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05話 馬車での旅路
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2人は公園のベンチで今後について話し合っている。
「馬車に乗るの?」
「はい。乗合馬車で山を越えて、隣国に行ってはどうかと考えております」
ライルは居住地の候補について、ある程度の目星を付けていた。
目指すは隣国の商業都市だ。
「この国に住み続けるのは難しい?」
「根も葉もない噂が蔓延していますから。ティリア様が好奇の目で見られるのは、俺が耐えられません」
ティリアは俯いて頬を染めた。
市井では、貴族令嬢と護衛騎士の恋の行方が注目されている。
「これからは生きる為に、仕事を見つけねばなりません。ですので近傍の小さな街ではなく、隣国の大都市に行ってみようと思うのですが」
ティリアの護衛をしていた関係で、ライルも他国の言葉を学ぶ機会が多かった。ティリアには及ばないが、話そうと思えば3ヶ国語は話せる。
「隣国第2の都市なら7日程の旅程で済みますが、いかがでしょうか?」
「ライルにお任せするわ」
「ありがとうございます」
「計算や帳簿付けなら私にも出来るから、そういうお仕事を見つけられるといいのだけど」
(心配無用です)
ティリアが貴族令嬢でいられなくなったのはライルの責任だ。だからこそライルは、ティリアの分まで稼ぐつもりでいる。
「では行きましょうかティリア様」
「ええ」
2人は木製のベンチから立ち上がる。
「街は賑やかね。見ているだけなのに心が躍るわ。こんなに楽しい気持ちになったのは久し振り」
「それは何よりです」
2人は他愛のない話をしながらしばらく歩き、乗合馬車のターミナルへと到着する。
「すみません。2名で東の隣国第2都市に行きたいのですが」
ライルは手近にいた御者に声を掛けた。
「そっち方面なら、俺がこれから向かう所だ。そろそろ出発だよ。さあ、乗ってくんな!」
御者の傍らにあるのは、巨馬の2頭立てで10人乗りの幌馬車だった。平民が乗る物としてはごく一般的であり、ライルはこの手の馬車に乗った経験が何度かある。
「道中よろしくお願いします」
「おう」
先にライルが乗り込んで手近な座席にトランクを置くと、外にいるティリアへと手を伸ばした。だがティリアは、ステップが用意されていない馬車の乗り方が分からない。足を大きく上げると、素足が見えてしまうからだ。
「ライル。どうすればいいの?」
ティリアにそんな事をさせたくないライルは、覚悟を決めた目でティリアを見つめた。
「し、失礼します!」
「きゃっ!」
ライルはティリアを横抱きにして馬車に乗り込んだ。ティリアは何も言えずに、赤くなって俯いている。
少年少女を連れた4人家族が座っていたので、ライルは空いてる座席にティリアをそっと下ろした。
「お姫様がいる!」
5、6歳程の少女が目を輝かせながら近寄ってきた。その声で我に返ったティリアは、少女に対して微笑み掛ける。
(よかった)
ライルは安堵した。婚約を破棄されなければ、ティリアは「お姫様に近い身分」になっていたからだ。しかしティリアの反応は、王族への未練が全くない事を示すものだった。
「あの、お兄さん」
「はい?」
声がした方を見ると、少女の父親が手を合わせて懇願していた。「娘の夢を壊さないでほしい」との意図が読み取れたので、ライルは話を合わせる事にする。
「こちらの御方は、とても優しいお姫様なんだよ」
ニコリと笑って、少女の頭を優しく撫でた。
「王子様もいる!?」
少女は「王子様とお姫様だ!」と言って大喜びだった。ライルもティリアもその様子を微笑まし気に見ていたが、少女が「お城で結婚するの?」と言ったり「王子様は、お姫様とキスするんだよね?」と言って、何かを期待した顔でライルとティリアを交互に見たりした。
父親と母親が「すみません。すみません」と言って何度も謝ったが、無垢な少女は遠慮を知らない。ライルもティリアも、少女から話し掛けられる度に真っ赤になっていた。
はしゃぎ疲れた少女が眠りについた頃、ゆっくりと馬車が進み始める。すると、段差を超えた時に馬車が大きく揺れた。
「きゃっ!」
「大丈夫ですかティリア様?」
難無く抱き留めたライルは、ティリアのアメジストの瞳を覗き込む。
「……」
「あっ! も、申し訳ありません!」
ハッとすると、急いでティリアの身体から手を離した。
「ヘタレだ!」
「こ、こら!」
息子の唐突な一言に、父親が慌てている。
「馬鹿な事を言うんじゃない! どこでそんな言葉を覚えてきたんだ!」
「だって叔父さんが『好きな女の子から離れる奴は根性無しのヘタレだぞ』って言ってたもん」
ライルはピシリと固まった。
「そ、それは……いや、しかしアイツが言ったのは少年少女の話だからな? 誰もがそれに当てはまるとは限らないんだ」
「じゃあ叔父さんは嘘吐きなの? 間違ってるの?」
「うーん。いや……すまない。今回は父さんが間違っていたみたいだ」
「そっか。良かった。叔父さんは嘘吐きじゃないんだね」
息子を叱った父親も、ライルの態度に思うところがあったようだ。
次の宿場で半日休むと、滞りなく乗合馬車は出発する。目的地である隣国の第2都市に到着する頃には、色々な人間と仲良くなっていた。
「馬車に乗るの?」
「はい。乗合馬車で山を越えて、隣国に行ってはどうかと考えております」
ライルは居住地の候補について、ある程度の目星を付けていた。
目指すは隣国の商業都市だ。
「この国に住み続けるのは難しい?」
「根も葉もない噂が蔓延していますから。ティリア様が好奇の目で見られるのは、俺が耐えられません」
ティリアは俯いて頬を染めた。
市井では、貴族令嬢と護衛騎士の恋の行方が注目されている。
「これからは生きる為に、仕事を見つけねばなりません。ですので近傍の小さな街ではなく、隣国の大都市に行ってみようと思うのですが」
ティリアの護衛をしていた関係で、ライルも他国の言葉を学ぶ機会が多かった。ティリアには及ばないが、話そうと思えば3ヶ国語は話せる。
「隣国第2の都市なら7日程の旅程で済みますが、いかがでしょうか?」
「ライルにお任せするわ」
「ありがとうございます」
「計算や帳簿付けなら私にも出来るから、そういうお仕事を見つけられるといいのだけど」
(心配無用です)
ティリアが貴族令嬢でいられなくなったのはライルの責任だ。だからこそライルは、ティリアの分まで稼ぐつもりでいる。
「では行きましょうかティリア様」
「ええ」
2人は木製のベンチから立ち上がる。
「街は賑やかね。見ているだけなのに心が躍るわ。こんなに楽しい気持ちになったのは久し振り」
「それは何よりです」
2人は他愛のない話をしながらしばらく歩き、乗合馬車のターミナルへと到着する。
「すみません。2名で東の隣国第2都市に行きたいのですが」
ライルは手近にいた御者に声を掛けた。
「そっち方面なら、俺がこれから向かう所だ。そろそろ出発だよ。さあ、乗ってくんな!」
御者の傍らにあるのは、巨馬の2頭立てで10人乗りの幌馬車だった。平民が乗る物としてはごく一般的であり、ライルはこの手の馬車に乗った経験が何度かある。
「道中よろしくお願いします」
「おう」
先にライルが乗り込んで手近な座席にトランクを置くと、外にいるティリアへと手を伸ばした。だがティリアは、ステップが用意されていない馬車の乗り方が分からない。足を大きく上げると、素足が見えてしまうからだ。
「ライル。どうすればいいの?」
ティリアにそんな事をさせたくないライルは、覚悟を決めた目でティリアを見つめた。
「し、失礼します!」
「きゃっ!」
ライルはティリアを横抱きにして馬車に乗り込んだ。ティリアは何も言えずに、赤くなって俯いている。
少年少女を連れた4人家族が座っていたので、ライルは空いてる座席にティリアをそっと下ろした。
「お姫様がいる!」
5、6歳程の少女が目を輝かせながら近寄ってきた。その声で我に返ったティリアは、少女に対して微笑み掛ける。
(よかった)
ライルは安堵した。婚約を破棄されなければ、ティリアは「お姫様に近い身分」になっていたからだ。しかしティリアの反応は、王族への未練が全くない事を示すものだった。
「あの、お兄さん」
「はい?」
声がした方を見ると、少女の父親が手を合わせて懇願していた。「娘の夢を壊さないでほしい」との意図が読み取れたので、ライルは話を合わせる事にする。
「こちらの御方は、とても優しいお姫様なんだよ」
ニコリと笑って、少女の頭を優しく撫でた。
「王子様もいる!?」
少女は「王子様とお姫様だ!」と言って大喜びだった。ライルもティリアもその様子を微笑まし気に見ていたが、少女が「お城で結婚するの?」と言ったり「王子様は、お姫様とキスするんだよね?」と言って、何かを期待した顔でライルとティリアを交互に見たりした。
父親と母親が「すみません。すみません」と言って何度も謝ったが、無垢な少女は遠慮を知らない。ライルもティリアも、少女から話し掛けられる度に真っ赤になっていた。
はしゃぎ疲れた少女が眠りについた頃、ゆっくりと馬車が進み始める。すると、段差を超えた時に馬車が大きく揺れた。
「きゃっ!」
「大丈夫ですかティリア様?」
難無く抱き留めたライルは、ティリアのアメジストの瞳を覗き込む。
「……」
「あっ! も、申し訳ありません!」
ハッとすると、急いでティリアの身体から手を離した。
「ヘタレだ!」
「こ、こら!」
息子の唐突な一言に、父親が慌てている。
「馬鹿な事を言うんじゃない! どこでそんな言葉を覚えてきたんだ!」
「だって叔父さんが『好きな女の子から離れる奴は根性無しのヘタレだぞ』って言ってたもん」
ライルはピシリと固まった。
「そ、それは……いや、しかしアイツが言ったのは少年少女の話だからな? 誰もがそれに当てはまるとは限らないんだ」
「じゃあ叔父さんは嘘吐きなの? 間違ってるの?」
「うーん。いや……すまない。今回は父さんが間違っていたみたいだ」
「そっか。良かった。叔父さんは嘘吐きじゃないんだね」
息子を叱った父親も、ライルの態度に思うところがあったようだ。
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