前世ラスボスの陰陽師は正体を隠したい ~元大妖怪、陰陽寮に仕官する~

蘆屋炭治郎

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1章 旅立ち

4話 陰陽師、静かに暮らしたい

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(……限度ってあるよね!?)

 清士郎の放った術は、驚愕の破壊力だった。

 記憶を取りもどす前であれば、腰を抜かしていたことだろう。
 
 なにしろ周囲五間ごけんもの地面が椀の形にえぐれ、小さな家屋ほどはあるイタチのモノノ怪が吹っ飛び、はるか先の築地をぶちぬいてしまっているのだから。

(いや……これぐらいはできて当然、なのか)

 前世の記憶が戻った今となってはそう思う。
 百鬼夜行を率い、人々を恐怖におとしいれたが戻った今となっては。

(こんなとてつもない力があったら……)

 一国を滅ぼすことすら可能だろう。
 世界を揺るがすような――いや、実際に揺るがした力なのだから。

 使い方によっては、考えつくあらゆる欲を満たせるはず。

 しかし。
 記憶とともに戻った力で、清士郎が最初に満たしたいと願った欲は――

(……たんまり稼いで、山盛りのごはんが食べたい!!!)

 食欲、であった。
 先ほどまで死闘が繰り広げられていた広小路に、じゅるりと場違いな音が響いた。

『……』

 そのとき、瓦礫から鼬のモノノ怪が身を起こす。

 特に負傷している様子はない。直前でその圧倒的な霊力によって防御したのだろう。

 だが先ほどまでと違って敵意は見られず、襲いかかってもこなかった。ただただ、清士郎を見定めるかのように凝視してきて――


「この桁外れの霊圧……まさか、玉藻たまもさま!?」


 ようやく思い至った様子で驚愕の声をあげた。

 上位のモノノ怪は総じて知能が高く、人語を解するものも多いのだ。

「……久しいね、凍砂いすな

 清士郎は肩をすくめてそれに応じた。

 命の危機に瀕したことで、清士郎はすべてを思い出していた。

 玉藻というのは清士郎の前世の名。そして眼前の鼬のようなモノノ怪は凍砂という名の上級のモノノ怪で、前世で玉藻の忠実な配下だったことも。

 生死を左右する窮地に追いこまれていたこともだが、この場に凍砂がいたというのも、清士郎が前世を思いだすきっかけになったのかもしれない。

「……お待ちしておりました」

 凍砂はくるりと前宙すると、気づけば見目麗しい男の妖人姿ヒトガタに変身。
 清士郎に恭しくひざまずいた。

 その凍砂の所作をなつかしく思う清士郎。

 清士郎は前世でモノノ怪を従え、百鬼夜行を率いて人々を恐怖のどん底に突き落とした大妖怪。“国落とし”と呼ばれるモノノ怪の総大将だったのだ。

「どうか再び……我らをお導きください」

 だが――
 それはあくまでも前世の話にすぎなかった。

 窮地を脱して心に余裕ができた清士郎は、


「あ……ああああああああああ!!! 一張羅の狩衣があああああぁあぁぁ! 兄上の元服でやっとのことで譲り受けたお下がりがああああああああ!」


 戦闘で自身の狩衣がびりびりに裂けていたことに気づき、絶叫した。

 今世の清士郎は、地方官の屋敷に間借りする居候にすぎない。人とモノノ怪の壮大な戦よりも、自身の狩衣一式の生死のほうが重大事なのだった。

「た……玉藻さま、お鎮まりください」

「これが落ちついていられるか!  この狩衣一式でいくらすると思ってるんだ! ああ、縫えばどうにか……! いや、さすがにこうまでびりびりだと……くうううううっ! おい凍砂、どう責任を取るんだ!!!」

 先とは立場が逆転し、凍砂に詰めよる清士郎。

「せ、責任と申されましても……狩衣程度ならば、その辺の人間を始末して剥げばよろしいのでは?」

 凍砂はモノノ怪としてもっともな意見を述べる。
 前世の清士郎ならば、確かにそうしていたかもしれないが――

「それはモノノ怪の道理だろう。僕は人間なんだ」

 あくまでも今世の清士郎は人間なのだ。
 玉藻の記憶が戻ったからといって、人間を軽々しく殺めるような気持ちにはなれないし、そうするつもりもない。

「だから悪いが、今世ではお前たちを導くこともできない」
「それは……人間として我らモノノ怪と対立するということですか?」

 落ちついた声音で訊ねる凍砂。

「だとしたら……どうする?」

 清士郎はどこか愉しげな笑みで首をかしげる。
 二人の間に緊迫した空気が流れる。

 だがしばしあって凍砂はやれやれと息を吐き、

「……ご勘弁を。わたくしは玉藻さまに生かされた存在。玉藻さまがモノノ怪の敵となるならば、わたくしも今日からモノノ怪の敵になりましょう」
「僕は敵にも味方にもなるつもりはないよ」

 ただ――と清士郎は口ごもる。

 そして前世の記憶をたぐりよせる。
 前世であの陰陽師――安倍叡明に討たれた最期の戦いの記憶を。

(既視感が……あるはずだよ)

 なにしろあの男は前世で宿敵だったのだから。

 ぶるりと身震いする清士郎。
 叡明によってもたらされた自身の悲惨な末路を思いだしたのだ。

 あの痛みは、あの苦しみは、あの絶望は、早々忘れられるものではない。
 こうして生まれ変わったとしても、決して。

「もうあんな末路はごめんだ。今世は戦から離れて平穏に暮らしたい。お前たちには悪いがな」
「玉藻さま……」

 そんな会話をしていたときだ。


『――こっちだ、急げ』


 たくさんの足音が近づいてくるのが耳に入る。

 先ほどは派手に術を使ってしまった。
 近くにいた陰陽師たちが集まってきたのだろう。

「そういうわけだから僕のことは忘れてくれ」
「あ……玉藻さま!」

 近づいてくる足音とは逆方向に駆けだす清士郎。

 今世では平穏に暮らしたい。そのためには前世のことを人に知られるわけにはいかない。この惨事を起こしたのが自分だと知られるのはまずいだろう。

 自分はここにはいなかったことにするのが最善。

 忍のごとく人目を避け、屋敷への帰路につく清士郎なのだった。
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