前世ラスボスの陰陽師は正体を隠したい ~元大妖怪、陰陽寮に仕官する~

蘆屋炭治郎

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2章 陰陽寮

36話 陰陽師、驚愕する

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「「「隊長!?」」」

 予想だにしなかった東満の登場で、清士郎たち三人の声が面白いぐらいにかぶる。

 だが東満がひらひらと手を振るのを見て、慌てて大太法師の足下から抜けだす三人。

「いやあ、よくここまで耐えたねぇ。僕も隊長として誇らしいよ~! きみたちがいなかったら、もう完全に村が滅んじゃってたからねぇ」

 東満は片腕で大太法師の足を支えながら、いつものような微笑でそう軽口を叩く。

「ま、あとは僕にまかせてよ~! 隊長として僕もいいとこみせないとだからねぇ」

 ははは、と東満が笑った瞬間だ。

 大太法師は痺れを切らしたように咆哮をあげ、同時にその禍々しい霊力が倍化する。

 霊力増加にともなって、東満にかかっていた力も一気に増した様子で、東満は耐えきれなくなってその巨大な足に踏みつぶされてしまう。

「あっ……!」
「た……隊長がぺしゃんこに!?」

 悲鳴をあげる義比良と犬彦。

 あの巨体の下敷きになって、生きていられるわけがない。、そうだ。

 だが次の瞬間。

 大太法師の足が再び持ちあがり――


「よっこらせっと~!」


 東満がその下からゆっくりと顔を出す。

 やはり変わらぬ余裕綽々の微笑を浮かべていて、たが発する霊力はいつもとは桁外れで、それこそあの大太法師に匹敵するものだった。

(痛いほどの……霊圧だな)

 ぞくりと身震いする清士郎。

 東満は大太法師の足を両腕でそのまま勢いよく押しあげると、大太法師は体勢をぐらりと崩し、先ほどのようにその場に倒れこんだ。

「!? なんという力だ……」
「いやいや、あのでかいのをありえねえ……上等陰陽師ってあんなバケモノなんかあ!?」

 驚愕する義比良と犬彦。

(確かに上等陰陽師ともなれば、総じてすさまじい力を持ってはいると思うけど……)

 それにしてもあの蘆屋東満は特別に思えるが、と清士郎は神妙に眉をひそめる。

 とにかく底が知れないのだ。いや、得体が知れないといったほうがいいか。叡明はよくもこの不気味な男を側に置いているものだと思う。

(しかし……相手もバケモノなんだよね)

 清士郎が見やると、大太法師は東満を敵と定めたように睨みつけて咆哮をあげた。

 それが戦闘開始の合図となった。


「あぁあぁぁ~! いい……きみとってもいいねぇ! ひさしぶりに楽しめそうだ~」


 東満は恍惚とした表情を浮かべ、自身の体をかき抱きながらくねと身をよじった。

 すでに恐ろしいまでに放出されていた東満の霊力が、さらに倍にふくれあがる。

 直後。
 東満を捕まえんとするように、大太法師の巨大な手がにゅっと東満へと伸びる。

 だが東満は野太刀を抜き、目にもとまらぬ神速で大太法師の指を一本切り落とした。

 大太法師はそれに怒りくるい、巨躯からは想像もできない恐ろしい速度で腕を振るい、手のひらで東満を弾きとばした。東満はすさまじい勢いで吹っ飛び、幾本か木を薙ぎ倒しながら、岩壁にめりこむように突っ込んでようやく止まった。

 しかし東満は体の各所から出血しつつも瞬時に身を起こし、地を蹴る。宙に跳ねあがり、今度は大太法師の手首に野太刀を振るった。

 上段からの鋭い振りおろし。

 けれど大太法師の腕は太く、さらには強固なものだったために切断とまではいかず、刃は食い込むように途中でぴたりととまってしまう。

「なら……もういいや~!」

 東満は野太刀を捨て、嗤いながらその身一つで大太法師へと跳びかかっていく。

 そしてあろうことか、そのまま大太法師へとまっすぐに拳を突きだす。大太法師もそんな東満を叩き落とそうと、ぶんと腕を振るった。

 両者の力が真っ向からぶつかりあい――


「――」


 ズンッ! と衝撃波が生まれる。

 それはまず風となって草木を揺らし、その後に地震となって大地全体を揺らした。

(我らが隊長……バケモノすぎないか)

 なんと力比べを制したのは東満のほうだったらしく、大太法師は東満の何倍――いや、何十倍はあろう巨躯を後方へとよろめかせた。

 東満はそのまま、その都度衝撃波を生むような猛烈な拳打の嵐を巨人に浴びせる。

「すんげえ……正直この人大丈夫なんかって思っとったけども、隊長は隊長だった!」
「このままなら……倒せる!」

 犬彦と義比良が驚嘆の声をあげる。

(確かに一見すると押しているが……)

 清士郎は目を細める。

 力比べには東満が勝っている。あの大太法師という生ける伝説相手に肉弾戦で、だ。

 それ自体は驚くべきことである。

 だが元々の肉体の基礎能力値が違いすぎる。大太法師は確かに攻撃を浴びつづけてはいるものの、それでもまだまだ余力のある様子。

 一方で東満は出血しているのにくわえ、人間の体にはありえない力を出しつづけているため、全体的に体にガタが出はじめている様子。

 霊力もそう余裕はなさそうに見える。先に限界を迎えるのは東満で間違いなかろう。

 案の定、東満は次第に動きが鈍り――


「……あ!?」


 大太法師の一撃をまともにもらい、面白いように吹っ飛んで岩壁に突き刺さる。

 しかも東満は中々起き上がらなかった。

「隊長……!」
「くっ……隊長でもだめなのか」

 清士郎たちはそんなことを言いながら、東満のほうへと慌てて駆けよっていく。

 しかし東満は瓦礫から起きあがると、大丈夫というように手をあげてそれを制す。出血がさらに増えて、ふらふらになりながらも嗤う。

「ああ……やっぱ真っ向勝負じゃ無理かぁ。これで終わりは嫌だけど、しかたないよなぁ。もっとやっていたかったけど、村が滅んじゃうし~」

 無念そうに何事かぶつぶつとつぶやき、そして大きな大きなため息をついた。

 そんな東満を今度こそ仕留めようと、大太法師は足をあげる。再度踏みつけられてしまえば、さすがの東満も今度は耐えられそうにない。

 しかしその瞬間――


元柱固具がんちゅうこしん安鎮あんちんを得んことを、慎みて木陽神に願い奉る。木陽道、四十四節――《大蛇おろち》」


 東満がそうささやいた。

 すると東満の足下から――否、足下だけではない。大太法師の周りの各所から、巨大な樹木がにょきにょにと生えてきたではないか。

(まさか……準備していたのか)

 気づかなかった、と清士郎は息を呑む。

 巨大な樹木が生えてきたそれらの場所は、戦闘中に東満が吹っ飛ばされていた場所だった。密かに下準備していたということだろう。

 そしてそれらの樹木は、それぞれが大蛇のような形へと変じ、大太法師の両腕両脚をからめとり、さらには胴体にまで巻きついていった。

 完全に全身を拘束しきったところで――


「……しゃぶれ」


 東満がかざした手を握りしめた瞬間、大蛇たちは一斉に大太法師を絞めあげる。

 響きわたる大太法師の断末魔の叫び。

 大太法師の岩石の体はついにその圧力に耐えきれなくなったらしく、まるで泥団子のように潰れ、体の各所で分断。瓦礫となって崩れ落ちた。

「終わっ……たのか」

 そろって目を見開く清士郎たち三人。

 勝負あり、であった。

 本当に一瞬の決着だった。

 大太法師の体だったそれは瓦礫となって小山を築き、完全に動かなくなっていた。
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