幸せな報復

窓野枠

文字の大きさ
114 / 124
第19章 畑野浩志の観察

22

しおりを挟む
 彼女は体の力が抜けるようにその場に両膝をついてしゃがみ込んだ。教室で浩志の体臭を初めて嗅いだときと全く同じ症状だった。電車内で勘太郎に体を触られたときも、気が付かなかったが勘太郎の匂いを嗅いだせいなのかも、と恵美は思った。
 恵美は浩志に手を握られ動けなかった。空手家の彼女にしてみれば握られた手を利用し相手を投げ飛ばすなんて簡単なことだった。しかし、この時、彼女の思考は止まっていた。勘太郎のときと全く同じ。脳と全身の筋肉が弛緩し動けない。体が避けようとしなかった。
 彼女はゆっくり浩志に顔を向けた。目の前に自分をじっと見つめる浩志の顔があった。
「う、嘘でしょぉー 浩志くん、顔が近すぎよぉー わたし、狼にこれから食べられてしまうのぉかなぁー どーーしましよぉーー」
 恵美は浩志の真剣なまなざしを見つめながら心中で喜びの声を上げていた。彼女の大きな心拍音が全身を振動させていた。彼女は暴漢者を投げ飛ばすどころか彼女の心はまるでフワフワ、意識はウキウキ、全身を駆け巡る高揚感であふれていた。
「浩志くーーーん、あぁーあたしの手を握っちゃってるよぉー どーしたのぉー? こんなことして…… ねえ、どうしたのぉ? やっとわたしに痴漢したくなったのねぇ…… もう、わたし死んでもいいわぁーー」
 恵美は夢心地で浩志をぼんやり眺めていた。彼女は浩志の顔を見つめていたが急に真顔になった。
「う、嘘よ、今言ったこと、嘘だから…… ここまできて…… 死にたくないわぁー やっと始まりにたどり着いたのよ、わたしの妄想はきょうでおしまい」
 心中でうれしくて絶叫していた恵美は、次の浩志の行動を待ち望んだ。
「ねぇ、浩志くん、わたしをこの後、どうするの? 二人きりだもの、もしかして…… 当然のようにあれをしちゃうのかなぁーー?」
 彼女の潤んだ眼差しが浩志の目を見つめた。
「ああ、ごめん…… どうしたのだろう…… きみが母さんに見えた…… 母さんの思い出は記憶していないのだけど、変だよね、自分でも変だと思う……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...