三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

文字の大きさ
97 / 185
サンタさん、学生になる

97 実技試験(1)

しおりを挟む
 入学2日目、今朝もメリーさんが焼いてくれたパンが美味しい。
 兄さまは食事中も本を読んで勉強し、母様に叱られている。
 私が来年王立能力学園に入学するので、兄さまも2年早く受験すると私の誕生会で宣言し猛勉強を始めたんだよね。

 兄さまの職業は専門職の教育だけど、男爵以上の貴族家の子は、王立高学園ではなく王立能力学園の受験が可能だ。国務学部に教育学科がちゃんとある。
 確かにどんなに爵位が高くても、専門職で生まれる子だって沢山いるよね。
 ただ王立能力学園の方が受験が難しくて学費も高額だから、男爵や子爵クラスだと後継者以外は王立高学園を目指す者の方が多い。
 
 兄さまが2年早く受験すると母様から聞いた王太子妃様が、来年1年早く受験するエルドラ王子の、側近候補として入学してはどうかと笑顔で提案されたらしい。
 ちょっと青い顔して昨夜の夕食時間に母様が報告したので、兄さまは懸命に頑張っているのだ。

 私が王子や王女の友人で兄さまは側近候補って、完全に囲われている気がする。
 まあ母様と王太子妃様が親友である縁を考えると、これも縁なのかもしれない。

 王立能力学園に入学する時は、私の爵位は子爵になる予定だから、兄さまは子爵家子息扱いになり、王子の側近たる爵位としてはギリギリらしい。
 エルドラ王子の側近候補は、王子より年上の侯爵家子息とか伯爵家子息が既に決まっていて、もう王立能力学園に入学しているそうだ。
 アレス君は公爵家子息として入学するけど、王子の側近ではなく友人だ。

 ……ん? 側近候補にも友人にもなっていないホロル様の長男レイノルドが、面倒臭い態度を取りそうな予感が・・・いや、関わらないのが一番。



 中流地区の端っこにある我が家から馬車で魔術師学校に行くと、一度大通りまで出てぐるりと大回りする必要があるから、私とアレス君は平民地区との区切りになっている家の裏にある壁を魔法で越えて学校に入る。
 時間短縮ができて、母様や兄さまが馬車を使うことができる。

 中級魔法が少し使えるようになったアレス君も、エアーアタックで軽々と壁を越えて学校の演習場に着地する。
 昨日は入学式とホームルームで自己紹介して、校内見学だけだったから、広い演習場を見るとちょっと心が弾む。

 土山や岩や小さな池、攻撃当ての的もたくさん設置されていて、今日行われる実技試験の準備も万端だ。
 ただ、下位・魔術師に合格している私たちの立ち位置は微妙で、皆と同じ訓練をしても意味がない。

 中位・魔術師合格を目指すといっても、既に独学で学び終えているから、本来この学校で学ぶ必要はないんだけど、魔術師協会の規定では、中位・魔術師試験は、魔術師学校在学者又は卒業者、王立能力学園在学者又は卒業者しか受験できないと定められている。
 王立能力学園魔術師学部のエバル教授が、特例で受験すればいいって言ってたけど、私とアレス君は正面突破で王立能力学園を目指してるんだよね。


【一般クラス】を見回すと、最年少が7歳の私で、一番年上なのが12歳。
 準男爵や騎士爵の家の子は初級学校を卒業していて、平民の4人は初級学校に行ってなかった。女の子も2人居る。
 昨日の自己紹介で私とアレス君は、既にトレジャーハンターとして活動していると話したから、服装もトレジャーハンター仕様だ。

 どう見ても男爵や公爵家の子息には見えないから、クラスメートは気軽に話しかけてくれる。
 中級学校を卒業している【上位クラス】の5人からは、完全に無視されている。
 彼等から見たら、既に下位・魔術師に合格している私たちは認めたくない存在だし、身分も格下だと勘違いされている可能性が高い。

「よし、全く魔術の指導を受けたことがない者は見学するように。
 魔術を学んでいるが、魔術師試験を受けたことがない者から先に実技試験をする。次は、先月の魔術師試験を受けたが合格しなかった者だ。サンタとアレスは、全員が終わってから行う」

【上位クラス】担任のソーヤ教官40歳が、実技試験を行う順番を大声で言う。
 ソーヤ教官は魔術師協会の、教育部に所属しているそうだ。
【一般クラス】の担任は、軍の教育部所属のシュテファン教官38歳だ。
【就職・進学】担当は、王宮魔術師団教育部所属のデスタート教官38歳だ。 

 教官は魔術師協会・王宮魔術師団・軍から派遣されていて、その後の進路に大きく関与しているのは間違いない。
【一般クラス】の学生は、平民や下級貴族だから軍に就職する者が多いそうだ。
 確かに、お貴族様ですって威張ってる【上位クラス】の者は、軍には就職しない気がする。


「いいか、先ずは一番近くの的に得意の魔術を当てるんだ!」
「はい!」

 シュテファン教官の指示に従って、魔術は習っているけど魔術師試験を受けたことがない者から順に、自分の実力を披露していく。
 
 魔術師試験を受けたことがない者は【一般クラス】も【上位クラス】も、一番手前の3メートルの的には当てられるけど、5メートルは厳しかった。
 次は今回魔術師試験を受けた【一般クラス】の3人で、5メートル先の的に当てることができたけど、7メートル先の的には当てられなかった。

【上位クラス】の2人は、男爵家以上の子息たちで、家庭教師に魔術を習っており、7メートル先の的に数発当てられる程度だった。
 私やアレス君みたいに、的を破壊するような威力が出せる者なんて居ないし、7メートル先の的に当てただけで、どや顔で威張る姿に苦笑する。

 ……職業選別で下位・魔術師が出ただけで、一族からちやほやされ大きな顔ができるらしいから、これが普通なのかも。

 ……ちなみに、中位・魔術師を授かった者は、魔術師学校ではなく王立能力学園に入学するのが普通らしく、アレス君は例外中の例外だ。

 下位・魔術師に合格するためには、7メートル先の的を半分以上命中させる必要がある。中位・魔術師だと10メートル先の的になる。
 また、荷物を入れた箱を3メートル以上移動させ、2メートル級の岩を魔法陣で破壊する必要がある。中位・魔術師だと、5メートル級の岩を破壊する。
 受験したけど合格できない者の多くは、岩の破壊で失敗すると聞いている。

「今年は期待できる者が多いようだ。よし、最後はサンタとアレスだ」  
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

役立たずと追放された辺境令嬢、前世の民俗学知識で忘れられた神々を祀り上げたら、いつの間にか『神託の巫女』と呼ばれ救国の英雄になっていました

☆ほしい
ファンタジー
貧しい辺境伯の三女として生まれたリゼット。魔力も持たず、華やかさもない彼女は、王都の社交界で「出来損ない」と嘲笑われ、挙句の果てには食い扶持減らしのために辺境のさらに奥地、忘れられた土地へと追いやられてしまう。 しかし、彼女には秘密があった。前世は、地方の伝承や風習を研究する地味な民俗学者だったのだ。 誰も見向きもしない古びた祠、意味不明とされる奇妙な祭り、ガラクタ扱いの古文書。それらが、失われた古代の技術や強力な神々の加護を得るための重要な儀式であることを、リゼットの知識は見抜いてしまう。 「この石ころ、古代の神様への捧げものだったんだ。あっちの変な踊りは、雨乞いの儀式の簡略化された形……!」 ただ、前世の知識欲と少しでもマシな食生活への渇望から、忘れられた神々を祀り、古の儀式を復活させていくだけだったのに。寂れた土地はみるみる豊かになり、枯れた泉からは水が湧き、なぜかリゼットの言葉は神託として扱われるようになってしまった。 本人は美味しい干し肉と温かいスープが手に入れば満足なのに、周囲の勘違いは加速していく。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。 その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。 落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...