泥状のギギルコン「と」

がら がらんどう

文字の大きさ
4 / 15

みきが住む村

しおりを挟む
 洞窟を出た吉井は、鎧を着た人間が持っていた何度口にしても材料が分からない激しく乾燥した何かを食べながら、大小の岩と赤茶色の土しかない風景の中、夜通し歩き続けた。

 そして洞窟を出て翌日の昼過ぎ、しばらく登っているなあ、なんか岩少なくなってきたなあ。と感じていた吉井は、急に視界が開け進行方向が崖になっていることに気付いた。

 おお、これはすげえ。割と高いとこにいるな。

 吉井は数10メートル程度あると思われる高さから、眼下に広がる地平線まで続く森林を眺める。

 川があるな。海は見えないか、あるのか知らないけど。しかし、どこみても森だら、お、あの辺なんかある。視線を何度か左右に振った後、ふとした違和感から吉井は一点を見つめた。
 
 あそこ、森だらけの中に建物がいくつか。あんだけあればもう村だよな。いや、村だよ。完全に村といってもいい、だからあれは村だ。

 森の中にぽっかりと空いた空間に、3、40軒程度の建物があるように見え、そしてその集落のような所の周りは木の柵のようなもので覆われている。確実に何かしらの人為的なものを感じた吉井は、素通りする選択肢はない、と最短距離でその集落に向かうため崖を降りようとしたが、高所恐怖症である自分の精神状態に多大な不安を感じたので、山を下りる形で迂回してその場所に向かった。
 

 二つある太陽の位置で方角を覚えておこうと、吉井は何度も太陽を見て位置を確認ながら山を下りたが、大きな岩を避ける等して迂回する度、徐々にあいまいになってきており最終的に森に入った瞬間、吉井はすべての位置情報を失った。
 もうどうでもいい。大体にして太陽で位置取りとか無理。吉井は完全に開き直り森の中を適当に進んでいると、数時間後に集落の周りを囲んでいる柵を見つけ、吉井は少し自信を取り戻した。

 おいおい、やればできるじゃないか、おれ。北極星で位置を把握するっていうのを漫画で読んだことがある経験は役に立たなかったが。
 
 吉井はしばらく柵沿いに進み、集落の入り口と思われる場所の前に立った。

 入り口は開閉式の柵になっており、どうしようかと吉井がうろうろしていると、柵の向こう側から一人の少女がこちらを見ていることに気付いた。

 16、7歳に見える小柄な少女は吉井と目が合うと、振り返って近くの家の中に入り、数分後に小学生程度の男の子を連れて出てきた。

 その少女は男の子を連れて入り口近く、吉井と数メートル離れた場所まで近づき、棒立ちの男の子の前に膝をついて目線を合わせた。

「はい、じゃあ今からピザって10回言って下さい。ちゃんと10回ね」
「ピザって?なに?」
「その問いは意味がないなあ。いいから言ってみて」
 なんで?なんでピザっていうの?首を傾げ納得のいっていない男の子を、言えばわかることもあるから。ね、言ったらわかるから。とせかしながらも少女はちらちらと吉井の方を見る。

 ん?ピザって。おい、それは。吉井は村の入り口の柵を掴める距離まで近づいた。

「ピザピザピザピザピザ・・・」
 男の子は指を折りながら10回数える。
「じゃあ、ここは?」
 少女は自分の肘を指差し、ねえねえ。ほら。と言いながら再び吉井に視線を送る。
「ひじ!」
 少年がそう答えると少女はがっくり肩を落とした後、ぽんぽんと少年の頭を叩き吉井に近づいて来た。

「そこの人、このやり取りに過剰ともいえる反応をしめしたってことは」
 あなた日本人ですね。少女は柵に顔を寄せて吉井の目の前で満足そうに頷く。
「あ、ああ。そうだけど。じゃあ君も?」
 吉井は反射的に周りをキョロキョロと見渡す。
「そういうことですね。まあ、積もる話もあるでしょう。わたしもあります」
 
 静かに柵を開けた少女は吉井を招き入れて閉めた後、いくつか並んでいる家の一つを指差し、詳しくはあっちで。と言い歩き出した。



「やっぱりピザっていうものをある程度認識してないと効果ないんですかねえ」
 そう言いながら少女はドアを開け木造のコテージのような家に入った。
 
 玄関で靴を脱いだ少女を見て、まあここは合わせておくべきだよな。と考えた吉井は履いていた靴を脱いで、少女の靴の横に並べた。
 
「で、あなたはいつ、どこから来たんですか?」
 ほらほら、そこに。と促されて、吉井は床に座り込んだ少女の正面に座った。
「ええと、3日ぐらい前に滋賀県から」
「そうじゃなくて!その、あなたのいた現代の時間っていうか」
「いつって。うーんと、2年からかな?」
「に、2年・・・?え、ちょっと2年!?」
「うーん、あ、西暦で言うと2020年」
「あ、ああ。よかったです。過去か超未来かと」
 一応わたしあれで把握してるんですけど。少女は壁に彫っている無数の「正」の字を指差す。

「ああ、それ日付なんだ。しかし量が多すぎて気持ち悪いな・・・」
「でもそれなら大体合ってる。わたしこっちきて3年ぐらいだから」
 こっちと向こうで同じように時間進んでるんだ。じゃあもう戻れないってこと?いや、そんな。でも体も。少女はぶつぶつと正の字を見ながら呟いた。

「おいおい、3年って。というかここってどこなの?」
「止めて下さいよ。質問は一つに、って言ったじゃないですか」
「いや一つだし。言ってないし。でもわかったよ、そういう感じでやっていくのね。はいはい、君すげえな。こんなとこにいて普通にできるって」
「あなたが2人目なんですよ。ここであった日本人」
「え?そうなの。じゃあ、もう1人は」
「・・・長くなるけどいいですか」
「うん、まあいいけど」

 いたんですよ、車に乗ってきた人が。少女はそう言ってゆっくりと立ち上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...