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6.陸と名乗る少年
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「前にもここに来たってのはホントみたいだな…」
「ああ、本当はお前を止めるつもりで来たんだが……バスに…この合宿に来させない様に…」
「……俺に何かあるって事だけど……」
月斗は不安げな表情を浮かべ陸と名乗る少年に問いかける。
「ああ、その事だが……」
陸は周りを見回す。
「前回とメンバーが違うな…知らない奴が随分と乗ってる」
「???」
「例えばアイツ…」
と言ってバスの後ろの方の席に座っているメンバーを指さした。
「1年のミクニか?」
月斗はそう言うと陸に向き直る。
ミクニは今年から応徳学園に入学して来た1年だ。
4月に初めて会った時に月斗はこのミクニから不思議な事を言われたのを少し思いだした。
何か…何だったか…?
「他にも…アイツだ」
と言った陸の目線の先にいたのは2年の命だった。
長い黒髪を一つ括りにした一見女子と見紛う様な容姿をしている。
「命が…?」
月斗が不思議そうに陸と名乗る少年を見つめる。
更に目の前の陸は周囲を見廻して
「今橋、それに空太と駿は?姿が見えないが?乗って無いのか?」
「今橋?、空太?駿?」
「ああ!、今橋と空太と駿だ。全員、中等部から同じチームのメンバーの!」
「………」
月斗が陸と名乗る少年をジッと黙って見つめている。
「どういうことだ?」
陸と名乗る少年がそう呟くと
「陸……」
「ホラ!俺とお前と空太と駿、それに今橋!……あの中等部での全国大会での無効試合!」
「無効試合?」
「ああ…原因は…俺の…」
そう言いかけた陸と名乗る少年を制するように月斗が目を伏せて言う。
「悪い…あんたはどうやら俺の知ってる陸じゃ無いようだ…」
そう言って月斗は目の前にいる金髪の長い髪を束ねている少年を見据えた。
茶色というよりもむしろ赤身がかったその瞳は三方を白目に囲まれたいわゆる三白眼でかなり相手に威圧感というか目力があった。
「ちょっと待ってくれ!俺は俺だ!いや…オレがここに来た理由は月斗お前を…」
陸と名乗るその少年は必死に捲し立てる様に声をあげて月斗に話かける。
だがその表情には今までの自信が削がれ代わりに不安の色が浮かんでいた。
「月斗!覚えてるだろ?おれが転校して来た日の事?」
そう言ってなおも不安の色を隠せずにいた。
「陸が転校して来たのは小学3年の時」
「そうだ…その頃の俺は人見知りで無愛想なヤツだった…」
「……ああ」
「俺は月斗、お前が声をかけてくれたから一歩踏み出せたんだ。」
「ああ、覚えてる……だけど…悪いけど、それは多分あんたじゃ無い別の陸だ。」
そう言って月斗が陸を見つめる。
「…………」
その異様な雰囲気の中、外から帰って来た堂島が2人に気づき声をかける。
「どうした?月斗、陸!席に着け!」
「それが、先生…彼が…」
よそよそしく親友を彼と呼ぶ月斗は陸と名乗る少年を指差した。
「陸がどうした?」
「彼がこの世界には一度来たことがあるって言ってるんです」
「何?本当か?どういう事だ?」
顧問の堂島は陸と名乗る少年を見た。
「エエ…俺だけじゃ無くて、先生も…月斗や他の…いえ…」
「詳しく教えて貰おうか?」
堂島は驚いた様子だったが興味深々に陸と名乗る少年に向き合った。
バスの車内は生徒たちのそれぞれが思い思いに今のこの状況が信じられないといった様子で騒然としていて運転席に近い場所にいる月斗達のこのやりとりは後ろの方の席はもちろん、バスの中程の席でも気付いている者はいなかった。
運転席でハンドルを握ったまま周りをキョロキョロしている三原と月斗の席の後ろにいる2年の南 千里。
そして同じくマネージャーの1年天道 京華。
「俺は前にもここに来たことがあるんです」
「前って?どれくらい前なんだ」
「元の世界に戻って来たのが2か月前……そして、この世界で俺は…俺たちは約10カ月過ごしたんだ。」
「10カ月?…元の世界に戻るまで?」
堂島はそう言うと陸と名乗る少年をジっと見つめる。
「さっきから陸、お前に感じた違和感はそのせいか…」
月斗も堂島もこの陸と名乗る少年の姿が、少し大人びて見えた理由。
昨日までのトレードマークである金髪リーゼントと違い長く伸びた髪を束ねて後ろで括り、前髪が目にかかっている。
寝坊してセットが出来なかったとさっきは言ってたが実際には1年も違うのだ。
これくらいの年齢の男子にとって1年というのは随分と成長過程において大きいといえる。
大人になってからの1年と成長期の高校生にとっての1年とでは格段に差があって当然だ。
「今、18歳って事か?」
「多分…」
陸と名乗る少年はそう答える。
「そうか…それが本当なら元の世界に戻る事が出来る…と言うことだな」
堂島はそう言うとメガネを指で直す様な仕草をした。
「はい」
「なるほど…問題は元の世界に戻る方法があるとして…この世界に10カ月…もか…戻るにはそんなにかかるものなのか?」
堂島は考えを巡らす様にジッと黙りこんだ。
「とりあえず、月斗、バスから降りてみんなを1カ所に集めてくれ」
そういって大木のそばに停車したバから生徒たちと副顧問が降り、それに赤いクーペの女性も加わった。
辺りは完全に陽が落ち僅かに灰色の月明かりとバスのヘッドライトに照らされた大樹の影が不気味に目の前に横たわる巨人の骸を照らしていた。
「ああ、本当はお前を止めるつもりで来たんだが……バスに…この合宿に来させない様に…」
「……俺に何かあるって事だけど……」
月斗は不安げな表情を浮かべ陸と名乗る少年に問いかける。
「ああ、その事だが……」
陸は周りを見回す。
「前回とメンバーが違うな…知らない奴が随分と乗ってる」
「???」
「例えばアイツ…」
と言ってバスの後ろの方の席に座っているメンバーを指さした。
「1年のミクニか?」
月斗はそう言うと陸に向き直る。
ミクニは今年から応徳学園に入学して来た1年だ。
4月に初めて会った時に月斗はこのミクニから不思議な事を言われたのを少し思いだした。
何か…何だったか…?
「他にも…アイツだ」
と言った陸の目線の先にいたのは2年の命だった。
長い黒髪を一つ括りにした一見女子と見紛う様な容姿をしている。
「命が…?」
月斗が不思議そうに陸と名乗る少年を見つめる。
更に目の前の陸は周囲を見廻して
「今橋、それに空太と駿は?姿が見えないが?乗って無いのか?」
「今橋?、空太?駿?」
「ああ!、今橋と空太と駿だ。全員、中等部から同じチームのメンバーの!」
「………」
月斗が陸と名乗る少年をジッと黙って見つめている。
「どういうことだ?」
陸と名乗る少年がそう呟くと
「陸……」
「ホラ!俺とお前と空太と駿、それに今橋!……あの中等部での全国大会での無効試合!」
「無効試合?」
「ああ…原因は…俺の…」
そう言いかけた陸と名乗る少年を制するように月斗が目を伏せて言う。
「悪い…あんたはどうやら俺の知ってる陸じゃ無いようだ…」
そう言って月斗は目の前にいる金髪の長い髪を束ねている少年を見据えた。
茶色というよりもむしろ赤身がかったその瞳は三方を白目に囲まれたいわゆる三白眼でかなり相手に威圧感というか目力があった。
「ちょっと待ってくれ!俺は俺だ!いや…オレがここに来た理由は月斗お前を…」
陸と名乗るその少年は必死に捲し立てる様に声をあげて月斗に話かける。
だがその表情には今までの自信が削がれ代わりに不安の色が浮かんでいた。
「月斗!覚えてるだろ?おれが転校して来た日の事?」
そう言ってなおも不安の色を隠せずにいた。
「陸が転校して来たのは小学3年の時」
「そうだ…その頃の俺は人見知りで無愛想なヤツだった…」
「……ああ」
「俺は月斗、お前が声をかけてくれたから一歩踏み出せたんだ。」
「ああ、覚えてる……だけど…悪いけど、それは多分あんたじゃ無い別の陸だ。」
そう言って月斗が陸を見つめる。
「…………」
その異様な雰囲気の中、外から帰って来た堂島が2人に気づき声をかける。
「どうした?月斗、陸!席に着け!」
「それが、先生…彼が…」
よそよそしく親友を彼と呼ぶ月斗は陸と名乗る少年を指差した。
「陸がどうした?」
「彼がこの世界には一度来たことがあるって言ってるんです」
「何?本当か?どういう事だ?」
顧問の堂島は陸と名乗る少年を見た。
「エエ…俺だけじゃ無くて、先生も…月斗や他の…いえ…」
「詳しく教えて貰おうか?」
堂島は驚いた様子だったが興味深々に陸と名乗る少年に向き合った。
バスの車内は生徒たちのそれぞれが思い思いに今のこの状況が信じられないといった様子で騒然としていて運転席に近い場所にいる月斗達のこのやりとりは後ろの方の席はもちろん、バスの中程の席でも気付いている者はいなかった。
運転席でハンドルを握ったまま周りをキョロキョロしている三原と月斗の席の後ろにいる2年の南 千里。
そして同じくマネージャーの1年天道 京華。
「俺は前にもここに来たことがあるんです」
「前って?どれくらい前なんだ」
「元の世界に戻って来たのが2か月前……そして、この世界で俺は…俺たちは約10カ月過ごしたんだ。」
「10カ月?…元の世界に戻るまで?」
堂島はそう言うと陸と名乗る少年をジっと見つめる。
「さっきから陸、お前に感じた違和感はそのせいか…」
月斗も堂島もこの陸と名乗る少年の姿が、少し大人びて見えた理由。
昨日までのトレードマークである金髪リーゼントと違い長く伸びた髪を束ねて後ろで括り、前髪が目にかかっている。
寝坊してセットが出来なかったとさっきは言ってたが実際には1年も違うのだ。
これくらいの年齢の男子にとって1年というのは随分と成長過程において大きいといえる。
大人になってからの1年と成長期の高校生にとっての1年とでは格段に差があって当然だ。
「今、18歳って事か?」
「多分…」
陸と名乗る少年はそう答える。
「そうか…それが本当なら元の世界に戻る事が出来る…と言うことだな」
堂島はそう言うとメガネを指で直す様な仕草をした。
「はい」
「なるほど…問題は元の世界に戻る方法があるとして…この世界に10カ月…もか…戻るにはそんなにかかるものなのか?」
堂島は考えを巡らす様にジッと黙りこんだ。
「とりあえず、月斗、バスから降りてみんなを1カ所に集めてくれ」
そういって大木のそばに停車したバから生徒たちと副顧問が降り、それに赤いクーペの女性も加わった。
辺りは完全に陽が落ち僅かに灰色の月明かりとバスのヘッドライトに照らされた大樹の影が不気味に目の前に横たわる巨人の骸を照らしていた。
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