34 / 42
2章 陰陽寮
32話 陰陽師、窮地に駆けつける
しおりを挟む「な、なんで貴様がここに?」
「護符が残されてたからね」
目を見開く義比良に、清士郎は肩をすくめる。
間に合ってよかった。
全力で走ってきたのだが、まさかここまでギリギリの状況だとは思わなかった。
「へへへ、おいらの護符が役に立ったみたいだなあ。さっすがおいらだあ~!」
誇らしげに親指を立てる犬彦。
「おんや~……もうお一人いらっしゃいましたか。わざわざご足労どうもどうも」
大太法師は特に動じた様子もなく、やはり首を不気味にかしげて清士郎を凝視する。
清士郎は大太法師へと向きなおった。
(恐れていた事態ってやつだな)
どうしたものかと頭をかく。
この大太法師は、まぎれもない上級のモノノ怪だ。現在の妖人姿の状態では全力こそ出せまいが、それでも今の清士郎よりも数段強い。
よって戦闘は避けたいが――
(どうしよう……明かせない!)
清士郎の中で生まれる葛藤。
ここで自分が前世で玉藻だったと明かせば、戦闘は避けられるかもしれない。
だが今それを明かせば、義比良と犬彦に前世を知られることになる。そうなったら陰陽寮にもいられなくなり、陰陽師たちに仇敵として追われることになろう。それこそ袋叩きにあい、前世のような最期を迎えることになるかもしれない。
それだけは避けたかった。
(いや、待てよ)
だがそこで、一つ妙案を思いつく。
「二人とも……ここは僕にまかせて逃げてくれ」
義比良と犬彦を守るように大太法師の前に歩みでて、力強くそう言う清士郎。
簡単なことだ。
二人をここから逃してしまえば、大太法師に正体を明かすことの障壁はなくなる。身を呈して逃したということで悪印象にもなるまい。
しかし二人は首を横に振った。
「馬鹿なことを言うな。貴様ごときが抑えられる敵じゃない。そもそもこれは俺がまねいた事態なのだ、逃げられるわけがない。俺も戦う!」
「そうだで、おいらも戦う!」
犬彦はともかく、あの義比良までそんなことを言うものだから驚いてしまう。
一方で、大太法師はその間にも猫又たちに癒術を使い、彼らを安全地帯に下がらせる。それからくるりと清士郎たちのほうに向きなおった。
「いやはや、泣けてきますねこれははい。心配せずとも誰も逃さぬのでご安心を」
――《砂雪崩》、と。
間髪をいれず、術を発動させる大太法師。
直後。地面が盛りあがり、それは大きな波のようになって清士郎たちに襲いかかってくる。あの量の砂に呑み込まれれば、耐えられまい。
「くっ、あんなバケモノじみた術……」
「とめられるわけがねえよ!」
絶望の声を漏らす義比良と犬彦。
一方で、清士郎は冷静に“裂”の印を結び、大太法師の術に対抗すべく霊力を放った。
直後。放射状に放たれた清士郎の霊力が防波堤のようになり、砂の大波を食いとめる。
「な……!?」
「すげえ……!?」
驚愕に目を見開く義比良と犬彦。
それもそのはずだろう。
下等陰陽師からすれば、大太法師の放った術は段違いの大技だ。当然それを止めるためにも、同等の力が必要とされるはずなのだから。
叡明たちには“受け”の技術だけはずば抜けているという設定にしてあったので、そこには矛盾していないのだが、それにしてもである。まあ状況が状況であるし、ここには義比良と犬彦しかいないので、うまく言い逃れるしかあるまい。
信じられぬという表情でこちらを見る二人に応えるように、清士郎は苦笑する。
「ははははは……僕こういうのだけは得意でね。特例で陰陽寮に入れたのもそういうことで……ってそんなことはいい。二人とも早く逃げて!」
「しかし……」
「僕もすぐに逃げる。大丈夫だから!」
いまだ義比良は迷っている様子だったが、犬彦はすぐに義比良の手を引いた。
「よっしーここはまかせて行こう! おいらたちがここにいてもどうもならねえよ」
「……くっ」
義比良は悔しげではあったものの、犬彦の言葉が正論だと思ったのだろう。苦虫をかみつぶした顔で、犬彦と共に洞窟の外へと駆けだした。
それを見た大太法師は逃すまいとするように、砂の大波にかける霊力を増してくる。
せめぎあう砂の大波と清士郎の“裂”。
清士郎は押されはじめるが――
(よし、行ってくれたみたいだな)
反撃開始だ、と。
義比良と犬彦が洞窟を出たとわかった瞬間、清士郎は放出霊力量を一気に倍化させる。
すると戦況は一転。
清士郎の霊力が砂の大波を押しかえした。
「なんと、これは……!?」
大太法師は驚愕のうめきを漏らす。
清士郎の反撃が想像だにしなかったようで、砂の大波はそのまま大太法師を呑みこんだ。
砂の大波の唸るような轟音のあと――
一転して静まりかえる洞窟内。
だがしばしあり、その重量だけで圧殺されてしまうような大量の砂中から、大太法師がにょきっと顔を出し、何事もなく這いだしてくる。
「おんやあ……みくびっていたのは、あてくしのようでございますね。これほどの力を持つとは思いもしなかった。いやはや、しかし……」
大太法師は何かに引っかかることがある様子で、清士郎を見つめて首をかしげる。
「貴方の霊圧は……どこか懐かしさを覚えます。だが貴方はまぎれもなく人間で、人間の知り合いはそれほど多くはないのですけれども」
わかるものなのか、と肩をすくめる清士郎。
もはや隠す必要もない。
「久しいな、大太法師。お前には砂洲攻略のときには散々助けられた。にもかかわらず、約束を果たせぬまま逝ってしまってすまなかった」
清士郎が言うと、大太法師は目を細めてしばし考えて、それからハッと目を見開く。
「まさかまさか……そんなことが?」
「あるみたいだ。僕も驚いだが」
肩をすくめる清士郎。
「いやはや、これまた数奇な……だがそれならば得心行く。玉藻さま……でございますね?」
清士郎はこくりとうなずいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。
アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】
それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。
剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず…
盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず…
攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず…
回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず…
弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず…
そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという…
これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。
剣で攻撃をすれば勇者より強く…
盾を持てばタンクより役に立ち…
攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが…
それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。
Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに…
魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし…
補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に…
怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。
そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが…
テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので…
追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。
そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが…
果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか?
9月21日 HOTランキング2位になりました。
皆様、応援有り難う御座います!
同日、夜21時49分…
HOTランキングで1位になりました!
感無量です、皆様有り難う御座います♪
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る
丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。
現代では中世近世史を研究する大学講師。
史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。
ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる