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9.みるくここあ
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陸たちを乗せたバスは大木の根本付近に止まっていた。
車内にはほぼ全員が揃っている。
そこから少し離れて橘 妃音の赤いクーペが止まっていた。
人がいると落ち着かないという理由で妃音は1人自分の車に向かう。
それ以外は皆、思い思いに雑談をするものやシートを倒して寝ているものもいた。
「ちょっと外へ行って来ます。トイレへ」
そう言って陸はスマホのライトで足元を照らしながら1人外へ出て行く。
「気をつけろよ!あんまり遠くへは行くな!」
堂島が陸にそう声をかけると
「私も!」
そう言って1年のマネージャーの三国 心愛も慌てて陸の後を追って出て行った。
「連れションか?ハハ」
後ろで誰かの声がする。
「うるさいわね!」
ミクニはそう言うとバスを降りた。
――――――――――――――――――――――――
2
バスを出て右手に大木の根が張り出している。
その奥の辺りにくぼみがあり陸はミクニが来るのを待った。
「こっちだ!」
陸はミクニに声をかける。
「話って?」
陸の問いに
「そっちこそ話があったんじゃないの?」
ミクニはそう言って
「2人が最初にバスに乗り込んできた時は気付かなかったわ!でもその後、私を見た時のあなたの思考が伝わって来たの。そして自己紹介の時にわかってしまった。あなたは以前もここに来たってね。隠しても無駄よ!私の魔法の種類はわかってるんでしょ?」
「ああ。俺の考えが読めるんだろ!」
陸の予想通り目の前にいるミクニの魔法は人の思考を読み取る能力の様だ。
「まぁ、そんなところね…」
「君は一体誰なんだ?」
ミクニが陸の思考を読み取る。
「本当にわからないようね。…まぁ、無理もないわ!あの時とは見た目が随分と違うから…」
「???」
「前回あなた達と一緒に旅をした時、私は6歳だった…と言えばわかるかしら?」
「⁈⁈⁈あの5人の子のうちの1人か⁈」
「そう……あの日、襲われてたマイクロバスを月斗にいちゃんが助けてくれた。その後、妖精王の森を抜けて精霊界から時間を遡って元の世界に戻ったの。2014年の9月13日にね。まるで何事も無かったかの様に」
「無事に戻れたんだな」
「ええ、何もかも元通りに…」
「なら良かった」
「幼稚園バスは何事も無かった様にいつもと同じ道をいつも通りに走って幼稚園に着いたわ」
「でも私だけは覚えていた」
「……」
「月斗にいちゃんの事、忘れたく無くて、精霊界に入る前に他の子達が捨てた「石」を私だけは持っていたの」
「じゃあ、記憶が?」
「エエ、私ともう1人………堂島先生の奥さんもよ。」
「??誰だ?」
「泉 穂波って言えばわかるかしら?」
――――――――――――――――――――――――
3
驚いた!
陸はこちらの世界に来て驚かされる事ばかりだった。
堂島先生が結婚をしていてその奥さんがかつて一緒に旅をした泉先生だったとは……
しかし、ここまで以前と変わっているとは……….。
だが納得は出来る。
(俺のいた世界では出発の日、10年前の2014年9月13日に吹田山手幼稚園のバス失踪事件が発生し園児5人を含む7人が幼稚園バスごと消えた。)
(その中の2人が目の前にいる「三国 心愛当時6歳と幼稚園の教員、泉 穂波」
でもこの事件が起こらなかった世界で居ないはずの人間が存在している……現に今、堂島先生は居ないはずの人間と結婚していて子供もいる。
むしろこれくらいの変化で収まってる方が奇跡なのかも知れない。
「で…君の事はわかったけど、さっき俺たち以外に2回目が何人かいる?ってどういう意味」
「そうね…私達を除いて13人の中に2度目がいるのは間違い無いわ」
「そうか。君の魔法で全員の思考を読めば一発でわかる事だもんな。で?誰なんだ!」
「フフ…甘いわね!それは無理なのよ!何を隠そう!私の能力は1日にたった1人の思考しか覗け無いんですもの!」
マイナスの要素をサラッと自信満々にミクニは言った。
「今は誰を?」
「今は陸にいちゃんの思考が痛い様にグサグサと私に刺さって来ているわ!オマエ使えないなっ!てね!」
――――――――――――――――――――――――
4
しばらくの沈黙のあと、気を取り直した陸が
「でもまぁ、時間をかければその問題も解決しそうだな」
「いいえ、そうでも無いの!」
「今回のこの旅は前の様にのんびりなんてしてられないのよ!」
「!!!どういう事だ?」
「陸にいちゃんの目的は、月斗にいちゃんを元の世界に無事に連れ帰る事でしょ!」
ミクニが陸の思考を読んだようだ。
「でも助けようとしてた月斗にいちゃんに警戒されている。」
「ああ。確かに……」
「しかも目の前にいる月斗にいちゃんは別のルートを辿って来た人間なので助けようとしていた月斗にいちゃんと違っていた!」
「ああ….」
「私、高校に入学した時に真っ先に月斗にいちゃんに会いたくて会いに行ったのよ。2年生のいる教室に!」
「それで私の事必死で伝えようとしたわ!でも月斗にいちゃんが私の事なんて知ってる訳無いんだもん。だってまだ出会っても無いんだから……。私には月斗にいちゃんや他のみんなと過ごした記憶があるけど、月斗にいちゃんには無い……。この先、未来永劫、17歳の月斗にいちゃんと6歳の私は出会うことが無いのよ。だって6歳の私は異世界に…この世界に来なかったんだもん」
ミクニの寂しそうな表情に陸は慰める様に答えた。
「………だったら….月斗に普通に声をかけて普通に告白したら良いんじゃ無いか?…」
「フン…そんなのとっくにやってるわ!でも最初のアプローチが悪かったわ…完っ全に!変な子って思われた」
確かにさっきも月斗がミクニについて何か言ってたけど……多分アイツは忘れてる。
「相手の思考が読めるってどういう事かわかる?
自分に好意を持ってくれる人の感情が伝わってくれば嬉しいけど。逆に自分に悪意を持ってる人間の思考を覗く事がどんなに怖いことか?」
ある程度は予測はつくが相手の事がわかれば便利な能力だと陸は思った。
「フン!甘いわね!例えるなら…そうねSNSのバッド評価や悪意あるコメントを見るみたいなものよ。エゴサーチとかね。やるもんじゃ無いわあんなの!幸い元の世界では魔法の能力は10分の1程度になるから心を抉られる様な事はなかったけど…」
エゴサーチって一般人には関係無いんじゃ……?と陸は思った。
「フン!それが私ってば、ちょっとばかり有名なのよね!」
ん?何だ?人気ユーチューバーとかか?アイドル…?言われてみれば…カワイイかも知れない…
「フ…ふん…カワ…カワイイ…なんておべんちゃら言っても何も出ないわよ!(汗)。残念でした。小説家よ!『みるくここあ』っていうペンネームで小説を書いてるのよ!初めはネットで掲載してたんだけど。人気が出て書籍化!さらにコミカライズされて!円盤の売れ行きも好調!2クールでアニメ化も2期決定よ!」
………………。
「人気シリーズで異世界モノののはしりだとかエポックメイキングだとかって言われてるんだから!」
そいつは……すごいな!と陸は関心した。
「その名も『異世界に転移した幼稚園児は精神年齢が高くて年の離れた赤毛の王子に恋をする!』よ。『イセアカ』って言われてるわ!もしくは幼精王ってね!」
タイトル長ーーーーッ!内容がわかりやす!まんまだ。
驚いた。
随分と驚かされる事ばかりだ………と陸は思った。
応援ありがとうございます!
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