公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

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15話 天井に張り付く魔物

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「ティリア様。ただいま戻りました」
「お帰りなさい」

 ティリアが出迎えてくれるだけで、ライルは今の生活が満ち足りたものだと実感する。

「ねえライル。街で何かあったの?」
「ティリア様。まさか外出されたのですか?」

「ううん。街の様子を2階の窓から見ていたのよ」
「そうですか。安心しました」

 ライルはほっとして息を吐く。

「実はワイバーンが襲来したんです」
「ワイバーン!? ドラゴン種の?」

「はい」
「怪我とかしなかった?」

「俺は1km程先に向かって遠距離魔法を撃っただけなので、負傷したりはしませんでした」
「そう。それなら良かった……あれ?」

 と言って小首を傾げると、ティリアは怪訝な顔を見せる。

「そんなに遠くに魔法を撃っても届かないでしょ? ライルが使える魔法って、小さい《火球ファイヤーボール》よね?」

「あ、いえ。ティリア様には報告しておりませんでしたが、俺は新しい天啓を授かっていたんですよ。魔導超越者マジックマスターというらしいのですが」

「新しい天啓って、また授かったの?」
「はい」

 10歳で授かった剣技超越者ソードマスターの天啓は失ってしまったが、今のライルは魔導超越者マジックマスターの天啓を授かっている。

「魔法を自由に使えるんです。ワイバーンの群れも簡単に倒せたんですよ」
「ワイバーンを倒せるなんて、ライルは凄いのね」

 ライルは少し誇らし気にしているが、ティリアは再度小首を傾げる。

「あれ? もしかして『ワイバーンの群れを倒せた』って言ったの? 私の聞き間違いかな?」

「間違っておりませんよ。俺は全てのワイバーンを纏めて倒しましたから。それがどうかされましたか?」
「だってワイバーンよ? 1体倒すだけでも大変でしょ?」

 祖国で王太子妃教育を受けていたティリアは、魔物がもたらす被害にも詳しい。だからこそワイバーンの討伐難易度についても知っている。

「そんなに難しくはありませんでしたよ。1回の魔法で全て仕留められたので、疲れもありませんし」

「ちょ、ちょっと待って。ワイバーンの群れなのよね? 沢山いたんでしょ? どうして魔法1回で終わっちゃうの?」

「千体程いましたので、一撃で仕留めるれるように魔法をアレンジしたんです。ざっくり言うと、魔法効果を重ね掛けして詰め込んだのですが」

 こともなげに言うライルを見つめながら、ティリアはしばらく絶句していた。

「す、凄いのねライルって」
「多くの方から称賛の声を頂きました。ですのでティリア様、ありがとうございました」

 ライルは深々と頭を下げる。

「褒められたのはライルでしょ? どうして私がお礼を言われるの?」
「俺が称賛されるのは、ティリア様が俺の傍にいてくれたからです」

「私が?」
「過去に剣技超越者ソードマスターの天啓を授かれたのは、ティリア様の護衛騎士として修練を積んだ結果ですし、魔導超越者マジックマスターの天啓を授かれたのは、ティリア様が俺の命を救ってくれたからです」

 ティリアはライルの言葉に耳を傾けている。

「ティリア様がいなければ、俺は天啓など何一つ授かれませんでした。それどころか生きてすらおりません。今の俺があるのは、蘇生魔法でティリア様の膨大な魔力と魔法の素養を頂戴したから……いいえ、奪い取ったからですし」
「……ライル」

「ですがティリア様が力を失う代償として、俺は魔導超越者マジックマスターの力を得られました。ですので俺が称賛されるのであれば、それはティリア様が称賛されているのと同じ事です。とはいえ聖女の如き心を持つティリア様は、謙遜なさるのかもしれませんが」

「そ、そういう事を真顔で言わないで。恥ずかしいでしょ」
「それは申し訳ございませんでした」

 二人は静かに笑い合った。

「ワイバーン討伐に関して褒賞金を頂けるようですが、ティリア様は何か欲しい物はございませんか?」
「特にないわ」

「ドレスや宝石等はいかがです?」
「要らないかな。お茶会も夜会もないのだし、持っていても使う機会がないもの」
「そうですか」

 ティリアに着飾ってほしいライルは内心残念だったが、表情には出さなかった。

「ライルこそ何か買いたい物はないの? もっと良い服が欲しくなったりしない?」
「不要です」

 美男のライルは、ただでさえ声を掛けられる機会が多いからだ。煩わしさを自ら増やそうなどとは、露ほども思わなかった。

「ティリア様。そろそろ昼食にしませんか?」

 いついかなる状況においても、ティリアの生活を支える事を念頭に置いてきた為、ライルの料理の腕はそこそこ高い。

「あのねライル。私、今日は料理に挑戦してみたの」
「ティリア様が料理をされたのですか?」
「……うん。ライルに食べてもらいたくて」

(俺の為の料理!)

 多忙を極める貴族令嬢だったティリアは、生まれてこの方料理をした事がない。ライルもそれは知っていた。

 初の手料理では味の期待など出来ないが、ライルにとっては些細な事でしかなかった。重要なのは、ティリアがライルの為に作ったという事実だ。

「では遠慮なく頂かせてもらいます」
「それはちょっと難しいかな。食べられそうにないし」
「何故でしょうか? 俺は味など気にしませんが?」

 ライルの目は若干ギラついている。

「あれなの」

 ティリアはスッと指を天井に向ける。
 そこには天井に張り付いている黒い物体があった。

「なっ!? ティリア様お下がりください! アメーバ種の魔物です!」

 ライルは急いでティリアを背中に庇う。

「粘液を吐いてくるかもしれません。迅速に凍らせますので、しばしお待ちを」
「違うのライル! 魔物じゃないの!」

「何を言っているのですか? あの邪悪なフォルムは、どこからどう見ても魔物ではないですか」

 ライルは魔物から目線を逸らさず、ティリアとの会話を続ける。魔物はドス黒い色と禍々しき形状をした新種だった。

「パウンドケーキなの」
「はい?」
「だから、あれは私が作ったパウンドケーキなの」

 意味が分からなかった。パウンドケーキであればキツネ色になるはずで、ドス黒くなどならないはずだからだ。

 ましてやティリアがパウンドケーキと言い張るそれは、歪な形をしてアメーバのように天井に張り付き、ポタリポタリと何かを滴らせている。

(そもそもなぜ天井に張り付いているんだ!?)

 しかしそこは百戦錬磨のライルだ。素早く頭を切り替えて迅速に動く。

「では、いただきます」

 と言って天井のドス黒アメーバを食べようとしたが、ティリアに叱られて泣く泣く諦める事となった。
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