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13.赤い大地、南風
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1
「車内にいる彼を埋葬してあげようと思って」
バス運転手の三原はそう言って地面を掘る為のスコップを取りにバスの荷物入れに向かう。
手伝います。と言って堂島と陸、心愛も後について行った。
荷物入れは車体の側面にありレバーを引くと上へドアがせり上がる仕組みになっている。
ドアがゆっくりと上がりスコップを取り出そうとすると三原は大量の段ボールが荷物入れに大量に入っているのに気付いた。
「何だ?」
そう言って布テープで閉じられた段ボールの中身を確認する。
「コレは!」
堂島もそれに気付く。
「こんな物が用意されてるなんて……」
段ボールには水と食料が大量に詰められていた。
他のも入れると相当な数になりそうだ。
「一体いつこんな物が……」
顧問の堂島と運転手の三原がそんな会話をしていた。
「誰かが予めこうなる事を知ってた様な?…それにしてもこのタイミングでの食料と水はありがたい。」
そう言うと 陸は桐崎の方へ目をやり心愛に目で合図をした。
三国 心愛は陸の思考を読み取り無言でうなずく。
桐崎竜二。
自称高校2年。
しかしどう見ても顧問の堂島よりも年上にしか見えなかった。
彼の横顔に陸は見覚えがあった。
特徴的なわし鼻。
自己紹介を終え目の前を通り過ぎる際に見た横顔が印象的だった。
ミクニの魔法がリセットされれば次に桐崎の心を読む様に指示をした。
この自称高校生の正体を掴むにはまだ時間が必要な様だ。
その前にバスの車内に残されたままの第二の犠牲者である毒島を弔ってやる必要がある。
毒島の毒がどういう類のものかわからないまま迂闊に身体に触れる事は避けたい。
万が一、触れる事で死に至ることも想定しなければという堂島の意見に従った。
とはいえそのままというわけにもいかず陸はある提案を堂島にする。
「先生!俺の魔法で毒島を埋葬してやる事は可能だと思います。」
どうやって?という堂島の質問に陸が答える。
「なるほど!そんな事が⁈だがそうすると他のメンバーにも魔法の事が知られてしまうと言う事か……」
「エエ…魔法に関しては、全員には…前回、俺と一緒に旅をしたメンバーであれば能力の属性は把握出来てますが…例えば千里の千里眼や京華の睡眠回復という能力は今後の旅にも役に立ちます」
「フム…」
「あと先生の魔法と月斗の魔法があれば…」
2人が会話する中、視線を感じる。
視線の先には桐崎がいた。
桐崎はすぐに何事も無かった様に目線を逸らした。
陸のトレードマークだったリーゼントは金髪に混じり黒髪が目立ちはじめている。
キチンと整えられていた髪は完全に耳を覆うほど伸びていた。
視線の先に桐崎の姿を捉え「特に奴には魔法の事を知らせたく無い…」
そう言うと陸は険しい表情を見せた。
――――――――――――――――――――――――
2
スマホの時計はPM20:35分を示していた。
ハンドボール部1年、毒島和也の事件が起きてから2時間以上が経過した。
食事をとるのも忘れ皆、疲れが溜まっていたところに水と食料が見つかったのは幸いだった。
メンバー全員が車外に出て一か所に集まる。
マネージャーの女子2人は心神耗弱状態の為、三国心愛と月斗、そして陸が率先して段ボールから取り出した水と食料をそれぞれに配った。
外はまっ暗で星の無い夜空の元、バスの室内灯の明かりだけが明るく辺りを照らしている。
空腹が満たされずっと泣き通しだった天道 京華も幾分落ち着きを取り戻した様だった。
副顧問の誘導で月斗たちメンバーがバスのドアから目につかない場所へと移動をする。
丁度、大きな樹木の根っこ。といってもその高さは2mは雄に超えていた。
そこからはバスの中の様子も見えない。
他のメンバーの姿が見えなくなるのを確かめると、陸はその場から離れる様に告げ地面に片手をついて何かを叫んだ。
ドオオン!と勢いよく音を立て一瞬で地面に人が充分横になれるほどの穴が開いた。
「穴はこれくらいでいいでしょう。あとは…」と更に陸は地面に今度は両手をついて何かを呟いた。
すると地面が盛り上がり土の塊が一瞬で人のカタチへと変化し2メートルくらいの大きさになった。
「おお!これが?」
「土人形です。コイツで毒島を車内から連れだしましょう。」
そういって陸と堂島、そして陸の創り出した土人形が車内へと入る。
2人は毒島のいるはずの座席へと辿り着き異変に気付き立ち止まった。
「!!!!」
「コレは?どういう事だ?」
そこにはいるはずの毒島の姿は無くバスの中はもぬけの殻だった。
――――――――――――――――――――――――
3
間違いなく毒島は毒に侵されて絶命していた。
「陸⁈この世界では死んだ人間が歩いたりするのか?」
「………わかりません…もしかしたらそういった魔法があるのかも知れませんが…俺が知る限りそんな魔法を使う奴は居ませんでした!梶ならこの世界の魔法について何か知ってるかも知れない!後で聞いてみましょう!」
陸はそういうと座席の付近を調べた。
「先生!歩いた…としてもバスの車外に一体どうやって出るんでしょう?」
「???」
「基本、この扉って三原さんによって閉じられてましたよね?」
「ああ」
「それに扉から車外に出たら誰かの目につくはず……」
陸が指摘するように毒島が歩いてバスの車外に出る事は考え難い。
だが誰かに連れ出されたとしても一体誰が何の為に?
自身も毒に侵される危険に晒される可能性もある。
「先生!千里には後で魔法の事を伝えようと思います。」
「??」
「千里の魔法なら近くの事は勿論、遠くの様子を感知する能力があります。」
「千里…千里眼か?」
堂島の質問を遮る様に陸が叫ぶ。
「先生!外の様子が変です!」
陸はそういうと土人形と共に車外に出た。
扉から外へ出ると土人形は役目を解きただの土に戻す。
扉から車外に出た陸の後を追って堂島が続く。
バスの入り口と反対方向にいる他のメンバーの方へ急いだ。
一箇所に集まり休憩しているはずのメンバー達の元へ向かう。
わずかにさすバスの車内灯の灯りに映し出された影はその場に座り込むというよりも倒れこんでる様に見える。
嫌な予感がして陸は急いでメンバーの様子を確認する。
辺りに甘いお香の様な香りがたち込めているのに気付いた瞬間!
「先生!どうやら眠って……い…」
陸はそう堂島…に告げる間もなくその場で意識を失いたおれこんだ。
後から駆けつけた堂島も同様、勢い余って陸に覆いかぶさる様に意識を失いその場に倒れこむ。
あたりは物音一つ聞こえない。
静かに時間が流れた。
――――――――――――――――――――――――
4
陸が目を覚ましたのはそれから約2時間後だった。
スマホの画面で時間を確認する。
PM22:48分を示していた。
幾分、体がスッキリしている。
陸はこの突然の睡魔が天道京華の魔法の効果であるとすぐに見当がついた。
京華が魔法の存在を認識し意識的にか無意識にかは不明だが能力が発動したのだろう。
京華の華の香を感じさせる癒し系の魔法は今後の旅に役に立つ。
陸にはこの京華の魔法に若干の耐性があったのか他のメンバーよりも早く眠りから覚めた様だ。
周りのメンバーはまだ目覚めていない様子で怖いほどに静かだった。
眠ってる間にすでに短い夜が終わり太陽が登っていた。
微かに甘いお香の香りが辺りに残っている。
まだ京華の魔法の効果が続いてるのだろう。
風が吹く。
その風に混じって華の香と鉄の混ざった様な匂いがする。
何だ?
太陽に照らされて周りの様子がハッキリと見渡せる様になり陸(りく)はその鉄の様な匂いの正体が何か理解した。
血だ。
血の匂い。
鉄分を多く含んだ匂いの正体は血の匂いだった。
陽に照らされた地面が赤く染まっている。
そして血の染み込んだ地面に横たわる人の姿が目に入る。
誰だ?
そこにいるのは?
血の染み込んだ地面にうつ伏せに身を沈めているのは?
誰だ?
着ている服装から女生徒だとわかる。
まさかミクニ?
いやミクニにしては髪の毛が長い。
後ろに一つ括りに纏められた長い髪の毛から陸は血の染み込んだ地面に倒れこんでいる人物が誰なのか気付いた。
応徳学園2年、ハンドボール部マネージャー。
南千里だ。
また風が吹く。
南千里のいる場所から陸のいる場所へ吹きぬけた風にのって血の匂いが鼻を刺激する。
地面が。大地が赤く染まっていた。
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