三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

文字の大きさ
72 / 181
サンタさん、魔術師になる

72 困惑するファイト子爵(1)

しおりを挟む
 調査団がゲートルの町から撤退し、いつもの平和な時間が戻ってきた。
 私の魔術具は現在魔術師協会にレンタル中で、王宮魔術師団から早速横槍が入ったと、アロー公爵がホッパー商会経由の手紙で教えてくれた。
 でも、魔核の魔力充填について纏めた論文を王様に提出し、研究発表するまでは使用を許可しない方針らしい。

 王様には根回し済みで、カラ魔核に魔力充填できることと、魔力属性判定魔術具という世紀の大発見は、魔力学会で正式発表するまで、国の重要機密事項として扱われるそうだ。流石アロー公爵だ。
 魔力学会の主催はエイバル王国であり、魔術師協会と王立能力学園の共同研究成果として発表される。

 アロー公爵の暗殺にしか興味のなかったヒバド伯爵は、部下を調査団に参加させていたにも関わらず、重要な情報を得られなかった無能と、王宮魔術師団の中で微妙な立場になっているらしい。

 情報源はアロー公爵家の家令コーシヒクさんで、ヒバド伯爵が単独でアロー公爵に文句を言いにきたらしい。
「兄弟なのに、何故重要な情報を教えてくれなかったのですか兄上! 私の立場も考えてください」って・・・びっくり。
 厚顔無恥もここまでくると、頭が悪いとしか思えない。

 ホロル様の容態も確かめたかったと思うけど、とても面会できる状態じゃないと家令のコーシヒクさんは面会を断ったらしい。
 ホロル様は自室で魔力操作を頑張り、次の調査団に加わる予定なんだって。
 コーシヒクさんの手紙には、ヒバド伯爵に美味しいお茶を飲ませましたと、最後の行に書いてあった。

 ……グッジョブ! あと3回くらいは飲ませなきゃね。

 
 最速踏破者は、研究の協力者として報告書に名を連ねてある。
 魔力学会は10月頃の予定で、ガリア教会大学を始め友好国から多くの学者や研究者を招く予定だとか。
 最速踏破者は、遺跡の発見者であり協力者なので、魔力学会にも招待されるだろうとチーフが言っている。

 暫くは王都に近付きたくないから、我が家の家具購入は、ホッパー商会に依頼した。【聖なる地】の講座で別途白金貨3枚貯まったので、今頃は家具が増えているだろう。
 魔力学会が終わったら、アレス君とシリスを連れて一緒に王都に行ってみよう。
 

 ◆ ◆ ◆ 

 秋めいてきた9月、私は一週間の内3日をアレス君と一緒に勉強したり魔法の練習をして、最速踏破者メンバーとして【イオナロード】に3日潜っている。
 トレジャーハンター協会と国王は、【聖なる地】を立入禁止のままとし、イオナロードの2キロ地点までの採掘しか許可していない。

「昨日も1.5キロ地点で大蛇が出たらしい。金級パーティーでも討伐は難しいって話だ。俺たちじゃ、1キロまでがせいぜいだな。
 それでも未発見の側道や部屋もあるから、運が良ければ魔術具も出る。この際、ロード使用料を月払いにしよう」

 アレス君と一緒にハンターが多い食堂の隅っこで昼ご飯していたら、お隣の領地モエナ伯爵領から来たハンターたちの会話が聞こえてきた。

「【イオナロード】は、他領のハンターが押し寄せるくらい有名になったねサンタさん。僕も明日は一緒に潜ろうかなぁ」

「うん、そうしようアレス君。来週お爺様も来るみたいだから、何か新しい魔術具でも発見しなきゃ。伯父が王都から戻ったみたいで、先月は来なかったから」

 3食限定ブラックワームの煮込みを食べながら、2人で明日の計画を立てる。
 最速踏破者は特別に2.5キロまで進むことができるし、最近2.5キロ地点のセイフティールームを拡張したから、お泊りだって安全にできる。


 今日はお爺様がやって来る日だ。
 今日こそは、秘密にしていた叙爵のことを言わなきゃ。
 小型魔術具を発見したから、お爺様のショックが小さくなったらいいな。
 今はゲートル支部に預けて、鑑定だけチーフにお願いしてある。
 お爺様にプレゼントしたいから、競売にはかけないと言っておいた。

 いつものようにホッパー商会の前に馬車が到着し、私はホッパーさんとアレス君と一緒に店先で出迎える。
 最初に困った表情のお爺様が降りてきて、もう一人見知らぬ男性と、何故かクソババアが降りてきた。

 ……はあ? なんでシンシアおばさんが一緒なの?

「あらサンタナリア、商人見習いご苦労様。そんなに短く髪を切って、すっかり平民の生活に馴染んでるのね。
 トレジャーハンターのような服装も、貴女にはとてもお似合いだわ。フフフ」

「・・・・・」

 私もお爺様もホッパーさんも、堂々と私を見下し満足そうなオバサンに絶句し、一緒に降りてきた男性は、大きな溜息を吐いた。
 アレス君は下を向いてチッて舌打ちした。公爵家の貴公子なのに、最近トレジャーハンターぽくなっちゃったな。私の影響かも・・・ごめんね。

「はじめましてだね。私は伯父のアイガーだよ。王都の仕事を終えて領地に戻ってきたんだ。
 商人を目指してるって聞いてるけど、家族と王都で暮らさなくていいのかい?」

 ……ああこの人、アイガー伯父さんなんだ。そう言えばお爺様に似てるかも。

「はい、わたしはしょうにんか、トレジャーハンターになって、まじゅつぐをみつけます」

 ぼんやりっ子が、ちょっとだけ成長しましたって感じで答える。

「相変わらずの間抜けね。あなた、私、先に買い物をしてきます。・・・嫌だわ。買い物後はホテルに向かってもいいかしら?」

 機嫌良さげに如何にも貴族でございますってドレスを着たオバサンは、私を間抜け扱いし、店内に居るトレジャーハンターを見て、嫌だわって嫌悪感を隠しもせず、この場から立ち去ろうとする。

「ああ、私も後程ホテルに向かうよ。ゆっくり買い物すればいい」

 アイガー伯父さんは、すっかり諦めたって顔で許可を出した。

「気分を悪くさせてしまったな、ホッパー殿。元気だったかサンタ?」

 オバサンが少し離れたところで、お爺様はホッパーさんに詫び、私にも微妙な表情で声を掛けた。
 アイガー伯父さんは、可愛そうな子を見るような眼差しを向け、優しく私の頭を撫でた。

「相変わらずね。お爺様、私、準銀級ハンターに昇格したの。それから、アロー公爵様が後見人になってくださって、準男爵に叙爵されたわ」

「なんだと!」って、お爺様と伯父さんの声が揃った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。

aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした

茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。 貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。 母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。 バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。 しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。

ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!

966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」  最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。  この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。 錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

聖水が「無味無臭」というだけで能無しと追放された聖女ですが、前世が化学研究者だったので、相棒のスライムと辺境でポーション醸造所を始めます

☆ほしい
ファンタジー
聖女エリアーナの生み出す聖水は、万物を浄化する力を持つものの「無味無臭」で効果が分かりにくいため、「能無し」の烙印を押され王都から追放されてしまう。 絶望の淵で彼女は思い出す。前世が、物質の配合を極めた化学研究者だったことを。 「この完璧な純水……これ以上の溶媒はないじゃない!」 辺境の地で助けたスライムを相棒に、エリアーナは前世の知識と「能無し」の聖水を組み合わせ、常識を覆す高品質なポーション作りを始める。やがて彼女の作るポーションは国を揺るがす大ヒット商品となり、彼女を追放した者たちが手のひらを返して戻ってくるよう懇願するが――もう遅い。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...