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忘却の森
しおりを挟む「お誕生日おめでとう、ローレン。」
「ありがとうお父さん、お母さん。」
「ほら、ローレンの好きな本だよ。童話集にしたんだ。」
ああ、違う、違うよお父さん、僕は童話は好きじゃない。
「ローレン、あなたの好きなイチゴタルトよ。沢山焼いたから沢山食べてね。」
違うよお母さん。僕はイチゴタルトは好きじゃない。
僕は童話より小説の方が好きで、イチゴタルトよりラズベリーパイが好きなんだ。
――こんなこと、本当のお父さんとお母さんならわかっているのに。
僕は心の中でそう呟きながら、ありがとう。と笑顔で返した。
本当のお父さんとお母さんが亡くなったのは僕が7歳の時だった。
あの日は朝から天気が優れず、お友達の食事会から帰る時には大粒の雨が降り出していた。
「大変だわ、急いで帰らないと。」
お気に入りの鉢植えを1つしまい忘れてしまったの。お母さんはそう言って急いで馬車に乗り込んだ。
――――馬車は急いでいた。ぬかるんだ道を馬は豪快に突き進んでいた。……その時だった。突然雷鳴が鳴り響いたのだ。
「ヒヒーン。」
突然の雷鳴に馬は驚いた。そしてバランスを崩した。
…………気付いたら僕はベッドの上に寝かされていた。
痛い、痛い、痛い。
全身が感じたことの無いほどの痛みに包まれる。
「……起きたかね。」
かかりつけ医のおじいさんの声がする。声をした方を向こうとすると、ズキリと頭に鋭い衝撃が走った。
「無理に動かさなくていい。君は大怪我をしているんだ。」
「……大怪我?なんで………。」
「覚えていないかね。馬車の事故にあったんだよ。」
ああ、そうだ。雷鳴と馬の悲鳴のような鳴き声。そして全身の衝撃を思い出した。
「お父さん、お母さんは?」
あの時お母さんは僕を咄嗟に抱きしめてくれた。
「………ローレン、落ち着いて聞くんだ。」
――――そして僕は、お父さん、お母さんを失った。
僕はおじさん夫婦に引き取られた。
新しい生活は何不自由なく、子供の居なかったおじさん夫婦は僕を大切に育ててくれた。
……僕は幸せなんだ。わかっている。だけど。
ふとした時に思い出すのは本当のお父さんとお母さん。
どんなに優しくされても、所詮は本当の子供では無い。僕の頭の片隅には本当のお父さんとお母さんがいて。
おじさん夫婦ももしかしたら僕に同情しているだけかもしれない。だから僕の好物も分からないんだ。
僕は常にこの空間を冷めた気持ちで過ごしていた。
もし僕に本当のお父さんとお母さんの記憶が無かったら幸せだったのかもしれない。………いっそ記憶が無くなれば僕は幸せになれるのかもしれない。
僕はいつも、そう考えていた。
「いやぁー、酷い雨だね。」
おじさんの弟のミシェルがびしょ濡れで家に上がり込んできた。
「まぁまぁ凄い濡れているわ。タオルでちゃんと拭いてくださいな。」
お母さんが困った顔でタオルを渡した。
「なんだミシェル、こんな雨の中どこ行ってたんだ。」
お父さんがミシェルを見て苦笑いをして言った。
「狩りをしてたんだよ。まさか急に降るなんて思わなくてさ。」
ミシェルが取ってきた兎を見せながら言うとお父さんとお母さんは顔を顰めた。
「狩りってお前……またあの森に行ったのか。」
「あの森は動物が沢山居るからね。狩りにはもってこいなのさ。」
「しかしあの森は忘却の森。戻れなくなったらどうするんだ。」
「忘却の森?」
黙って話を聞いていた僕は聞き慣れない言葉につい口を挟んだ。
「なんだローレン居たのか!久しぶりだな!」
「お久しぶりです、ミシェルさん。」
「ローレンは知らないのか?忘却の森を。」
頷く僕にお父さんは話をしてくれた。
僕達が住む村の外れに大きな森がある。そこは忘却の森と呼ばれ、入り込んだ者の記憶を消し去る、という言い伝えがあるらしい。
「もちろん言い伝えだから本当かどうか分からない。だがあの森で何人もの子供が行方不明になったのは事実だ。忘却の森で自分が何者か、帰る道を忘れてしまったんだろう、と村人は話しているんだよ。」
「あの森は大きいから迷子になったんだよ。現に俺は記憶を無くしてないじゃないか。」
「確かにそうだが……。とにかくあの森は危険だ。ローレンもあの森に近付くんじゃないぞ。」
あの森に行ってはいけない、とは本当のお父さん、お母さんからも何度も言われていた。だから僕は分かってるよ。と軽く流した。
――本当のお父さん、お母さん……。忘却の森は本当に記憶を無くしてくれるのか。……楽しかった思い出、悲しかった思い出、全て消し去ってくれるのだろうか。――僕はその日から忘却の森の事を考えるようになった。
「ローレン、ちゃんと戸締りするのよ?」
お母さんが僕に優しく言う。香水の香りが優しく僕を包んだ。
「お土産買ってくるからな。いい子にしてるんだ。」
お父さんは僕の頭を撫でながら言った。
「うん、行ってらっしゃい。」
僕はそう微笑んで2人を見送った。
何をしていてもお父さんとお母さんが忘れられない。
それはまるで呪術のように僕を苦しめる。
楽になりたい。全て忘れて楽になりたいんだ。
僕は引き寄せられるようにランタンを持って、ふらふらと森へと歩いて行った。
夜に包まれた村は静まり返り広場には誰一人居なかった。
良かった。見つかったら絶対連れ戻されるから。
僕は隠れるように暗い夜道を歩いて行った。そして。
「ここが……忘却の森か。」
ついに忘却の森にたどり着いた。
入口には立ち入り禁止の看板が何個も置かれていた。ボロボロになったロープもかかっていた。
ここに来た人達は何を思ったんだろう。……何を忘れたかったのだろう。
僕はそう思いながら身体を屈ませロープの先へと入って行った。
辺り一面、闇だった。
僕のランタンが頼りなく山道を照らす。
まるで僕を飲み込むかのように深い深い闇は口を開けていた。
梟の鳴き声が静寂を破る。
ランタンが途中で切れたらどうしよう。……この森には狼は出ないのか。僕は不安で押し潰されそうになっていた。
どのぐらい歩いたのだろう。
ひたすら闇の中を歩き回っていた。
まだ記憶は消えない。やっぱりただの言い伝えだったのだろうか。もう帰り道は分からない。僕はこのまま、この森でさまよい続けるのだろうか。
――その時だった。子供の声が聞こえた。
歌声?こんな森に僕以外の子供が居るのか?
行方不明になった子供だろうか。……僕は怖くなり木の影に隠れた。
近付いて来ない。同じ場所で歌っているのか。
僕は勇気をだして近付いてみる事にした。
段々と近付いてくる歌声。そしてほのかに光が広がってきた。
「――これは………。」
そこには小さい家があったのだった。
歌声以外にも何人かの子供達の声がする。
笑い声、喧嘩する声。森の静けさを破るその声は随分楽しそうに感じた。
入ってみよう。
歩き疲れた僕は扉をゆっくりとノックした。
コンコン
僕のノックが聞こえたのか一瞬ピタリと声が止んだ。そして。
「ようこそ!君はなんて言うの?」
可愛らしい女の子が僕を出迎えてくれた。
「あっ……。」
突然の歓迎に僕は驚いた。
「私はマリアよ。」
「あっ……僕はローレン。」
「よろしくね、ローレン!」
女の子はそう言って僕を部屋へと通してくれた。
「新入りだ!」
「よろしくね、ローレン。」
中には10人ぐらいの子供が居た。皆ニコニコと僕を歓迎してくれた。
「あっ……あの僕………。」
「気にする事無いわ。この森に来たという事はあなたも忘れたいんでしょう?この家に居れば忘れられるから大丈夫。全て忘れて楽しく過ごしましょう。」
やっぱりそうか。この家にいる子達も忘れたいからこの森に入ったんだ。一体何を忘れたいのだろう。何を忘れたのだろう。
「夕飯は食べたのかな?」
男の子が話しかけて来た。
「あっまだ………。」
「ならこれ食べて!この魚僕が釣ったんだよ!」
男の子は僕に焼き魚を出してくれた。
「ありがとう……。」
焼き魚は所々焦げていてあまり美味しいとは言えなかった。
子供の料理ならしょうがないのだろう。
「この家は子供しか見つけられないの。だから大人達に連れ戻される心配は無いわ。」
魚を食べているとマリアが言った。
「そうか……だからミシェルさんは見つけられなかったのか……。……あの、君は何を忘れたかったの?」
気になって聞いてみた。すると女の子は少し驚いた顔をした後笑った。
「さぁ?もう忘れてしまったわ。でもきっと忘れたいって思う事だからいい思い出では無いのかもね。だから忘れて良かった。」
そうだよね。忘れたいのは辛いから。僕も早く忘れてしまおう。本当のお父さん、お母さん。そして育ててくれたお父さん、お母さんも忘れてしまうんだ。そしたらもう二度と悲しくならない。――この締め付けられる胸の痛みも綺麗に消えてしまうんだ。
僕は何かに蓋をするように、自分に言い聞かせた。
「釣りが得意なら川に行って。苦手なら私達と木の実を取りに行きましょう。」
それから僕は新しい生活を始めた。
全てを忘れる生活。新しく始める生活。
「釣り……した事ないけど…やってみたいな。」
「なら僕が教えるよ!僕は釣りが得意なんだ!」
昨日僕に焼き魚をくれた男の子が声をかけてくれた。
「僕はニックって言うんだ。君が来る何週間前ぐらいに来たんだよ。」
釣りを教えながらニックは話し始めた。
「そうなんだ。じゃぁ君が1番あの中では新しいんだ。」
「うん、そう。だから僕はまだ記憶がある。」
「忘れたい記憶?」
「うん。僕ね、5人兄弟の一番下だったんだ。でも優秀なお兄ちゃん達と違って僕は取り柄がなくて。いっつも居場所が無くて苦しかったんだ。」
「ニック……。」
「だから忘れたかったんだ。僕は必要とされてなかったなんて記憶要らないから。」
「うん、そうだね……。そんな辛い記憶忘れてしまおう。」
辛いなら消してしまえばいい。思い出なんて要らないんだ。楽しい今と未来があればいい。
僕とニックは釣りを始めた。
「戻ったよー!今日も沢山釣れたよ!」
僕達はバケツいっぱいの魚をマリアに手渡した。
「わぁ、ありがとう。ローレン、初めての釣りはどうだった?」
「全然だよ。2匹しか釣れなかった。」
「初めてで2匹は凄いよ!明日また頑張ろうローレン。」
ニックが笑いながら僕の肩を叩いた。
「いただきまーす。」
皆揃っての食卓。やっぱり料理は完璧ではなかったけど初めて自分で取った魚は格別だった。
「ローレン、それはあなた専用のフォークだから。」
見ると木の取手に下手くそにローレンと彫られていた。
「あっ僕の名前だ。」
「たまに名前を忘れちゃう子も居るから。」
そうか…名前まで忘れてしまう子もいるんだ。
“ローレン……素敵な名前でしょう?お母さんが大好きだった小説の主人公の名前なの。“
お母さんの嬉しそうな声が頭に響いた。
なんだろう。モヤモヤする。僕はこの得体の知れない気持ちを振り切るように、料理にかぶりついた。
「ローレン、新しい穴場見つけたんだ!今日はそこ行こうよ!」
あれから数日経ち、僕はいつものようにニックと食料調達をしていた。
「うん、どっちが多く釣れるか勝負だ!」
僕に釣りの才能があったのかニックに負けないぐらい釣れるようになっていた。
「ローレンなんかに負けないぞー!」
僕達は笑いながら穴場へと向かった。
「へぇ、確かに穴場だねぇ。」
「だろう?足元悪いから気を付けて。」
ニックが見つけた穴場は足元は悪いが確かによく釣れそうだった。
「よし、僕はここで……ってあ!?」
「ニック!!」
足を滑らせて落ちそうになったニックを僕は慌てて掴んだ。
「ふぅ、危なかった。」
「ありがとうローレン。僕って本当おっちょこちょいだからよくお兄ちゃん達に……。」
「ニック?」
急に黙ったニックを不審に思い覗きこむと、ニックは泣きそうな顔をしていた。
「ニック?どうしたの?」
「……最近ね、記憶が抜けてきてるんだ。僕って何人兄弟だっけ?お母さんはどんな人だっけ?」
「……良かったじゃないかニック。」
「そうだよね?いい事だよね?記憶が消えるのは…いい事だよね?」
ニックは必死に聞いてきた。
当たり前じゃないか、そう応えるとニックは安心したように笑った。
そう何も間違ってない。だけど何故だろう、何か胸が痛む感じがするのは。いや、気のせいだ。僕は自分に言い聞かせた。
それから僕は毎日毎日単調に過ごした。
大丈夫。もうすぐ記憶が無くなるから。記憶を無くしたマリアはあんなに楽しそうだし、僕もきっとああなるんだ。
「やぁ、ローレン、元気無いね?」
「ニック。そんな事ないよ?」
ならいいけど。ニックはそう言ってコップにミルクを注ごうとした。
「あっ!?」
パリーン
手を滑らせたニックはコップを落として割ってしまった。
「わぁ、大丈夫ニック!?」
「大丈夫、ごめん僕おっちょこちょいで……。」
「いっつもお兄ちゃん達に迷惑かけてたんでしょ?知ってるよ。」
「え?お兄ちゃん?」
ニックがキョトンとした顔をした。
「僕、お兄ちゃん居たんだっけ?」
「何言ってるんだニック……。魚釣りした時言ってたじゃないか……。」
「魚釣りしたのはもちろん覚えてるけど、お兄ちゃんの事は覚えてないなぁ。」
「おめでとうニック!!順調じゃない!!」
僕達の会話を聞いていたマリアが歓声をあげた。
「順調に忘れているわね!もう少しで全て忘れるわ!」
「ありがとうマリア。」
そう言って笑うニックはあの時泣きそうになっていたニックと全く別人に感じられた。
そうだ……もうすぐニックは忘れられる……。良かったじゃないか。そう思いながらも僕はこの光景に何故か恐怖を感じていた。
「ローレン?大丈夫?」
「あっ……うん、僕読みかけの本読んでくる。」
僕はそう言って部屋に走って行った。
早く忘れてしまおう。僕もニックのように忘れてしまえば楽になれるから。早く、早く。
「わっ!?」
慌てていて転んでしまった。
「痛……あっこれ……。」
上着の肩のボタンが取れた。このボタン……僕が欲しくてずっと見ていたボタンだ。確か育ててくれたお母さんと一緒に行った買い物で。ずっと見ていたのを気付いていたのか。
「……なんだよ………。ラズベリーパイには気付かなかったくせに。」
もしかして、あの時イチゴタルトを焼いたのは僕がイチゴタルトの絵を書いたからじゃないのか。あの時童話集を買ってきてくれたのは僕が気まぐれに童話を読んでいたからじゃないのか。
あれが欲しい、これがしたい、一切言わない僕にお父さん、お母さんは優しく見守ってくれてたんじゃないのか。
「……僕が………歩み寄る努力をしなかったからかな……。」
もうお父さん、お母さんの顔が思い出せない。
ダメだ……僕はこのまま忘れてはいけない。僕を本当の子供のように愛してくれたお父さん達を忘れてはいけないんだ。
「ローレン!今日は魚飽きたから兎にしよう。ってローレン!?」
僕はランタンを持って走った。
早く、早く帰らなきゃ。忘れてしまうその前に。
「ローレン待って!!」
ニックに腕を掴まれた。
「ごめんニック、僕は忘れたくないんだ。」
「どうして!?辛い記憶なんでしょ!?」
「確かに辛い記憶だけど……それだけじゃないんだ。暖かい思い出まで……愛されていた思い出まで消す訳にはいかないんだ。」
「だけど……。」
「ニックだってそうでしょ?居場所が無かったって……お兄ちゃんに助けられたり大事にされてたんじゃないの?」
「お兄ちゃん?僕にお兄ちゃんが居たの?」
「ニック!思い出して!」
「分からない……分からないよローレン……。いつも、お前はしょうがないなぁと笑って手を差し出してくれてたのが……お兄ちゃん?お兄ちゃんなの?」
「ニック!!ローレン!!」
マリアの声が響いた。
マリアだけじゃない。皆が僕達を探しに来た。
「行こう、ニック!!」
僕はニックの手を掴んで走り出した。
まだ……まだ間に合う。もう1度やり直すんだ。僕も、ニックも。
全て忘れてしまったら…もう手遅れ。取り戻せないんだ。
「ローレン!?どこに行くの!?」
マリアの声が響く。こっちで合ってるか分からない。
でも走らなきゃ。走って逃げなきゃ。
「ローレン!!」
マリアの一際大きい声が響いた瞬間、僕の腕が掴まれた。
「離して!!僕は家に帰るんだ!!」
「ローレン!!」
え?僕の腕を掴んだのは――ミシェルさんだった。
「ミシェルさん?どうして――。」
「良かった!良かったローレン!!」
僕はミシェルさんに強く抱きしめられた。
チラッと後ろを見るとマリアが泣きそうな顔で見つめていた。……そして静かに深い森へと帰って行った。
「ああ、ローレン!!良かった……!」
お母さんは泣きじゃくりながら僕を強く抱きしめた。
「おかえりローレン……!無事で良かった。」
お父さんはベッドの上で泣きながら微笑んだ。
「兄貴はローレンを探しに森へ行って動物にやられたんだ。……お前が居なくなってから俺達は毎日毎日森に行ったんだ。」
「ごめんなさい……ごめんなさい!僕、辛かったんだ。本当のお父さんとお母さんが忘れられなくて!だから……忘れようと思って……。今のお父さん、お母さんの事も全部忘れようとしたんだ!本当にごめんなさい……!」
「……ローレン………、辛かったのね。気付かなくてごめんなさい。」
「お母さん達は悪くないよ!僕が歩み寄る努力をしなかったから!言葉にしなきゃ伝わらないのに……なんで分かってくれないんだって勝手に落胆してたんだ。本当にごめんなさい……。」
こんなに愛してくれた人達を忘れようとしてたんだ、僕は。辛かった記憶も僕の大事な思い出。――僕は逃げて空っぽになるところだったんだ。
「お父さん、お母さん……久しぶりだね。」
暖かい日差しが差し込む午後。僕はお墓参りに来ていた。
亡くなってから1度しか来ていなかったお墓。僕はずっと逃げていたんだ。
「ずっと来られなくてごめんね。……忘れようとして、ごめんね。」
忘れられたらどんなに楽か。……でも、忘れられた人はどんなに辛いか。――僕は優しかったお父さん、お母さんを存在しなかった人達にするところだったんだ。
「ローレン!!」
お墓に花を手向けていると後ろから声がした。
「ニック!!ってどうしたの!?」
手を振り走ってくるニックは頬を腫らしていた。
「あの後お父さんに殴られてね…。痛かったけど、お父さんが泣いてるの初めて見た。お母さんも泣いていたんだ。」
「ニック……。」
「お兄ちゃん達も皆馬鹿野郎って泣いていた。……ローレンありがとう………僕の居場所はあったみたいだよ。」
「僕もニックも……周りが見えていなかったんだね。」
「うん、本当だね。……独りよがりで何もわかってなかった。」
「気づいて良かった。全て忘れてしまう前に………。」
「ありがとうローレン。ローレンのお陰だよ。本当にありがとう。」
ニックー!お昼ご飯よー!
遠くからニックを呼ぶ声が聞こえた。
「あっ呼ばれてる。ローレン、良かったら一緒にご飯食べない?」
「食べたい!お母さんに言ってくる!」
「じゃぁうちで待ってるから来てね。」
ニックはニコニコと走って行った。
――マリア。あの時泣きそうな……本当に悲しそうな顔をしていた。彼女は何を忘れたのだろう。………何から逃げたのだろう。
マリアだけじゃない。あの時家にいた子供達はどんな辛い記憶から逃げたのだろう。
――――もう二度とあの森に入る子供達が現れ無いように。
僕はそう呟くとお父さん、お母さんが待つ家へと走って行った――。
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