36 / 77
36話 祖国の訪問者(2)
しおりを挟む
気圧される一同を横目に、アリサの魔力は暴発寸前まで高まる。
「止めよ!」
国王の一喝で、アリサはどうにか気持ちを落ち着けていく。「ふぅ」と深呼吸をして、しばらくしてから話し出す。
「パンドラの箱は、瘴気の増加を感知して勝手に次元を渡るわ。そうして着いた世界で、瘴気をゆっくりと吸収してくれるのよ。
瘴気を放っておいたら、超強力な魔物が生まれて世界が滅んじゃうからね。世界を守ってくれるのがパンドラの箱ってわけ。
で、箱の守護者である私は、ゼレクの建国に力を貸してやる見返りに、箱を500年管理してもらう契約を結んだわ。
ただ、あのダメ男はサボる事にかけては天才的だったから、契約の穴を突いて色々余計な事をしてくれたみたいだけど」
憤る気持ちを抑えながら、アリサは説明を続ける。
「そしてゼレクの建国を見届けてから、私は『時渡りの魔女』として、500年前から現代にタイムリープしてきたの。
過去から未来には行けるけど、未来から過去には戻れない。一方通行ってわけね。だからゼレクの頭を張り倒しに戻る事も出来ないわ」
アリサはムスッとして腕を組む。
「でも箱は放置してるだけじゃ駄目でさ。500年経って最終段階になったら、溜まった瘴気を取り出さなきゃいけないの。そうしないと、満杯になった箱が暴発して世界が終わっちゃうから」
説明されても、誰一人として理解出来ていない。だがアリサは、口を挟もうとする者達を無視して喋る。
「箱を開けるにしろ、瘴気を取り出すにしろ、集めた瘴気を『ろ過』するにしろ、どれもライル君の力が必要になるの。
世界最強の人間は、世界から祝福されているから世界最強なのよ。その祝福された特別な力を使って、色々と作業をするわけね
そんな一番重要な役割をライル君が受け負ってたの。箱を開けるのは終わって、箱から瘴気を取り出すのも終わってる。でも集めた瘴気を『ろ過』するのは1年近く掛かるから、まだ作業途中だったのよ。
ここまではOK? ……じゃ、ないみたいね」
全く理解出来ていなさそうだったので、アリサは何度も何度も繰り返して同じ事を説明していった。
「じゃあ続けるわね。『箱の底に眠る希望の光』は、ライル君が貰える物よ。『お掃除終わらせてくれてありがとう。お礼に御褒美あげるね』って意図が込められてるの。
でもライル君は1度死んじゃってるから、集めた瘴気の『ろ過』が終わってない状態なんだよねぇ。死んじゃった時点で、瘴気は世界中に散っちゃっただろうし。最後の最後で、瘴気のお掃除に失敗したって事。
あはは。この世界、下手すると終わるよ?」
何となしに笑って言うが、その内容は世界の終末を予言させる重いものだ。アリサの目は全く笑っていない。
「眉唾物の話だな。そもそもライルのような無能者より、俺や父上の方が強い」
発言したのは、近衛騎士団の副団長であり、ライルの兄ザイル・グローツだ。
「ライル君が無能者? まあ、今はそう見えるかもね。生まれた時から力を吸い上げられてるんだから」
「何だと?」
「瘴気の融着力は半端ないからね。ライル君の特別な力を使って、箱の中で強力に融着した瘴気の剥離作業をやっているの。ライル君が生まれた時からね。あらかじめ瘴気を引っぺがしておかないと、箱を開けた時に瘴気が取り出せなくて困るでしょ?」
「困るとは何だ?」
ザイルが言った。
「瘴気を取り出せないと、いずれは箱が暴発するからよ」
アリサは「ゼレクのアホにはちゃんと教えたし、後世に伝えろって指示して血の契約まで結んでたんだけどね」と言って悔しそうな顔をした。
「そりゃあ膨大な力を取られ続けてたんだから、ライル君は弱くなるわよって話」
アリサの目は至って真剣だ。
「そもそもゼレクのアホが、変な風に解釈して後世に伝えてるからね。『最も強い者が箱を開けられる』のは間違ってないけど『最も強い者は箱に力を吸われているから弱い』のよ」
「弱いはずがあるまい。ライル・グローツは大陸覇者闘技会で優勝しておる。箱を開けた後は《剣技超越者|ソードマスター》の天啓を失ってしまったようだがな」
国王が口を挟む。
「そんなの例外中の例外よ。ライル君……掃除屋は素質だけは世界最強だけど、箱から力を取られている間は一般人並みの力しかないんだから。だから『大陸覇者闘技会の優勝者が箱を開ける』ってやり方が、そもそも間違ってるんだって」
「では、どうするのが正解だったと?」
自分達がやってきた伝統を否定され、国王は顔をしかめる。
「誰彼構わず片っ端から箱を開けさせるのが、本来は正解だったのよ。『優勝者が箱を開ける』なんてやり方じゃ、絶対に開くはずないもの。まあ今回は、ライル君の異常な強さに救われた形ね」
そう言って一同を鋭い目で見た。
「箱を開けた時に黒い何かが出たのを見たでしょ? それがライル君の体内で『ろ過』されるはずだった瘴気よ。そのまま何事もなく1年くらい経てば、全工程終了だったんだけど」
アリサは咳払いをする。
「最も力を使う瘴気の『ろ過』をしている間だけは、如何なライル君といえども全ての力を失ったみたいだけどね」
するとザイルが、反論しようと口を開いた。
「止めよ!」
国王の一喝で、アリサはどうにか気持ちを落ち着けていく。「ふぅ」と深呼吸をして、しばらくしてから話し出す。
「パンドラの箱は、瘴気の増加を感知して勝手に次元を渡るわ。そうして着いた世界で、瘴気をゆっくりと吸収してくれるのよ。
瘴気を放っておいたら、超強力な魔物が生まれて世界が滅んじゃうからね。世界を守ってくれるのがパンドラの箱ってわけ。
で、箱の守護者である私は、ゼレクの建国に力を貸してやる見返りに、箱を500年管理してもらう契約を結んだわ。
ただ、あのダメ男はサボる事にかけては天才的だったから、契約の穴を突いて色々余計な事をしてくれたみたいだけど」
憤る気持ちを抑えながら、アリサは説明を続ける。
「そしてゼレクの建国を見届けてから、私は『時渡りの魔女』として、500年前から現代にタイムリープしてきたの。
過去から未来には行けるけど、未来から過去には戻れない。一方通行ってわけね。だからゼレクの頭を張り倒しに戻る事も出来ないわ」
アリサはムスッとして腕を組む。
「でも箱は放置してるだけじゃ駄目でさ。500年経って最終段階になったら、溜まった瘴気を取り出さなきゃいけないの。そうしないと、満杯になった箱が暴発して世界が終わっちゃうから」
説明されても、誰一人として理解出来ていない。だがアリサは、口を挟もうとする者達を無視して喋る。
「箱を開けるにしろ、瘴気を取り出すにしろ、集めた瘴気を『ろ過』するにしろ、どれもライル君の力が必要になるの。
世界最強の人間は、世界から祝福されているから世界最強なのよ。その祝福された特別な力を使って、色々と作業をするわけね
そんな一番重要な役割をライル君が受け負ってたの。箱を開けるのは終わって、箱から瘴気を取り出すのも終わってる。でも集めた瘴気を『ろ過』するのは1年近く掛かるから、まだ作業途中だったのよ。
ここまではOK? ……じゃ、ないみたいね」
全く理解出来ていなさそうだったので、アリサは何度も何度も繰り返して同じ事を説明していった。
「じゃあ続けるわね。『箱の底に眠る希望の光』は、ライル君が貰える物よ。『お掃除終わらせてくれてありがとう。お礼に御褒美あげるね』って意図が込められてるの。
でもライル君は1度死んじゃってるから、集めた瘴気の『ろ過』が終わってない状態なんだよねぇ。死んじゃった時点で、瘴気は世界中に散っちゃっただろうし。最後の最後で、瘴気のお掃除に失敗したって事。
あはは。この世界、下手すると終わるよ?」
何となしに笑って言うが、その内容は世界の終末を予言させる重いものだ。アリサの目は全く笑っていない。
「眉唾物の話だな。そもそもライルのような無能者より、俺や父上の方が強い」
発言したのは、近衛騎士団の副団長であり、ライルの兄ザイル・グローツだ。
「ライル君が無能者? まあ、今はそう見えるかもね。生まれた時から力を吸い上げられてるんだから」
「何だと?」
「瘴気の融着力は半端ないからね。ライル君の特別な力を使って、箱の中で強力に融着した瘴気の剥離作業をやっているの。ライル君が生まれた時からね。あらかじめ瘴気を引っぺがしておかないと、箱を開けた時に瘴気が取り出せなくて困るでしょ?」
「困るとは何だ?」
ザイルが言った。
「瘴気を取り出せないと、いずれは箱が暴発するからよ」
アリサは「ゼレクのアホにはちゃんと教えたし、後世に伝えろって指示して血の契約まで結んでたんだけどね」と言って悔しそうな顔をした。
「そりゃあ膨大な力を取られ続けてたんだから、ライル君は弱くなるわよって話」
アリサの目は至って真剣だ。
「そもそもゼレクのアホが、変な風に解釈して後世に伝えてるからね。『最も強い者が箱を開けられる』のは間違ってないけど『最も強い者は箱に力を吸われているから弱い』のよ」
「弱いはずがあるまい。ライル・グローツは大陸覇者闘技会で優勝しておる。箱を開けた後は《剣技超越者|ソードマスター》の天啓を失ってしまったようだがな」
国王が口を挟む。
「そんなの例外中の例外よ。ライル君……掃除屋は素質だけは世界最強だけど、箱から力を取られている間は一般人並みの力しかないんだから。だから『大陸覇者闘技会の優勝者が箱を開ける』ってやり方が、そもそも間違ってるんだって」
「では、どうするのが正解だったと?」
自分達がやってきた伝統を否定され、国王は顔をしかめる。
「誰彼構わず片っ端から箱を開けさせるのが、本来は正解だったのよ。『優勝者が箱を開ける』なんてやり方じゃ、絶対に開くはずないもの。まあ今回は、ライル君の異常な強さに救われた形ね」
そう言って一同を鋭い目で見た。
「箱を開けた時に黒い何かが出たのを見たでしょ? それがライル君の体内で『ろ過』されるはずだった瘴気よ。そのまま何事もなく1年くらい経てば、全工程終了だったんだけど」
アリサは咳払いをする。
「最も力を使う瘴気の『ろ過』をしている間だけは、如何なライル君といえども全ての力を失ったみたいだけどね」
するとザイルが、反論しようと口を開いた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる