公爵令嬢を溺愛する護衛騎士は、禁忌の箱を開けて最強の魔力を手に入れる

アスライム

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52話 転魂の魔女は頼み事をする

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「討伐完了だな。まずはおめでとうと言っておこうか」
「ありがとうございます」

 ライルは、手を差し出してきたシーダ姫の握手に応じる。

「魔導研究所に行くぞ。ついて来るがいい」
「魔導研究所……ですか?」

「何だ? 王城に招待した方が良かったか?」
「ああ、いえ。俺はてっきり、このまま報酬を受け取って終わりだと思っていたので」
「はっ。それでは其方を呼び寄せた意義が半減するではないか」

 そう言ってフッと笑うが、シーダ姫は金髪赤目の5歳児だ。とてもそうは見えないが。

「さあ、馬車に乗れ。今日は存分に語り合おう」

 ライルはシーダ姫の馬車に同乗し、王都の街を進んで行く。

「良い街だろう?」
「そうですね」

 小窓から見える王都は、祖国の王都を凌ぐ程に発展している。

「わたしはこの街を、ひいてはこの国、この世界を守りたいと思っておる」
「とても立派な事と思います」

(これが強国の姫君の思考か。王族としての矜持があるにしろ、5歳でここまで思慮深いとは……)

 感心すると同時に唸る。ライルが5歳だった頃は、あまり深く考える事無く生きていたからだ。

 馬車に揺られて5分程で目的地に着いた。赤レンガで2階建ての大きな建物だ。壁にはツタが生い茂っており、長い歴史を感じさせる。
 御者が馬車の扉を開けると、ライルは先に降りてシーダ姫へと手を伸ばした。

「お手をどうぞシーダ姫殿下」
「くくっ。よもやこの私が、5歳の姿でエスコートされようとはな」

 シーダ姫は、ライルの手を取って馬車を降りる。

「行くぞ」

 4人の護衛にガードされながら、シーダ姫は建物の扉を開けた。

(施錠魔法が掛けられていたようだな)

 魔導研究所は、所々に厳重な警備が敷かれているようだった。一行はしばらく建物の中を歩き、奥まった部屋へと辿り着く。

「護衛の者はここで待機せよ。少々、ライルと込み入った話があるのでな」
『はっ!』

 4人が立ち並ぶ中、ライル達は部屋の中へと入った。

「ふぅ。座れライル。楽にしてよいぞ」

 応接間としては普通の部屋だった。魔導研究所だからと言って、何か特別な物が飾られているわけでもない。

「失礼いたします」

 ライルは革張りのソファーに座った。応接テーブルを挟んだ向かいにシーダ姫が座ると、カップと湯気の立つポットが現れた。

「紅茶の砂糖はどうする?」
「俺はストレートでお願いします」
「そうか。わたしは2杯にしておこう」

 誰も手を触れていないポットが傾き、紅茶が注がれていく。それと同時に瓶のフタが開くと、砂糖の塊が2つ空中に浮かんだ。砂糖はシーダ姫のカップへと入り、勝手に掻き混ぜられていく。

「あっ!」
「ん? どうした?」

 思わず声が出てしまった。時渡りの魔女アリサも、似たような魔法を使っていたからだ。

「すみません。アリサさんも同じ事をされていたものですから」
「ああ、アリサもわたしも魔女だからな。魔女なら誰でも使える魔法だ。驚く程の事じゃない」

「シーダ姫が魔女?」
「はははっ。こう言うと、皆が其方と同じような顔をする」

 シーダ姫は楽しそうに笑っている。

「わたしは『転魂の魔女』であり、アリサとは同業だ。というよりアリサの上役だと思ってくれ」
「えっ?」

(5歳なのに?)

 という言葉は呑み込んだ。

「緊急サポートがわたしの務めだからな。時にライル、其方に言っておく事がある」
「はい。何でしょうか?」

「『転魂の魔女』は、自身の魂と他人の魂を入れ替えられる。ゆえにわたしは、5歳児であり5歳児ではないのだよ。この身体は交換した物だからな。わたしの本当の身体は、遠い次元で眠っているのだ」

 ストンと腑に落ちたライルは納得した。

「信じられないか?」
「いえ。むしろ信じられます。魂が入れ替わっていると考えた方がしっくりきますから」

「そうであろうな。このような5歳児が実際におったら、我が目を疑うのが普通だろうよ」

 シーダ姫は苦笑しながら紅茶を口に運ぶ。

「身体の乗っ取りのようなものだが、勘違いしないでくれよ? これはシーダ姫にとっても悪い話じゃないんだ。何せシーダ姫は、命が尽きようとしていたのだからな」
「というと?」

「死に掛けているシーダ姫の身体を借りる。その礼として、健康な身体にしてシーダ姫に返すのだ。善行だろう? ちなみにシーダ姫の魂は、わたしの本来の身体の中で眠りについておる」

 ライルは顎に手をあてて、目の前のシーダ姫を見る。特に不健康といった感じでもなく、至って普通の状態のようだ。

「アリサから話を聞いているだろうが、現在はゆゆしき事態だ。そして魔女のわたし達は制約で直接手を出せない。だからライル、其方の力を貸してほしいのだ」

「瘴気の放置は禍をもたらすと聞きましたが、それはやはり間違いないのでしょうか?」

「ああ。いずれは大きな禍となって、世界に降り掛かってくるだろう。其方も無関係ではいられなくなるはずだ」

 ライルは言葉を噛み締めて熟考する。

「分かりました。俺が出来る範囲でよければ、協力させていただきます」
「恩に着る」

 シーダ姫はゆっくりと頷いた。
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