上 下
7 / 7

第六話 覚悟

しおりを挟む
....ハァ....ハァ....ハァ....」
家に帰宅した真人は切れ切れの息でドアを閉める。
鍵を掛けたのを何度も確認してから、階段を上がって自分の部屋に入る。

「....ハァ....ハァ...ハハハ....」
部屋にある立ち鏡を見て、真人は残酷な現実に絶望して嗤った。

自分の姿は化物と化していた。
返り血に染染まった黒い鱗が、部屋に差し込む日光で鈍く光る。

ずっと理解はしていた。
いつかはこの時が来るのではないかと....だがそれでも辞める事は出来なかった。
薬を辞める事が出来なかったツケは、人を辞めて化物になる事だった。

「ウッ!?」
正気を取り戻した思考で自分が何をしたかを思い返して真人は、教室での惨劇を思い出した。

正気を失って暴れまわった自分が何をしたのか....それを思い出した真人は吐き気に襲われた。

「....なんで俺は家に帰ったんだ?」
喉に登ってきた物を部屋の隅に吐き出した真人は、冷静になってそう呟く。

あの後、真人は遠くから聞こえていたサイレンが近くでやんだのに気がついた。
そして教室に入って来た警官から逃げるように学校から立ち去ったのだった。

それを思い出した真人は今後の事を考える。
思い浮かんだのは一つだけだった。
死にたくない....死ぬよりは生きていたい。
そんな当たり前の欲求を強く感じた。

「.....」
だが化物...ジャンキーモンスターにそれは許されていない。
人を襲い喰らう化物は駆除部隊に処理される。
それに真人は正気ではなかったとはいえ人を大量に殺した....もはや後戻りはできない。

パソコンを開いてジャンキーモンスターについて詳しく調べる。
鋭い爪のせいでタイピングがしずらいが何とか調べたい事を見つける。

わかったのは以下の事だ。
その1 
化物になった時点で元には戻れない事。
その2
強力な存在となった代わりに生きる事に必要とするエネルギーが多く必要であり、1日何も食べないと餓死してしまう事。
その3
通常の食事では栄養を摂取出来ず、エドムを摂取するか人肉を食べるしか方法がないこと。

これが生きていく上で障害となる事だった。
一通り調べ終えて息をついた真人は考える。

自分は確実に指名手配になる。
有害生物駆除部隊...HVUに命を狙われる。
彼は対化物の特種部隊であり、どんな武器の使用も許可されている奴らだ。
一般人にとってはヒーローだが、今の真人にとっては死神と変わらない。

いずれ家にいる事もバレる。
いつまでもここにいる訳にはいかない。
だがいく宛もない。

「.......」
自分がなりふり構っている状態ではないと自覚する....これならここで自殺した方が楽かもしれない。

「...フフ...フフフ...いつまでいい子ぶってるんだよ」
ふと自分が馬鹿馬鹿しくなった真人は、嘲る様に自分にそう言い聞かす。

何を今更と思った。
これは全部自分で選んで自分で招いた事。
生きたい...そう思ったのなら今まで通り勝手やればいい。

薬を打ちたいから薬を打ってきた。
なら生きたいなら何をしてもいいだろう?

「.....腹が減ったな」
覚悟の決まった真人は窓の外から住宅街を眺めてそう言うのだった。


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...