前世ラスボスの陰陽師は正体を隠したい ~元大妖怪、陰陽寮に仕官する~

蘆屋炭治郎

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2章 陰陽寮

38話 陰陽師、話し合う

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「うまく抜けだせたのですね!」

 駆け寄ってきて、微笑む凍砂いすな
 
 時間ができたときを見計らって、この村外れで落ち合うことになっていたのだ。
 
「……大太法師だいだらぼっちたちは大丈夫なのか?」

 清士郎がまず気になっていたことを訊ねると、凍砂は迷いなくうなずいてみせた。

「はい。織田原おだわら側は受けいれてくれるとのことなので、ひとまず問題はないでしょう」
「そうか、ならばよかった」

 清士郎は安堵し、しかしそれから凍砂との間に微妙に気まずい沈黙が流れた。

 お互いに話さねばならないとは理解しつつも、負い目のようなものがあって、口に出すのがなんとなく憚られていたことだからだろう。


「凍砂……宗旦そうたんとは今もつながっているのか?」


 切りだすと、凍砂は目をわずかに見開く。

 やがて首を横に振った。

「いえ、わたくしが仕えるのは過去にも今にも貴方さまさまだけでございます。あの元服の日より、宗旦さまとは連絡も取っておりません」
「ならばなぜ……現在の宗旦の目的や酒呑童子の存在を僕に知らせず黙っていた?」

 単に気になったから訊ねた清士郎だが、問い詰めるような形になってしまった。

「それは……」
「僕に宗旦を止められたくなかったからか」

 凍砂は気まずそうに視線を泳がす。

 だがやがて言い逃れできまいと観念したのか、ゆっくり息をついてうなずいた。

「はい……おっしゃるとおりです。貴方さまに情報を伝えぬことで宗旦さまの目論見がうまく行き、人間どもが滅びてしまえばよいと思っておりました。わたくしは貴方さまの利益よりも、自身の欲望を優先して行動したのでございます」

 申し訳なさそうに言葉を続ける。

「わたくしは貴方さまを裏切り……そしてわたくし自身をも裏切った。この処分はいかようにも……いえ、命で償わせていただきたい」

 深々と頭を垂れる凍砂。

 深い悔恨に苛まれた表情だった。

 この凍砂のことだ。清士郎がそう言えば、本当に命を差し出す覚悟なのだろう。

 だがもちろん、そんなことは望まない。

「……バカが。お前の過去を考えれば、人間を恨んでいるのも当然のことだ。そもそもお前は僕に従う必要すらもないんだ。だから僕に負い目を感じる必要なんてない。これっぽっちも……まったくね。だから命をどうとか言うものじゃない」
「清士郎さま……」

 凍砂は今にも泣きだしそうな顔をする。

 そして一言「ありがとう……ございます」と震える声を絞りだすようにつぶやいた。

 清士郎はふうと一息つき、空気を切り替えるようにやわらかい微笑を浮かべる。

「宗旦もお前もを甘く見ている。お前は人間が滅べばいいと思っているのかもしれないが、アレが復活すれば滅びるのは人間だけではないだろう。モノノ怪も……この五行列島ごぎょうれっとうも、あるいは世界全体すらも危険に晒されるかもしれない」
「それほど……なのですか」

 凍砂はごくりと生唾を飲む。

「ああ、おそらく。だから宗旦をできれば止めたいのだが……やはり直接話すべきか」

 表舞台には出たくなかったのだが、酒呑童子に存在を知られてしまったこともあって、完全に身を隠すのはすでに手遅れになりつつある。

 こうなってしまったら一度宗旦と会い、腹を割って話すのが最善かもしれない。

 アレの危険性を伝えれば、宗旦も踏みとどまってくれるのではという期待もあった。

 だが凍砂は首を横に振る。

「危険です。今の宗旦さまは……昔の宗旦さまではない。貴方さまの身が危うい」

 神妙な面持ちでそんなことを言う。

 清士郎は眉をひそめる。

「宗旦が……僕を殺すと?」
「そこまでは申しませんが……障害になると判断されれば、捕縛等をされる可能性は十分にあると思います。それぐらいに宗旦さまも本気なのです。これまでにやり方に胃を唱えたものは皆……あのぬりかべさまですら投獄されましたから」
「ぬりかべが……!?」

 清士郎は目を見開く。

 ぬりかべは玉藻の先々代の頃から玉藻の家に仕えてくれている忠義に厚いモノノ怪だ。それを投獄するというのは、よほどのことである。

(宗旦、それほどまでに……)

 弟を憂う清士郎。

 酒呑童子からどの程度影響を受けて行動しているのか、それは宗旦自身の意思なのか。

「それにそもそもの話ですが、宗旦さまに会う必要はなくなった可能性もあります」
「どういうことだ?」

 凍砂の言に首をかしげる。

「各地のモノノ怪に通達があったのです。もう人間の生贄は不要、と。よって非交戦的なモノノ怪による望まぬ人攫いはなくなるでしょう」
「!?」
「ですから、宗旦さまがの復活をついに諦めなさったのではと思いまして」

 なんと、と清士郎はうなる。

「それなら……いいのだが」

 清士郎は現在の宗旦を知らないため、その情報だけではなんとも言いがたかった。

「とにかくひとまずは様子を見るべきかと。宗旦さまはともかく、酒呑童子が得体が知れない。あの者のいる場にいきなり乗り込むのは自殺行為です。そういった行動を起こすにしても、力を存分に振るえるぐらい体に慣れてからでしょう」

 確かに凍砂の言うとおりだろう。

 大太法師と対面して思い知ったが、やはり現在の清士郎は前世と比べて非力だ。

 現在の清士郎が乗り込んだところで、飛んで火に入る夏の虫である。まずは鍛錬に励み、前世の力を取りもどすのが先決である。

「それも……そうだな」

 まずは力を取りもどす。そして様子を見つつ、宗旦をどうにか説得してとめる。

 そう方針を定める清士郎。

「まったく……平穏に暮らせればよかったのに、面倒なことになってきたものだ」
「すべてを放りだし、平穏に暮らしてもよろしいのですよ? 貴方さまはもはやモノノ怪の総大将でなく、人間の童にすぎないのですから」

 凍砂は悪戯めいた笑みで言う。

「宗旦の目的を聞いて、そんなのんきにしていられるか。お前だってそうだろう」
「いえ、わたくしは清士郎さまさえいらっしゃればそれで幸せですので。人間やモノノ怪が滅びようと感知するところではありません」

 凍砂は真顔でそんなことをのたまう。

 その瞳は妖しい輝きを放っていて、モノノ怪としての冷徹な一面が見えた気がした。

 冗談ならばよいが、本気で思っていそうなのでこのモノノ怪は末恐ろしい。その忠義――みたいなものに助けられているのも事実だが。



 そんなこんなで――

 一波乱二波乱ありつつも、清士郎の陰陽師としての初任務は終わりを告げたのだった。

 今回の活躍のせいで、自身が陰陽寮や各所で注目され、さらなる波乱に巻きこまれることになるとは、清士郎自身まだ知るよしもない。






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