美の遺体と対面した。彼女の全身の骨は複雑骨折し、頭蓋は陥没により変形し美しかった彼女の面影はなかった。だから、仁美が死んだと思えなかった。状況的には遺体は仁美に間違いない。
後日、警察によれば、現場にブレーキ痕がなく、さらに車をバックさせてひいたという通行人の証言があった。警察は殺人事件として捜査を開始した。捜査官から恨みを買うようなアクシデントがなかったか聞かれた。彼には彼女と知り合ってから楽しい記憶を思い出すことはあっても、人から恨みを買うような出来事なんて思い当たらなかった。仁美は過去のことを話したがらなかったので出会う前のことは分からない。彼女は口癖のように言っていた。
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