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42 晴れのち曇り
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8月25日、リゼットルのCDは無事に発売され、アニメのヒットに合わせるように、予想通りに売上げを伸ばしていた。
29日の夕方帰ってきた伯とは、待ち合わせた新山駅で30分お茶を飲んだだけで、恋人気分を味わうような時間もとれなかった。
伯は山見高文化祭の準備があって、4日まで忙しかったし、俺も普通に学校が始まっていたのでの、文化祭が終わるまでは会えそうもない。
今年は用心のために、山見高の文化祭には行かない。俺の髪と瞳は田舎では目立つし、勝手に写真に撮られる危険性が高いと一俊先輩に止められた。
9月7日、学校を休んで5ヶ月ぶりに母親と大学病院へと向かった。
検査結果は怖いけど、リゼットルのCDを沢木先生に渡すという約束を果たすことを楽しみに、何時ものように検査を受け、そして診察室に呼ばれた。
「うん、変わりは無いようだね。何か気になる自覚症状でもあるかな?」
「いいえ沢木医師、至って普通です。充実した毎日を過ごしています」
「それは何よりだ。仕事の方も順調みたいで嬉しいよ。頑張れ!」
診察室内に居る看護師さんたちにバレないよう、仕事内容は伏せて笑顔で励ましてくれる。
「これ、約束した次のCDです。良かったら聴いてください」
俺はにっこりと微笑んで、リゼットルとラルカンドのサイン入りのCDを渡した。
9月は何事もなく過ぎてゆき、中間試験が終わった10月11日、九竜副社長から電話がかかってきた。
夏休みの間に作った曲のうち、完全にノリで作った【今夜こそ君と】の楽曲提供が決まったので、至急契約したいとのこと。しかも、先方は買い取りにして欲しいと望んでいるらしい。
俺としては、細々とでもいいので印税が入る方がいいんだけど、通常よりかなり良い条件での買い取り希望らしい。
「えぇっ!アイドルグループ? なんでまた俺の曲なんですか?」
急いで翌日事務所に行くと、予想外の事態になっていて驚いた。
「ソウエイミュージックが今年行った新人コンテスト(歌・俳優・声優)で、入賞した内の4人を、アイドルユニットとしてデビューさせることにした。
候補曲は3曲あったが、その中で選ばれたのが君の曲だ。
ラルカンド・フォースの名は、既に業界内に知れ渡っているので、買い取りなら実績に応じて報酬が支払われるのは当然だ。でも君は印税希望だったので、急いで話し合う必要があった。
話題のラルカンドの曲が、新人のデビュー曲になるのは、ソウエイミュージックとしても歓迎するところだ。それに、君のこの曲は売れる!
間違いなく売れるだろう。
創英テレビのクリスマス特別ドラマの、主題歌になることも決まっている」
副社長は商売人の顔をしてニヤリと笑うと、どうだ、これ以上にいい話はないだろうとでも言うような顔で俺を見て、提示金額が書かれた用紙をスッとテーブルの上に置いた。
「買い取りなのは何故でしょうか?」
「この4人は元々、俳優や声優志望で、ユニットを組むのは長くない。それに、メンバー同士の相性は最悪だと聞いている」
「なんだか面倒臭いですね。買い取りだと、後から俺が使えなくなるってことですよね。う~ん、まあ、この曲を歌うのはキャラ的に違うから……仕方ないですね」
提示金額を見て驚いたが、俺に入るのは半分以下だ。でも自分で売る能力がないことを考えると、妥協も必要だろう。それに、俺に不利になる契約を副社長がするとは思えない。
俺はその内容で契約するため、午後2時に副社長と一緒にソウエイミュージックへと向かった。
さすが大手のソウエイミュージックジャパンは、ビルも8階建てでいかにもって感じの迫力があった。
基本的には、そこら辺に転がっている只の高校生と何ら変わらない俺は、ビルの入口で既にびびってしまう。
隣にザ金持ちですっていう副社長が居なければ、回れ右して帰りたいところだが、お仕事お仕事と心の中で呟きながら受付まで一緒に行く。
受付のお姉さんは九竜副社長をよく知っているようで、立ち上がって「いらっしゃいませ」と深く頭を下げて挨拶をしてくれた。
どうやら、うちの副社長は顔パスで通れるようだ。そう言えば、悠希先輩が九竜副社長は創英グループの人間だと言っていた。副社長のお爺さんが、創英グループの創設者らしい。
ちょっと緊張してきたな……って思いながらエレベーターを待っていると、中から飛び出すように男性が降りてきて、思いっきり俺の肩にぶつかってしまった。
ぶつかった男は身長180センチくらいのモデル体型で、全身黒尽くめの服装で、シルバーのピアスをしてシルバーのブレスレット、極め付きが髪にシルバーのウイッグをしていた。
「チッ!邪魔なんだよ」と綺麗な顔で悪態をつき、俺を睨み付けて走り去った。
今のは何だったのだろうか?・・・って呆然としていたら、副社長にエレベーターの中に引っ張り込まれた。
「大丈夫か春樹? 躾がなってないな!あれがタレントだったら大問題だ」
「けっこう痛かったです。俺って一応お客さん? いや、買って貰うんだからソウエイミュージックの方がお客様だよな?」
俺はぶつけられた肩を撫でながら、エレベーターの中でブツブツと呟いた。
「フッ、この業界、売れっ子の作詞作曲家は先生と呼ばれて、事務所の人間もタレントも、頭を下げて迎える側だ。君は大きな顔をしていればいい」
「へえ~、そうなんだ……もしも今の奴が俺の曲を歌うグループの人間だったら、ちょっとくらい不機嫌な顔をしてもいいんだろうか?」
「そうだな。マネージャーや担当者は平謝りするだろう」
とかなんとか言っているうちに、6階の制作部に到着してしまった。
結局、俺の曲を歌う皆さんはミーティング中で会えなかったけど、後日きちんと挨拶をさせますと担当者に言われた。
契約は、うちの副社長とソウエイミュージックのお偉いさんで段取りをして、俺は10枚くらいの書類にサインして印鑑を押して終了した。
折角だからと、制作部の部長さんが会社の中を案内してくれた。
廊下ですれ違うスタッフさん?たちは、俺の外見からして、新人のタレントだと思ったに違いない。「いらっしゃいませ」ではなく「お疲れ様です」と挨拶された。いや、こういう業界は、みんな「お疲れさま」って挨拶をするのかもしれない。いやいや、社会人の常識なのかもしれない。俺も「お疲れさまです」と、笑顔で頭を下げてながら挨拶を返す。
「ラルカンドさんは高校生なのに、とても落ち着いていらっしゃいますね。見掛けと人間性は同じじゃないってことですね」
「ははは、この髪も瞳も自前なんです。染めている訳でも、カラコンでもありません。でも、ハーフとかでもない突然変異ですけど」
俺は外見で、バンドやってそう……とか、チャラそう……って思われがちなので、はははって乾いた笑みを浮かべて説明しておく。
「そう……なんですね。九竜さんに聞きましたが、高校を卒業したら顔出しOKにされるそうですね。コンテストの動画を見させていただきましたが、シンガーソングライターでも充分にいけると思うんですが……本人にその気がないと九竜さん、とても残念そうでしたよ。それから、今回は買い取りに応じていただきありがとうございました」
「いえ、あの曲、作った私が言うのもなんですが、とても自分じゃ歌えそうもないんで。・・・デビューする4人は、きっとカッコイイ人たちなんでしょうね」
「まあ、外見通りというか、問題児ですね」
どこか困ったような顔をして、アイドルユニット【アルブート】について少しだけ説明を受けた。
全員が我が強く、4人中3人が自分こそがリーダーだと主張したとか、しょっちゅう喧嘩してメンバーを変えて欲しいと騒ぐらしい。
自分に自信のある奴は違うなと、俺はどこか感心してしまう。
ビルの2階は映画やアニメ等を扱う部門のフロアーで、姉貴のためにちゃっかりとお土産を頂いてしまった。
どういう感じでフロアー分けしてあるのか分からなかったが、大物歌手とか大物タレントさんには会えなかったのが残念だった。
午後4時、契約と会社見学を無事に終えた俺は、副社長の車でリゼットルが借りてもらったマンションにやって来た。
プライベート重視のマンションは、当然のことながら駐車場は地下にあった。なんだか都会っていうか、ちょっと金持ちになった気分になる。
7階でエレベーターを降りて直ぐの、701号室がリゼットルと俺が使う部屋だった。
伯から聞いていた通り、窓から東京タワーが見える。ビルとビルの間からちょうど見える東京タワーは、夜になるときっと綺麗だろう。
俺がベランダから外を眺めている間に、副社長はコーヒーを淹れてくれていた。
とうとう俺が先輩の元をいつか去る理由と、ガレイル王子の名前を教える時がきてしまった。できるだけ、しんみりとか、微妙な雰囲気にならないように注意しよう。副社長、ガレイル王子が絡むと余裕がなくなるから。
フーッと大きく息を吐いて覚悟を決め、リビングというかキッチンに戻ると、誰かがラインを送ってきた。
一俊 ヤッホー、合格決定!!当然だな。
蒼空 おめでとう!やっぱりお前はこっそり勉強してたな。
一俊 俺は努力は惜しまないが、今回は勉強してないけどな。
祥也 くそー!あとは俺だけか。蒼空も一俊もさっさと合格しやがって。
悠希 ああ、言うの忘れてた。俺も昨日、合格通知書来たわ!
春樹 おめでとうございます!一俊先輩、悠希先輩。
伯 おめでとうございます!祥也先輩の発表はいつですか?
祥也 俺は2日後が試験だよ!ばかやろう!
春樹 俺、今東京のマンションに来てますよ。
啓太 さすが一俊先輩と悠希先輩!おめでとう!今から部活だ~!
伯 契約は無事に終わった?
春樹 うん、今日はソウエイミュージックに行ったよ。あっ、仕事中だった。
一俊 祥也が合格したらパーティしよう!よろしく悠希。
悠希 了解。
「副社長、リゼットルのリーダーの一俊先輩が合格しました。残るのは祥也先輩だけですね。試験は二日後だそうです。伯も編入試験に合格したし、今月中には全員の合格が決まりそうです」
かなりシリアスな気分になっていたけど、悠希先輩と一俊先輩の合格で、すっかり気分が明るくなった。
「そうか。君が言った通り、皆優秀だったな。予定通り来年には東京で活動が開始できる。で、春樹、約束を果たしてもらおうか」
折角のルンルン気分だったのに、副社長の真剣な表情を見て、俺は気持ちを切り替えるため、コーヒーにミルクを入れてかき混ぜていく。
29日の夕方帰ってきた伯とは、待ち合わせた新山駅で30分お茶を飲んだだけで、恋人気分を味わうような時間もとれなかった。
伯は山見高文化祭の準備があって、4日まで忙しかったし、俺も普通に学校が始まっていたのでの、文化祭が終わるまでは会えそうもない。
今年は用心のために、山見高の文化祭には行かない。俺の髪と瞳は田舎では目立つし、勝手に写真に撮られる危険性が高いと一俊先輩に止められた。
9月7日、学校を休んで5ヶ月ぶりに母親と大学病院へと向かった。
検査結果は怖いけど、リゼットルのCDを沢木先生に渡すという約束を果たすことを楽しみに、何時ものように検査を受け、そして診察室に呼ばれた。
「うん、変わりは無いようだね。何か気になる自覚症状でもあるかな?」
「いいえ沢木医師、至って普通です。充実した毎日を過ごしています」
「それは何よりだ。仕事の方も順調みたいで嬉しいよ。頑張れ!」
診察室内に居る看護師さんたちにバレないよう、仕事内容は伏せて笑顔で励ましてくれる。
「これ、約束した次のCDです。良かったら聴いてください」
俺はにっこりと微笑んで、リゼットルとラルカンドのサイン入りのCDを渡した。
9月は何事もなく過ぎてゆき、中間試験が終わった10月11日、九竜副社長から電話がかかってきた。
夏休みの間に作った曲のうち、完全にノリで作った【今夜こそ君と】の楽曲提供が決まったので、至急契約したいとのこと。しかも、先方は買い取りにして欲しいと望んでいるらしい。
俺としては、細々とでもいいので印税が入る方がいいんだけど、通常よりかなり良い条件での買い取り希望らしい。
「えぇっ!アイドルグループ? なんでまた俺の曲なんですか?」
急いで翌日事務所に行くと、予想外の事態になっていて驚いた。
「ソウエイミュージックが今年行った新人コンテスト(歌・俳優・声優)で、入賞した内の4人を、アイドルユニットとしてデビューさせることにした。
候補曲は3曲あったが、その中で選ばれたのが君の曲だ。
ラルカンド・フォースの名は、既に業界内に知れ渡っているので、買い取りなら実績に応じて報酬が支払われるのは当然だ。でも君は印税希望だったので、急いで話し合う必要があった。
話題のラルカンドの曲が、新人のデビュー曲になるのは、ソウエイミュージックとしても歓迎するところだ。それに、君のこの曲は売れる!
間違いなく売れるだろう。
創英テレビのクリスマス特別ドラマの、主題歌になることも決まっている」
副社長は商売人の顔をしてニヤリと笑うと、どうだ、これ以上にいい話はないだろうとでも言うような顔で俺を見て、提示金額が書かれた用紙をスッとテーブルの上に置いた。
「買い取りなのは何故でしょうか?」
「この4人は元々、俳優や声優志望で、ユニットを組むのは長くない。それに、メンバー同士の相性は最悪だと聞いている」
「なんだか面倒臭いですね。買い取りだと、後から俺が使えなくなるってことですよね。う~ん、まあ、この曲を歌うのはキャラ的に違うから……仕方ないですね」
提示金額を見て驚いたが、俺に入るのは半分以下だ。でも自分で売る能力がないことを考えると、妥協も必要だろう。それに、俺に不利になる契約を副社長がするとは思えない。
俺はその内容で契約するため、午後2時に副社長と一緒にソウエイミュージックへと向かった。
さすが大手のソウエイミュージックジャパンは、ビルも8階建てでいかにもって感じの迫力があった。
基本的には、そこら辺に転がっている只の高校生と何ら変わらない俺は、ビルの入口で既にびびってしまう。
隣にザ金持ちですっていう副社長が居なければ、回れ右して帰りたいところだが、お仕事お仕事と心の中で呟きながら受付まで一緒に行く。
受付のお姉さんは九竜副社長をよく知っているようで、立ち上がって「いらっしゃいませ」と深く頭を下げて挨拶をしてくれた。
どうやら、うちの副社長は顔パスで通れるようだ。そう言えば、悠希先輩が九竜副社長は創英グループの人間だと言っていた。副社長のお爺さんが、創英グループの創設者らしい。
ちょっと緊張してきたな……って思いながらエレベーターを待っていると、中から飛び出すように男性が降りてきて、思いっきり俺の肩にぶつかってしまった。
ぶつかった男は身長180センチくらいのモデル体型で、全身黒尽くめの服装で、シルバーのピアスをしてシルバーのブレスレット、極め付きが髪にシルバーのウイッグをしていた。
「チッ!邪魔なんだよ」と綺麗な顔で悪態をつき、俺を睨み付けて走り去った。
今のは何だったのだろうか?・・・って呆然としていたら、副社長にエレベーターの中に引っ張り込まれた。
「大丈夫か春樹? 躾がなってないな!あれがタレントだったら大問題だ」
「けっこう痛かったです。俺って一応お客さん? いや、買って貰うんだからソウエイミュージックの方がお客様だよな?」
俺はぶつけられた肩を撫でながら、エレベーターの中でブツブツと呟いた。
「フッ、この業界、売れっ子の作詞作曲家は先生と呼ばれて、事務所の人間もタレントも、頭を下げて迎える側だ。君は大きな顔をしていればいい」
「へえ~、そうなんだ……もしも今の奴が俺の曲を歌うグループの人間だったら、ちょっとくらい不機嫌な顔をしてもいいんだろうか?」
「そうだな。マネージャーや担当者は平謝りするだろう」
とかなんとか言っているうちに、6階の制作部に到着してしまった。
結局、俺の曲を歌う皆さんはミーティング中で会えなかったけど、後日きちんと挨拶をさせますと担当者に言われた。
契約は、うちの副社長とソウエイミュージックのお偉いさんで段取りをして、俺は10枚くらいの書類にサインして印鑑を押して終了した。
折角だからと、制作部の部長さんが会社の中を案内してくれた。
廊下ですれ違うスタッフさん?たちは、俺の外見からして、新人のタレントだと思ったに違いない。「いらっしゃいませ」ではなく「お疲れ様です」と挨拶された。いや、こういう業界は、みんな「お疲れさま」って挨拶をするのかもしれない。いやいや、社会人の常識なのかもしれない。俺も「お疲れさまです」と、笑顔で頭を下げてながら挨拶を返す。
「ラルカンドさんは高校生なのに、とても落ち着いていらっしゃいますね。見掛けと人間性は同じじゃないってことですね」
「ははは、この髪も瞳も自前なんです。染めている訳でも、カラコンでもありません。でも、ハーフとかでもない突然変異ですけど」
俺は外見で、バンドやってそう……とか、チャラそう……って思われがちなので、はははって乾いた笑みを浮かべて説明しておく。
「そう……なんですね。九竜さんに聞きましたが、高校を卒業したら顔出しOKにされるそうですね。コンテストの動画を見させていただきましたが、シンガーソングライターでも充分にいけると思うんですが……本人にその気がないと九竜さん、とても残念そうでしたよ。それから、今回は買い取りに応じていただきありがとうございました」
「いえ、あの曲、作った私が言うのもなんですが、とても自分じゃ歌えそうもないんで。・・・デビューする4人は、きっとカッコイイ人たちなんでしょうね」
「まあ、外見通りというか、問題児ですね」
どこか困ったような顔をして、アイドルユニット【アルブート】について少しだけ説明を受けた。
全員が我が強く、4人中3人が自分こそがリーダーだと主張したとか、しょっちゅう喧嘩してメンバーを変えて欲しいと騒ぐらしい。
自分に自信のある奴は違うなと、俺はどこか感心してしまう。
ビルの2階は映画やアニメ等を扱う部門のフロアーで、姉貴のためにちゃっかりとお土産を頂いてしまった。
どういう感じでフロアー分けしてあるのか分からなかったが、大物歌手とか大物タレントさんには会えなかったのが残念だった。
午後4時、契約と会社見学を無事に終えた俺は、副社長の車でリゼットルが借りてもらったマンションにやって来た。
プライベート重視のマンションは、当然のことながら駐車場は地下にあった。なんだか都会っていうか、ちょっと金持ちになった気分になる。
7階でエレベーターを降りて直ぐの、701号室がリゼットルと俺が使う部屋だった。
伯から聞いていた通り、窓から東京タワーが見える。ビルとビルの間からちょうど見える東京タワーは、夜になるときっと綺麗だろう。
俺がベランダから外を眺めている間に、副社長はコーヒーを淹れてくれていた。
とうとう俺が先輩の元をいつか去る理由と、ガレイル王子の名前を教える時がきてしまった。できるだけ、しんみりとか、微妙な雰囲気にならないように注意しよう。副社長、ガレイル王子が絡むと余裕がなくなるから。
フーッと大きく息を吐いて覚悟を決め、リビングというかキッチンに戻ると、誰かがラインを送ってきた。
一俊 ヤッホー、合格決定!!当然だな。
蒼空 おめでとう!やっぱりお前はこっそり勉強してたな。
一俊 俺は努力は惜しまないが、今回は勉強してないけどな。
祥也 くそー!あとは俺だけか。蒼空も一俊もさっさと合格しやがって。
悠希 ああ、言うの忘れてた。俺も昨日、合格通知書来たわ!
春樹 おめでとうございます!一俊先輩、悠希先輩。
伯 おめでとうございます!祥也先輩の発表はいつですか?
祥也 俺は2日後が試験だよ!ばかやろう!
春樹 俺、今東京のマンションに来てますよ。
啓太 さすが一俊先輩と悠希先輩!おめでとう!今から部活だ~!
伯 契約は無事に終わった?
春樹 うん、今日はソウエイミュージックに行ったよ。あっ、仕事中だった。
一俊 祥也が合格したらパーティしよう!よろしく悠希。
悠希 了解。
「副社長、リゼットルのリーダーの一俊先輩が合格しました。残るのは祥也先輩だけですね。試験は二日後だそうです。伯も編入試験に合格したし、今月中には全員の合格が決まりそうです」
かなりシリアスな気分になっていたけど、悠希先輩と一俊先輩の合格で、すっかり気分が明るくなった。
「そうか。君が言った通り、皆優秀だったな。予定通り来年には東京で活動が開始できる。で、春樹、約束を果たしてもらおうか」
折角のルンルン気分だったのに、副社長の真剣な表情を見て、俺は気持ちを切り替えるため、コーヒーにミルクを入れてかき混ぜていく。
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