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7.ミコトとミクニ
しおりを挟む「日向 月斗17歳。応徳学園高等部ハンドボール部キャプテン。今回のこの合宿への意気込みは今季の夏大会優勝にあぐらをかくことなく、より一層のチームの結束を固める事を目標にしてます。皆んなこんな状況だけどしっかりと気持ちを強く持って誰一人欠ける事なく元の世界に戻ろう」
今季夏大会優勝?
陸は月斗の言った言葉が気になった。
オレは…俺たちは夏の大会に参加していないし、3年の先輩たちは全国大会に出場していなかった…
やはり、前回とは状況が違う。
1年の梶、マネージャーの天道と南の自己紹介が終わり2年の「ミコト」と呼ばれた生徒の自己紹介が始まった。
一括りに後ろで纏められた艶の良い黒髪と切れ長の目が印象的で端正な顔立ちと華奢な体格が中性的な印象を与えている。
「大和 命17歳。応徳学園高等部2年。RW」
ここには居ない淡路 駿と同じポジションで駿ほどでは無かったが声が小さかった。
その少年はそれだけ言うとさっさと元の場所に戻る。
すれ違い様に「ミクニ」が「ミコト」をチラリと見た気がした。
続いて1年の「ミクニ」の自己紹介が始まった。
ボブカットの短めの髪と気の強そうなやや吊り上がった目でその場にいるメンバーを威嚇する様に見渡す。
そして一呼吸間をあけた後
「私は三国心愛16歳。三つの国に心、愛と書いてココアよ!応徳学園高等部ハンドボール部マネージャー1年よ!。これだけは言っておくわ!私はここに来るのはこれで2回目よ!………前回とは随分と状況が違うみたいだけど……それと私以外にも何人か混じってるわね……どうやら内緒にしときたいみたいだから誰かはこの場で言うつもりも無いけど!以上…」
そう言って陸とまた目が合った。
思わぬ告白にその場がザワザワする。
「ミクニ!2回目ってどういう意味だ?」
生徒の1人がそう質問すると
「前にも来たって言ったでしょ!質問は無しよ!」
そういって彼女はその質問をピシャリと跳ね除けた。
そして陸を見据えたまま元の位置に戻る。
陸は自分の心内を見透かされた様な気分で思わず目線をそらす。
「………」
三国 心愛?居たか?
陸は思考を巡らす。
誰だ?
前回とは…という言い方と完全に俺を見ている…様子から…。
他にも…と言っていたが…俺以外に誰だ……?
陸の直感は間違いないはずだった。
陸にはこの世界と元の世界での記憶がしっかりとあった。
だから見落とすはずは無いはず……
世界を行き来する際、記憶がスッポリと抜けて落ちてしまう症状を引き起こす。
前の堂島先生がその症状を『転移記憶喪失』と読んでいたのを思い出す。
元の世界に戻った時にこの世界での記憶を全く失ってしまった者と失わなかった者の違い……。
その「アムネシア」を回避するには記憶を残す媒介としてその世界のモノを身につけること。
陸は前回、ここ巨人世界で手に入れた石を加工して指輪として左手にはめている。
これによって陸は「アムネシア」にならずにいた。
「三国 心愛」彼女はあえて自分の名前の漢字と読み方を説明した?
陸はそれによって彼女の魔法をイメージする。
この世界における「特殊能力」
名前と周りからのイメージによって使用可能となる「アニマ」と呼ばれる魔法…いわゆる能力が決まる。
心愛は敢えてそれをする事で自分の魔法を俺に印象付けたのか?
そうだ…俺はみんなの事を知らない。
この場で自己紹介が必要だったのは皆んなの事を知りたいと考えた「橘 妃音」と俺だけのはず。
そして魔法の事はまだ誰にも言っていない。
あの橘 妃音でさえも口に出さなかった。
前回、真っ先に異世界転移とか異世界転生と大騒ぎをして魔法の存在を話していた梶 大作ですら……。
だが彼女があの様な自己紹介をする事で陸は「三国 心愛」の魔法を連想した。
心愛の能力は相手の心を見透かす能力。
陸が連想することによって彼女の魔法は能力値が数段に上がっただろう。
「…………」
これ以上、三国 心愛の事を考えていると心の中を覗かれる気がして陸は考えるのをやめた。
前回の旅で陸の魔法は最初、「地面を少し盛り上げる」といったショボい能力だったが、魔法の使用に伴っていわゆる経験値を得る事で能力値も向上した。
こっちの世界に来てからはまだ魔法を試してはいないが前回のステータスがそのまま持ち越せているとすればかなり有利に使える能力ではある。
元の世界では魔法を使う機会もほぼ無かった。
というのも元の世界ではこの世界での威力よりも随分と能力値が下がるからだ。
陸の魔法は初期能力値ではほぼ使い道が無く、元の世界では何度使用しても経験値も得ることが出来なかった。
だが、ここ巨人世界の最果てのこの場所に於いては能力を最大限に発揮出来るはず。
三国 心愛はこの自己紹介によって経験値を得て、能力を向上したのだ。
バス運転手の三原の自己紹介が終わり次からまた陸の知らないメンバーが続くようだ。
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