三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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サンタさん、魔術師になる

69 魔術具の謎(3)

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 全員の視線が痛いけど、紫色のことなんて知らない振りでお口チャックよ。
 私はシラ~ッと視線を逸らして窓の外を見る。

「サンタさん、試しに属性判定をしてみないか?」

 ニコニコといい笑顔で、魔術具第一人者のツクルデ教授が誘ってくる。

「私、ハンター以外のことに関わるなと、師匠に厳しく言われているんです。
 男の格好をしてるけど本当は幼女なんで、もっと自分を大事にしなさいって」

 ここはしおらしく、元気いっぱい男子キャラじゃなくて、可愛い女子キャラで面倒事を回避しよう。

「なにー、お、女の子なのか!」

 ツクルデ教授が驚きの声を上げ、気付いてなかった他のメンバーも目を見開き驚いている。

「それよりも、この魔術具の所有権は私と最速踏破者にあると思うんだけど、国が買い取るのかなぁ? それとも魔術師協会なのかなぁ?」

 私は魔術具の買い取りについて質問し、自分の判定を回避する作戦にでた。

『フフン、ここからは幼女らしく、可愛く行くわよ!』

『いや、既にいろいろ無理な気がするぞサンタや』ってサーク爺が。

 ……なんでよー!

「もちろん魔術師協会が買い取るぞ」と、協会のミエハール部長が胸を張る。

「いやいや、このように有用な魔術具は、魔術師学部の学生にこそ必要なものだ」と、王立能力学園のエバル教授が反論する。

「フッ、何を仰っているのですか皆さん? 当然魔術具の複製も考慮し、魔術具研究者が優先でしょう」と、ツクルデ教授が鼻で笑いながら主張する。

「いや、この魔術具はハンター協会が所有管理すべきでしょう。そう思わないか準銀級ハンターのサンタさん?」

 ハウエン協会長が、黒く微笑みながら私に同意を求めてくる。


『大人のくせにえげつない遣り方じゃな。この協会長には用心した方がいいじゃろう』と、幼児を丸め込もうとする協会長に、サーク爺は憤慨する。

『せやな。結局は皆、自分とこの利益を優先して、サンタさんやリーダーの意見なんて聞く気がないんや』と、大人気ない発言にトキニさんは呆れる。

『嫌ね~、この際だから、一番高額な値段で落札した組織に決めたらいいわ。
もともと魔術具は、競売で取引されるんだから』と、パトリシアさんは冷静だ。

『でもなぁ、身に余る大金は怖いかも。この際だから王都で買った家の残金分の白金貨6枚を、回収させてもらおうかな』

『好きにしたらいい』って3人は同意してくれた。

 ……よし、この魔術具は売ったり競売にかけたりせず、私の所有物として管理しよう。この先、同じモノを自分で作れるかもしれないし。

 ……管理者としての実力を示すためにも、属性判定しとこうかな。うん。


「う~ん、一つの組織を贔屓するなんて難しいなぁ。
 この魔術具を競売にかけるなら、私は最低落札価格を白金貨30枚に設定するよ。
 でも、この魔術具は、たくさんの人に役立てて欲しいから、誰かが独占するのは反対。だからこの魔術具は、何処にも売らないことにします」

「はあ? 売らない?!」

 全員が、納得できないって表情で叫んだ。
 
「それは何故か・・・皆さんは、まだ【聖なる地】の調査が終わっていません。
 王様に提出する調査結果を纏め、魔核の魔力充填について発表する論文作成もありますよね?」 

「うっ・・・」
 
 まるで教師に叱られた学生のような顔をして、私から視線を逸らす者が数名。
 目の前の魔術具に傾倒しすぎて、肝心の調査や報告書を忘れそうな皆さんに、私はしっかり釘を刺す。


「競売にはかけないけど、先ずは魔術師協会に、次は王立能力学園の魔術師学部に、最後はハンター協会に、其々5か月間、格安の白金貨3枚で貸し出します」

「白金貨3枚・・・確かに格安だが」

 どうやら魔術師協会が独占したかったみたいで、アロー公爵は渋い顔をする。

「なんで、一番必要な工学者の所には貸さないんだ? 白金貨3枚なら個人でも払えるぞ」って、ツクルデ教授が泣きそうな顔で訴えてくる。

 魔術具も大事かもしれないけど、早く調査を終えて私を自由にして欲しいのよ。
 アレス君と一緒に魔法の練習がしたいし、トレジャーハンターの仕事で稼いで、王都の家の家具だって買わなきゃいけないもん。

「ツクルデ教授、私、王立能力学園の受験は、発明学部にするつもりです。
 私の職業【過去・輪廻】は、学部なんて関係ないので。
 この魔術具を持参するので、ぜひ一緒に研究しましょう。私が学びたいのは魔術具や鍛冶技術なんです」

 がっかりを通り越して恨めしそうに私を見てくるツクルデ教授に、最終的には工学研究室に持っていくのよって、今日一番の笑顔で提案する。
 自分でも作れたら、複製品を各部署に売ればいいもんね。うん。

「そうかそうか、工学を学びたいんじゃな。大歓迎じゃサンタさん」と、ツクルデ教授が言うと、同じ工学者チームの皆さんも満面の笑顔で頷く。

「なんで発明学部なんだー!」

 当然、魔術師学部に入学すると思っていた魔術師チームの皆さんが、信じられないって表情で私を見て文句を言うけど、知らんがな。

「私が思うに、この魔術具の有用性を実証できて、この魔術具の管理所持者として相応しい人間は、私以外に居ないと思うの。
 だってこの魔術具は、魔術師の属性じゃなく、魔法使いの魔力属性を判定する機械だから。
 これから皆さんに、魔術師と魔法使いの違いを、魔術具を使って証明しましょう」

 私は椅子から立ち上がってそう言うと、魔術具の所までゆっくり歩いていく。
 そして「サンタ行きまーす」と言って、魔術具の丸いスイッチに手を当てた。
 するとピカピカ眩しくパネルが光り、一番右端の紫色までしっかりと点滅した。

 シーンと静まり返った会議室で、私は余裕の笑みで皆を見て話しを続ける。

「紫色は【空間】です。私の持っているリュックやウエストポーチのように、実物の何倍もの物を収納するには、超古代魔法の【空間】という属性が必要となります。
 もしかしたら、アロー公爵のように新しい属性を会得できるかもしれません。
 そうだといいですね、魔術師の皆さん?」

 私はお金を生む予定の魔術具を見ながら、これでもかって異能ぶりを発揮して、魔法使いは魔術師よりも上だって態度を取る。
 簡単に利用できる幼児だって思われるのは、もう止めなきゃ。
 大人とか幼児とか関係なく、知識の差で勝ちに行く! 

 ……私、もう準男爵になって独立したので。
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