三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

文字の大きさ
35 / 181
サンタさん、目標を決める

35 聖地イオナ(4)

しおりを挟む
 アレス君が喜びながら現れ、ファーズさんが再挑戦することを報告してくれる。
 私とアレス君は、ファーズさんが通り抜けられることを祈りながら暫し待つ。
 子供2人だけで先に進むのは不安だし、何が待っているのか皆目見当もつかない。強い地底生物だって居るかもしれない。


「にゃうん」という声がして、よく見るとアレス君の足元には光猫のシリスが居た。

 トキニさんの話では、光猫はとても希少で、王族のペットになっていたらしい。
 サーク爺も覚えていたけど、サーク爺の知る光猫は、雌の成体は1メートルを超え、雄の成体は1.5メートルを超えていたって。
 
 考えてみれば、この場所に私たちを導いたのはシリスだ。
 シリスは、ここに扉があることを知っていた気がする。
 しかも扉の膜を越えてきたから、魔力持ちだと考えて間違いない。
 シリスは聖なる地で暮らしていた光猫だから、この地を守る存在だったのかもしれない。

 ……漠然とだけど、そんな気がする。


「おっ、魔力が鍵だったか。扉を開けるには魔力が足らなかったが、この仕掛けは通り抜けられたな」

 大人の手がこっちの空間にぬっと伸びてきたかと思ったっら、ファーズさんの全身が現れて、私とアレス君は微笑み合った。
 向こう側からも、こちら側からも対面の様子を見ることができないけど、微かに「やったー」という声は聞こえてきた。

「この先には、3人で行くと皆に伝えてくる」

 そう言って皆の所に戻ろうとしたけど、ファーズさんは戻れなかった。
 私とアレス君も試したけど、どうやらこの扉からは戻れないみたいだ。
 なんとか方法を探そうと辺りを見回し、壁に小さな魔核が埋め込まれているのを発見した。
 私が代表で魔力を流したら、バタンと扉が閉まっちゃった・・・あ、あれ?



「私は切り替えの早い幼女。さ、次に行こう」

 小さな杖を頭上に上げ、私は元気に目の前の階段を上がっていく。

「そ、そうだね。どのみち戻れないみたいだし」

 すっかり私という奇妙な幼女に慣れたアレス君は、さっさと思考を切り替え追ってくる。
 でもファーズさんは「出口がない・・・どうすれば」って、ブツブツ言いながら動きが鈍い。

「この先にどんなお宝が待っているか楽しみだね、アレス君」

「そうだねサンタさん。お宝があるのか聖なる何かがあるのか、ワクワクだね」

 アレス君が笑顔でそう言うと、光猫のシリスがにゃんと鳴いてアレス君の肩に飛び乗った。定位置に落ち着いて満足そうだ。
 50段はあろうかという階段を10段くらい上がったところで、ファーズさんが置いていかれてることに気付き追い掛けてくる。

 で、結局66段もあった階段を、ふうふう言いながら登り切ったら、その先には、また階段があった。

「どこまで登らせる気よー! 私は幼児なのに、あんまりよー! ハアハア」

 休憩しては水筒の水を飲み、カラ元気を出すために歌をうたいながら登る。
 何度も休憩して気付いたら涙目になってたけど、まだ見ぬお宝のことを考え歯を食いしばって足を動かす。
 にいにだって頑張ってるし、ファーズさんはもう60歳を超えてる。

 ……よし、もっと体力付けよう。マッチョな幼女を目指すぞ~!

 ……そういえば、最速踏破者のメンバーや他の皆はどうしたんだろう?


 今度こそ平地よねって、残り10段になった所で神に祈る。本気で祈る。
 隣で私を気遣いながら登っていたアレス君の肩から、光猫のシリスが飛び降りて、軽い足取りで階段を登っていく。
 最上段で後ろを振り返り、早く来てって嬉しそうに「にゃ~ん」って鳴いた。

 ハアハア息を吐きながら辿り着いた場所には、またまた扉があった。
 大きな1枚扉には、太陽と月、雲と風、雨と雪の絵が描かれていて、中央には直系8センチくらいの魔核が埋め込まれていた。

 よく見ると、その扉の3メートルくらい先には普通の大きさの扉があった。
 その扉には【聖なる地】にある巨大な三角の構造物が描かれていて、小さな魔核が埋め込まれていた。

「どっちの扉を選べばいいんだ?」ってファーズさんが呟いたら、光猫のシリスがファーズさんの足にすり寄り、こっちだよって感じで三角の構造物の絵が描かれている方に移動してお座りした。

「今度はこっちなんだな。こっちの扉の魔核は3センチくらいだ。よし、今度こそ開けるよう気合を入れて魔力を流そう」

 そう言ってファーズさんは、大きく息を吸って魔力を流し始めた。
 今度は薄いオレンジじゃなくて、綺麗な赤色に魔核が染まっていく。
 そしてガチャって音がして、扉が外側に向かって開いた。
 扉の先には、【聖なる地】の神殿の柱があり、地面より少し高い位置だった。

「なんと、この扉は本当に地上に繋がっていたんだな」

 そう言いながら、ファーズさんは扉の外を見ようと足を踏み出した。
 その時、なんか嫌な予感はしたんだけど、ファーズさんが外に出た途端、バタンと扉が閉じてしまった。

 ……ああ、やっぱり。そんな気がしたんだよ。ふう。

 暫く待ったけど、外から扉が開く気配はない。


「ここの扉って、全て一方通行なんだね。びっくり。どうするサンタさん?」

「う~ん、折角だから大きい方の扉に挑戦しよう。だってシリスが扉の前で待ってるから」

 太陽と月が描かれている大きな扉の前にお座りして、シリスがそうだよって「にゃ~ん」と鳴いた。

「よし、僕も今度は頑張るよ。サンタさんみたいに両手で魔力を流してみる。そう言えば僕、携帯用の小さなランプを持って来てた」

 忘れてたと言いながら、カバンにも付けられる魔核の欠片で発光する、高価な携帯用小型ランプをリュックから取り出した。
 さすが公爵家の貴公子。超高級品だ。広くは照らせないけど、足元や近くなら問題なく明るくなる。

 そしてアレス君は、月の魔核に両手をついて魔力を流していく。
 今度は直ぐにキレイな紫色に染まり、ガチャンと鍵が開錠されたような音がして、扉がゆっくりと開いていく。

「やったー、今度は開けられた」って、嬉しそうにアレス君が言う。

 扉の先に魔核の灯りを向けると、ちゃんと光が届いた。
 恐る恐る入ると、そこは4畳くらいの空間で、銀色の金属製の扉のような魔術具らしきものと、赤と黒のスイッチのようなものがあった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

結婚した話

きむらきむこ
ファンタジー
乙女ゲームのバッドエンド後の世界で、子爵家令嬢ジュリエットは侯爵家当主のオーチャードと結婚したが…  恋愛色はありません。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……まさかの事件が起こりまして!? ~人生は大きく変わりました~

四季
恋愛
私ニーナは、婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……ある日のこと、まさかの事件が起こりまして!?

処理中です...