三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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サンタさん、魔術師になる

66 用意された罠(3)

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 呪術については、私がサーク爺の話を聞きながら皆に説明していく。
 この国には呪術師は居ないけど、隣国には居るとアロー公爵は知っていたし、チーフもサブチーフも、噂で聞いたことがあると言っている。
 アロー公爵は、5年前のザルツ帝国との戦争で、呪術が使われ多くの者が体調を崩し苦戦したと、国の機密事項を教えてくれた。

「私の父様は、その戦争で亡くなったの。そう、呪術師が関係していたのね」

 私はゆらりと体を揺らし、真の敵は呪術師かもしれないと思考を切り替える。

「そんな凶悪な者が、ヒバド伯爵の手の内にあるってことか」

「うん、そうだよサブチーフ。呪術師は毒にも詳しいの。
 私、ヒバド伯爵こそが真の敵で、頭の切れる奴だと思ってた。
 でも、最強守護霊の3人が調べた情報を思い返すと、息子のナックルが持っていた緻密過ぎるくらいに詳しく書かれた毒殺計画書は、毒に詳しくないヒバド伯爵には書けない指示書だわ」

 ゲートルの町にやって来たヒバド伯爵が考えた作戦は、うちのリーダーを罠に嵌め、アロー公爵の毒殺を企む王宮魔術師団のため、選ばれし勇者を送り込み協力させることだった。
 でも、よく考えてみれば杜撰な作戦であり、あのラースクを選んだ時点で失敗している。

 ……だとしたら、真の黒幕は呪術師・・・ヒバド伯爵の執事を名乗っているヨカランこそが指示書を書いた犯人。

「なあサンタさん、本当に5歳か?」と、サブチーフが疑るような視線を私に向けながら問う。
 他の者も苦笑しながら、「天才だからな」とか「深く考えたら負けだぞ」とか言っている。

 ……なんか扱いが酷い。そろそろ慣れてよ!


 屋敷に仕掛けられた呪符の内容を伝えると、チーフは顔を歪ませ、サブチーフは鬼の表情で指をポキポキと鳴らし、アロー公爵の目は完全に据わっている。

「3年後に死ぬとか、3日で死ぬとか、なんなんだよ呪術って!
 そんなもん仕掛けられても、うちの国じゃあ見破れる者が居ないぞ。
 もしも呪術師が数人潜入したら、どんな高位職業でも優秀な魔術師でも、対抗できないってことだ。恐ろしい」

 サブチーフがその存在とやり方の卑怯さに腹を立て、国家的にやばいんじゃないかと思考を広げた。

「ああ、確かに由々しき問題だ。ヒバドが操っているのか、操られているのか、どちらにしても今は、サンタさんと師匠しか呪術を解呪できない。
 早急に、王様と話し合う必要がありそうだ。
 これ以上の負担は掛けたくないが、サンタさん、協力して貰えないだろうか?」

 話がとんでもない所に飛んでしまった。
 国家的問題・・・確かにそうだけど、私もサーク爺もトキニさんもパトリシアさんも、呪術の専門家じゃない。

『サンタや、安請け合いはできんぞ』

『ええ、今は目の前のことで精一杯だわ。この問題をなんとかするには、ガリア教会に助けを求めた方がいいかもね』

『せやで、サンタさんは働き過ぎや』

「あのー、うちの最強守護霊が、ガリア教会に協力を仰げって言ってます。
 これ以上働くのはダメだって。
 ホロル様から準男爵に叙爵してもらったから、役に立ちたいとは思いますが、ヒバド伯爵の執事を捕らえる方が先だと思います」

 真剣に頼んできたアロー公爵に向かって、私は守護霊の意見を伝え、とりあえず執事を捕らえることを優先してはどうかと矛先を変えてみた。

「確かに。天才ではあるが、それはお師匠様方のお力添えがあってこそ。サンタさんは5歳の幼児だ。頼る前に大人ができることを先にすべきだと思います」

 領地なしではあるが子爵であるチーフは、大人がこれ以上幼児に負担をかけるべきではないと、私を守るために意見する。
 チーフと副団長のボルロさんは、私をトレジャーハンター協会に留めたいから、常々他からの引き抜きや勧誘に目を光らせており、攫われたりしないよう守ってくれてる。


「そうだな、すまない。今の話は忘れてくれサンタさん。
 確かにガリア教会なら、いろいろな資料を持っているだろう。
 今回魔核の取引をするから、協力して欲しいと言えば貧乏な教会は断らないはずだし・・・もしかしたら専門家がいるかもしれない。
 ところでサンタさん、今、ホロルが叙爵したと聞こえたが?」

 アロー公爵は私に謝りながら、教会を頼る案を検討し始める。
 そして思い出したように、私の叙爵を確認してきた。

「はい、準男爵になっちゃいました」と言いながら、私はリュックからアロー公爵家の刻印入り黒革のファイルを取り出し、アロー公爵に差し出した。

「なるほど。ホロルの命を救い、孫トーラスとアンタレスの命も救ったことを考えれば、直ぐにでも男爵位を与えるべきだろうが、サンタさんは5歳。
 ホロルにしては気の利いた褒賞だが、わしなら王都に屋敷くらいは与える。
 まだまだ権力の使い方が甘いわい。サンタさん、屋敷も付けてやろう」

 アロー公爵はファイルに挟んであった書類を見ながら、褒賞が少ないから屋敷を与えようなんて、とんでもないことを言いだした。

「ありがとうございます。でも、今回私が王都に行った目的は、王都に家を買うことだったんです。
 中古で小さい家だけど、中流地区の端っこの家を、もう自分で買いました。
 私、3歳からトレジャーハンターとして働き、ちゃんとお金を貯めましたから」

 いやいや家まで買ってもらったら、完全にアロー公爵家の臣下になっちゃう。
 自分で新しい家名を興す夢が叶わなくなっちゃうよ。
 ここはきちんと断らなきゃダメよね。

「この世に、5歳で王都に、しかも中流地区の家を買う者が居るとは・・・
 やれやれ、天才の思考は凡人では測れんな。
 それなら7歳で男爵になったら、小型の馬車を買ってやろう」

 逃がす気はないぞって笑顔で、アロー公爵が別の褒賞を提案する。

『サンタさん、馬車くらいええんちゃうか?』

『そうよ。上流地区に入るのに、男爵が徒歩だと格好がつかないわよサンタさん』

「あ、ありがとうございます。それでは中古の馬車でお願いします。
 王都の魔術師学校に入学する時、アレス君は私の家で暮らす予定なので、一緒に使います。目立たない地味な馬車でいいです」

「欲がないなサンタさん。派手な馬車でいいじゃないか」

 ちょっとサブチーフ、余計なことを言わないで!
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