356 / 709
覇王の改革
192ー1 商会主アコル(6)ー1
サーシム領の南に位置するマリード領との領境は、領都サーシムの冒険者ギルドよりも、領都マリードの冒険者ギルドから駆け付けた方が早い距離にある。
サーシム領の中央には、コルランドル王国最大のリドミウムの森があり、領都の冒険者ギルドは森の北にあるため、駆け付けるには森を迂回しなければならない。
マリード支部からだと12時間、サーシム支部からだと1日は到着まで時間が必要だった。
「分かった。マサルーノに、こっちの状況を伝えて、ミル山の様子を監視するよう指示して欲しい。
もしかしたら、マリード領側でも噴火する可能性がある。
それから、マリード侯爵に直ぐ領地に戻れと伝えてくれるエクレア?」
マサルーノたちの様子を知らせてくれたエクレアに、俺は新たなお願いをした。
『ええ、直ぐに伝えるわ。無理しないでね』
エクレアは心配するような視線を向けて、無理するなと念を押して姿を消した。
俺は馬から降りて、先行しているウルフ系の魔獣の群と対峙する。
その距離は400メートルくらい。
その後方に小さく見える二つ目の群は、流れの速い溶岩と競うように爆走しているようだが、足の遅い魔獣は、樹木や畑に燃え広がっていく炎と煙に呑み込まれようとしていた。
魔獣は、一旦走り出したら方向転換するのが苦手だ。
群れで行動している場合は特に、先頭を走るリーダーの動きに従ってしまう。
溶岩や噴石の被害が激しい東側から逃げてきた群に、再び東側に戻るという選択肢はないだろう。
新たな溶岩が西に向かう行く手を塞いでいる以上、南に逃げることしかできない。
溶岩が広範囲に流れ出れば、魔獣は逃げ道を塞がれ焼死する。
そうなれば討伐の手間は省けるのだが、それでは後々困るのは人間だ。
現在、溶岩の流れる幅は200メートル程度だが、雄大な山を下ってくる途中の地形によっては、流れも幅もどう変化するか分からない。
俺が魔獣を迎え撃つために馬から降りた場所は、ゆっくりした下り斜面の途中に、まるで巨大なモグラが地面の中を横断したかのように、こんもりと丸く隆起している不思議な土手を乗り越えた場所だった。
目視できる範囲の距離は隆起が続いていて、高さは5メートルくらいでトップの奥行きは3メートルはあるだろう。
大型のウルフ系魔獣なら、飛び越えることも可能だ。
この地形によって、溶岩の流れは多少なりとも遅らせることができるだろう。
……仕方ない、素材は諦めるか。
俺は広範囲に展開できる改良型の魔法陣を描いた大きな紙を、マジックバッグから取り出す。
落ち着くために深呼吸をして、隆起した部分を駆け上がったり飛び越えた魔獣が、着地するであろう場所に紙を置き慎重に魔力を流していく。
「数多の命を守りし大地よ、誓約の魔力を捧げし我に力を! 開け地獄の入り口」
魔法陣が金色に輝き始めると、モグラのトンネルに沿うように、銀色の光が左右にどんどん伸びていく。その距離およそ1キロ。
意識を集中し広範囲に伸びるよう魔力を注いでいくと、一気に魔力が削られるのが分かる。
全身から汗が噴き出し、自分の持つ魔力量の限界に近付いてゆくが、完全に魔法陣が発動するまでは、一瞬たりとも気を抜くことはできない。
魔力を分けてくれるエクレアや他の妖精は居ないけど、ここで食い止めることができなければ大勢の人や町が犠牲になってしまう。
……やるしかない!
ゴゴゴゴゴーと地鳴りが始まった。
噴火爆発ほどではないが、立っているのが困難なくらいの揺れがきて、思わず倒れそうになるが、まだ魔法陣は最後まで発動していない。
ゴゴガラガラ……ズズズドンという大きな音が耳にも体にも響いて、大地が悲鳴を上げるかの如くにガガガバリバリと音を立て、地獄への入り口をこじ開けていく。
油断していると吹っ飛ばされそうになる揺れに耐えながら、左右に広がっていく地割れを確認する。
すると中央から左右に伸びていた銀色の光が、遠くに向かってスーッと消えていく。
そして魔方陣を書いた紙が一瞬強く輝き、一気に燃えて無くなった。
今度はドドドと魔獣の走る足音が迫ってくるが、今の地鳴りと振動で、その勢いはやや削がれたようだ。
10メートルくらいの幅に開いた地獄の入り口を、俺は身体強化と風魔法を使ってなんとか飛び越え、モグラのトンネルの上にあがる。
眼前に迫っていた魔獣の群れは、止まることなく俺の方に向かってきていた。
「さあ来い! この高さまで駆け上がって来い!」
血走った目で溶岩から逃げてきた魔獣たちは、餌である人間を視線で捉えると、疲れた体に鞭打って、モグラのトンネルを駆け上ってくる。
俺も残りの魔力と気力を振り絞り、地獄の入り口を再び飛び越える。
……全く底が見えないな。
飛び越えながら見えた地割れの深さに、良かったと思わず安堵する。
着地と同時に振り返ると、ひときわ大きなシルバーウルフの姿が目に写った。
がしかし、そのシルバーウルフが、モグラのトンネルを飛び越えようとしているところで、俺は意識を失った。
『アコル、大丈夫? 目を覚まして!』と、エクレアの声が聞こえる。
『主殿しっかりせい!』・・・ん? これは王宮に遣いに出したロルフの声かな?
『まだ魔力が足らないのかしら?』
『いや、そうではなかろう。これは疲労じゃろうて』
ペシペシと小さな手で俺の頬を叩いているのは、エクレアに違いない。
俺だって早く目を覚まそうと思っているけど、瞼が重い。体も重い。
サーシム領の中央には、コルランドル王国最大のリドミウムの森があり、領都の冒険者ギルドは森の北にあるため、駆け付けるには森を迂回しなければならない。
マリード支部からだと12時間、サーシム支部からだと1日は到着まで時間が必要だった。
「分かった。マサルーノに、こっちの状況を伝えて、ミル山の様子を監視するよう指示して欲しい。
もしかしたら、マリード領側でも噴火する可能性がある。
それから、マリード侯爵に直ぐ領地に戻れと伝えてくれるエクレア?」
マサルーノたちの様子を知らせてくれたエクレアに、俺は新たなお願いをした。
『ええ、直ぐに伝えるわ。無理しないでね』
エクレアは心配するような視線を向けて、無理するなと念を押して姿を消した。
俺は馬から降りて、先行しているウルフ系の魔獣の群と対峙する。
その距離は400メートルくらい。
その後方に小さく見える二つ目の群は、流れの速い溶岩と競うように爆走しているようだが、足の遅い魔獣は、樹木や畑に燃え広がっていく炎と煙に呑み込まれようとしていた。
魔獣は、一旦走り出したら方向転換するのが苦手だ。
群れで行動している場合は特に、先頭を走るリーダーの動きに従ってしまう。
溶岩や噴石の被害が激しい東側から逃げてきた群に、再び東側に戻るという選択肢はないだろう。
新たな溶岩が西に向かう行く手を塞いでいる以上、南に逃げることしかできない。
溶岩が広範囲に流れ出れば、魔獣は逃げ道を塞がれ焼死する。
そうなれば討伐の手間は省けるのだが、それでは後々困るのは人間だ。
現在、溶岩の流れる幅は200メートル程度だが、雄大な山を下ってくる途中の地形によっては、流れも幅もどう変化するか分からない。
俺が魔獣を迎え撃つために馬から降りた場所は、ゆっくりした下り斜面の途中に、まるで巨大なモグラが地面の中を横断したかのように、こんもりと丸く隆起している不思議な土手を乗り越えた場所だった。
目視できる範囲の距離は隆起が続いていて、高さは5メートルくらいでトップの奥行きは3メートルはあるだろう。
大型のウルフ系魔獣なら、飛び越えることも可能だ。
この地形によって、溶岩の流れは多少なりとも遅らせることができるだろう。
……仕方ない、素材は諦めるか。
俺は広範囲に展開できる改良型の魔法陣を描いた大きな紙を、マジックバッグから取り出す。
落ち着くために深呼吸をして、隆起した部分を駆け上がったり飛び越えた魔獣が、着地するであろう場所に紙を置き慎重に魔力を流していく。
「数多の命を守りし大地よ、誓約の魔力を捧げし我に力を! 開け地獄の入り口」
魔法陣が金色に輝き始めると、モグラのトンネルに沿うように、銀色の光が左右にどんどん伸びていく。その距離およそ1キロ。
意識を集中し広範囲に伸びるよう魔力を注いでいくと、一気に魔力が削られるのが分かる。
全身から汗が噴き出し、自分の持つ魔力量の限界に近付いてゆくが、完全に魔法陣が発動するまでは、一瞬たりとも気を抜くことはできない。
魔力を分けてくれるエクレアや他の妖精は居ないけど、ここで食い止めることができなければ大勢の人や町が犠牲になってしまう。
……やるしかない!
ゴゴゴゴゴーと地鳴りが始まった。
噴火爆発ほどではないが、立っているのが困難なくらいの揺れがきて、思わず倒れそうになるが、まだ魔法陣は最後まで発動していない。
ゴゴガラガラ……ズズズドンという大きな音が耳にも体にも響いて、大地が悲鳴を上げるかの如くにガガガバリバリと音を立て、地獄への入り口をこじ開けていく。
油断していると吹っ飛ばされそうになる揺れに耐えながら、左右に広がっていく地割れを確認する。
すると中央から左右に伸びていた銀色の光が、遠くに向かってスーッと消えていく。
そして魔方陣を書いた紙が一瞬強く輝き、一気に燃えて無くなった。
今度はドドドと魔獣の走る足音が迫ってくるが、今の地鳴りと振動で、その勢いはやや削がれたようだ。
10メートルくらいの幅に開いた地獄の入り口を、俺は身体強化と風魔法を使ってなんとか飛び越え、モグラのトンネルの上にあがる。
眼前に迫っていた魔獣の群れは、止まることなく俺の方に向かってきていた。
「さあ来い! この高さまで駆け上がって来い!」
血走った目で溶岩から逃げてきた魔獣たちは、餌である人間を視線で捉えると、疲れた体に鞭打って、モグラのトンネルを駆け上ってくる。
俺も残りの魔力と気力を振り絞り、地獄の入り口を再び飛び越える。
……全く底が見えないな。
飛び越えながら見えた地割れの深さに、良かったと思わず安堵する。
着地と同時に振り返ると、ひときわ大きなシルバーウルフの姿が目に写った。
がしかし、そのシルバーウルフが、モグラのトンネルを飛び越えようとしているところで、俺は意識を失った。
『アコル、大丈夫? 目を覚まして!』と、エクレアの声が聞こえる。
『主殿しっかりせい!』・・・ん? これは王宮に遣いに出したロルフの声かな?
『まだ魔力が足らないのかしら?』
『いや、そうではなかろう。これは疲労じゃろうて』
ペシペシと小さな手で俺の頬を叩いているのは、エクレアに違いない。
俺だって早く目を覚まそうと思っているけど、瞼が重い。体も重い。
あなたにおすすめの小説
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!