三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

文字の大きさ
76 / 181
サンタさん、魔術師になる

76 トレジャーハンター協会本部(2)

しおりを挟む
 あちゃ~! 面倒ごとの予感が当たったかも・・・
 ミエハール魔術師協会部長は3人の従者と一緒で、これから魔力学会の会議を行うらしい。
 ミエハール部長と会話していたら、お爺様が心配そうに私を見るので、ミエハール部長にお爺様とアレス君を紹介した。

「あれ、サンタさんって子爵家令嬢だったの? えぇっ!? 
 しかも弟子までいるの? なんて羨ましい。いやいや、私も技を伝授されたので弟子の1人だな」

 確かに貴族令嬢には見えなかったと思うけど、そんなに驚くなんてちょっと失礼。
 魔法じゃなくて【技】って言ってるから、ちゃんと魔法のことは秘密にしてくれてるみたい。まあ、協会長はアロー公爵だもんね。

 アレス君の素性は話せないから、弟子って紹介したら羨ましがられた。
 今日のアレス君は、旅の途中で金髪を焦げ茶色に染めて変装中だけど、そんなにジロジロ見ないで。

 入り口付近で立ち話をしていたら、後ろから王立能力学園工学部のツクルデ教授が、従者を2人連れてやって来るのが見えた。
 私の姿を見付けると嬉しそうにブンブン手を振って、「サンタさーん」って大きな声で叫ぶ。

 ……いや~ん、勘弁して!

 ガヤガヤしている所に、チーフがトレジャーハンター協会本部ナンバー2であり、鑑定士協会のトップでもあるボルロさんを連れてやって来たから、もう何処にも逃げ場がなくなった。グスン。

 ……なんで王都まで来て、調査団メンバーと再会しなきゃいけないのー!


「ちょうど良かった。実はサンタさんが、新しい魔術具を発見したらしい。
 その魔術具、驚くことに魔核嵌め込み型で、魔力を充填しないと起動しないらしいから、検証のため王都に持ってきてもらった」

 何がちょうど良かったの? ねえ、どうして私が発見した魔術具の話を皆にするのボルロさん?

 さっさと会議をしたら? いや、私の魔術具が先かぁ・・・
 この場に居る全員の目が、キラキラしている気がするのは何故?
「さあ早く出してくださいサンタさん」って、なんで一緒に検証する気満々なのツクルデ教授?

『諦めや、サンタさん、このメンバーが新発見を見ずに済むはずないやろ?』

『そうね、直ぐ見せた方が早く王都見学に行けると思うわ』

『サンタや、どうしてお主はこうも面倒ごとに巻き込まれるんじゃ?』

『はあ? 私だって好きで巻き込まれてないけど?』

 ……しょうがない。諦めて皆に検証してもらおう。


 私たち3人は、大人数と共に鑑定士協会の会議室へと移動していく。
 なんだか凄いメンバーに囲まれたお爺様は顔色が悪いけど、ツクルデ教授の従者が知り合いだったみたいで、「素晴らしいお孫さんが居て羨ましいですな」とか言われて嬉しそうだった。

 アレス君は「いつから弟子になったんだ?」ってミエハール部長に質問され、戸惑いながらも「2年前くらいです」って答えてる。
「魔術師を目指しているのか?」って問いには、「サンタ師匠にお供する予定です」って答えてるけど・・・王立能力学園では違う学部になるよ、大丈夫?

「トレジャーハンターは、近年魔術師学校を卒業した下位・魔術師を引き抜いているが、君もハンターになる気なのか?」 

 ちょっとミエハール部長、獲物を見るような目をして不必要な質問をしないで!

「いえ、僕はサンタ師匠と一緒に、魔術師学校では中位・魔術師の資格を取ります。でも、ハンターの仕事もやるつもりです」

 あぁ、アレス君ったら、そんな真面目に答えなくてもいいのに・・・ミエハール部長め!

「はあ? 中位・魔術師資格だと!」って、ミエハール部長の部下らしき人が、不機嫌そうな声で、アレス君を見下すように見て言う。

 ……この人、滅茶苦茶感じ悪いんですけど? 中位・魔術師に何か不満でも? それとも、中位資格を取れるはずがないって思い込み?

 ……いや、アロー公爵やミエハール部長が特別で、普通の魔術師は皆こんな感じだった。これが普通。ちょっと油断してた。でも、負けたくない。

「私の弟子を見下すような魔術師協会の人には、今後は何も教えない。それでいいよねミエハール部長?」

 私はミエハール部長と視線を合わすことなく、不機嫌全開で脅しを掛ける。

「ガキのくせにさっきから、部長に対してその口の利き方はなんだ! 無礼者」

 ちょっと大きな声で私を叱咤したから、チーフもボルロさんもツクルデ教授も、刺すような視線を男に向け、責任者であるミエハール部長を睨んだ。

「止めないかデモンズ君、大事な協力者に対し無礼だぞ! あの属性判定魔術具の持ち主はこの子だ。キミの第二期調査団員内定は取り消しとする」

 ミエハール部長が慌てて部下を叱ったけど、せっかくのいい雰囲気から一転、重苦しい雰囲気へと変わってしまった。


 会議室に到着した私は、直ぐにリュックから魔術具を取り出し床の上に置くと、「それでは鑑定をどうぞ」と言って、アレス君を連れ会議室から出て行く。
 お爺様は、鑑定結果を知る必要があるので残った。

 ……フッ、鑑定できるものなら、やってみればいいわ。

「なんだか頭にきたねアレス君。絶対に高位・魔術師の資格を取って、魔法でさっきの男をぎゃふんと言わせようね」

「そうだね、彼の常識を覆し、魔法の方が上だって教えてやろう」

 ロビーまで戻った私たちは、気合を入れて誓い合った。
 でも王都に来れば、悔しい思いをすることなんて日常茶飯事になるだろう。
 たかが準男爵、たかが男爵程度では、実力じゃなくて地位や爵位で押さえつけられるんだ。ハーッ、それが社会に出るってこと。

 気を取り直して、ロビーの椅子に座っておやつでも食べよう。
 美味しいお菓子は幼児の必須アイテム。そして、疲れた心を癒してくれる。


「申し訳ありませんでした。以後、このようなことがないよう指導いたします」

 お菓子を食べていたら、受付のお姉さんと上司らしき男性がやって来て、私たちに向かって真摯に頭を下げ、身分証を返してくれた。
 よく見たら、トレジャーハンター協会のハウエン協会長が、軽く右手を上げ、会議室の方へ移動して行くのが見えた。成る程、ありがとう。


 10分後、今度はミエハール部長がやって来て、申し訳なさそうに言った。

「すまないサンタさん、魔核に魔力をお願いできないだろうか?」と。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚した話

きむらきむこ
ファンタジー
乙女ゲームのバッドエンド後の世界で、子爵家令嬢ジュリエットは侯爵家当主のオーチャードと結婚したが…  恋愛色はありません。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...