三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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サンタさん、魔術師になる

71 第一期調査の終了

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 結局魔術具は、3つの組織に白金貨3枚でレンタルすると決定した。
 有難いことに3つの組織が全て、全額前納してくれることになり、私が行う魔力操作や初級魔法の有料講義も歓迎された。
 私への支払い分の白金貨6枚はホッパー商会に入金してもらい、残りの白金貨3枚は最速踏破者メンバーで分配する。

 本来なら私の取り分は3分の1なのだが、今回は私と光猫のシリスが発見したからって、メンバー全員が私に3分の2の権利を譲ってくれた。
 リーダー曰く、あんな怖い高位貴族や教授と交渉するのは無理だから、私に全権を任せたいって、メンバー全員の意見が揃ったらしい。

 ……確かにリーダーだと無償提供になってたかも・・・でも、王都で家を買う資金が足らないって知ってる皆の厚意なんだろうな。ありがとう。


 翌日、私たちは再び【聖なる地】へと向かった。
 到着後、何の魔術具かを知らなかった他のチームの人たちにも、発見した魔術具は魔力の属性を判定する機械だと教え、全員が驚きながらも判定に参加した。
 その結果、半数の人がオレンジ色のパネルを薄っすらと光らせた。

 オレンジ色の属性は【動力】で、これを持っていると魔核をオレンジ色に変化させることができる。
 また、魔術師のファーズさんは、使える属性の中で最も強いのが【動力】だったので、魔核の色がオレンジに染まったのだろうと推測されている。

 調査を終えた午後4時から、希望者全員に魔力操作を教えるんだけど、既に魔力を扱える人には、タダ同然で王都で手に入れた屑魔核に魔力を注ぎ、徐々に魔核の大きさを大きくしていく訓練をしてもらう。

「魔術師の中で最低2人は、直系12センチの魔核に魔力を充填させ、大扉を開ける必要があります。
 第一期の調査中は私が開けますが、私は第一期の調査にしか同行しない予定なので、他の研究者の皆さんのためにも、頑張ってくださいね」

「鬼だな」って、王立能力学園のエバル教授が、5センチの魔核に魔力充填しながら文句を言う。

「いや、でも私は嬉しいですよ。魔術師でもない自分が、クズ魔核に充填できる魔力を持っていると分かっただけでも、大収穫ですよ」

 ガリア教会大学の天文学者シンセイ教授は、これで自分の研究室のランプのクズ魔核代を倹約できるって嬉しそうだ。
 オレンジが光らなくて現時点で魔力なしと判定された、同じ教会大学の気象学者アメフラ教授は、自分も絶対に魔力を身に付けるんだと、鬼気迫る感じで魔力循環に挑戦している。

 ガリア教会って、本当に貧乏なんだなって同情した私は、見本として充填したクズ魔核や、そこそこの大きさのカラ魔核を充填し、教会への喜捨ですと言って渡したら、瞳をウルウルさせて喜んでくれた。
 アメフラ教授がくれるおやつの量が、毎回増えていくのには笑った。
 
 ガリア教会への属性判別魔術具の有料貸し出しについては、アロー公爵と相談した結果、国が私にレンタル料を払うので、呪術師の情報提供や、魔核の輸出入交渉に使わせて欲しいと頼まれた。
 最初は自分で格安提供すると言いそうになったけど、サーク爺やトキニさんがアロー公爵に相談しろって助言をくれたから、うっかりを回避できた。


 魔術師チーム以外の皆さんは、自分の仕事に必要だからと、古代語や一部の高度文明紀の文字について、熱心に講義を受講してくれたので、たくさん受講料が稼げた。
 第一期の調査期間中、私は休みなく調査に同行し、料金分はしっかり講義を頑張った。もちろん護衛も、扉を開ける仕事も、地底生物討伐も頑張ったよ。

 何故かハウエン協会長もずっと調査に同行して、当然の権利だからと言って、魔力循環と星の再生紀の文字の講義を受けていた。
 途中で何度も本部から呼び出しがあったけど、私の特別講義は【聖なる地】で行われるから、仕事の一環として強引に予定を変更し、代わりにボルロさんが王都に一時戻っていた。

 ……もともと歴史学者だったから、この機会を逃しては一生後悔するとかなんとか・・・まあいいけど・・・私のウエストポーチを欲しそうに見るのは止めて!
 

 また、暇な時間に高度文明紀の簡易文字表を作ってみたら、歴史学者チームと教会関係者が、学んだ知識を学生に教える許可込みで、購入させて欲しいと白金貨1枚出してくれた。
 高度文明紀の文字は、私もパトリシアさんから学んでいる最中だから、文字と読みが精一杯で単語や意味までは教えられなかった。

 ……王立能力学園に入学するまでに、もう少し勉強しとくねって言ったら拝まれた。


 そんなこんなで忙しい毎日だけど、無事にアレス君もゲートルの町に戻ってきて、休日にはアロー公爵と一緒に3人で魔法の練習をした。
 父親であるホロル様も順調に回復していると、家令のコーシヒクさんから手紙が届き、アレス君もアロー公爵も嬉しそうだった。
 調査期間の休日にだけ会える祖父と孫は、ぐっと距離が縮まったようで私も凄く嬉しい。

 そんな楽しい時間の中で、驚きの新しい発見があった。
 なんとうちの可愛い光猫のシリスは、魔力持ちだった。
 軽い気持ちで私の魔術具の判定スイッチにシリスの手を当てたら、【光・動力・水】の3のパネルが光った。
 超古代の扉を潜り抜けられるんだから、そうかなって思ってたけど、魔術具が人間以外にも有効だったことにびっくりした。


 第一期調査の最終日、私は久し振りに奥の空間へと続く3枚目の扉を開けた。
 同行していたのは、魔術師チーム全員と、扉の膜に魔力を流して通り抜けられた6人の研究者と、うちのリーダーと相棒のシリスだった。
 懸命の魔力操作訓練の結果、最終日にやっと6人が扉の中に入ることができた。
 入れた者は大喜びで、スケッチしたり大きさを測ったりしていた。

「この4畳くらいの広さの部屋にある、銀色の金属製の扉のような物には、赤と黒の5センチの大きさの魔核が埋め込まれています。
 残念ですが、今のメンバーの魔力量では、これ以上進むことはできません」

 新しい進入路を目の前にして、これ以上進めない悔しさはあるけれど、私の役目はここまで。半年後には第二期調査が始まるらしい。

 あとは皆さんで頑張ってねって、この時の私は思ってた。
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