公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

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03話 貴族令嬢と護衛騎士の別れ?

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 試合の翌日。
 室内にノックの音が響く。

「ライル様。入室の許可を頂きたいのですが?」
「ん? 入っていいよ」
「失礼します」

 入ってきた侍女の後ろにはティリアがいた。

「お加減はいかが?」
「ティリア様!? どうして此処に!?」

 突如として現れたティリアに、ライルは慌てふためいている。
 ここはグローツ子爵邸で、ティリアがライルの自室に訪れたのは初めてだったからだ。

「ぐっ!」
「ほら、無理したら駄目よライル。まだ身体が痛むのでしょう?」

 身を起こそうとしていたライルの傍に寄ると、ティリアは手を伸ばして身体を支える。

「お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「気にしないで。私がやりたくてやっている事だから」
「恐縮です」

 ライルは侍女に頼んでクッションを背中に挟んでもらい、半身を起こした。
 気を利かせた侍女は、扉を開けたままにして部屋の外に控える。

「ティリア様。本当にありがとうございました。護衛の身でありながら……いえ、もう護衛ですらない俺の命を救っていただくなど、本来はあるまじき事ですが」

 頭を下げるライルに「いいのよ」と言って微笑んだ。

「あの、ティリア様」
「何かしら?」
「供の者はどこに?」
「……」

 ティリアがフローレンス公爵邸から出る際は、侍女と護衛が付き従う手筈となっている。だが今は、どちらの姿も見当たらない。

 護衛任務を解かれるまでは、ライルも毎日ティリアに付き従っていた。都合により護衛を交代する日もあったが、ティリアの外出に護衛が付かない日など、ライルが知る限り1日たりとて存在しない。

「ライル。護衛も侍女も、私にはもういないわ」
「いない? 何故ですか?」

「私はフローレンス公爵家の娘ではなく、只のティリアとして生きる事が決まったの。廃籍されて平民になるのよ」
「えっ?」

「蘇生魔法を使って、私の魔力は無くなってしまったの。魔力が少ないだけなら貴族にも嫁げるけれど、魔力が全く無いなら貴族に嫁ぐ事は出来ないもの」

 あまりの衝撃に、ライルはしばらく言葉を発せなかった。

「政略としての価値は、私にはもうないの」

 我に返ったライルは辛そうに顔を歪める。

「俺のせいです。俺が死に掛けたから、こんな事に……。申し訳ありません。何とお詫びすればいいのか」

「違うわライル。私が勝手にやったのよ。だから貴方のせいじゃない。お願いだから謝らないで」

 ライルは拳を握り締めて唇を噛むが、ティリアの顔には一切の後悔が見られなかった。

「私、これで良かったと思ってるの。今まで公爵家の娘として生きてきて、本当に苦しかった。望まない婚約もしたし、辛い事も沢山あった」

 窓の外を見つめながら、ティリアは優しく歌い出す。それは短いフレーズではあるが、どこか楽し気な歌だった。

「泣きそうになった時、貴方と一緒によく歌ったわ」
「何やら恥ずかしいですね。俺はしょっちゅう音を外してましたから」

 二人は小さく笑い合う。

「ライルがいたからよ。貴方がいつも私に寄り添ってくれたから、私は今まで生きてこれたの」
「畏れ多い事です」

 ティリアの唇が小さく震える。

「私達の道は別れてしまうけど、貴方が立派な騎士様になれるように祈ってる」

 ライルは感動に胸を震わせたが、ゆっくりと息を吐いて心を落ち着けていった。

「ティリア様。大変申し上げ難いのですが、俺は立派な騎士にはなれません」
「えっ? どうして?」

「実はこの度、グローツ子爵家から廃籍される事となりました。ですので俺も、ティリア様と同じく平民になります」

 あっけらかんと答えるライルに、ティリアは目を丸くしている。

「俺はグローツ子爵家を出される無能者ですが、ティリア様の護衛として精一杯努めさせていただく所存です。お気に召さない点もあるかと思いますが、どうかこれからもよろしくお願いします」

「ラ、ライルはそれでいいの?」
「それでいいとは?」

 意味が分からず熟考するが、答えは出なかった。

「私に付いて来ても苦労するだけよ?」
「苦労ですか? 申し訳ありませんティリア様。意味が分かりません」

「分からないって……私では貴方のお給金を支払ってあげられないもの。ううん。それだけじゃないわ。市井に不慣れな私といると、貴方はしなくてもいい苦労をするはずよ」

「ああ、そんな事ですか。ティリア様の傍にいるのが、俺の生き甲斐であり喜びです。苦労など全く感じませんので、どうか御心配なさらず」

「そ、そう?」
「はい」

 ティリアは、どこかホッとしたように息を吐いた。

「本当はね、独りで生きていく事に不安を感じていたの」
「市井には危険が多いですからね」

「ライルが来てくれるなら安心だわ」
「光栄です」

 見つめ合う2人の間には、穏やかな空気が流れていた。
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