三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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サンタさん、魔術師になる

70 魔術具検証とレンタル契約

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 魔術具の所有者として相応しく、紫色が示す【空間】属性(魔力)について上から目線のドヤ顔で説明したら、何故か会議室内が再びシーンと静まり返った。

『えげつない、奴等の上をいきおったわ』と、サーク爺が呆れたように言う。

『ほんまにな。一気に知能を上げたんちゃうか?』ってトキニさんが呟く。

『まあ、これくらい言っておけば、簡単に利用できる幼児だとは思わないわね。
 これからはきっと、畏れられると思うわよ。可愛い幼女には戻れなくなったわねサンタさん』

 ……えっ? 私って可愛い幼女よ?

 パトリシアさんったら、そんな怖いこと言わないでって念話で言いながら皆を見回すと・・・確かに困惑したような、異質な者を見るような視線が私に向けられていた。
 一部、怒りの視線も交じっているけど、わざと生意気な発言をしたんだから仕方ない。ちょっと気まずい。

「あれ、私、なんか難しいことを言ったっけ?」

 場の雰囲気を変えるため、とりあえずチーフの方を向いて訊いてみる。

「いや、もう何も言うな。言えば言う程、皆が混乱する。
 18歳から25歳くらいに知能年齢を上げて付き合ってきたが、もう40歳くらいで・・・いや、いっそのこと賢者を名乗ってくれた方が腹が立たない。
 トレジャーハンターとしても、魔法使いとしても規格外過ぎる!
 は~っ、なんなんだよこの幼児は。 
 魔術具貸し出しの件は、希望として聞いておく。それでいいなリーダー?」
 
「えっ? は、はい大丈夫です」

 ……やっぱり腹が立ったんだ。でも、賢者って、勝手に名乗っていいの?

 ごめんねリーダー。なんか勝手に決めちゃって。
 リーダーは善人で権力に弱いから、この凄いメンバーに対抗したり反論したりできないと思う。だから相談せずに決めちゃった。


「魔術師協会はそれで構わない。それよりも【空間】について学びたいと思うのだが、その機会はあるだろうかサンタさん?」

 魔術師協会を一番目にしといたから、アロー公爵は魔術具レンタルの件を了承してくれたけど、【空間】属性の方に興味が移ったのか、ギラギラした視線を向け質問してきた。
 他の魔術師の皆さんも、憮然とした表情から再起動して、自分も学びたいと迫ってくる。

 ……私の生意気な態度を窘めるより、新しい知識欲の方が高いって、さすが研究者であり第一人者ってことなのかな?

『いや、お主の持っておる空間拡張バッグが欲しいだけじゃろう』

『せやな、あれは便利やし、もしも作れたら金も稼げるしな』

『サンタさん以外の者も作れたら、サンタさんの危険度が下がるわ。教えると言っておけば、自分が習うまでサンタさんの危険を排除してくれるかもね』

『そういう考え方もできるんだ。うん、分かった』


「私もまだまだ学びの途中だから、魔術師学校に入学し、中位・魔術師の資格を取って、王立能力学園に入学したら、教える時間が取れると思います」

「まだ3年も先じゃないか」って、王立能力学園のエバル教授が不満そうに言う。
 そして、王立能力学園の魔術師学部に入学するなら、特例で下位と中位の魔術師資格の受験を許可するから、直ぐにでも王立能力学園に入学して欲しいなんて、訳の分からないことを言ってきた。
 すると工学者のツクルデ教授まで、もう少し早く入学して欲しいなんて我が儘を言う。

「いやいや、私は学ぶために入学するのであって、教えるためじゃないから」

 この勢いに吞まれてはいけないので、ちゃんとお断りしておく。


 ハンター協会のハウエン協会長と、ナンバー2のボルロさんは、すっかり出遅れて「競売は?」とか「うちは最後なのか?」って、泣きそうな顔を私に向け文句を言ってくる。
 残念ながら魔術具は、私のレンタルプランで決定した雰囲気。ごめんね。

 この場に居る誰よりも、アロー公爵は爵位も立場も上だから、アロー公爵が了承したことに異議を唱えられる者は居ないだろう。
 居るとしたら、ガリア教会くらいだと思う。この魔術具は教会にとっても必要だと思われるから、有料で貸すのは問題ない。
 貧乏みたいだから、お値引きしてあげよう。

「あっ、王宮魔術師団には貸さなくていいのかな?」

「ああ、問題ない。必要だったら魔術師協会に来て属性を判別すればいい」

 魔術師協会トップでもあるアロー公爵が、問題ないと悪人顔をして言ってくれたから、私が責められることはないってことよね。ね?
 ヒバド伯爵とかラースクみたいな人とは、二度と関わりたくないもん私。


  どっと疲れた会議・・・いや属性判別魔術具検証だったけど、ちゃんとお金の話はしたし、無茶な要求にも流されなかった・・・と思う。
 王都の屋敷の代金を、予定通りトレジャーハンター協会本部から借りてたら、ハウエン協会長のゴリ押しに逆らえなかったかもしれない。

 ……ああ、怖い怖い。

「あっ、大事なことを言い忘れてました。
 魔術具をお貸しする契約ですが、前金として白金貨2枚出してくださった組織には、遺跡調査期間中であれば、魔力が増えたかどうか、属性が増えたかどうかを確認するため、魔術具の使用を許可します。

 白金貨3枚を全額前納してくださった組織には、特別大サービスで魔力循環の特別指導や、古代語指導、魔術師の皆さんには初級魔法指導も考えています。
 今回、魔力が発現しなかった人は、ぜひ調査期間中に魔力循環の訓練をして、魔力持ちになれるよう挑戦してみてください」

 今日一番のいい笑顔で、早くお金を頂戴ねってストレートじゃない言い回しで、特典まで付けて提案してみる。
 もしも誰も前払いしてくれなかったら、屋敷の不足金はホッパーさんに貸してもらおう。白金貨10枚までなら無利息で貸せると言ってくれてたから。

「サンタさん、工学者チームは魔術具のレンタルはしないが、お金を払うから魔力循環の訓練を受けることは可能だろうか?」

 パネルが光らなかった王立能力学園建築学のハーカル准教授が、真剣な表情で訊いてきた。

「ああ、それなら他のチームの者も魔術具で魔力の有無を検査して、希望者には指導をしてやればいい。特別講義だから、指導料は講座毎に金貨1枚でいいだろう」

 なんと、アロー公爵がナイスな提案をしてくれた。さすが後見人。
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