公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

文字の大きさ
12 / 77

12話 ワイバーンの襲来

しおりを挟む
 翌日の朝、ライルはギルドを訪れた。

「来たわねライル」
「お世話になりますヴェイナーさん」

 ヴェイナーはギルドメンバー達に向けてパンパンと手を叩く。

「はい注目! 今日から仲間になったライルよ。これから仲良くしてあげて」
「皆さん。よろしくお願いします」

 ライルは慇懃に頭を下げた。

「おう! しっかりやれよボウズ」
「美形じゃんっ!?」
「魔力測定器ぶっ壊したんだって? スッゲェなぁ」

 中にはライルの転落人生を揶揄してくる者もいたが、概ね歓迎ムードだった。

「じゃあこれがギルドのメンバーズカードね。しばらくは仮の冒険者カードとしての役割も兼ねてるから、なくさないように」
「ありがとうございます」

 ライルは白色のカードを受け取った。ギルドに所属している冒険者は、ギルドメンバーズカードと冒険者カードを所持する事になる。

 正式な冒険者カードは後日送付されてくる為、今のライルは仮の冒険者という扱いだ。

「ザクザク稼いでねライル。ふふふふっ」

 ヴェイナーは不穏な空気を醸し出した後、真顔になった。

「それでアンタは、これからどうするつもり? 上位の魔物討伐でもサクッとやっとく?」
「いえ。まずは軽い依頼をこなして、冒険者としての経験を積みたいのですが」

 魔物と戦った事もあるにはあるが、公爵令嬢の護衛騎士だったライルの実戦経験は、実はそんなに多くない。

「ふーん。そう。魔導超越者マジックマスター様は控え目なのね」
「すみません。俺はティリア様を残して死ぬわけにはいかないんです」

「そうねぇ。じゃあ、経験豊富なギルメンにでも相談して――」
「おい!」

 1人の冒険者がギルドに駆け込んで来た。

「全ギルド招集だ! ワイバーンの群れが来たぞ!」
「マジか! ヒャッホー!」

「久しぶりだなぁ」
「ようやく来たか。腕がなるぜ」

 ギルド内は、蜂の巣を突いたようなお祭り騒ぎとなった。
 ヴェイナーはヤレヤレと言って腰に手を当てる。

「少しは落ち着きな!」
「んなこと言ってもよぉ。最弱ギルドの汚名を返上するチャンスなんだぜ姉さん」

「毎年毎年馬鹿にしやがるからな。今年こそは見返してやろうぜ!」
「ドンケツ脱出してやらぁ!」

 威勢のいい声がそこかしこで巻き起こる。
 ヴェイナーは「言われなくても分かってるよ!」と言って一同を見渡した。

「今日はギルド《鷹の眼ホークアイ》の名を知らしめる日だ! 街の奴等にはもう『お荷物ギルド』なんて呼ばせないからね! あたしも今日は倒れるまでやるつもりだから、アンタ等も気合入れなよ!」

『おおおおおおおおおお!』

 ライルは、この狂騒に1人置いていかれている。

「ヴェイナーさん。この騒ぎは一体何ですか?」
「ああ、アンタは西の国出身だから知らないのね。この街の上空は、ワイバーンの住処から産卵場所までの通り道になってるのさ。だからこの時期は、空飛ぶワイバーンがわんさか上空を飛んで行くってわけ。それをウチらみたいな冒険者ギルドや宮廷魔術師達が、総出で撃ち落としていくんだよ」

 目をギラギラとさせながらヴェイナーは語る。

「撃ち落とし損ねたワイバーンは、産卵場所で卵を産むからね。卵が孵れば、将来どうなるか分かるだろう? だから皆必死でワイバーンと戦うのさ」

 しかしライルはどうしても腑に落ちない。

「その割には、皆さん喜んでるみたいですけど?」
「まあ優秀ギルドや優秀者には、国から特別ボーナスが出るからね。それに《射程延長ロングスナイプ》の魔法を掛けてもらったりもするからさ。普段と違った戦い方が色々試せるから、単純に皆楽しみにしていたのよ」

「ワイバーンと戦うんですよね? 危険じゃないんですか?」
「近接戦闘じゃないからね。あくまでも遠距離で戦うだけ。それにこの時期のワイバーンは産卵優先だから、あたし達の事なんて眼中にないわ」

 ヴェイナーは「つまり」と言いつつ指を振る。

「こちらから攻撃するだけのボーナスタイムって事よ。まあ鱗が硬過ぎるから、あんまり攻撃は通らないけどね。でもアンタの強力な魔法なら、上手くいけば3体は撃ち落とせると思うわ」

「3体って多いんですか?」
「多いわよ。1人で3体もやれたら最優秀賞取れるんだからね。ウチのギルドは去年、屈辱の0体討伐だったしさ。だからアンタは、魔法をありったけ撃ちまくって最優秀賞を奪取しなさい」

 ヴェイナーはビシッと指を突き付ける。

「魔法は何を使ってもいいんですか?」
「OKよ。あたしが許可するから、遠慮せずにバンバンぶち込んでやりな」

 ライルは魔法の勉強を始めたばかりだが、修得速度は驚異的なまでに速い。既に魔法のレパートリーは10を超えている。

「分かりました」
「アンタが活躍すれば、ティリアちゃんもきっと喜んでくれるわ」

 ティリアが喜ぶ顔を想像しただけで、ライルの気分は高揚していった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

処理中です...