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2章 陰陽寮
39話 蘆屋東満 弍
しおりを挟む清士郎が退席したあとの寝殿――
「ふ~ん、なるほどねぇ」
東満はふむふむとうなずいた。
犬彦と義比良の二人から、自身が助けに行くまでの動向を詳しく聞いたところだった。
中々に興味深い話だった。
(清士郎ちゃん……今回の任務もあって、ますますわからなくなっちゃったなぁ)
首をかしげる東満。
二人の話によると、清士郎は洞窟にて大太法師の《砂雪崩》を止めるほどの“裂”を放ち、二人が逃走する時間を稼いだのだという。
確かに清士郎は、鳴松で東満の霊弾を打ち消すほどの“裂”を扱えた。だがそれは中等陰陽師程度の力で、それが自身の限界とも述べていた。
一方で大太法師の術を止めるとなると、その程度では厳しいだろう。さらにもう一段階上――上等陰陽師に近い力を発揮する必要がある。
つまるところ、やはり清士郎は力を隠していたということになるのだろう。
しかし――
(けっこう様子を見てたけど……大太法師にやられそうになってたんだよねぇ)
暴走して真の姿となった大太法師と交戦していた清士郎たち三人の姿を思いだす。
実を言うと東満は、三人が絶体絶命となる前から、あの場で三人の戦いを見ていた。
窮地に追いつめられれば、清士郎が隠している真の力が見られるのではと思ったので、ギリギリの状況になるまで様子を見ていたのだ。
そして清士郎は下等陰陽師らしからぬ術を使用し、見事に大太法師を止めた。
下等陰陽師程度では高難度の術だ。
だがそれでもやはり中等陰陽師か、その一段階上ぐらいの術といったところだった。
(あれが……きみの限界ってこと~?)
あの齢であの強さという時点で、確かにすでに信じられない天賦の才と言える。東満はこれまであれほどの才能を見たことがなかった。
だが刀岐清士郎という童の得体の知れなさは、その上があるのではと思わせる。
出会った当初のやりとり、陰陽寮における吉備詩流との模範訓練、今回の大太法師との交戦――それらを思いかえしても、態度、洞察力、思考力、判断力、知識力、そのすべてがずば抜けていて、まだ何かあるのではと思わせるのだ。
(知りたいなぁ……)
あれが現在の限界なのかもしれない。
そうでないかもしれない。
限界だったとすれば、これから彼がさらなる力を身につけて熟していくのをその成長を見守りながらじっくりと待てばいいし、そうでなかったとすれば、どうにかして彼の隠しているものを洗いざらい明るみに出し、その本気を見たい。
どちらにしろ興味は尽きないが。
(ふふふふふ……気づけばきみのことばっかり考えてる。本当にきみは面白いよ~)
東満は嗤う。
なんにしろ、下等陰陽師にしてあの大太法師に一矢報いたのだ。今回の任務で清士郎がさらに注目されるようになるのは間違いない。
除目にも推薦する予定なので、そこでも間違いなく注目を集めることになるだろう。
(まあ叡明さまが認めてくれたらの話だけど、変な虫がつかないよう気をつけないと~)
成熟した清士郎、全力となった清士郎――それらを想像しただけで顔が火照る。
あの童はもはや自分のもの。
あの禁断の果実は、自分が食べなければ気が済まない。他のものに奪われようものなら、自分は本当にどうにかなってしまうかもしれない。
だから万一が起こらないように、自分が大事に大事に守らねばならないだろう。
そして熟して熟して一番おいしく実ったところで、ゆっくりと頂くことにしよう。
(……甘味は別腹ってねぇ)
――じゅるり、と。
祝宴も終わりがけで腹も満たされているというのに、東満は小さく舌鼓を打った。
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