キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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覇王の改革

192ー1 商会主アコル(6)ー1

 サーシム領の南に位置するマリード領との領境は、領都サーシムの冒険者ギルドよりも、領都マリードの冒険者ギルドから駆け付けた方が早い距離にある。

 サーシム領の中央には、コルランドル王国最大のリドミウムの森があり、領都の冒険者ギルドは森の北にあるため、駆け付けるには森を迂回しなければならない。

 マリード支部からだと12時間、サーシム支部からだと1日は到着まで時間が必要だった。
 
「分かった。マサルーノに、こっちの状況を伝えて、ミル山の様子を監視するよう指示して欲しい。
 もしかしたら、マリード領側でも噴火する可能性がある。
 それから、マリード侯爵に直ぐ領地に戻れと伝えてくれるエクレア?」

マサルーノたちの様子を知らせてくれたエクレアに、俺は新たなお願いをした。

『ええ、直ぐに伝えるわ。無理しないでね』

エクレアは心配するような視線を向けて、無理するなと念を押して姿を消した。

 俺は馬から降りて、先行しているウルフ系の魔獣の群と対峙する。
 その距離は400メートルくらい。

 その後方に小さく見える二つ目の群は、流れの速い溶岩と競うように爆走しているようだが、足の遅い魔獣は、樹木や畑に燃え広がっていく炎と煙に呑み込まれようとしていた。

 魔獣は、一旦走り出したら方向転換するのが苦手だ。
 群れで行動している場合は特に、先頭を走るリーダーの動きに従ってしまう。

 溶岩や噴石の被害が激しい東側から逃げてきた群に、再び東側に戻るという選択肢はないだろう。
 新たな溶岩が西に向かう行く手を塞いでいる以上、南に逃げることしかできない。

 溶岩が広範囲に流れ出れば、魔獣は逃げ道を塞がれ焼死する。
 そうなれば討伐の手間は省けるのだが、それでは後々困るのは人間だ。

 現在、溶岩の流れる幅は200メートル程度だが、雄大な山を下ってくる途中の地形によっては、流れも幅もどう変化するか分からない。

 俺が魔獣を迎え撃つために馬から降りた場所は、ゆっくりした下り斜面の途中に、まるで巨大なモグラが地面の中を横断したかのように、こんもりと丸く隆起している不思議な土手を乗り越えた場所だった。

 目視できる範囲の距離は隆起が続いていて、高さは5メートルくらいでトップの奥行きは3メートルはあるだろう。

 大型のウルフ系魔獣なら、飛び越えることも可能だ。
 この地形によって、溶岩の流れは多少なりとも遅らせることができるだろう。

 ……仕方ない、素材は諦めるか。


 俺は広範囲に展開できる改良型の魔法陣を描いた大きな紙を、マジックバッグから取り出す。

 落ち着くために深呼吸をして、隆起した部分モグラのトンネルを駆け上がったり飛び越えた魔獣が、着地するであろう場所に紙を置き慎重に魔力を流していく。

数多あまたの命を守りし大地よ、誓約の魔力を捧げし我に力を! 開け地獄の入り口」

 魔法陣が金色に輝き始めると、モグラのトンネルに沿うように、銀色の光が左右にどんどん伸びていく。その距離およそ1キロ。

 意識を集中し広範囲に伸びるよう魔力を注いでいくと、一気に魔力が削られるのが分かる。

 全身から汗が噴き出し、自分の持つ魔力量の限界に近付いてゆくが、完全に魔法陣が発動するまでは、一瞬たりとも気を抜くことはできない。

 魔力を分けてくれるエクレアや他の妖精は居ないけど、ここで食い止めることができなければ大勢の人や町が犠牲になってしまう。

 ……やるしかない!


 ゴゴゴゴゴーと地鳴りが始まった。
 噴火爆発ほどではないが、立っているのが困難なくらいの揺れがきて、思わず倒れそうになるが、まだ魔法陣は最後まで発動していない。

 ゴゴガラガラ……ズズズドンという大きな音が耳にも体にも響いて、大地が悲鳴を上げるかの如くにガガガバリバリと音を立て、地獄への入り口をこじ開けていく。

 油断していると吹っ飛ばされそうになる揺れに耐えながら、左右に広がっていく地割れを確認する。

 すると中央から左右に伸びていた銀色の光が、遠くに向かってスーッと消えていく。
 そして魔方陣を書いた紙が一瞬強く輝き、一気に燃えて無くなった。


 今度はドドドと魔獣の走る足音が迫ってくるが、今の地鳴りと振動で、その勢いはやや削がれたようだ。

 10メートルくらいの幅に開いた地獄の入り口を、俺は身体強化と風魔法を使ってなんとか飛び越え、モグラのトンネルの上にあがる。
 眼前に迫っていた魔獣の群れは、止まることなく俺の方に向かってきていた。

「さあ来い! この高さまで駆け上がって来い!」

 血走った目で溶岩から逃げてきた魔獣たちは、餌である人間を視線で捉えると、疲れた体に鞭打って、モグラのトンネルを駆け上ってくる。
 俺も残りの魔力と気力を振り絞り、地獄の入り口を再び飛び越える。

 ……全く底が見えないな。

 飛び越えながら見えた地割れの深さに、良かったと思わず安堵する。
 着地と同時に振り返ると、ひときわ大きなシルバーウルフの姿が目に写った。

 がしかし、そのシルバーウルフが、モグラのトンネルを飛び越えようとしているところで、俺は意識を失った。



『アコル、大丈夫? 目を覚まして!』と、エクレアの声が聞こえる。

『主殿しっかりせい!』・・・ん? これは王宮に遣いに出したロルフの声かな?

『まだ魔力が足らないのかしら?』
『いや、そうではなかろう。これは疲労じゃろうて』

 ペシペシと小さな手で俺の頬を叩いているのは、エクレアに違いない。
 俺だって早く目を覚まそうと思っているけど、瞼が重い。体も重い。
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