キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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現実と理想

212ー2 混乱する卒業式ー2

 これまで卒業式に、国王が参列することなどなかった。たとえ王子や王女が卒業するとしてもだ。
 しかも国王は病弱で、ここ10年は王宮から出て活動されたという記憶がなかった。

 それなのに何故? と、高位貴族たちは用心する顔つきになっている。

「卒業おめでとう。
 私はこの国の国王として【覇王軍】【王立高学院特別部隊】に所属する学生に、感謝を伝えるべきだと思いやって来た。

 また覇王講座では、多くの学生が協力し合い、国内だけではなく近隣諸国からの受講者の指導をし、積極的に手伝ってくれたと聞いている。
 諸君の努力と協力によって、国民の多くが命を長らえている。

 学生でありながら、国のため国民の為に命を惜しまず、魔獣と戦い被災者を助け、民に勇気と希望を与えてくれた。
 また同様に、新しい魔法陣を生み出し、多くの知識や技術を指導してくれた教授たちにも、心から感謝する」

国王としての威厳を出しつつ、優しい口調で感謝の気持ちを伝えていく。
 そして最後に、国王は握った右手を胸の前に置き、首だけをゆっくりと下に傾けた。

 それは国王が、最高の感謝を示す時の礼だった。
 体育館内に居た者は、信じられないと目を見開いたり、感動で涙を流したり、有難いと喜び深く頭を下げていく。
 
 そういえば、この国の危機を救ってくれたのは学生たちだった。
 覇王様の改革は言うに及ばずだが、今年の王立高学院の学生は特別だったと誰もが納得して頷く。

 そんな子供を持った親たちは、誇らし気に胸を張る。
 当然、【覇王軍】や【王立高学院特別部隊】に所属する者、覇王講座を手伝った学生たちは、己の活動を国王に認められ感謝されたことが嬉しくて、感無量という顔をしている。

 敵対していたヘイズ侯爵派教授たちも、嬉しそうに頷いている。
 きっと、俺が覇王だと分かった時に、学院を去らずに我慢して良かった……とか思っているのだろう。

 学院長がパチパチと拍手を始めたので、参列者全員が国王に向かって割れんばかりの拍手をしていく。
 国王の暖かい言葉に対し、拍手で感謝の気持ちを返しているのだ。

「最後に、この場で言うべきことかどうか迷ったが、大事な報告をせねばならない。
 ホバーロフ王国が、レイム領の南の国境の町に進攻してきた。

 奴らは魔獣に襲われた被災者を装い、助けてくれと逃げ込んだ町の住民を殺し役場を占拠した。
 同情し親切にした我が国の者を、卑怯極まりない方法で裏切った。

 王立高学院の学生は戦争に参加してはならないし、参加させることは法律で禁止されている。
 だから今度は我らが、王立高学院のに手本を見せる番だ。

 国王が命ずる。
 レイム領、サーシム領、マギ領、ワートン領の貴族は、直ちに自領に戻り戦闘準備を整え、我が国から蛮族どもを追い払え!」

今度は怒りを込めた大声で、皆に向かって命令した。

 ……この命令には、卒業生も含まれる……と受け取るべきなのだろうか?
 ……いやいや、今日まで学生だった者を戦力として期待するのは止めて欲しい。

 突然聞いた開戦の知らせに、再び会場内は騒然となった。
 特に名指しされた領地の貴族や、卒業生たちの動揺が激しく、みるみる間に顔色が悪くなる。

 ボンテンク先輩やレイム領の参列者たちは、今にも走り出しそうにそわそわしている。
 レイム領の貴族は自領を大事にしているし、ホバーロフ王国如きに負けるなど、許せるはずがなかった。


 お祝いムードの卒業式をぶち壊すとは、少々やり方が汚いと思うが、それは俺が平民寄りの思考だからだろうか?

 騒然とする中、移動しようとする国王の足を止めるため、俺はステージに向かって急ぐ。
 そしてステージに上がるとゆっくり国王に近付き、学生に視線を向け腹の底から大声を出した。
 
「【覇王軍】【覇王軍第二部隊】【王立高学院特別部隊】【魔獣討伐専門部隊】に所属する卒業生は、如何なる事態の時でも、魔獣の討伐を第一に考え、勝手な行動をとることを禁じる」

初めて覇王の声を聞いたであろう参列者は、誰だお前!って顔をして俺を睨む。
 国王の御前で跪くこともなく、どうして学生が大声で命令しているんだって思ったことだろう。

 まあ仕方ない。今日の俺は学生服を着ていたし、覇王だと学院長から紹介されていなかった。
 全貴族から挨拶を受けたり、お近付きになろうと声を掛けられるのが面倒だったのだ。

「覇王講座で鍛えた役人や貴族にとって、ホバーロフ王国の兵士など敵ではない!
 他国との戦争は、領軍や一般軍や一般魔法省に任せておけば問題ない。
 そうだろう、国王?」

俺は国王と卒業生に対して、強権を発動した。
 この場で誰が最も高位の人間なのかが分かるよう、そして当然それを受け入れるよう睨みを利かせて。

「も、もちろんです覇王様。言葉が足りませんでした。
 ホバーロフ王国の兵を蹴散らすくらい、優秀な卒業生の手を借りるまでもありません」

意識せず【覇気】を放ってしまったようで、国王は苦しそうに俺の前で跪いた。

 その途端、会場内の空気が凍り付いた。

 頭では覇王の方が上なのだと理解していても、実際に自国の王が他者に跪く姿を見るのは衝撃的というかショックだったはずだ。
 
 ちょっと頭が冷えたらしいボンテンクが、最前列でスッと跪いたので、執行部を始め教授や学生たちも一斉に跪いていく。
 国王が跪けば、臣下がその後ろで跪くのは当然のことだ。

 慌てた参列者も跪こうとするが、その半数は尻もちをついており、中には倒れ伏す親の姿も見えるがスルーだ。
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